195章 アナザーワールド
エバーが目を覚ますと横にダフキンがいることに驚いた。
「お父さん・・・無事だったのね」
「はい。エバーちゃんのおかげでわたしも生き残れました。頑張りましたね」
あれだけ無惨な姿だったのに、顔も元と変わらないダフキンをみて安心した。
「怪我は?物凄く深い傷があったけど大丈夫なの?」
「はい。それも新大共和ケーシスの技術によって不思議に痕すらなく治りました。まだ、万全というほどではありませんが、大丈夫ですよ」
「ここは、テンドウさんが言っていた新大共和ケーシスなのね」
「わたしたちを助けてくださったのも、新大共和ケーシスとレジェンドという村の方々だということです」
組織の者に連れて行かれそうだったことは、覚えいたが、助けられたことは、うっすらとしか思い出せなかった。
「新大共和ケーシスは、組織とは前々から敵対的関係にあるので、ここに留まることは、わたしたちの安全に繋がることでしょう」
「本当にボルフ王国は滅んだの?」
「はい。新大共和ケーシスのリリス・ピューマ・モーゼス様とレジェンドのセルフィ様によって滅ぼされました」
「ワグワナ法国は、そんな大きな出来事も無かったと嘘をつき続けてるなんて・・・信じられない・・・」
「国が民に真実を伝えないことは、よくあるこなんですよ」
「そうなの?」
「はい。都合のいい情報だけを与えてコントロールするのです」
「お父さんもわたしに何も教えなかったもんね」
「え・・・そ・・・それは・・・エバーちゃんを守るためにも必要なことで・・・」
エバーは、少し笑った。
「分かってるわよ。お父さん」
「そうですか・・・。これからはエバーちゃんには、色々なことを教えていきたいと思います
新大共和ケーシスには、転移技術があるようですから、体力が回復したら、目的地に一緒に行ってもらうことになりました
ですから、しっかりと休んでください」
「もう安全だから行く必要ないんじゃないの?」
「エバーちゃんには、まだ伝えていないことがあるのです
ここで話すよりも、実際に行って自分の目でみてほしいのです」
「分かったわ」
―――三国同盟を立ち上げたボルフ王国は、ドラゴネル帝国に反逆した。その三国同盟の1つの国がワグワナ法国だったが、レジェンドは帝国の依頼で、ボルフ王国についでワグワナ法国に手を加えなければいけない。
その依頼を受けてから、源は、ミカエルをいくつもワグワナ法国とペルマゼ獣王国に放って、情報を集めていたが、実際にワグワナ法国で商会をしていたダフキン・マットと手を組み、情報を獲ることとなった。さらにワグワナ法国の攻略に役に立てるということで、ダフキン、エバー、源の三人で秘密の場所に向かうことにした。
秘密の場所だということで源だけがついていく。リリスは新国の女王なので新大共和ケーシスに残った。
「ダフキンさん。まずはワグワナ法国の軍隊が壊滅していた場所に行けばいいのですね?」
「はい。あの場所から40kmほど離れた場所に目的地があります。ですが、組織の者たちが、わたしたちが消息を絶った場所に捜査を出しているかもしれませんので、気を付けてください」
「わたしもそれを考えて、あの時からミカエルを使って怪しい人物がいるのか見張っていましたが、そのような者は、まったく現れませんでした
今も安全です」
「組織がわたしたちの捜索を打ち切るとは思えないので注意が必要です」
「そうですね
注意しながらいきましょう」
源は、手をかざして時空空間ゲートを開いた。
空間に丸い窓のようなものが現れて、エバーは不思議そうな顔になる。
「では行きましょう」
三人はゲートを潜り、戦場となった土地へと戻って来た。
「ここって本当にあの場所なの?」
「戦場になっていた場所ですね」
「でも、兵士たちの遺体はどこにいったの?」
「散乱してしまっていたものは、すべてなるべく痕跡を残さないように処理しました」
おびただしい血が地面にも広がり、もの凄い光景になっていたのに、血の痕すらなくなっているので、疑いたくなる。
「あれを全部ですか!?」
「はい。お二人を襲った組織の者らしい三人もです。ワグワナ法国では、送り出した軍隊が消えたという話になっていますね」
まわりを警戒して何かを確認していたダフキンは、セルフィに聞いた。
「セルフィ様は、ワグワナ法国の近況についても把握することが出来るのですか?」
「すべてというわけではありませんよ」
源は、ふたりを連れて、ダフキンの指示通りに空を飛んで移動した。
エバーは、ダフキンにしがみついて怖がる。
小さな森の中に、そこそこ大きな一枚岩が置かれていたが、そこに降りた。
「ここです。セルフィ様」
「お父さん・・・ここ何もないじゃない・・・」
「入り口は、隠してあるんですよ」
「隠してある?」
源が、ふたりに注意を促す。
「誰かいます。気を付けてください」
森からひとりの男が両手を挙げて、近づいてきた。
「ダフキン様。ジャックです」
「お二人とも大丈夫です。彼はエバーがここに来た時のために待機してくれていた者です
ジャックさんご無事で何よりです」
「はい。誰もこの場所に近づくものはありませんでした」
「そうですか。よかったです」
そしてダフキンは、岩に手をおいた。
「ダフキン・マット。シェラフ・マット。エバー・マット」
そう言葉を口にすると、大岩が、自動的にスライドして、地下に向かって続いている階段が現れた。
「何これ・・・秘密通路?」
「はい。この階段を下りた場所に目的地の場所があるんですよ。エバーちゃん」
見張りのジャックを連れて、4人は、階段を下りていった。
階段を下りた先は、行き止まりになっていた。あるのは、石で作られたような台があるだけだ。
「何もないじゃない・・・」
「ここからさらに地下へと転移します」
ダフキンは、その台に手を置くと、4人は、瞬時に転移した。
転移先は、光が射していた。
源は驚いた。
龍王遺跡の時も驚いたが、目的地というその場所は、地下にありながら、もの凄い広大な大地が広がっていたからだ。しかも、太陽さえも上に設置されている。
その太陽は、小さめの物だった。
「ダフキンさん・・・ここは一体何なのですか?」
「わたしは、サンレスという北西にある小さな国の遺跡から生まれたのですが、12年間もの間、組織に殺人術を叩きこまれ、その間にも遺跡に放り込まれては訓練をしていたのです
そして、****・・・・・
というわけです」
「え・・・途中から何だか、何を言っているのか聞き取れなくなったのですが・・・」
「やはりそうですね。それほど重要なことではないと思ったので、話そうとしたのですが、これ程度の情報も伝えることができないようです
遺跡の秘密に関しては、遺跡に挑んだ者だけが知る権利を要しているので、伝えることができないようです」
なるほど、これが例の遺跡の謎の規制か・・・。帝国図書館であっても、遺跡の謎については憶測の域を出ない情報ばかりだった。この世界の管理しているAIによって規制されているようだ。
「その特権として、わたしはこの土地を手に入れたのです」
「ここは一体どこなのですか?」
「地下であるということ以外は、解りません」
「そうなのですか!?」
「はい。ここに初めて足を踏み入れた時は、太陽と土地だけしかありませんでした。植物一本さえも生えてはおらず、生き物も虫一匹すらいませんでした」
「え。でも、かなり自然が広がっていますよね」
「はい。外からあらゆる生き物をここに持ち込んで放置していると勝手に生き物が増え広がっていったのです
水などはあったのですが、それ以外は、荒地と丘のようにな山しかありませんでした」
「なるほどです。ダフキンさんでさえも、この場所が定かでないのなら、ここはかなりの安全な場所だというわけですね
確かに秘密の場所とするには、適しています」
「はい。その通りです
そして、この土地に住み始めた人々によって村も作られているのです」
「村!?そんなに大勢が、この秘密の場所を知っているということなのですか?」
「はい。彼らはほとんど外の世界には出て行かず、ここで平和な生活を続けているのです」
エバーも、その話を聞いて、安全だと言っていた意味がやっと理解できた。
転移した場所には、馬車が一台置いてあり、三人は、その馬車に乗って、村へと向かった。
ジャックは、引き続き外の見張りのために、また外へと戻っていった。
馬車に乗りながら、エバーはダフキンに質問する。
「ここは、組織の者も入って来れないの?」
「はい。組織は、このような場所があることをまったく知らないはずです
わたしがこの場所に来た時は、エバーちゃんたちと出会う10年以上前のことでしたが、この場所のことは、一切誰にも伝えたことがなかったのですよ
自分の時間が持ちたい時にだけやってきては、ここで過ごすだけの場所だったのです」
「モンスターもいなければ、遺跡もないの?」
「はい。ここには遺跡はありません。生き物もまったくいなかったのです
ここには、安全な小動物や虫しかいませんよ」
「ここでずっと暮らせば安全じゃない」
「はい。そうなのですが、外の世界を知っている者からすれば、この地下の土地にずっと留まるのは、それはそれでストレスにもなるんですよ・・・
今でこそ、村ができるほどの人数もいるのでいいですが、わたし一人の時は、本当に寂しい世界でした」
「そういうものなのね・・・」
「はい。ですから村人も定期的に外に出ては、またすぐにここに戻るなどをしています
外の生き物をこの世界に持って帰るのも仕事の1つとして行っているんですよ」
源は、見える範囲で、全体をみるが、すぐそこに上の土地が見えた。上の土地は、茶色で、まだ自然が広がりきってはいないようだ。大きさで言えば、たぶん北海道ぐらいしかない広さの球体のようだ。
「ダフキンさん。この世界は何と呼ばれているのですか?」
「村人は、アナザーワールドと呼んでいます」
「別世界ですか」
「セルフィ様は、古代語が解るのですか?」
「少しだけですけどね。簡単なものぐらいなら意味が分かります。ダフキンさんに少し聞きたかったのですが、大岩に手を置いて、合言葉のようなもので、出入り口を開かれましたよね
あれは、秘密の場所で、よく使われるものなのですか?
龍王遺跡などでもわたしも以前、みたことがあったのですけど・・・」
「この場所を手に入れた時から、わたしの権限でワードを決めることができるのです
皆さんにはみえないようですが、わたしには、岩の前に、四角い枠のような物がみえて、その枠に設定という文字が書かれていて、合言葉を変えたり、入り口の転移場所を違う場所へと変えるなど組み込むことができるのです」
どうやら、このことに関しては、特に秘密設定されていることはないようだ。普通に聞き取れた。
俺が龍王遺跡を使用できるのだから、この土地自体は、所有者がどのように使用するのかは、自由だということだろう。そして、龍王も狼王も遺跡の何かしらの恩恵で、あれらを手に入れたのだろう。
俺もこれから遺跡に挑めば、このような土地を手に入れることが出来るようになるかもしれない。
そして、龍王も狼王も特に、AIとは関係ない俺と同じプレイヤーのような存在だという可能性がまた高まったということだ。
そして、プロテスタントなのか、カトリックなのか、それとも異端とも呼ばれているような宗教の信者なのかは分からないが、英語で聖書の合言葉を使用していたことから、現世ではクリスチャンだったと思われる。
「あれが、アナザーワールドの唯一の村エバーです」
「エバー??わたしの名前が、村の名前になってるの!?」
「はい。そうですよ。エバーちゃん」
「ちょっと・・・勝手に人の名前を使わないでよ」
「勝手にというわけでもないんですけどね・・・」
「わたしこんなこと聞いたことないですもん。本人に許可もらってないことをすることが、勝手っていう意味でしょ」
エバーは、少しほほを膨らませながら、村の前に立っているひとたちをみた。
「え・・・うそ・・・どうして・・・!!??」
エバーは、ゆっくりと走る馬車から飛び出して、駆けだし、村人のひとりに泣きながら抱き付いた。
「お母さん!!生きてたの??お母さん!!」
「ごめんなさい・・・エバー・・・わたしはここで生活するしかなかったの・・・このことをどうしても、あなたには伝えることができなかったのよ」
死んだと思っていたエバーの母シェラフ・マットにエバーは、信じられないという想いで、強く抱きしめ続けた。
「でも、わたしお母さんの葬式でお母さんをみたのよ・・・どうして、生きてるの?」
「お父さんのおかげなの。お父さんがお母さんを助けてくれたのよ」
「お父さんが・・・?」
すると、その後ろから聞きなれた声が聴こえた。
「エバー。やっと会えたわね」
「ええーーー!!どうしてよ!!どうして、生きてるの??」
エバーに声をかけたのは、自殺して死んだと思っていたエリーだった。
エバーは、エリーに抱き付いた。
「生きていたのね!!エリー!!」
「うん。ダフキン様に助けてもらったの・・・わたし殺される寸前だったのよ・・・そこにダフキンさんがやってきて・・・気づいたら、ここにいたわ」
ダフキンも、馬車から降りて、エバーに近づく。
「わたしは、小さい頃からある特殊能力をいくつか持っていたのです
エバーちゃんたちと出会う前までは、何の役にもたたないかのような能力だったのですが、ある時、ふいに試したことで、そのスキルは、使えるものとなったのです
特殊スキル傀儡は、まったく同じ物をかなりの時間、作り出せるのです
人間ならその人間とそっくりなものを作り出せるようになったのです
シェラフやエリーちゃんの傀儡を作り出して、遺体として、組織に渡し、葬式にも出したのです
エバーちゃんを狙ったあの時も、本当は、わたしとエバーちゃんの遺体を残そうと思ていたのですが、組織がわたしの能力に気づき始めていたようでそれが出来なくなり、逃走することとなったのです
信用されていなかったわたしが、シェラフやエリーちゃんが、生きていると伝えるよりも、実際にその目で見てもらう方がいいと思って言わずにいたのです
申し訳ありません」
「お父さん・・・何て言ったらいいのか分からない・・・教えてほしかったと怒りたい気持ちもあるけど、それよりも二人を助けてくれたことが嬉しすぎて・・・ありがとう。お父さん」
ダフキンは、その言葉を聞いて、下にうつむき、少しほっとしたような表情をみせた。
「ここにいる村のひとたちは、組織から殺されるはずだったひとたちだということですか?」
「はい。その通りです。セルフィ様。わたしが、エバーたちと出会ってから依頼され、暗殺対象となったワグワナ法国のひとたちです
政治家もいれば、王族の方々もいます」
村人の中には、殺されたと思われていたリビアン・スザージ議員や王族のガマル・ワ・ルィール・チェクホン殿下もいた。