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21章 混乱

この世界についてのはじめて有力な情報を源たちは、手に入れることができたが、そのニーナ、サム、そして、エマの3人には逃げられてしまった。

源たちからすれば、危害を加える意図はまったく無かったのだが、どうやら、モンスターとの半獣半妖のようなものたちは、人間から毛嫌いされてしまうようだ。襲い掛かって来るモンスターなどを考えれば、当然と言えば、当然だろう。


だが、人間とモンスターとの間に、取り払えないような深い溝があるのなら、源たちの生存率もさがってしまうと考えた。そして、それがあの子供たちの逃げ方からすると、濃厚だということだ。


あの様子だと、ヘタをすると俺やロックを退治に来てもおかしくはない。

人間とは極力争いたくはないが、向こうの事情もまったく分からないので、この森から追い出そうとしてくる可能性もある。

源たちにとっては、ウオウルフとの戦いやあらゆる作業の後、苦労してやっと形になりはじめたセーフティエリアを簡単には手放したくはない。


少し時間をあけて、ウオウルフのように、貢物を渡すことで、少しずつ誤解を解いていく方法もあるかもしれないと、色々な案を考える。


ウオウルフたちとは打ち解けられたのだから、人間にも理解してもらえると単純に思いたいのだが、人間こそ複雑なので、逆に厄介かもしれないとも思った。


ウオウルフぐらいの勢力ならロックと自分だけでもなんとかできるが、知能もあり、能力があるものは、ごろごろしているはずのこの世界では、明日生きていられるのかも分からない。

源やロックは何も知らずに、何とか能力を活用して生きているのだから、さらに優れた能力を持った存在もかなりの数いると考えるのが普通だろう。

だからこそ、情報がほしいし、できれば敵は増やしたくはない。


源は、昨日のニーナたちとのやり取りを振り返ろうと思い、朝から散歩して、ニーナたちがいた岩のところまで来てみた。


ニーナたちの動物の皮で作られたカバンを発見した。


そういえば、ニーナは、荷物さえもそのままにして、逃げかえってしまっていたことを忘れていた。


そのかばんを拾うが、他人のカバンの中身をみるなんてこと良くはないとは考えながらも、ニーナたちはもうここには来ないだろうと考え、中身を確認してみることにした。


中に入っていたのは、長方形の筆箱のような木の箱と、たぶん昼に食べようとしていたはずの食べ物が入っていた。


その長方形の木の箱を持ってみるが、どうやら中身は液体のようだった。箱を持つと中が揺れて、液体だと分かる。


何だろうと思い箱を開けられるか調べてみると、箱の隅に木で作られたキャップのようなものがあるのに気づいて、そのキャップをとってみた。すると、その中身の液体の匂いが一気に外に拡散する。


くさッ!」


なんだこれ・・・かなりの匂いについ声まで出してしまった。


『憶測ですが、それはモンスターを近づかせないための香水かもしれませんね』


『そういうことか。嗅覚が発達しているだろうモンスターからすれば、俺以上にこの匂いを嫌がるだろうな・・・』


どうやってこどもたちだけで、湖まで来たのか疑問だったけど、あの香水を使って、村から抜け出して来たのだろうと考えた。

源たちのセーフティエリアは、ウオウルフの縄張りだ。だから、この森のモンスターもこの湖には近づかない。そして、そのウオウルフも夜行性なので、昼には、モンスターが少ない場所となる。きつい匂いの香水があれば、確かに遊びに来れないこともない。


『源。かなりの人数の人間がこちらの方に近づいて来ています』


愛による警告が突然入った。


それを聞いて、源は確認する。


『人間?それは本当に人間なのか?』


『分かりませんが、二足歩行でこちらに近づいて来ています。その数は50以上です』


それを聞いて、源は、張り巡らしているグラファイロープに手を伸ばし、警告音を鳴らし、すぐにロックハウスまで飛び、ロックに知らせに行く。

その途中で、ウオウルフの警備には、森の中で待機しておくように命じた。攻撃を勝手にしないようにという命令だ。


ロックは、警戒音を聞いて、源に確認する。

「なんだ?何があった?」


「早速、人間が俺たちを排除しに来たかもしれない。まさか、こんなに早く行動に出るとは思わなかったけど、二足歩行の50人ほどの人数がこの場所に向かってきている」


警戒音を聞いてからすぐに、ロックは、金剛石グラファイト装備をフォルと一緒に準備していた。危機は突然やってくるので、いつでも対応できるように、迅速な行動が普段から行われる。


源は、人間と戦わなければいけないのかと考えを巡らす。


「ロック。ロックは一応、武器を持って対峙してほしいけど、戦いには参加しないほうがいいかもしれない」


「なぜ?」


「俺は、相手の動きをみながら、戦うことができるけど、ロックは、パワー重視なだけに、相手に必要以上の怪我を負わせてしまうかもしれないからだね」


「それを言うなら、源の方こそ、大丈夫なのか?俺の両腕を吹き飛ばしたことを考えたら、相手を少しでも押しただけでも危険かもしれないぞ」


「・・・」


確かにそうだ・・・。ロックよりもむしろ、自分のほうが相手を傷つけてしまうのか?と源は考えた。また、同じ失敗を繰り返すところだった。


「ロックのいう通り、俺も戦えないな。かわすだけにして、それでも無理なら空に飛んで逃げることにするよ」


「なるほどな。それで俺は何をすればいい?」


「ロックは、その身なりを使って、威嚇をしていてほしいね。相手もロックとは相手したくはないと思わせられたら、もしかすると、戦いも避けられるかもしれない」


大勢の気配が、湖に集まった。どうやら俺を探しているようだ。



「よし!いくよ。ロック」


「おう!」


昨日、ニーナたちがいた岩の場所に、50人ほどの武器を持った人間たちが、集まっていた。その中心には、どうやらニーナが言っていた司祭と思われる老人が、指示を出しているようだった。


のこのこ歩いて、近づくよりも、空から突然、ロックとともに現れたほうが、相手を威嚇できると考えて、ロックにそのことを話して、一緒に、空高くへと飛び、彼らの頭上から、話をもちかけることにした。


1kmほども高い空へと飛んで、そこから巨大なロックと一緒に、空気抵抗がない無重力の不自然な状況をわざとみせるかのように、上から下へと降りていった。


「そ・・・空をみろ!!」


一人の男が空に指をさして、飛んでくる源とロックの存在を皆に知らせる。

人々は、動揺しているようにみえた。


人々は、空から落ちてくるのでもなく、体を一切動かさないストーンヘッドと天使族であろう綺麗な少年のふたりが、まるで空中に動かない絵が吊り下げられているかのように、降りてきたのを目にして、その不自然さに、どよめいた。源はマントをつけているので羽がみえていないが、効果はあったようだ。


「よし、始めの揺動は成功だな」と源がロックに話しかける。


「うん。かなり驚いてるな」


源は、人々が集まっている場所から5mほど上、巨大なロックを隣に空中で静止した。羽も羽ばたかせずに、空中で止まっている状態は、彼らにとっては異様にみえただろう。そして、大きな声で源は、質問した。


「ここに何の用があってきた!?」


その声を聞いて、人々はまたどよめいた。


司祭らしき老人が、大きくジェスチャーをしながら、叫ぶ。


「わたしたちは、あなたと話し合いたいと思ってきましたのじゃ」


小さく、源はつぶやいた。


「話し合い・・・?」


話し合いをしてくれるのか??でも、人々は武器を持っている。


「話し合いに、どうして武器がいるんだ?」


そういうと、司祭は、何かを話して、皆は、持っていた武器を地面に置き始めた。

攻撃する意図を感じさせないため置いたのか?と源は考える。


「ロック。どうする?」


「話をしようと言ってくれるのなら、好都合だろ。俺たちも攻撃の意思はないことを伝えるだけ伝えよう」


「そうだな・・・じゃー降りるよ」


そういうと、源は、ゆっくりとロックと共に、地へと足をつけた。

そして、源も、自分の持っているグラファイソードを地面にそっと置く。

源が、剣を置いたのをみて、ロックもセカンドアックスをズガンッと地面に置いた。



司祭が、ニーナとサム、エマを列の前に呼び出して、話かけてきた。


「昨日、あなたと話したというこどもたちも連れてきました。わたしたちは、あなたがたと話をしたいだけですじゃ」


確かに、あれはニーナとサム、そしてエマだ。昨日よりは取り乱していない。それでも3人は浮かない顔をしているのに、源は違和感を覚える。


司祭は、話を続ける。

「話をする前に、少しわたしだけ、そちらに行き、確認したいのですが、よろしいか?」


何だか、意味不明な提案をされて、源は、ロックと顔を見合わせて考え答える。こちらの武器をすべて把握しようと身体検査でもしたいのか?と思った。


「あなただけなら、こちらへどうぞ」



そういうと、司祭はゆっくりと、両手を挙げて、てのひらを向けて近づいてきた。

司祭の体は小さく、背中が曲がっているので、尚更小さくみえる。顔はきちんと見えているが、被り物をしているので、宗教指導者という雰囲気が、全身から漂わせる。


司祭は、源やロックに恐れることもなく、目の前までやって来て、質問する。


「申し訳ありませぬが、どうか、あなた様の羽をわたしに見せてはくださりませぬか?」


司祭はとても礼儀正しく、威圧してくるでもなく、話しかけてきたので、断ることもないと、源は、マントを脱いで、司祭に背中を向けた。


人々は、またどよめいた。


そういえば、昨日もサムがこの羽をみて、かなり驚いていたが、そんなに珍しいものなのか?と源は思った。


「触ってもよろしいですかな?」


源は、疑問一杯の顔をしながら、頷いた。


「いいですよ。どうぞ、触ってください」


そういうと、司祭は、源の羽に手を伸ばした。そして、背中と羽が生えている付け根にも手を伸ばし、何か確認していった。本当の羽なのかを確認しているようだった。


「ありがとうございます。ところで、あなた様のお名前は、なんとおっしゃるのでしょうか?」


「わたしは、源といいます」


「ハジメ様ですか」


「はい」


「その他に、名前はないのでしょうか?」


「えっと・・・フルネームは、末永源といいます」


そういうと、人々が今まで以上に、どよめきだした。


一体何なのか、源には理解できなかった。


「スエナガ ハジメ とおっしゃるのですね?」


と司祭はなぜか、くどく聞いてくる。


「はい。そうです。それが何か?」


と聞こうとした瞬間、司祭は、地面に倒れ込むように、地にひれ伏しはじめた。



司祭が、地にひれ伏すのをみて、すべての人々が、同じように、地にひざをついて、ひれ伏しはじめた。


源とロックは、一体何が起こったのか分からずに、混乱した。


「な・・・何ですか!?みなさん、何をしているのですか!?」


源は困惑した声で、司祭に質問をすると、司祭は、顔をあげて、源に顔を向けた。

司祭の目からは、涙がこぼれていた。



泣いている!??


司祭は、話す。


「あなたをお待ちしておりました」


俺を待っていた?意味が分からない・・・源は、昨日、ニーナたちに嫌われて逃げられたのに、どうして、そんな俺を待っていたなんていうのだろうか?


「すみません。待っていたとはどういう意味でしょうか?」



「ご説明しますので、どうか、お二人は、わたしたちの村に来ていただけませぬか?」


源は、ロックの顔をみた。ロックは、昨日言っていたことと違うじゃないかと言いたげな顔をしていた。


それは、俺も同じだから、困惑しているのだけど、一体何が起こっているのか、本当に理解できない。


俺がロックと空から姿を現して、人々を動揺させたように、村人も、不自然な行動をすることで俺たちを動揺させようとする新手の策略なのかとも考えた。


昨日の今日で、この村人たちの行動はおかしすぎるからだ。

村に連れて行って、罠にはめようとしている可能性もあると考えた。


「司祭様、わたしはあなたがたに、嫌われてしまったのかと思っていました。ニーナたちを怖がらせてしまったと思ったのです。そのことで、わたしたちを村に連れて行って罠にかけようとされているのですか?」


司祭は、真剣なまなざしで顔を振った。


「罠など一切ございませぬ!昨日のこどもたちの無礼な振る舞いをお詫びし、ならびに、なぜそのような態度に取ったのかをご説明したいだけなのですじゃ」


なんだか、今の説明ですこし、源たちの認識と一致した気がした。

昨日のニーナの急激な態度の変化にも、何かわけがあったというわけだ。だが、源は信用しすぎてはいけないとも思った。


「すみません。あなたがたに、まずわたしが伝えたいのは、わたしやあそこにいるわたしの友は、決してあなたがたに危害を加える気はありません。そのことだけは言わせてください」


「ありがとうございます。わたしたちも、貴方様に危害を加える気はありません。ご説明するために、村に来てほしいだけですじゃ」


「あなたがたも同じだと思うのですが、まだお互いに知らないことだらけで、完全に信頼することはできません。失礼かもしれませんが、村までは、わたしと友は、空から離れていかせてもらえますか?森の中に罠があるかもと不安な気持ちを消せないからです」


「まったくおっしゃる通りです。どうぞそのようになさってくださいませ」


ロックもそれで納得したようにうなずく。


「武器を村まで、持っていってもいいでしょうか」


「ご心配でしたら、村の中にも、武器を持ってお入りくださいませ」


そこまでするのかと、源は思った。本当に何か理由があったのかもしれないと、思わせる。


源は、警備しているウオウルフたちに、留守番をするフォルを守るように伝え、そして、ついてこなくてもいいと話た。


ロックと共に、空を飛び、村人たちのスピードにあわせて、移動していく。


何とかして、友好関係を築きたい源とロックは、祈るように、空を移動していく。これが罠ではないようにと願うばかりだ。

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