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204章 救出

ワグワナ法国の南部にそびえ立った山脈の谷間に巨大な門、九重門はあった。

ワグワナ法国は、帝国連合軍が攻めて来ることを予想して、10万もの自国の兵士を徴兵して集めていた。

そして、連合軍も10万を超えるが、その連合軍のすべてを乗せた巨大な飛行物体は、九重門を飛び越えて首都へ向かう恐れがった。

わざわざワグワナ法国の総力が集まった九重門で戦うなど陸路以外の手段があるのなら、取るはずもないからだ。


他国であれば、獣魔などを利用して、空襲するのだが、ワグワナ法国には、そのような手段はない。

九重門を抜けさせてしまえば、ほとんど農民兵でしかないワグワナ法国が、連合軍を打ち破ることもできなければ、同盟国のペルマゼ獣王国が参加するまで、時間を稼ぐことさえもできないかもしれない。

手段としてあがったのは、トリアティー師団国に攻め込んだ際に捕まえた人質を使って、九重門での戦いを選択させることだった。


人質は、逃げられないように、各自、首に鎖がつけられ、その鎖は、地面に繋がっている。

150人は、九重門の塀の上に、杭に縛り付けられ、10人間隔で、兵士がひとり付き、見張りが待機させられていた。

もし、その人質を逃がそうとする者が現れれば、速やかに外にいる人質は、殺せという命令が下されていた。


牢にはまだ人質が177人もいて、見張りも30人待機され、厳重に防備されていた。

その人質たちに逃げられそうになれば、壁に設置されている留め具レバーを下に降ろして、天井から毒を降らせて、全滅するように仕掛けられていた。


とにかく、連合軍が、地上へと降りて、ワグワナ法国と戦いをはじめるまでは、何としても逃がすわけにはいかないと人質の価値は上げられていた。


しかし、人質を監視している兵士たちは、こんな脅しに連合軍がのるとは思っていなかった。

数百人のために、大きな戦で、大局を狂わせてまで助けようと戦うわけがないからだ。

そもそもトリアティー師団国の獣人は、残忍で人を食べるような者たちだと教えられているのに、どうして今更、人質なのだといった具合に兵士たちは思っていた。

無駄な人質による脅しをかけるしか、敵の動きを止められないという妥協に似た雰囲気が兵士たちに広がっていた。


―――夜になると、源は、ダフキンとともに、九重門の中に時空空間ゲートを開いて、潜入した。

ミカエルのソースが、ワグワナ法国の兵士がいない場所を導き出して、なるべく牢に近い場所を選んだ。


リトシスを発動させて、九重門の広範囲の状況を把握すると、通信マインドシグナルを使って、牢に閉じ込められている人質に連絡した。


《人質に捕らえられている獣人の皆さん

わたしは、帝国連合軍の者です

この声に反応しないように、なるべく黙って指示に従ってください

これから皆さんを牢から助け出しますが、冷静に動いてもらわなければ、すぐさま命を亡くしてしまいます

状況を説明します

まずは、話を聞いても上を見ないようにしてください

皆さんは気づいていないかもしれませんが、天井に毒物が設置され、皆さんが逃げようとするのを兵士にみつかれば、兵士が、レバーを下に降ろして、毒物が降り注ぎ、多くの人が死んでしまうことになります

そのレバーは、ここだけではなく、他の場所にも設置されています

ですから、なるべく静かにバレないように、その牢から逃げる必要があります

一番の問題は、見つかってはいけないのは、兵士だけではなく、皆さんと同じ牢に入り、人質のふりをしている偽物の獣人がいて、その者にもバレないように退避しなければいけないということです

誰なのかこれから教えますが、決して彼女をジロジロみてはいけません

まずは、この話を聞いて、理解したひとは、一斉にではなく、順番に、ゆっくりと床に座っていってください

最後に、ひとりだけ立っている者が、偽物の獣人です

うさぎ耳をしている者です

彼女にだけは、この声は届いていないので、座ることはありません

では、順次、座っていってください》


人質として、源の声を聴いていた獣人たちは、そわそわしながら、ゆっくりと、バラバラに床に座っていった。

2分ほどかけて、床に座っていったが、ひとりだけ、鉄格子の窓から外を眺めるうさぎ族の女性が、立っていた。

彼女は、気楽な態度で、首に付けられた鎖に手をいれて、首を左右に揺らして、牢の人質たちを見渡し、また、外を眺める。


いつまでたっても、座る気配をみせなかった。


《分かりましたね?

彼女は、ワグワナ法国側の人間です

彼女にも、わたしたちが逃げることがバレてはいけません

彼女を眠らせるというやり方も考えましたが、どうやら兵士たちは、彼女から様子を確認しているようなので、それもできません

牢の見張りは、30人とそのうさぎ耳の偽物の獣人です

これから皆さんを一斉に、転移させようと思いますが、魔力阻害アンチマジックの付加が鎖につけられ、転移魔法を阻害されているので、確実に皆さんを助けるには、鎖をまず取らなければいけません

この首輪は、わたしなら、一斉に解除できるのですが、首輪が取れたことを10秒間ほど、バレてはいけません

水霧ウォーターミストという濃い霧を発生させて、牢全体の視界をさえぎるのを合図にして、みなさんの首輪を一斉に解除します

首輪が取れたら、なるべく音をたてず、慌てず、ゆっくりと首輪を床に置いていってください

首輪を床に置いて、動かず静かに待つだけでいいです》


牢の人質たちは、天井に毒物があり、死ぬかもしれないと、かたずをのむが、この声に従わなければ、生き残ることができないと考え、指示に従った。


源はカウントをとりはじめた。

《3・2・1》


牢屋に突然、真っ白ろな濃い霧が、発生した。


「何だ!!??」


「何だ?この霧は!!」


兵士たちが次々と叫びだす。


霧を発生させたと同時に、リトシスで、人質の首輪を音もなく解除した。


人質たちは、ゆっくりとその首輪を床に降ろしていく。


「何だ!?人質は、どうなっている!?」


「クソ!!もうレバーを下げろ!!」


兵士のひとりが、レバーを下に降ろすと、大量の毒物が天井から降り注いだ。


「ぎゃーーーー!!!」


という声が、牢から鳴り響く。


源は、兵士がレバーを引く前に、177人の人質を瞬間移動魔法で、巨石飛行物体トーラスの誰もいない広場に転移させていた。

177人全員が、無事に、助け出された。


牢屋に残っていた偽物のうさぎ耳の獣人は、そのまま牢に残されたままだったので、まともに毒物を被り、もだえ苦しむ。

そのすぐあとに、レバーを引いた兵士たちも一斉に、苦しみ始め、もだえ苦しみながら床に転げまわった。


人質がいた177人の牢屋のレバーが降ろされたことは、すぐに別室の者が、確認して、報告をあげようとするが、後ろから何者かに首を斬られ、その場で倒れた。


源は、すぐに、九重門の上に縛られた150人の人質の元へと瞬間移動した。

牢屋と同じように、同時に水霧ウォーターミストが発動され、視界を悪くされていたので、ここでも兵士たちが、慌てふためいていた。


「人質は、殺せ!!」


そのような声が兵士たちからあがったので、剣を振りかざされた。

杭に縛られていた人質に剣が向かったが、何かに弾き返された。


杭に縛られていた獣人たちは、一斉に、鎖が解かれ、次の瞬間、その場から消え去った。


水霧ウォーターミストによって目の前がどうなっているのか分からない兵士たちは、人質を殺そうとさらに剣を振り下ろしたが、刺さったのは、杭だけだった。


「人質がいないぞー!!」


「こっちもだ。こっちの人質もいない!」


兵士たちが騒ぎ出して、人質が一斉にいなくなったことに戸惑う。


源は、ダフキンと共に、巨石飛行物体トーラスに戻ると、ゴルバフ・ダレーシアが、近づいてきた。


「セルフィ殿!ありがとう!今回も、トリアティー師団国の民を救ってくださった!何とお礼を言えばいいのか・・・」


クールなゴルバフ・ダレーシアの豹変したかのような態度に戸惑う。


「だ・・・大丈夫ですよ。わたしたちは、連合軍で仲間です

仲間の国の民を助けるのは、当然のことです・・・

ミカエル。人質は、全員助け出せたか?」


「はい。セルフィ様。327人すべての人質は、無事にこの広場にいます」


「約束は、果たせましたね。女王陛下」


「うんうん。本当に感謝している!まさか一人も犠牲を出さずに救出してくださるとは思いもよらなかった!」


とてもクールそうにみえていたゴルバフ・ダレーシア女王だったが、本当は、感情豊かな人なのかもしれないとその様子をみて、源は思った。


―――九重門では、150人の人質が突然消え、予備として捕らえられていた177人がいるはずの牢でも、レバーが降ろされ毒物が降り注いだことが報告され、大騒ぎになっていた。


177人がどうなっているのか確認に向かった兵士たちも毒物が蔓延していることを知らずに向かったので、さらに犠牲者を増やしていた。


「どういうことだ?150人が一斉に消えただと!?」


九重門総指揮官は、頭を抱えた。

人質が奪還されたのであれば、巨大な物体は、そのまま北上していってしまい。


「とにかく、あの巨大な物体から目を放すな!奴らが北上すれば、ワグワナ法国軍も奴らについていく!」


数分して、伝令が、慌てて総指揮官のところにやってきて報告した。


「黒い巨大な物体が、突如として、空から消えました

今どこにいるのか解りません!!」


「なにぃー!!一体どういうことだ!?」


「空の上に、巨大な空間が現れ、その中に入っていった模様です!転移したと思われます!!」


「あれを転移させただとぉー!」


あのような巨大な質量のものを転移させる技術など聞いたこともなかった。

空を飛ぶだけでも異例。さらに転移するとは思いもしない。


「やられた・・・やつら・・・わざと速度を落としてみせて、九重門に軍を集めさせたのか!転移したとしたら場所は決まっている・・・」



―――巨石飛行物体トーラスは、首都ダリンからほんの数キロ手前に転移していた。


『セルフィ様。九重門の兵士4万は、巨石飛行物体トーラスが転移したのに気付き、北上してきましたが、残りの3万は、逆に南下しはじめました』


『南下?』


『はい。トリアティー師団国へと攻め上りはじめた模様です。セルフィ様』


やはり、そう来たか・・・。


『時間的には、何日の猶予がある?』


『かなりの速度で南下していますので、約二日で到着すると思われます』


源は、ゴルバフ・ダレーシアとルピリート将軍に報告した。


「九重門のワグワナ法国軍のうち4万は、首都ダリンに向かって北上。そして、残りの3万は、トリアティー師団国へと南下をはじめました

約二日で、トリアティー師団国、守備軍と合流するものと思われます」


ダレーシアは、うなずいた。


「守備軍は、2万。ほとんどが農民兵で編成された軍だ。だが、九重門の兵とて、正規兵ではないだろう。守備に徹すれば、2万と3万の数であるのなら、問題はないだろう」


「はい。ですが、何とかトリアティー師団国に被害が出る前に、首都ダリンを制圧したいと思います

明日一日で、決着をつけましょう」


「一日でか・・・セルフィ殿が提示したことは、ことごとくその通りに実現している。もう疑うこともすることはあるまい。わたしはトリアティー師団国にそこまで気を配ってくださるあなたに深く敬意を表そう」


「ありがとうございます。ワグワナ法国の軍を動かし、トリアティー師団国に対して虐殺行為を指示した者は後悔することになるでしょう

首都ダリンを制圧します」


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