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205章 首都ダリンの制圧

九重門のある山脈地帯とは全く違い、広い平原に建てられている首都ダリンは、高い壁に守られた長方形の形をしていた。さらに首都ダリンの四方に4つの要塞が建設されている。

その4つの要塞は、首都ダリンと地下で繋がれていて、防衛している兵を移動しては、どこから敵が突如として攻めて来るのか分からないようにされているので、本当なら奇襲に気を配らなければいけないのだが、連合軍には、すでに潜伏させているソースからの情報があるので、状況が筒抜けになっていた。


「なぜだ・・・なぜ・・・九重門で釘付けにされているはずの連合軍が、首都ダリンの前にいるのだ・・・」


ワグワナ法国政治家バッカス・トワ・オルドールは、震えていた。

側近の政治家たちも異変の事態にかけつけ、バッカスの部屋の扉を叩き、青ざめた顔で押し寄せる。

「どういうことですか?連合軍が、すでにここまで来ておりますぞ!」


バッカス・トワ・オルドールは、不機嫌な態度で返答する。

「そんなことわたしが知るわけないだろう」


「速やかに会議を開いてどのように対処するのかを検討しなければ、兵を動かすことさえできませんぞ!」


ワグワナ法国は、王族貴族を排斥し、民衆による政治を掲げ始めていたので、法による秩序を求めたため、緊急を要する時にさえ、兵を動かすための許可を法廷で採決させなければいけなかった。

それを飛び越えて、兵を動かすにしても、のちのち法に罰せられないように対処しなければいけない。


「検討だと?そんな余裕があるとでも、思っているのか?」


「なにをおっしゃる!そのように法を作り上げたのは、バッカス・トワ・オルドール殿ではないか!九重門という閉鎖された場所での軍の采配ならまだしも、民の面前で、法を破ることなどできませんぞ!」


「トルパーズ将軍を呼べ」


「なぜあのような老兵を呼ぶのですか?」


「ムサンの戦いでの采配をして、ワグワナ法国を守り抜いたその手腕を発揮してもらう!お前たちの話を聞いていたら、手遅れになってしまう

いいか!もう我々はシンを背景に法を犯している。シンは法をもって我々を見捨てることさえしてくる

ここで首都ダリンを制圧されてはならんのだ

お前たちもわたしと同罪だぞ

とにかく将軍を呼べ!」


政治家たちは、しぶしぶトルパーズ将軍に連絡を取り、バッカス・トワ・オルドールの元へと送り出した。


バッカスは、将軍の姿をみると頭をさげて頼んだ。


「トルパーズ将軍。どうかワグワナ法国を救ってくれ

今、帝国連合軍15万が、首都ダリンの前に現れた

九重門から本体が戻るまで、どうかこの首都を守り抜いてほしい」


トルパーズ将軍は、呆れたような顔で答えた。


「おかしなことを申しおるのぉ。このわしを軍から引きはがしたのは、バッカス・トワ・オルドールによる指示だったこと、知らぬとでも思っておるのか?」


それを聞いて、バッカスは、眉をひそめる。

「何か勘違いされておいでのようです・・・わたしがどうして、トルパーズ将軍を追いやるというのですか

あなたのような有用な軍人を排斥するはずもありません

現にこうやってあなたを真っ先に頼ろうとしているではありませんか」


「お主は、旧体制派のわしが邪魔だったのだろう?これでも英雄とさえ言われた時期もあったわしに軍に居座られては、都合が悪かったのだろう

次々と旧体制派の政治家や軍人、あらゆる者たちを貶めてきたのは、お前だということは分かっておる」


「例え、そうだったとしても、今は、ワグワナ法国の窮地です

国のため、民のために、首都ダリンを救ってください

首都ダリンにいる2万の兵士の采配は、将軍に全権委ねますゆえ」


「このような状況にしておいて、そのしりぬぐいをどうしてわしがやらねばならんのだ?」


「もし、この窮地を退けてもらえるのなら、息子さんの罪状をすべて取り下げ、軍への復職と地位を約束いたしましょう」


トルパーズ将軍は、その言葉を聞いて、黙り込んだ。

息子トルパーズ・チールは、自分への圧力と排斥に疑念を抱いて、政治に物をいったために、あらぬ罪を被せられ捕らえられていたからだ。


「お主たちの完全なる過ちだったことを認め、息子を解放すると約束するか?」


「もちろんです。冤罪だったことを国紙にも乗せて、大々的に公表しましょう

ですから、なにとぞ、連合軍をくいとめてほしい!」


「軍のすべての全権は、必ずわしにあるということも忘れるな

お主ら政治家どもは、いつでも逃げられるように中央地下通路の近くで隠れておれ」


バッカス・トワ・オルドールは、伝令に言った。

「これから首都ダリンのすべての兵士は、トルパーズ将軍の傘下となり、全権は、将軍となる

将軍の命令に逆らった者は、重罰に処すと伝えよ!」


トルパーズ将軍は、マントを翻して、部屋から出て行った。


側近の政治家がバッカス・トワ・オルドールに質問した。


「シンじきじきに、排斥せよと言われた将軍を採用するなど、本当によろしいのですか?」


「あのじじいには、今回働いてもらうが、これが終わり次第、すべての法による罪をじじいに被ってもらうのだ

そうすれば、組織にも言い訳が立つだろう

口約束だけで鵜呑みにするとは、あのじじいもボケたな」


「組織は、この状況の我々をどのように手助けしようとされているのですか?」


「まだ、連絡はない」


「まさかこのまま見捨てられるなんてことはないですよね」


「分からん・・・

まったく連絡が取れんのだ。そうでなければ、じじいを使うわけが無いだろう

だが、我々は10年もシンのために動いてきた

そんな者を見捨てるわけがないはずだ・・・」



―――連合軍15万人は、首都ダリンを囲むように配置するのではなく、南塀の前に横に布陣するかのように、堂々と整列された。


ワグワナ法国の兵士たちは、未だに上からの指示がなく騒ぎ立てているだけの状態のまますべての兵士が、壁の守りさえもせずに、軍事広場へと集められていた。


そこにトルパーズ将軍が鎧をまとい現れると兵士の無駄口が止んだ。


伝令が、大声で兵士たちに叫ぶ。


「これより、首都ダリンの軍は、トルパーズ将軍に委ねられる

将軍の命令には速やかに従うように

もし、逆らえば重罰となると心得よ」


「おい・・・ムサンの英雄が戻って来たのか?」


「たった数千の兵だけで、数万の大軍を退けワグワナ法国を救ったといわれる英雄が戻って来た!」


トルパーズ将軍は、2万の兵士たちに声を張り上げて叫んだ。


「ワグワナ法国の兵士たちよ

バカな政治家どもが招いたこの危機をわしら軍人に奴らは押し付けてきおった!

連合軍は、15万

徴兵され15万を抑えるはずの7万の兵士たちは、未だに南部の九重門付近にいる

首都ダリンが落とされ、15万がここを占拠すれば、ワグワナ法国の実質の崩壊となる

わしの指示は絶対だ

理由が理解できない指示を与えられても、わしに従え!!」


危機迫る兵士たちにとって英雄ともいわれた将軍による言葉は、鼓舞されるに値した。


「うおおおおおお!!!」


もの凄い大きな咆哮が、首都ダリンに響く。


トルパーズ将軍は、20人の千人隊長たちに指示を出し始めた。


5000の兵士たちは、南側に配備され、残りの15000は、7500ずつ北側の要塞2つに配備された。

連合軍は、巨石飛行物体トーラスを後ろにして、横に整列されていたが、15万もの軍勢が南側を覆っていたので、ワグワナ法国側に威圧感を与えていた。


「将軍!鎧をまとった少年がひとり、南門へと歩きて向かって来ています」


トルパーズ将軍は、南中央防衛位置から覗き込む。

小さな少年は、剣を一本だけ脇差にさして、ひるむことなく歩き続けている。


少年ひとりに塀の上から矢を射るのは、さすがにワグワナ法国兵たちも躊躇した。


少年は、南門の前に立つと、その体は宙に浮かび始めた。

そして、何も持っていない右手を垂直に上にあげたと思うと、そこからゆっくりと下へと手を降ろす。

何がしたいのかとその少年を防衛軍が、みていると信じられないことが起こった。


首都ダリンの高い壁は、岩で作られている。その扉は、分厚い鋼鉄で作られ、門を開く際には、馬3頭を、必要とした。

ドラゴネル帝国の壁ほどではなかったとしても、頑丈さを誇っていた。

その壁が、上から下へと扉とともに、まっぷたつに斬られていく。


まるでケーキを斬るかのごとく、硬いはずの南の門が、ゆっくりと裂けていった。


兵士は叫んだ。


「撃てーー!!矢を放て!!」


その声とともに、焦った護衛兵が、少年へと矢を放った。

しかし、少年から数m範囲に放たれた矢が空中で次々とピタリと止まる。

どれだけ矢を射ても、矢は、少年のまわりを丸く囲むかのように止まるだけだった。


トルパーズ将軍は、叫ぶ。


「勝手に攻撃をするな!わしは攻撃せよとは言っていないぞ!」


伝令によって伝えられ、攻撃は中止されたが、南扉は、破壊され続けている。


「速やかに南側の兵を民の家に退避させよ

命令があるまで、散開して、それぞれ、その家屋を守れと申し伝えよ」


「はっ?南側の兵を撤退させるということですか?」


「少し考えれば分かることだろう

お前たちは、連合軍が、空からやってきたことを見ている

奴らは、壁や扉など関係ないのだ

やろうと思えば、15万の兵士たちを塀の内側に放つことさえできる

なのに、どうして、わざわざ南塀を破壊しようとしているのか」


「どうしてでしょうか!?」


「理由はいくつか考えられる

頑強な壁を容易く破壊できるところをみせつけて、兵士たちの士気を弱める

そして、一番ワグワナ法国にとって最悪なのは、民への虐殺だ」


「非道な獣人たちです

虐殺を企てているということですね?」


「いや、虐殺をしたのは、ワグワナ法国だ」


「え?」


「ワグワナ法国は、トリアティー師団国に侵攻し1万もの住民を虐殺したのだ

それをそのまま返されたとしても、こちら側が文句など言えようか」


「ですが、奴らは獣。我々は人間です!」


「・・・。

とにかく、首都ダリンの民が、虐殺されることがないように、各自、屋内へと潜伏し、一斉に軍がやられるのを阻止する

そのために、すべての兵士を今すぐ屋内に移動させよ」


「分かりました!!将軍」


「・・・」


伝令は、速やかにその命令を5000の兵士に伝えると意味が分からないと反発の声が上がったが、将軍の命令は絶対だったので、移動をはじめた。


その間に、南塀は、破壊された。


15万の連合軍は、悠々と前進をはじめ、首都ダリンへと入城していく。

連合軍15万の兵を守るかのように、ミカエルが壁のように横について、軍は、移動を続ける。


連合軍は、首都ダリンの中央道を進軍していくが、屋内に潜伏していた兵士たちは、誰一人、出て行こうとはしなかった。

15万もの兵に、バラバラに攻め込んだとしても、意味がないからだ。

どのような合図があるのか分からないまま、連合軍の数の多さに圧倒されながら、進軍を見守ることしかできない。

自分たちができるのは、連合軍による民にたいしての虐殺から民を守ることだけだった。


『セルフィ様。政治家は、すべて中央地下施設に隠れるように集まっています』


源は、連合軍のすべての兵士たちに通信マインドシグナルによって指示を出す。


《レジェンド兵は、中央にある議事堂の地下に隠れている政治家をすべて、捕らえよ

すべての連合軍兵は、無抵抗な者は、誰一人殺さないように

兵士が武器を持って家屋に潜伏しているので、突然の攻撃には注意するように

武器を持って抵抗する兵士の安否は、こちらの命を優先とします

無力化できればいいですが、無理なら殺めることを許可します

兵士以外の死者が出ないように心がけてください

主犯である政治家たちが捕まるまで、このまま守備を優先に待機》


レジェンド兵は、議事堂に崩れ込んだ。


そして、地下へと進み、300人の政治家すべてを捕らえた。


バッカス・トワ・オルドールは、驚きを隠し切れない。


「もう壁を突破されたというのか!!」


レジェンド兵5人が、通路から外へと逃げようとするバッカス・トワ・オルドールを囲む。


「あなたが、バッカス・トワ・オルドールですね」


「な・・・なんだ?わたしは、政治家のひとりにすぎない!」


「あなたが、ワグワナ法国を牛耳っている独裁者であることは分かっています」


レジェンド兵は、バッカスの両腕を掴んで、連れて行った。

他の政治家たちは、ミカエルのソースで作られた手錠で拘束される。


バッカス・トワ・オルドールは、セルフィとゴルバフ・ダレーシア、ルピリート将軍の前へと連れて行かされる。

そこに、トルパーズ将軍もいた。


「じじい!!お前、国を裏切ったな!!」


「何を言っておる。国を10年前から裏切っておったのは、お主だろ」


「わたしを騙したな!!」


「勝手にお前が話を進め、勘違いしただけであろうが

お前の魂胆など解っておったわ!」


ミカエルが、映像とともに録音した画像をみせる。


トルパーズ将軍がバッカスの部屋から出た後に、バッカスが側近の政治家と話している内容だった。


「シンじきじきに、排斥せよと言われた将軍を採用するなど、本当によろしいのですか?」


「あのじじいには、今回働いてもらうが、これが終わり次第、すべての法による罪をじじいに被ってもらうのだ

そうすれば、組織にも言い訳が立つだろう

口約束だけで鵜呑みにするとは、あのじじいもボケたな」



それを目にして、バッカスは驚く。


「なっ!!」


「この内容からも、お前がワグワナ法国を売り渡していたことは分かる」


その話をしている間に、ひとりの男が姿を現した。


「ガマル・ルィール・チェクホン殿下!!なぜ・・・!!」


「わしは死んではおらんぞ。バッカス」


トルパーズ将軍が、バッカスに言い放つ。


「一カ月も前から、セルフィ殿とガマル・ルィール・チェクホン殿下が、わしの前に現れ、お前たちの悪行をすべて教えてくれておった

お主たちが、わしを頼るはずはないと思っていたが、本当にわしに軍を任せるとは驚いたぞ

お前などに息子を助けられるより、殿下に助けてもらうほうが何倍も信用できる

息子を自由にするという約束も嘘だったのだろうが!

お前の後ろ楯は、守ってくれなかったのか?」


ゴルバフ・ダレーシアが、叫んだ。


「お主が行ったトリアティー師団国の民への虐殺をわたしは決してゆるさぬ!忘れぬ!」


バッカス・トワ・オルドールは、言葉を失い膝を地面について、うつむいた。

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