196章 再建に向けて
「王族3名。政治家16名。レジスタンス25名。暗殺対象となった人々の配下だったもの84名。最後にエバーの親友のエリーちゃん。12年間の間に組織が暗殺したと思っている総勢129名が、エバー村の村人たちです
それぞれ立場や属していた組織は違いますが、共通しているのは、平和主義者だということです
この10年間で、トリアティー師団国を敵だとして獣人排斥運動が活発化されていましたが、それを邪魔する者として命を狙われ、わたしに依頼がまわってきた方々です」
「ダフキンさんが、ワグワナ法国の再建に役立つかもしれないとここにわたしを連れてきてくださったのは、この方々が、再建を手伝ってもらえるかもしれないということだからですか?」
「はい。彼らは、ワグワナ法国の変化がシンによる裏工作だということを理解しています
そして、以前の平和的だったワグワナ法国を復古して、国のために動きたいと願っているのです
セルフィ様ならそれを理解してくださるとわたしは思ったのですが、どうでしょうか?」
源は、ソースによってワグワナ法国の情報を集め、その情報とも一致していると思ったが、少し考えた。
「リビアン・スザージ議員と王族のガマル・ワ・ルィール・チェクホン殿下。そして、レジスタンスのザンサニ・マールさんにお聞きしたいのですが、ワグワナ法国をどのように再建したいと考えてらっしゃるのですか?」
ガマル・ルィール・チェクホンが最初に口を開いた。
「わしは、長年ワグワナ法国を支えてきた。他国との交流を推奨するような連中は、経済こそ上向きに変えてきたが、反面ワグワナ法国の文化を破壊してきた
今まさにそれが行われ、奴らがすべてを支配してしまっている
元の平和で、自国の文化を大切にするワグワナ法国に戻したいと思っている
そして、わしは、トリアティー師団国の女王ゴルバフ・ダレーシアとも昔から友好関係にある。彼女も自国の文化を守ろうとする保守的な方だ
トリアティー師団国とのやり取りにもわしは役立つことができるだろう」
「リビアン・スザージ議員は、どのような再建を望まれているのですか?」
「わたしは、ガマル・ルィール・チェクホン殿下のお役にたちたいと政治家になったのです
戦争をしない平和的な国を実現しようと願っています
トリアティー師団国との信頼回復も必要でしょう
そのような思想を、ドラゴネル帝国は賛成してくれるのですから、帝国にまた連盟して、国を盛り立てていきたいと思っています」
「ザンサニ・マールは、どうですか?」
「俺は、心から平和主義の文化を復古させようと努力してきた。しかし、俺たち以外の平和主義を語るレジスタンスが現れ、彼らは金をばら撒いて、俺たちの組織を一気に追い抜いていった。新しく現れたレジスタンスの裏には、シンがいたんだ
シンからの援助を受けていたからこそ金が豊富にあり、仲間を集めることができていた
しかし、奴らは口先では平和主義を語るが、最後の最後に選ぶのは、平和主義を破壊する行為ばかりで、逆効果なことばかり実行しているんだ
心から平和主義を考えてくださるガマル・ルィール・チェクホン殿下に嫌がらせをはじめたりとやりたい放題だった
そんな偽物の平和主義のレジスタンスを排斥したい」
「なるほど。リビアン・スザージ議員も、ザンサニ・マールさんも、ガマル・ルィール・チェクホン殿下の下であれば、納得できると思われているということですね?」
ふたりは、頷いた。
「エバー村にいる元レジスタンスの人間は、みなガマル・ルィール・チェクホン殿下に賛同している」
「政治家たちも、ガマル・ルィール・チェクホン殿下に育ててもらったようなものですから、殿下が願うことに賛同することでしょう」
「では、ワグワナ法国の再建については、ガマル・ルィール・チェクホン殿下を中心に打ち合わせをしていけば、みなさんも納得してもらえるということですから、殿下にお話しします
ご存知だとは思いますが、わたしは、ドラゴネル帝国に反逆し、三国同盟を作ったボルフ王国を滅亡させたレジェンドのセルフィという者です
龍王が残した予言の天使だという者たちもいます」
源は、マントを翻して背中の羽をみせた。
「ドラゴネル帝国ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカ皇帝陛下から権限を与えられ、ボルフ王国と戦いました
龍王騎士団長だったケイト・ピューマ・モーゼスの子孫であるリリス・ピューマ・モーゼス女王陛下と共に、ボルフ王国を倒し、大共和ケーシスを復古させたいと、新大共和ケーシスを建国させたのです
皇帝陛下は、帝国に反逆した三国同盟への制裁を考えられ、ボルフ王国の次は、ワグワナ法国だということで、わたしに命を下されているのです
ですから、わたしは、帝国側の代理として話をしているとお考えください」
ガマル・ルィール・チェクホンは、理解していたという態度で返事をする。
「その点については、ダスキン・マットからの情報で把握している」
「皇帝陛下は、ボルフ王国のようにワグワナ法国を亡国にしようとは考えられてはいません
ですが、このままワグワナ法国をほっとくわけにもいきません
以前の平和主義的だった国へと復古させることを望まれていますが、平和主義を復古させても、また同じ結果が続いていくことを懸念されています
平和主義を貫いていくために、ワグワナ法国には、足らないものがあるとわたしは思っていますし、皇帝陛下もそれをご理解してくださっています」
「足りないもの?それは何だ?」
「それは、龍王の意思です
帝国は、この1000年間という長い時間によって龍王の意思が欠落してしまっていました
そのため、世界の国々に様々な主義主張をゆるしてしまい平和主義という価値観の統一に失敗してしまっていたのです
ワグワナ法国が、いまのような現状になった原因のひとつは、帝国の腐敗も関係していることでしょう」
「世界規模で、平和主義を統一することが可能だというのか?」
「はい。可能です
ですが、急に世界を変えることはできません
時間をかけて、世界中の国々に龍王の意思である聖書の教えを教育していく必要があるのです
戦争をすることを正義だと考えること、差別することを正義だと考えること、人間を基準にすれば、どのような悪であっても、それらは正義となりえるので、思想を統一することなどできません
しかし、わたしたちを作られ、この世界を造られた唯一の神を基準にすれば、人の思想なんて小さな物は、二の次になるのですね」
「龍王の意思といえば、一神教だったな?」
「はい。その通りです。閣下」
「ワグワナ法国は、昔から多神教の国だった。多くの思想や考え方を柔軟に受け入れ、平和主義を説いてきたのだ
それを壊してまで、受け入れよというのか?」
「その多くの思想や考えを柔軟に受け入れたからこそ、ワグワナ法国は、今のような状況になったと先ほど、閣下がおっしゃったではなりませんか」
「確かに・・・そうではあるが・・・」
「多神教の受け入れるという姿勢は、良いものですが、悪まで受け入れることは、危険なことなのです
龍王の意思である聖書は、何が正しく、何が正しくないのかを文字にして、固定し、数千年も続いてきた神の言葉なのです
人間ではなく、固定され、変えてはいけないものと変えるべきものを判断するための基準を聖書を通して、統一するということです
そうすることで、逆に平和主義を硬く固定していけるということです
そして、固定された聖書を基準にするということは、支配するはずの者たちでさえ、精査することが可能になるのです
支配者のご都合主義は通用しなくなるのですね
ならぬものは、ならぬ。そして、良いものは良いと聖書によって判断基準が世界中にもたらされるということです
ワグワナ法国の良い文化は、さらに固定されて発展していけるということです」
「確かに、ワグワナ法国の多神教には、これといった固定された教えなどはない
平和的な神々もいれば、残虐な神々もいると考える
それが悪をのさばらせてしまった原因だといいたいのだな」
「はい。犯罪的な思想は、徹底的に否定していき、平和的な思想は徹底的に容認していくということです」
「龍王の意思とはそういうものだったのか・・・確かに、龍王は、世界を統一し、1000年も帝国を存続させてきた
今でこそ、その権威が揺らいではいるが、その長い歴史を保って来たという事実には、そういう教えが続いていたかだというわけだな」
「かなり、帝国も腐敗してはいますが、龍王の意思を復古させていくことが、平和への一番の早道だということです」
「わしは、龍王の意思については、ほとんど何も知らない
内容を確認したいのだが、教えてもらえるか?」
「はい。いきなり、一神教を押し付ける気はありません
ワグワナ法国の再建にともなって、いくつか一神教の教会を置かせてもらい
ワグワナ法国の民に徐々に、聖書の教えを伝えていくつもりです
そして、その許可をワグワナ法国からも頂けるように、閣下にはご協力願いたいと思います」
「それで、今のシンに操られているワグワナ法国を倒せるというのなら、安いものだ
龍王の意思については、わしも教会にいって教えてもらうことにしよう」
「リビアン・スザージ議員も、ザンサニ・マールさんも、よろしいでしょうか?」
リビアン・スザージ議員は浮かない顔をしていた。
「正直いって、一神教の教えを広げることが、問題の解決に本当になるのか?とよく分かっていません・・・」
「人には、愛や正義はありません
生まれたばかりのこどもは、言葉を話すこともできません
ですが、まわりの大人などが、生活とともに言葉を教えていけば、いつの間にか、こどもは、わたしたちと同じ言葉を使うようになります
このことからも分かるように、人にどのような情報を脳に入れるのかで、その人の愛や正義の価値観が変わるということです
つまり、戦争が正義だと教えれば、それがその子の正義になり、殺しが正義だと教えれば、それがその子の正義になるのです
ですから、古くから固定されて変わらない聖書の文字によって人は、価値観を固定することこそが、自然と平和の道へとつながっていることで、最優先事項だというほど、大切なことだということです
愛や正義のない人間の移り変わる正義を基準にするべきではないということです」
「頭の中の情報で、人は動いているということですか」
「すべてではありませんが、多くが言葉によって左右されて情報を脳に蓄えているのです
例えそれが、嘘や虚像であっても、小さい頃から脳に植え付ければ、その嘘を本当のことだと信じ込ますことができてしまい
それがその子の正義になり、戦争や詐欺、人を食べることなども正義とさえなってしまうので、争いが絶えない状態が続くのです
どのように人々の脳に正しい固定された情報を入れるのかが、大切だということです」
「なるほど、わたしは賛成ですね
議会で、どれほど平和主義を叫んでも、そんなもの非現実的だと否定され、偽善者扱いする者たちが後を絶ちませんでした
結局、お互いの主張を言い合い、何の解決にも至らないで、一歩も前に進まない
それを打破できるようにもなるかもしれません」
「できるでしょうね
人と人がどれだけお互いの主張を言い合っても答えなんてあるはずもありません
同じ人間だからです
ですが、聖書は、人間を超えた神様による決定であり、この世界の理なので、人間の主張など関係ないのです
わたしは、男ですが、どれだけ女だと自分では主張しても、男であることは変わらない
犯罪や争いを生む者たちは、現実を無視して、自分たちの感情論や思想を主張してくるのです
同じ人間の主張で、平和主義を語っても、同じレベルで反対されるだけなのですね」
源は、ダフキンをみた。
「ダフキンさんは、ワグワナ法国をどのようにすればいいとお考えですか?」
「わたしは、ただの一介の商人です
人々の暮らしを良くするために小さな行動を続けて行くだけの者です
家族が守られ、シンのような欲のために、戦争をわざと起こしたり、人の命を奪おうとする者を精査することできるようになるのなら、それだけでわたしは、納得です
わたしは、ただ、家族と平和に暮らしていきたいだけです
テンドウも驚いていましたが、新大共和ケーシスのような国になることが、わたしにとって理想かもしれませんね」
ガマル・ルィール・チェクホンは、顎髭を触りながら聞く。
「ほう。それほどに新大共和ケーシスとは、素晴らしい国なのか?」
「はい。殿下。わたしは少ししか滞在はしていませんが、奴隷さえも幸せな顔をして、暮らしているほどです
孤児もいませんし、餓死することもなく、民はみな肥えた体をして、笑顔で暮らしているのです」
「この目で見てみたいものだ
セルフィ殿。わたしたちも、新大共和ケーシスの見学をしてもよろしいか?」
「分かりました。是非、村人全員で、来てください。わたしが直接案内いたします」