193章 捜索
『セルフィ。ダフキン探す』
『お。ソロ。珍しいじゃないか。俺に話しかけてくれるなんて。えーっと、今なんて言ったの?』
『ダフキン探す』
『ダフキン?何それ。掃除する道具?』
『ニーナに連絡する』
『ニーナに連絡すればいいんだね?分かったよ』
源は、ミカエルの通信を使って、ニーナに聞いた。
『ねー。ニーナ。ソロが、ダフキン探すって言ってきたんだけど、何か心当たりある?』
『五日ぐらい前に、ワグワナ法国の商人が、新大共和ケーシスのリリス様に助けを求めてきたの。ワグワナ法国でも、指折りの商会の会長ダフキン・マットさんとその娘のエバー・マットさんが、シンという謎の組織に命を狙われていて、ワグワナ法国からも追われて、今逃亡中らしいのよ。ミカエルに捜索を出して、探してもらってるんだけど、まだ見つからないの』
『何それ・・・俺、初耳なんですけど・・・シンか・・・確かその組織は、ヨシュア村のレヴィンチ・タダ司祭様が少し話してくれたものだな
大魔法使いエジプタスや魔法国モーメントと何か関わりがあるとか・・・噂程度だとは言っていたけどね』
『リリス様がいうには、もしかしたら、マーレ・ソーシャスたちの組織の名前じゃないかということよ』
『それ、もの凄く重要なことじゃないのか・・・?俺、何も知らされてなかったんだけど・・・』
『ごめんなさい・・・あの時は、セルフィが、帝国で会議中だったから・・・』
『分かった。ちょっとリリスに聞いてみる』
『リリス。ソロとニーナから聞いたけど、ダフキン・マットという商人が、マーレ・ソーシャスの仲間に命を狙われてるらしいね?』
『そうなの。今も、ミカエルと動物たちに探してもらってるんだけど・・・みつからないのよ・・・』
『どうして、そんな大切なこと教えてくれないかなー・・・かなり重要な問題な気がするんだけど・・・』
『ごめんなさい・・・いつもセルフィばかり頼るのもと思って・・・』
『五日間探してるって聞いたけど?』
『うん・・・』
『ただの商人とその娘が、マーレ・ソーシャスみたいなやつらに追われて、無事でいられるのかと心配になるんだけど・・・ミカエル。ワグワナ法国には、ソースはいくつあるんだ?』
『ワグワナ法国の全土に、500機のソースが各地に配置されています。セルフィ様』
『500じゃ見つけられるわけないじゃない。ミカエル。みんなに緊急発進を一斉通信して』
『分かりました。セルフィ様』
ミカエルは、緊急警報を鳴らした。ミカエルと同化している兵士たちの画面には、赤色で緊急の文字が表示される。
『レジェンドと新大共和ケーシスの皆さんに、報告します
現在、ワグワナ法国の有力者が、我々を襲ったマーレ・ソーシャスの組織らしきものに命を狙われ、逃亡中ですが、行方が不明になっています
今から大捜索を行いダフキン・マット氏とその娘エバー・マットさんの居場所が、判明次第、兵士たちは、ナマソースで彼らを確保、守ってください
何か、情報やアイディアがあれば、教えてください
この二人は、わたしたちを攻撃した謎の組織の情報を持っている可能性があるので、レジェンドと新大共和ケーシスにとって貴重な存在です
迅速な行動をお願いします』
『ミカエル。レジェンドと新大共和ケーシスで、動けるソースをありったけ、集めてくれ』
『分かりました。セルフィ様』
源は、レジェンドに戻って、中央広場に、ソースが集まっているのを確認すると、500個の時空空間ゲートを開いて、分散させて、入り込ませた。
そして、新大共和ケーシスにも飛んで、同じようにワグワナ法国の500カ所に、大量のソースを分散して、送り込んだ。
その数、合わせて500万機。
数分後、早速、ミカエルがいくつかの反応を示す。
そのソースの場所に、レジェンド兵士が、マナソースで、飛んだ。
『セルフィ様。ダフキン・マットさんたちではありませんでした』
『ありがとう』
緊急を要しているのと情報不足から、ふたりになかなか行きつかない。
―――
エバーは、髪の毛をひっぱられ、地面をひきずられていた。
赤目の男は、近くの騎馬まで、無造作に、エバーを連れて行く。
力尽きたエバーは、なすすべなく、引きずられていく。
男は、騎馬に乗せるために、さらに高くエバーを持ちあげると、エバーは、髪の毛だけで持ちあげられる苦痛で顔を歪ませる。
その騎馬のまわりに、突然、見慣れない兵士が、5人現れる。
5人の兵士の中には、デッドショットを装備したルシル・ピアゴがいた。
組織の3人は、突然現れた兵士をみて、戦闘態勢にはいる。
『ミカエル。ふたりか?』
『外見の損傷が激しく、ダフキン・マット様は、60%の確率で認証されますが、エバー・マット様は、90%の一致が認められます。ルシル様』
「おい。その娘をどこに連れて行くつもりだ?」
赤目の男は、問いただす。
「お前たちは、何者だ?」
「質問に、質問で返すなよ。その娘は、置いていけ」
「誰かも分からない奴に、この娘を渡すわけにはいかないな」
エバーは、最後の力を振り絞って、声を出す。
「た・・・たすけて・・・」
「女の子の髪の毛を掴んでいる怪しい男。そして、その娘は、助けを求めてる。お前のほうがどうみても、怪しいだろ」
青く光る目の男は、素早く騎馬から降りると、剣を振りかざして、兵士に斬りかかった。
新大共和ケーシスの兵士は、その動きに反応できていない。
剣は、兵士の首めがけて、一直線に振られるが、青めの男は、頭を吹き飛ばされて、その場で倒れた。
ルシルのデッドショットによって、頭を打ちぬかれていた。
兵士たちは、その一瞬の出来事に驚く。
赤目の男が、手をかざした。
ルシルは、兵士たちを後ろに押す。
ルシルの立っている地面の土が、まるでトゲのように、いくつも突き刺しにかかる。そのトゲを回避しながら、デッドショットを放つ。
ダダン!!
デッドショットは、もうひとりの男の頭を打ち抜いた。
赤目の男は、弾を回避して、後ろに飛びのく。
男の足にしがみつくように、土が集まりはじめると男の体を土が覆っていく。
デッドショットで、打ち抜いているが、弾は、柔らかい土に吸収されて、止められてしまっている。
またルシルに、土のトゲが、襲い掛かる。
赤目の男の姿は、土に埋もれてしまい見つけることができない。
「ちょっと、やばいな・・・」
男は、土に覆われながら、ルシルに近づいていく。
ルシルは、何発も頭があるだろう同じ位置にデッドショットを放つが、土は止まることなく、ルシルへと歩み寄る。
そして、間近に迫ると大量の土のトゲが細かくルシルに襲い掛かろうとしたが、ピタっと動きが止まり、崩れ去った。
土の中から赤目の男が出てきたが、そのこめかみに、デッドショットの弾が打ち込まれていた。
兵士のひとりが、水気を発動させて、水を土にしみこませて、貫通力を増させ、ルシルは、同じ場所を何度も打ち抜くことで土の守りを突破させた。
土に埋もれていた赤目の男は、土によって守りは堅くなったが、視界が疎かになって、気づけていなかった。
『セルフィ様。二人を無事に確保しました
謎の組織の者らしい怪しい3人組が、先に女の子を連れ去ろうとしていましたが、排除しました』
『エバー・マットさんだね。助かったよ。ふたりは、無事?』
『エバーさんは、疲労で倒れてはいますが、命には別状はありません。ダフキンさんらしき人は、かなりの怪我を負っているようで、助かるとは思えません』
源は、リタ・パームに連絡した。
『リタさん。フルポーションの使用の許可をください』
『ごめんなさい。フルポーションの作成の許可はもらったけど、まだ作成までは、できていないの。重症者がでたの?』
『ヨシュア村の龍王の遺跡の素材から、いくつかフルポーションを作ってみたんです
妖精族の許可をもらってから使用しようと思っていたのですが、使ってもいいのかどうかを確認したかったんです』
『セルフィが、作ったの?』
『まだ、効果のほうは、安定していないかもしれませんが、かなりの精度の回復ポーションには、なっていますよ』
『セルフィが、1から作ったのなら、許可なんて要らないわよ!』
『そうですけど、フルポーションの権利は、妖精族にと思っていたので、許可だけください』
『もちろん、使ってあげて』
源は、すぐに、ダフキンのもとへと瞬間移動した。
そして、手をかざして、その状態を確認する。
『源。肉体の損傷が激しすぎます。これでまだ生きているのが、不思議なほどです。速やかな治療が必要です』
『だよね・・・これ相当・・・やばい・・・』
源は、時空空間ゲートを開いて、手を伸ばして、フルポーションを取り出す。
1本のポーションを体に付け、さらにもう1本をダフキンの口に、無理やり流し込んだ。
まずいな・・・なんなんだ・・・この3カ所の大きな傷・・・塞いだのが、何度も開いたような・・・
ポーションの回復が早いのか、死ぬのが早いのかといった状態だった。
森の方角に手をかざして、木の一部を手にして、リトシスで炭素を形成すると、その3つの傷口を塞いだ。顔の損傷も激しかったので、リトシスによって新しく形成した。テンドウによるイメージをもとにした。
この人・・・よく生きてたな・・・。
『ダフキン・マット様の心拍音が安定しはじめました。源』
『うん。ありがとう。愛。分かったよ』
『ダフキン・マット様は、人間とは別の性質が組み込まれているようです。源』
『別のって、あのアモラやソロのお兄さんみたいにってこと?』
『種類は違うようですが、融合させる手法については同じ核を細分化して使用されているようで、やはり同じ者による関与が高いと思われます。源』
マーレ・ソーシャスの組織は、シンというのか・・・。
「エバー・マットさんは、大丈夫?」
ルシル・ピアゴは、心配そうに、抱き上げる。
「かなり疲労しているようです。命までは、大丈夫だとは思いますが、休ませたほうがいいでしょうね」
「うん」
源は、ルシルにフルポーションを渡して、エバーにも飲ませてあげるように指示を出した。
そして、源は、倒れた3人の遺体を時空空間ゲートの中に入れた。
この3人の騎馬だったので、何が施されているのか分からなかったので、馬は、そのまま放置した。
『ミカエル。この二人を追うものは、他にもいるか?』
『今のところ、それらしい存在は、ありません。ですが、その位置から8km東に、数千もの軍隊が壊滅して、生き残りはひとりもいません。セルフィ様』
『何それ・・・軍隊?』
『国旗からするとワグワナ法国の軍隊のようです。セルフィ様』
ワグワナ法国の土地で、ワグワナ法国の軍隊が、壊滅・・・?ダフキン・マットは、ワグワナ法国からも追われていたというけど、誰が壊滅させたんだ・・・まさか、このダフキンさんがひとりで・・・なんてことはないよな
『分かった。追う者がもういないなら、それでいい。その壊滅した状態を後でみせてもらうから、映像を保存しておいてくれ。あと1万だけソースは、ワグワナ法国に残して、そのまま調査を続けてくれ。残りのソースは、一カ所に集まり次第。回収する』
『分かりました。セルフィ様』
「よし、それじゃー。みんなで新大共和ケーシスに戻ろう」
時空空間ゲートを開いて、新大共和ケーシスへと移動した。
新大共和ケーシスの治療班にふたりのことは、まかせて、絶対安静ということで、衛生的な部屋に寝かせた。
ふたりの意識は、まだ戻らなかった。
『皆さん。ふたりは無事に確保しました。緊急発動は解除されました。ありがとうございました』
リリスからテンドウに二人を確保したということが伝えられ、テンドウが、二人の場所に走り込んできた。
「ダフキン様!お嬢様!」
リリスは、テンドウを止める。
「落ち着いてください。テンドウさん・・・絶対安静です。起こさないで・・・」
「は・・・はい・・・お二人は、助かるのですか?」
「ミカエルによると、何とか峠を越えて、安定しはじめているようですから、命には別状はないと思われます
レジェンドの回復技術によってなんとか助かりました」
「そ・・・そうでしたか・・・新大共和ケーシスも素晴らしいですが、そのレジェンドというところも、凄いようですね」
「むしろ、新大共和ケーシスが、レジェンドの技術を提供してもらっているんですよ」
「そうなのですか・・・?」
「セルフィからは、もっと早く連絡しろと怒られました。テンドウさんすみません。もっと早くふたりを見つけられていれば・・・」
「とんでもございません・・・命が助かっただけでも十分です。文句などいったら、それこそ罰が当たります!」
テンドウは、ふたりの意識が戻るまで、落ち着いていられず、廊下を歩き回っていた。