211章 誘導
【211章 誘導】
ペルマゼ獣王国の王。マゼラン・パテ・アガは、全身裸の人間100人が首に鎖を付けられ荷車を引く、人車にあぐらをかきながら乗っていた。
まるで部屋のようになって壁に囲まれていた人車の中で、もも肉を食べていた。
裸の男は、生きたまま、ゆっくりと自分のももが食べられていくのを人形のようにボケーとうつろになりながら、床に倒れ込んで何も考えられないようになっていた。
男には、鎖も、その他の拘束具も、まったく付けられていなかったが、完全に身の上に起こるこれからのことをあきらめて、食べられ続けるだけだった。
ももから噴き出す血に顔を赤く染めながら、美味しそうに、王は、肉をほふる。
「カーリーの神よ。この食材の力を我に与えたまえ」
王は、愛でるように男の頭を撫でる。
外から兵士の報告が入る。
「大王様。レジェンド兵士が、突如として、空に現れました」
「セルフィか?」
「はい。空を飛ぶ少年が部隊の前に姿をあらわにしています
あれはセルフィだと一度姿をみた兵士たちから声が上がっています」
マゼラン・パテ・アガは巨躯の体を起き上がらせ、男の腕を踏み砕き、人車の部屋から外へと出てきた。
二組の男女が、部屋から出てきたマゼラン・パテ・アガをみると、裸の男が、裸の女を肩車して、マゼランの背丈に合わせて顔についた血をふたりの女たちが舐めて綺麗にする。
マゼラン・パテ・アガは、空を見上げると少年の高い声が、辺り一面から聴こえた。
「ペルマゼ獣王国軍に告ぐ
わたしはワグワナ法国制圧部隊、帝国連合軍の総指揮を担ったセルフィだ
ワグワナ法国は、すでに帝国連合軍によって完全に制圧された
ワグワナ法国は、帝国の領土となった
これ以上、南下を続けワグワナ法国に入ろうとするのなら、帝国への侵攻とみなして、帝国連合軍の次の標的と認定されることとなる
これより、速やかに軍をペルマゼ獣王国へと引き返すように進言する」
空には、万単位の兵士やモンスターたちが、整然と宙に浮いていた。装備もしっかりと整えられ、今にも降りて、ペルマゼ獣王国軍に襲い掛かるかのようだった。
ライカンによる大きな声が鳴り響く。
「わはははは。登場するのも派手だのう。セルフィ
あの時以来だな!マゼラン・パテ・アガだ
わしの声が聴こえておるか?」
「聞こえている」
「ワグワナ法国が制圧されたことは、わしも知っておるわ
帝国様が見事、ワグワナ法国を制圧したのをお祝いをしに今は、向かっておるだけだわ!」
「冗談はやめろ
先ほども言ったが、速やかに軍の方向を変えよ
これ以上、ワグワナ法国に近づくのであれば、我々はペルマゼ獣王国軍に攻撃を仕掛ける」
「セルフィよ。お前も偉くなったのぉ!一国の主である大王に敬語を使わなくなったようだのぉ
戦いか、戦いなら望むところよ
ペルマゼ獣王国では、戦いこそが生きる証
すべての兵士たちは、戦いたくて、うずうずしておるのだ」
マゼラン・パテ・アガは、両手の拳を握りしめて、嬉しそうに口に笑みを浮かべると、横にいた女性の頭に大きな口をあけて、噛みつき、頭を砕いた。
「ギャゥアッ!」という悲鳴とも言えない声をあげた女性の頭を食べて、骨を横に吹き捨てる。
女性の体は、バタリと力を失い仰け反ると、肩車していた裸の男性がバランスを崩してよろめく。
「本当のところは、セルフィ。お主のことを一目、見たかっただけのことだ
以前は、わしらは、仲間であっただろうに、お主は、帝国側に寝返ったようだの?」
血だらけの顔で平然としゃべり、平然と人間を食べる様子をみて、源は、胸焼けを起こして、気分を悪くする。
「わたしもレジェンドも、お前たちなどと仲間になった覚えはない
この半年間、お前たちのことを調べさせてもらったが、酷いものだ
お前たちを排除するにあたって、わたしに御する気持ちは、微塵もない
早く方向を変えなければ、すぐに攻撃を開始する
そして、その人たちも置いていけ」
「帝国軍が、何もしていない国の軍を襲って食料を略奪するというのか?」
「人だ。食料じゃない!」
「それはお前たち人間側の理屈だろうよ
お前たちが家畜の肉をモンスターに襲われたら、そのモンスターを悪いとするように、わしらの家畜を奪うなど、帝国がしていいものなのか?
ペルマゼ獣王国は、長らく帝国に連盟していたが、すべての法や宗教、文化は、自由だった
今でもそうだろうに、お前の勝手な理屈で略奪するのは、ゆるせんな。セルフィよ」
「帝国は、もう変わる。お前たちの正義は、帝国ではゆるされないと固定されるようになる」
「お前は、汚染されているな。感情や体から湧き上がる高揚感を否定するのか?それで生きているとでもいうのか?わしは、人間も愛しておる
愛しているからこそ、食べてわしの力の一部としてやっておるのだ
ありがたく想われても、反感されることではない
その愛を否定し、軍を引かせるだけではなく、食料まで奪うというのだから、お前はどれだけ悪者なのだ」
「お前たちの愛や正義を全身全霊、この世界すべてにおいて、完全否定してやる!
余裕でいられるのも、いまのうちだぞ
マゼラン・パテ・アガ」
マゼラン・パテ・アガは、横にいた人間たちに問いただした。
「お前たちを自由にしてやろう
あのセルフィについていくか?それとも、わしについていくか?」
人々は泣きながら、地面に伏せて、願いだした。
「大王様!わたしたちをお見捨てにならないでください!どうか、大王様のお近くにいさせてくだい!」
裸で首に鎖をつけられていた人間すべてが、同じように願いを訴える。
恐怖におののきながら、青い顔になっている。
「ほれみよ。セルフィ。家畜どもも、わしの深い愛を欲しておるわ
家畜の意思さえも無視して、略奪するというのか?」
略奪も正義だとしているペルマゼ獣王国の国王が、帝国の基準を利用して、略奪行為だとちぐはぐな言い回しで主張してくるのに、源は、苛立ちを覚える。
ご都合主義の者に、何を言ったとしても、コロコロと本質を変えて逃げるだけなので、きりがない。聖書のように変わらず固定された価値観に従っているクリスチャンとは違い、何でもありで考えるご都合主義者は、自分たちの都合にあわせて、考えるからだ。こちらがどれだけ誠実に答えても、どうにでも文句を言い続けるだけだ。付き合っているだけで、時間の無駄になる。
「いくらだ?お前のいう家畜たちの値段はいくらなら、売る?」
「わはははは。わしの愛を認めよるのか?
わしとお主の仲だ
高くはふっかけはせん
上機嫌にさせてくれたお礼に、ひとり金貨1枚で、ゆずってやるわ」
源は、100枚の金貨を時空空間ゲートの中に投げ入れ、マゼラン・パテ・アガの前に、金貨が転げ落ちた。
「馬を用意せよ!全軍、ペルマゼ獣王国へ帰還する」
人車と99人をその場に残して、マゼラン・パテ・アガは、自分の鎧と似た赤と黒の装備された馬にまたがり大軍を連れて、引き返していく。
源は、すぐに人車の部屋の中で、足を怪我している男性を把握して、リトシスで修復した。
すると、ミカエルによる急伝がはいった。
『セルフィ様。ワグワナ法国の元政治家たち114名が、毒殺されました』
『はぁ?毒殺!?』
『はい。牢に監禁されていたのですが、そこで出された食事の中に、毒物が入っていた模様です。セルフィ様』
次から次へと・・・。
『バッカス・トワ・オルドールは?生き残ってるのか?』
『残念ながら、死亡されました。セルフィ様』
奴はシンについて、何か情報を持っていたはずだ。それに利用されたと思っていたふしがあったので、口を割る可能性もあった。
それが、殺されてしまった・・・。
『食事は、きちんと管理されていなかったのか?』
『帝国兵士によって管理され、出されていたのですが、尋問した結果、その帝国兵士が毒を盛ったようです。セルフィ様』
『え・・・?犯人は、帝国兵?』
『彼らは否定していますが、高い確率で偽りを語っています。セルフィ様』
帝国にもシンの手が及んでいるとは、少しよぎっていたが・・・。1から作り変えることができない帝国は、やはり厄介だ・・・。
『ミカエル。帝国側に感づかれないように、ワグワナ法国に入っているすべての帝国兵士、それとトリアティー師団国の兵士にシンによるスパイがいるのか、質問を続けてくれるか?』
『分かりました。セルフィ様』
もしかして、ペルマゼ獣王国が、意味のない南下を続けたのは、俺をひきつけるためだった?
まぁいい・・・。99人の人たちだけでも助けられたんだから、いいとしよう・・・。
源は、時空空間ゲートで、彼らをレジェンドに送り、ロー村司祭様に頼んで、保護してもらうことにした。
そして、レジェンド軍を首都ダリンへと戻し、事件が起こったと思われる牢に足を運んだ。
毒は、シチューの中に盛られていて、ピンポイントで、殺したい政治家たちを殺していったようだった。
生き残った政治家たちは、脅えていた。
シンにあまり深く関わってこなかった者たちだろうと思われる。
『ミカエル。嘘を口にしている看守は何人いたんだ?』
『看守についた兵士15人すべてが、偽りを語っています。セルフィ様』
全員・・・。
『ルピリート将軍。ワグワナ法国の牢に捕らえられていた元政治家たちが、114人毒殺されました
看守を選んだのは、ルピリート将軍ですか?』
『牢にいれておくようにと命令はしましたが、看守を選んだのは、誰かまでは、分かりません
看守が怪しいということでしょうか?』
『まだ、分からないのですが、色々なケースを想定して、知っておきたいと思っているだけです
調べてもらえますか?』
『分かりました』
『ルピリート将軍は、物質モンスターなので、83%と確率は少し下がりますが、真実を語っています。セルフィ様』
ふぅー・・・。将軍は、スパイではなさそうだな・・・。
『よかった。ありがとう。ミカエル
シンによる攻撃がまだ続く可能性がある。レジェンドや新大共和ケーシスと同じレベルの警戒網を首都ダリンにもしてくれ
怪しい者を発見したら、マナソースで、地下へと飛ばすんだ
レジェンドや新大共和ケーシス、帝国やユダ村、ヨシュア村と同じように、地下に、施工工場を首都ダリンにも作っていってくれ
ワグワナ法国でも、ソースを量産できるように準備を整えるんだ』
『分かりました。セルィ様』
生き残った政治家たちは、脅えきっていたので、落ち着かせるる必要があった。
「皆さん。ワグワナ法国に4万人も犠牲者を出したあなたたちの指導者たちは、あなたたちの命もこのように弄び、簡単に、手を下そうとしているのです
これからは、わたしが責任を持って、食べ物を運ばせます
毒味役として、動物も連れて来るので、その動物に自分たちの食べるものの一部を食べさせて確認するようにしてください
あなたたちは、生き証人として生き残ってもらう必要があります
わたしたちにとって、利用価値があるということですね」
源はわざと善意をみせないように冷たく利己的な言い方で伝えた。
善意などをみせたほうが、彼らからすれば、怪しくみえるからだ。
『ミカエル。看守は、すべてミカエルが代行してくれ
兵士などを使わずに、彼らの安全確保を頼む』
『はい。分かりました。セルフィ様』
源は、その後、レジェンド、ユダ村、新大共和ケーシス、ヨシュア村、帝国首都ドラゴの司祭たちに、連絡を取った。
『お時間を取らせてすみません
ワグワナ法国を無事に完全に制圧することができました
そこで、教会を5つワグワナ法国の首都ダリンに建てて、その他のワグワナ法国の村にも、福音を延べ伝えようと思っているのですが、司祭候補の育成は、どの程度、進んでおられますか?』
司祭として、認定できるほどの知識を持った司祭候補は、あわせても、25人ほどしかいなかった。
それも急遽の対応で、ギリギリの範囲で25人だった。
新大共和ケーシスの村々にも派遣しなければいけないので、まったく足りない。
『知識も必要ですが、司祭として働きたいと願うクリスチャンでもいいと考えています
本人が、福音を延べ伝えたいと願っているのなら、任せてみようと思うのですが、どうでしょうか?
もちろん、彼らに負担にならないように、配慮してサポートさせてもらいます』
レジェンド司祭様が、答えた。
『そうのような者たちなら、沢山信者におりますのぉ。セルフィ様
レジェンドでもそうなら、他の信者にもおるでしょう』
司祭様がいわれたように、他の司祭様もそれには同意してくれた。
『では、近々、教会を設置させた際には、彼らにその教会を任せようと思います
新大共和ケーシスは、リリス・ピューマ・モーゼス女王の支援もあり、安全ではありますが、もしかするとワグワナ法国での宣教は、命がけになる可能性もあります
ミカエルや兵士たちを護衛につけますが、ワグワナ法国などの状況の説明よろしくお願いします』
『神に与えられた命を神のためにかけることこそ、クリスチャンの本望。ヨシュア村は分かりませんが、レジェンドの信者では、遅るるに足らん問題ですじゃ。お任せください』
ヨシュア村のレヴィンチ・タダ司祭が、大声をはりあげる。
『なんじゃとぉ!この老いぼれじじぃ!
ヨシュア村をバカにしおってからに!ヨシュア村は、最高のクリスチャンばかりが勢揃いしているのだ
ボケるのはいいかげんにせいよ』
『あ・・・。仲のいいのは、分かりましたので・・・。わたしもやることがあるので・・・これで失礼します。みなさん。よろしくお願いします』
源は、喧嘩が過熱するまえに、離脱した。
そして、岩石が大量にあるチフス湿地帯:ボルフ王国から北東350km地点。岩ばかりで植物も少ない場所に、瞬間移動して、新大共和ケーシスの教会と同じように、岩で作られた大きい教会を5つ作り出していく。
それを持って、ボルフ王国から西200kmにあるパモラ森林にいって、大量の木で、椅子や聖書台などを作り、各教会の内部に、並べていった。
まったく豪華な造りでもなく、殺風景な建物だが、あまり豪華にしてしまえば、それが偶像となって人々を惑わすものになってしまうので、これぐらいでいい。
それらの教会を首都ダリンの4隅にある要塞の間、東西南北に4つの教会を設置し、最後の1つは、中央広場に設置させた。
大きな建物1つが、首都ダリンの上空を飛び、ゆっくりと中央広場に降ろされるのをワグワナ法国の民が、見て騒ぎだす。
こうやって驚かれるのも、そろそろ慣れてきたな。