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203章 ワグワナ法国の誤算

赤い顔で罵声をあびせかける千人隊長の顔にも矢が打ち込まれ、そのまま地面に倒れ込む。7つの場所での戦闘は、1時間も経たずに終結した。


その様子をみて、驚いていたのは、一緒に出陣したレジェンド兵士たちだった。


「俺・・・帰ったら奥さんにお礼いおう・・・」


「俺も・・・」


「俺の奥さん、俺がレジェンドを出る前に、何も出来なかったらごめんって震えてたんだぜ・・・俺は、戦場は男の場所だし、初陣で戦果をあげられる奴なんてそんなにいないと励ましてやったんだけど・・・その言葉を言ったことを思い出すと、はずかしくなる・・・」


「分かる。分かる。ドローン兵団がここまでやるなんて思いもしなかった・・・

俺たち、眠った兵士をゲートに入れてるだけだぜ・・・」


「・・・・」


7つの村に降り立ったレジェンド軍は、それぞれまたゲートを使って巨石飛行物体トーラスへと戻っていった。


―――驚きを隠せなかったのは、レジェンド兵士だけではなかった。

巨石飛行物体トーラスにただ乗っていただけの帝国軍とトリアティー師団国軍も、その戦場の様子をモニター越しでみていたことで、呆気に取られていた。

あまりにも、自分達の戦い方とは、違っていながら、さらに戦果をあげていたからだ。


トーラスで案内してくれた小さな虫のような物質モンスターからは、敵側の兵士さえも、ただ眠って拘束していると聞かされていたので、実質ワグワナ法国の兵士も死者0だということだ。その事実に困惑していた。


「たった1時間で、7つの村を制圧したというのか?」


ゴルバフ・ダレーシアは、一緒にトーラスに留まっていたセルフィに問いただす。


「はい。こちらの被害は、ドローン2機です

敵にも味方にも死者は0で、7000人の敵兵力を無力化して、今は幽閉しています」


「死者0で、7000人を・・・そのドローンとは一体なんだ?」


源は、ゲートを開いて、1機のドローンを目の前に取り出した。


「これがドローンという物質モンスターのような兵器です

これは、道具のようなものなので、これが壊れたとしても、また修理すれば、また戦うことができます

申し訳ないですが、レジェンドの軍事的な事柄ですので、これ以上の詳細は伏せさせてもらいます」


「あぁ・・・そうだな・・・すまない

セルフィ殿の作戦通り初戦は勝利したということは、そのまま戦略通りに進ませるということだな?」


「そうですね。変更なく進めていこうと思います

ですが、ルピリート将軍とその精鋭の方々には、いつ出陣してもらうのかは、予想できませんので、準備だけは怠らないでください」


「分かっています。セルフィ様

普通の兵士では手に余る暗殺者たちが現れた時は、我々が相手をいたしましょう」


「レジェンド軍からも対処できる者たちを待機させていますが、暗殺者がどれほどの人数で現れるかは、分からないですから、お願いします」


ルピリート将軍が率いる帝国強撃団には、将軍だけではなく、4人の側近の手練れがいた。

ルピリート将軍と遺跡に挑むほどの強さがあるというので、その4人にも、もしもの時は、任せることにした。


トリアティー師団国にも、手練れはいたが、今回は、トリアティー師団国に被害を出させないと宣言している以上、頼むことはしなかった。


ゴルバフ・ダレーシアは、トリアティー師団国の兵士を使うように言っていたが、彼らの怒りがどれだけ制御できるのか疑問だったので、ある程度、落ち着くまで、保留としている。


―――巨石飛行物体トーラスは、ゆっくりと空を北上して動いていった。

巨石飛行物体トーラスが向かっている方向は、九重門。


すでに、九重門周辺には、7万人ものワグワナ軍が集結して、帝国連合軍が到着するのを待ち受けていた。


九重門は、ワグワナ法国、首都ダリンから600kmも離れた南部にあった。

南部から北上してくると分かっていたワグワナ法国側は、鉄壁の守りを誇る九重門で、敵を返り討ちにする、もしくは、時間を稼いで、ペルマゼ獣王国の援軍が到着するのを待とうと考えていた。

ただ、問題は、帝国連合軍が乗り込んでいるだろうあの空中を移動する巨大なものが、九重門を無視して、そのまま空を飛びながら北上していくことだった。


開戦する前から練られていた九重門の防備は、陸を進軍してくると想定したもので、まさか軍全体を乗り込ますほどのあのような存在があるとは思いもよらなかった。

巨石飛行物体トーラスは、ボルフ王国侵攻にも使われていたが、2kmもの巨大な物が空を飛ぶということが想像できなかったので、そこは聞き流され上手く伝わっていなかった。

実際に目撃され、それの対応を強いられた。したがって九重門を突破された状況になっても対応できるように2万の兵は、九重門から遠く離れた北部へと配置されていた。


九重門、総指揮官は声を荒げた。

「なにぃ!!南部の防備にあたっていた7つの軍すべてがもう制圧された??」


「はい。各村からの連絡が止まり、こちらからの伝令を向かわせたのですが、7つの村すべての我が軍の兵士が、忽然と消えてしまったということです

村人からの話では、200人ほどの隊によって壊滅され、すぐに敵味方すべての姿が消えたというのです」


「軍が敵味方、姿を消しただと?」


「村人は、脅え隠れてみていただけですから、見間違いということもあるかもしれませんが、消えたということは共通していました」


「10万のうちすでに7000が倒されたというのか・・・

さすがは帝国、一筋縄ではいかぬな

帝国軍は、どれほどで、ここにやって来る?」


「あの速度ですと二日後の昼、九重門にやってくると思われます」


「それほど速くは飛ぶことができないようだな

10万を超える軍隊が乗っているのだからそうなのだろう

例え、そのまま九重門を抜けたとしても、我々の速度のほうが早いのなら、追いつけはするが・・・10万を超える帝国軍を九重門なしで迎え撃つことができるのかだ・・・」


九重門総司令官は、頭をかかえて、悩む。


ワグワナ法国は、人間至上主義を掲げていたので、獣魔などのモンスターも使用することがなかった。

ドラゴネットなどの空を飛ぶモンスターが使えないので、空を飛ぶものに攻撃を加えることができる方法は限られていた。


「だから、獣魔は使えるように許可を出すようにあれほどいっておいたのだ・・・政治家どもは、何も分かっておらん・・・

これでは帝国は、好きな場所に降りればいいだけではないか

役に立つのかは分からんが、【物理壁フィジカルバリア】を施せる者たちを九重門に集結させろ!

そして、あれも用意しておけ」


「はっ!!」


伝令は、速やかに行動に移した。



―――源は、巨石飛行物体トーラスをわざと視認できるように、ゆっくりと移動させていた。

南部に配備された兵士を圧倒的な戦果で大げさに倒した後、巨石飛行物体トーラスは、低速しかだせないと思わせれば、敵は、その時間を利用して南部に兵を集結させていくと睨んだからだ。

しかし、源には、転移という手段がある。

巨石飛行物体トーラスであっても、時空空間ゲートはスキルなので、マナを消費することなく、首都ダリンへと数秒で移動できるのだ。


7万のワグワナ法国軍を600kmも南の場所に釣り、自分たちは、2万程度の守備兵になった首都ダリンを制圧するという作戦だった。


しかし、そんな簡単には事は運ばなかった。


九重門の塀の上には、150個もの杭が立てられ、その杭には、多くの獣人たちが、張り付け状態にされ、動けないようにされていた。

空への攻撃ができないワグワナ法国が、連合軍に下に降りさせるための作戦は、人質の命をちらつかせて、脅すことだった。


九重門の上から絶えず、叫び続ける兵士の内容は、”九重門で戦わなければ、人質を殺していく”というものだった。


それを知ったゴルバフ・ダレーシアは、怒り狂ったように叫ぶ。


「ワグワナ法国!!ゆるすまじ!!」


九重門で7万人と戦うことになれば、被害が増えるのは、必死。

戦略的には、人質を無視して、首都ダリンへ向かうのが、当然だが、トリアティー師団国の獣人たちが、それで我慢できるわけがなかった。


ゴルバフ・ダレーシアをルピリート将軍が、止めようとする。

「落ち着いてくだされ。女王陛下

一時の感情を戦場に持ち込むなどもっての外ですぞ」


「落ち着けだと??また、その言葉か!いつまで我らは落ち着いていなければならんのだ!

九重門でトリアティー師団国軍だけでも降ろせ

お前たち帝国軍が人質を見捨てるというのなら、それでもいいだろう

だが、トリアティー師団国は、彼らを見捨てはせんぞ!!」


「レジェンドとしても、人質を見捨てようとは考えてはいません

安心してください」


「セルフィ殿!?これは戦争ですぞ?被害を多く出してでも人質救出をするおつもりか?」


次は、ルピリート将軍が、大声を張り上げた。


「待ってください。将軍

二人とも、落ち着いてください

被害を出さずに人質を救出できれば、問題はないということで、お二人は納得されるのですよね?」


「もちろん、それはそうですが、そんなことが出来るものでしょうか?」


ダレーシアは、懇願するかのような目でセルフィを見つめる。

「できるのか!?セルフィ殿!」


「えーっとまず、今の状況を冷静に把握しましょう」


「ミカエル。九重門で人質となっている者たちは、何人いる?」


「はい。セルフィ様

九重門で人質だと思われる獣人は、327人です

そのうち150人が、九重門の上に張りつけにされています

残りの177人は、九重門に設置された牢獄に押し詰められるように牢に捕らえられています」


「すべての人質の位置は、把握できているか?」


「はい。九重門には、ソースが、2万機、潜り込んでいますので、的確に把握できます。セルフィ様」


「お二人は、ワグワナ法国が、なぜ人質を用意したのか分かりますか?」


ルピリート将軍が答える。

「戦場では、よくあることですな

普通なら人質を盾にされたとしても、それに動じずに戦いを開始するものです

ですが、人質を取られて反応するような敵であれば、効果的だからでしょう」


「確かにそうなのだと思います

ワグワナ法国からすれば、帝国連合軍が驚異であることは間違いない

いつでも、利用できるようにあらかじめ準備していたというわけです

ですが、彼らだって人質を取ってまで、戦争をしようとは思っていないのです

わたしが調べた中では、そんな内容の作戦はなかった

しかし、今、実際に人質で脅しをかけているわけです

それはなぜか

予定外のことが、向こうにあったからだということです」


ゴルバフ・ダレーシアが問う。


「予定外?」


「はい。それは、我々が、空を移動しているということでしょう

裏を返せば、ワグワナ法国は、空に対して無力だということを吐露してしまっているのですね

人質のことは、わたしに任せてください

少なからず被害者が出る可能性もありますが、327人がすべて犠牲になるということは避けることができ、さらに九重門で、まともに7万の兵と戦う必要もなくなります

そうであれば、お二人とも同意してもらえますか?」


二人は、同意した。


源は、ふたりに時間をもらい人質救出作戦を実行することにした。


『セルフィ様

九重門に張りつけになっている人質は安全に救出可能かもしれませんが、牢に捕らえられている人質は、危険が及ぶ可能性があります』


『え?どういうこと?』


『牢には、もしもの時のために、細工が施されています

人質を一斉に殺せるだけの気化した毒物が準備され、それらは見張りによってすぐにでも作動するように設置されています

セルフィ様』


『屋内で気化した毒物って・・・普通そんなの使用できないだろ・・・味方さえも殺してしまう可能性が高い・・・』


現世では、ナチスドイツが、毒ガスを使ってホロコーストをしたという大嘘が信じられているが、実際そんな毒をあんなレンガや簡単なコンクリートなどで建てられただけの施設で使えるわけがない。犯罪者を処刑するための毒ガス室は、まるで銀行の扉のように頑丈で、空気が入り込むこともできないように密閉されている。ガスなど使えば、味方まで被害が及んでしまうのだ。死体の処理さえも難しくしてしまう。本当に手軽に大量の人を殺そうとするのなら、ガスを使うよりも、密室にいれて、空気を吸えなくさせて窒息死させるほうがよほど効率的で処理も簡単なのだ。収容所でのホロコーストや日本が行ったという残酷な話などは戦勝国によるデマでしかない。ドイツ軍は、実際にマスタードガスという生物化学兵器を戦争で使用したが、それは外だったし、使用したはずのドイツ軍でさえ被害が及んだのだ。

現世人の日本もワグワナ法国やボルフ王国などと同じように、国の情報規制の中で、嘘を教えられているのは、変わらない。

九重門の牢で毒ガスを使用するとはそういうことで、それほどワグワナ法国は、追い詰められているのか、後先考えない愚かな指揮官なのかだ。


『見張りには、そのことは報告されていないようです

セルフィ様』


作動させれば、人質と一緒に死ぬのに、それを知らされていないというわけか・・・


源は、ダフキンを呼んで、状況を説明した。


「つまり、見張りがレバーが降ろされたことに気づき、それを報告する前に、倒せばいいということですね?」


「できそうですか?」


「お任せください。気づかれず、相手を倒すことを長年、行ってきたのですから、必ず成功させます」


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