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190章 別れ

「どうして、止まるの?」


「エバーちゃんは、もうこの逃亡による疲労がピークに来ています


しかも、追跡者たちは、近くまで迫ってきているので、ここまで近づかれては、視覚ではなく、嗅覚で追われるはずです」


「嗅覚?」


「はい。犬などを使って追跡するのです」


「追跡者を誤魔化せないの?」


「嗅覚による追跡の妨害手法もあるにはあるのですが、どうやら追跡者は、軍隊から離れて追って来ているようなので、彼らを叩こうと思います」


「どうして軍隊と離れて追いかけてるんだろう・・・」


「わたしたちを追い抜いたところで、軍隊の通った痕跡が、わたしたちの追跡の邪魔になったので、追跡者チームをひきつれた小隊だけで、先に進んで追いかけてきていると思われます」


「それを倒せたら、逃げ切れるのね?」


「いえ、もう軍隊もすぐ後ろに控えているので、追跡者たちを倒しただけでは、逃げ切れないでしょう」


「どうするの?」


「エバーちゃん。目的地までは、エバーちゃんの速度でも、あと一日の距離まで来ています


軍隊をそこまで連れて行くこともできません


わたしが必ず追跡者をすべて排除し、軍隊もできるだけ減らしますから、あとは、エバーちゃんだけで、目的地について安全を確保してください

そこに無事に着くことができれば、必ず生き残ることができます」


「何言ってるのよ・・・数千はいるかもしれないような軍隊をあなたひとりで相手するとでも言うの?そんなことありえないわ・・・絶対に無理よ!」


「わたしは、エバーちゃんたちが生き残ってくれるためなら、何でもします

今はわたしの言葉は信じてはもらえないと思いますが、どうか幸せになってください

目的地についたら、助け手がいるので、彼らと新大共和ケーシスにいくのかどうかを検討してみてください」


「絶対に無理だから、あんたみたいなヒョロヒョロの奴が、あんな兵士たちを倒せるわけがない!一緒に行きましょう・・・わたしひとりになるなんて嫌よ・・・」


「ここから先は、どれだけ早く目的地につけるかだけを考えて、向かうだけでいいです

生きていくために必要な物は、すべて揃っているので、安心してください

最後ですが、わたしは心からあなたのことを本当の娘だと思って守って来たのです

色々な都合で苦しめてしまいましたが、ゆるしてください

もう行きなさい。あとは真っすぐ向かうだけです」


ダフキンは、悲しそうな顔をみせながら、きつめのトーンで、目的地を指さして、エバーに指示を出した。


エバーは、こういった状況で、何をしていいのかさえも分からないので、ダフキンの言葉に従うことしか思い浮かばない。


でも、最後だと言われて、心では葛藤が生まれた。


「行きなさい!もう行くんですよ!」


想い、悩みながらも、エバーは、うつむきながら歩き出した。


「絶対に、あなたのことゆるさないんだから!絶対に」


エバーは叫んだ。


その言葉にうなずきながら、歩いていくのを数分、見送るとダフキンは、木をつたって移動を始める。


そのスピードは、まるで猿のようで、さらに静かに着実に、敵へと向かっていく。


エバーは、後ろを振り返ると、ダフキンがいなくなっていることに気づいて、立ち止まった。


あんな軍隊をたったひとりで止めようとするなんて、無理に決まっている・・・。

お母さんも、親友のエリーも死んで、最後に残ったのは、ダフキンだけ・・・。

目的地にいって生き残れたとして、一体、自分に生きる意味があるというのか、分からなくなった。


エバーは、目的地に向かうことをやめて、ダフキンが向かった先に足を進めた。




―――追跡者たちは、足を止めた。


「なんだ・・・どういうことだ?」


「分からないな。どうしてここら一体、痕跡が散乱しているんだ・・・おい、犬たちは使えるのか?」


「いや、犬たちも方角を見失っている・・・」


「おい。まずい気がする・・・すぐに軍隊をここまで来るッ」


男は、突然地面に倒れた。


「なんだ!?どうした?」


倒れた男を調べると、首筋に、小さなトゲのようなものが刺さっていた。


「死んでる・・・」


「何ぃ!!」


「小隊!!散開隊列5m間隔!!」


小隊の隊長が、大きな声で、指示を出すと、20人の兵士たちが、5m間隔で、配置について、周りを警戒する。


「ぐあああ!!」


声がした方向をみると、兵士の首が無くなっていた。


「どういうことだ?」


「わんわんわんわん!!」


犬が、上を向いて、吠えているのをみて、何人かが木の上に目を向けると、黒い影が、木の上から降って来た。


その影は、森の闇を縫うように、兵士たちを次々と倒していく。


犬は、すでに死んでいた。


「なんなんだ!こいつは!!」


兵士は、黒い影に剣を振り下ろすが、振り下ろす前に、腕は吹き飛んでいた。


「え・・・」


流れるような動きで、影は、次々と兵士の首を斬っていく。


「ダメだ!逃げろ。この人数では、相手にならん!!バラバラになって逃げろ!」


すでに小隊の隊長が死んでいるので、指示に従わずに、追跡者たちは、軍隊がいる方角へと逃げて行く。


しかし、黒い影は、逃げて行く追跡者数人と兵士たちを逃がさず、森だというのに、信じられない速さで追いついては、兵士は狩られていった。


追跡していたはずが、逃亡しているのは、自分たちだと思いながら逃げるが、次の瞬間、目の前が暗くなる。


ダフキンは、兵士が持っていた水筒の水をナイフにかけて血を洗い流す。死体からナイフをみつけるとそれをベルトに挟み込むように、装備すると、軍隊の方角へと向かう。


軍隊は、追跡者チームの報告が出るまで、待機していた。人数が人数だけに、森の中に入らずに、高原で、陣を張っていた。


森の中からひとりの黒い姿の男が、軍隊へと歩いて近づいて来ていた。


「ふぅー・・・もう出発か。追跡者たちも、慣れてきたようだな」


「もっと休みたかったぜ」


「でも、たかが男ひとり、少女ひとりに、どうしてこれだけの軍が追わなければいけないんだ?おかしいだろ」


「どうも、相当な腕前を持った男らしいぞ」


「商人じゃなかったのかよ・・・」


「商人だが、ガマル・ワ・ルィール・チェクホン殿下を守る守衛50人を抵抗する間もなしに倒したらしいぞ」


「おいおい・・・そんなことが出来るものなのか?」


兵士たちが、気楽に話をしている間に、兵士たちが死んでいた。

兵士もそうだが、馬などの生き物も、倒れていく。


「何だ?あの黄色い煙・・・」


軍隊が待機していたある場所に、3つほど黄色い煙のようなものが、舞っていたが、その場所から悲鳴のような声がなりはじめる。


「ぐぁぁああああ!!!」


「ぎゃあああ!!」


その黄色い煙を触ると、触った箇所の肉が、痛みを感じたと思うと、兵士たちは、痙攣しはじめ、地面へと倒れていく。


この世界には、あまり風は吹かないのに、軍隊がいる場所は、森の方角から風が、外へと吹き抜けていく。


その風に乗って黄色い煙は、さらに軍隊へと広がっていった。


水を飲んでいた馬も、即死していく。


軍隊長が、異変にやっと気づいた。


「一体、何が起こってるんだ?」


伝令が、走り込んできた。


「黄色い煙のようなものに触れた者たちが次々と悶え倒れていっています。また、騎馬もなぜか死んで地面に横たわっています」


ダフキンは、堂々と軍隊の中を歩いていた。歩きながら、兵士たちの首にナイフを振りぬき、首を刈っていくが、その動作が早すぎて、ダフキンが、倒しているのかどうか分かっていない。

時間とともに、異変が軍全体へと伝わり、騒ぎだしはじめると、猶更、ダフキンの行動に気づくことができない。


「おい。どうして、こんなところで寝てるんだ?うわーー!」


「どうした?」


「し・・・死んでる・・・」


「ここにも倒れているやつがいるぞ!!」


「首を斬られている!」


至るところに点々と倒れ込む兵士たちがいることに気づいた部隊長は、伝令に指示をだす。

「軍の中に、紛れ込んでいるな!伝令。軍隊の中に、ダフキン・マットが入り来んで攻撃をしていると伝えよ!」


軍隊長のもとにまた、各方面から伝令が届き、状況を把握した。


「ダフキン・マットが、軍内部に潜入している。奴は、黒い姿だということだ。各自注意せよ」


その情報が、軍へと配られていく。


「いたぞ!!ここにいたぞーー!!」


情報を手に入れた兵士が、ダフキンを発見して、指を指すと、ダフキンは、走り出した。


「こいつだ!こいつがっ」


叫ぶ兵士のこめかみに、綺麗にナイフが投げられた。


ダフキンは、服の中に隠し持っている大量のナイフを四方八方へと投げ始めると、投げられた兵士たちは致命傷を受けて倒れていく。


倒れた兵士に刺さったナイフには、細いチェーンがついていて、ダフキンが、腕を動かすと抜き取られ、また、兵士へと投げていく。チェーンがついていないナイフは、次々と投げられ兵士の頭に刺さっていく。ダフキンが持っているナイフは、まるで手品のように、服の中から現れ、尽きることが無い。


「いたぞ!!ダフキンだ!!」


しかし、ダフキンが倒すよりも早く、発見された声が、他の兵へと伝えられ、位置を把握されはじめ、隊列が組まれていく。


それでもおかまいなしに、ダフキンは、兵士たちの数を着実に減らしていった。


兵士たちは、兜をしっかりとつけると、死角が多くなり、素早く動くダフキンの姿をすぐに見失う。

この辺りにいることは分かっても、影は、人を壁のようにして、姿を消して、違う場所へと移動し、また人数を減らしていく。


ダフキンは、兵士の腰から剣を抜くとその剣で、鎧の隙間に突き立てていく。

だが、腕に衝撃を覚えた。


把握できない位置からの弓矢の攻撃が、兵士の合間を縫って打ち込まれた。

今日最初の打撃を受ける。


ダフキンは、腕の矢を引き抜くとそれを兵士の目に投げ込むと目に突き刺さり倒れた。


ナイフを兵士の首へと向け突き刺そうとするが、その攻撃をやめて、後ろに大きく退避すると、矢がダフキンのすぐ横を通って、地面へと突き刺さる。


兵士に駆け上り、大きくジャンプをすると、矢が放たれた場所を注視すると、赤い目を光らせた黒いマントの男が、弓を構えていた。


シンか。


すぐに地面に降りて、兵士を倒していくが、兵士の腹から突然、槍が突き出して来た。

ダフキンは、それになんとか反応して、躱す。


光る緑色の目をした男が、兵士の後ろからダフキンを狙って来た。


軍隊の中に、組織の者が紛れ込んで、ダフキンに着実に怪我を負わせようとしてくる。


そして、大きくダフキンは、身を躱すと、大勢の兵士の体が、腰から2つに切られた。


空気の刃、鎌鼬エアーカッターが、組織の者から放たれる。彼らにとってワグワナ法国の兵士は、ただの利用対象にしかすぎない。


大きく避けた動きを逃さず、ダフキンの左腕は、氷ついていた。


地面に降りる間に、炎ファイアを発動させて、左腕のこおばりを解消する。


組織の者を3人確認すると、ダフキンは、姿を消した。


突然、戦う相手が消えて、兵士たちが、どうしていいのか分からなく、辺りを見渡すが、どこにもいない。


その状態が、数分続くが、組織の者たちは、気配を慎重に探り続ける。


兵士たち同様、ダフキンの姿を見失う。


赤目は、目をつぶりながら、ゆっくりと弓を動かして、発見した時のために、準備をするが、自分の影から現れたことに察知して、逃げようとするが、間に合わない。


ダフキンのナイフは、赤目の背中を確実に貫いた。


しかし、その後、大爆発を起こす。


辺り一面が、吹き飛んだ。ダフキンは、すぐに離れたが、吹き飛ばされる。


「はぁ・・・はあ・・・はぁ・・・」


ダフキンの服から血がしたたり落ちた。


兵士たちは、地面に膝をつくダフキンを囲み始めた。そして、一斉に、攻撃をしかける。膝をついていたダフキンは、動かず、その大量の武器に串刺しにされた。


「やったぞーー!!倒した!!倒したぞ!」


「倒したぞ!!」


ダフキンにとどめを刺した兵士たちが大声をあげる。


軍隊長もその報告を受けて、ダフキンの遺体を確認して安堵する。


黒い恰好をして、顔も変形しているが、このような恰好をしているのは、奴ぐらいだと考えた。


しかし、軍のあらゆるところから、緑や黄色、赤色の煙が上がると、また兵士たちが、倒れていった。


「何事だ!?」


「分かりません。あらゆるところから、また煙によって被害が出ているようです」


「ダフキン以外にも、攻め込んできているというのか・・・」


西側から「ダフキンがいたぞー!!」という声が上がったかと思うと、次は、南と東からも、ダフキンを発見したという報があがる。


「どういうことだ?ダフキンは、こいつだろ?」


「例の能力ではないでしょうか?」


「身代わりを作り出せるというやつか・・・?」


「曖昧な情報しか届いていませんので、何とも言えませんが・・・」


「これが偽物??どこからみても、人間の遺体だぞ・・・」


軍隊長は、遺体の髪の毛を握って、顔を確認するが、リアルな死体にしかみえないで、戸惑う。


「報告によれば、身代わりは、動くことはないというが、今、軍全体で騒がれているのは、素早く動いているようだぞ?」


「分かりません・・・しかし、被害は甚大です・・・」


「クッ・・・なんということだ。たった数人にこれほどの被害を・・・」


赤目に続いて、黄色と緑の光る目の組織の者も、地面に倒れていた。


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