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188章 亡命先

ダフキンが倒した30人は、ワグワナ法国に潜伏したシンの手練れであり、情報を管理する管理者のほとんどだった。あのメンバーをあの場で倒せたことは、逃亡をはかる3人にとっては吉兆となる。


無事に首都から馬車で逃げだせた。ダフキンは、シンの中にいる【神の目】といわれる者からの追跡にも対応していたため、まだこのような出来事が起こっていることに組織であっても把握できていなかった。


また、首都から夜中に出て行く馬車を何十台も用意していた。


適当な依頼を発注して、各方面に夜中、馬車で走り抜けてもらっていた。あらゆる方角に向かって同じ時間に馬車が首都を出ていたので、その馬車すべてを追うことは難しくなる。


「まずいですね・・・」


「どうしたの?テンドウさん」


「お嬢様。血の匂いをかぎつけたのか、モンスターが馬車をおいかけ、囲みはじめたようです・・・」


ダフキンは、起き上がり、血のついた自分とエバーの脱いだ服を手に持って指示をだす。


「テンドウさん。馬車を止めてください」


「え!?馬車を止めるのですか?馬車と同じほどの速度で走れるモンスターたちですよ?止めればすぐに囲まれます」


「はい。いつまでもモンスターについてこられては、馬も脅えて体力を消耗してしまいます。早目に処理しておきましょう」


「ダフキン様は、大丈夫だとしても、お嬢様が危険ではないですか?」


「大丈夫ですよ。わたしがこの血のついた服を持って囮になりますし、未だに出血してしまっているのは、わたしですから、モンスターは、わたしを先に襲ってくるはずです」


「そんな体で、モンスターを倒せるはずがないじゃない!」


エバーは、顔を振りながらその指示を否定する。


「大丈夫ですよ。エバーちゃん。深い森や土龍がいるような場所ではないモンスターなら、なんとかなりますから

とにかく馬車を止めてください」


「分かりました・・・」


渋々、テンドウは、ゆっくりと馬車を止めた。

まわりは、夜で、まだまっくらなままだ。もう少しすれば、太陽が明るさを運んでくれるはずだが、まだその時間には至っていない。


馬車が止まる前に、ダフキンは、馬車から飛び出した。


馬車から飛び出したものは、一段と血の匂いをまとっていることに夜の犬系モンスターヘルバウンドは、気づいていた。


10匹ちかいヘルバウンドは、馬車を追うことをやめて、獲物だと思われる匂いのもとを囲むように、ぐるぐるとまわりはじめた。


そして、次々とその獲物へと飛び掛かった。


ヘルバウンドは、血のついた服をめがけて噛みつき、八つ裂きにする。

しかし、モンスターたちが、噛みついたものは、加工されていた肉だった。

それでも、それが獲物だと考えたのか、競いあうようにその厚切りの肉に殺到する。


一番近くにいたヘルバウンドたちは、喧嘩をするように吠えながら肉をあさるが、気づくと仲間が数匹しかいなくなっていることに気づいた。


辺りを見渡し、グルルルルと喉をならすが、隣にいたヘルバウンドも、いつの間にか消えている。


危機を感じた最後の一匹は、逃げようと全速力で走り出したが、後ろからその頭を狙ってナイフが投げられると、そのナイフが致命傷となり、意識をかりとられて、ズサザサーと地面に倒れた。


エバーは、馬車の中で、両手で目を塞いで祈っていたが、すぐにダフキンが声をかける。


「もう大丈夫ですよ。エバーちゃん。他のモンスターがきても、ヘルバウンドの遺体がわたしたちの匂いをかきけしてくれるはずです」


「もう倒したの・・・?」


「はい。ほどほどのモンスターなら、特に問題はありません」


そういいながら、ダフキンは、荷台に横になる。


大怪我をしていた3カ所からまた血が噴き出して、服に血がついていた。無理をしているのは、エバーでも分かった。


テンドウは、すぐに馬車を動かして、その場から離れた。




―――数日間、夜通し、馬車を目的地の方面からすこしずらしながら、走らせて、また朝になり4つ目の村に馬車を寄せて、朝食を買いに出かけた。

馬車には、食べ物は用意してあったが、買える時に増やしておかなければ、何が起こるのか分からないと考えたからだ。


エバーは、ずっと寝ているダフキンを気にしながらテンドウの帰りを待つ。


「ダフキン様。お嬢様。どうやら組織は、兵まで出して、わたしたちを追っているようです」


ダフキンは、目をつぶりながら、険しい顔になる。

「どういう情報が掲示されていたのですか?」


「はい・・・それが・・・ダフキン様が、ガマル・ワ・ルィール・チェクホン殿下を殺した真犯人だとして娘とともに逃亡をはかっているという内容でした。こんな嘘を世間に広めるとは・・・なんという奴らでしょうか」


ダフキンは、少し笑う。


「実際に、ガマル・ワ・ルィール・チェクホン殿下を殺めたのは、わたしだと組織でも認識してるんですけどね

それをこんな形で公にするとは、少し面白い」


テンドウは、ダフキンの言っていることが理解できずに、黙り込む。


「実は、わたしの館で倒した組織の者たちは、ワグワナ法国に忍び込んだ手練れたちでした。その彼らを倒しきったわたしを倒そうと思えば、それと同等か、それ以上の勢力を寄こさなければ、捕らえることはできないと踏んだのでしょう

ですが、他国から勢力を呼び寄せている時間もないので、ワグワナ法国の兵を使いはじめたのでしょう

かなりの数を動員していると思われます」


「なんと・・・組織とはそこまでの力を持っているのですか?」


「テンドウさんには、悪いですが、実際の力は、帝国並みだと思ったほうがいいでしょう」


「て・・・帝国ですか!?」


「わたしも駒の1つでしかありませんでしたから、全容は分かりませんが、かなりの大きな権力を有していると思ってください」


「そうですか・・・」


テンドウは、なにやら考え事をすると口を開いた。


「今向かっている目的地にいくのは、分かりました

その後は、どこかの国に亡命されるということですが、新大共和ケーシスに亡命されてはいかがでしょうか?」


「新国家ですか・・・」


「はい。彼らの国は、素晴らしい。それに新しく誕生した国ですから、組織の手もそれほど及んではいないはずです」


「確かにそうかもしれません・・・伝令である者であっても新大共和ケーシスがどのような国なのか分かっていませんでしたからね

テンドウさんの情報をほしがっていたほどです

ですが、本当に信頼できる国なのでしょうか?

すぐに亡国となられても、困りますしね・・・」


「この世の中ですから、それはどの国にも言えることではないでしょうか

ですが、この目でみた新大共和ケーシスという国は、他国とはまったく異質であることは間違いありません

その知識を得るためにも、新大共和ケーシスにいくことは、間違いではないと思います

しかも、他国よりもかなり厳重に個人調査が行われていますから、組織の者たちも簡単には、入り込めません

どうやら彼らは、何らかの方法で、相手の虚偽を見抜けるようなのです」


「虚偽を見抜く・・・そんなことが出来るのですか?」


「分かりません。ですが、実際にいってみて、納得できないことがありまして・・・かなり厳重に調査をされるわりには、簡単な受け答えだけで信頼が得られるのです

それは調査が甘いというよりは、確実に嘘かどうかを見抜く方を持ち合わせているのかもしれないと後日、考えが及んだのです」


「そういうことですか・・・なるほど・・・だから組織は、新大共和ケーシスの情報をあれほど持っていなかったのですね・・・嘘に特化した組織にとってそれは厄介な代物です。分かりました

では、テンドウさんには別行動をしてもらいましょう」


「新大共和ケーシスに行けということでしょうか?」


「はい。今のところ、指名手配を受けているのは、わたしだけのようですから、テンドウさんは、動きやすいはずです

お金をどれだけ使ってもいいですから、新大共和ケーシスにいってもらい入国の許可を取り次いでもらえますか?」


「こういうこともあろうかと思いまして、実は転移石を用意しておりました

しかし、お怪我をしているダフキン様とお嬢様を置いて、新大共和ケーシスにいくのは・・・転移石は片道分しかありませんし・・・」


「わたしたちが、新大共和ケーシスに辿り着けるのは、かなり後になりそうですが、何とかして向かうことにします」


「新大共和ケーシスがわたしたちを受け入れるのかどうかは、分からないですよ?ダフキン様・・・」


「確かにそうですが、目的を持っているということは、希望にもつながります

一カ所に長く留まっているよりは、ワグワナ法国から離れた新大共和ケーシスに向かうのも悪くはありません

もし、わたしたちがいつまでたっても新大共和ケーシスに現れなければ、テンドウさんは、そのまま新大共和ケーシスの民となって生きていってください」


「そ・・・そんな・・・わたしは、必ず、お二人を迎えにいきます」


「転移石で飛んでしまった後では、連絡が取れなくなりますから、それは難しいでしょう

わたしたちの向かう場所も教えていませんしね

わたしたちが顔を出さなくなった時は、違う国で幸せに暮らしていると思っててください

心配はいりません」


ダフキンは、優しい笑顔で、テンドウに伝えるが、テンドウとしては、ふたりをここで見捨てて自分だけ安全な場所に行くように感じて、躊躇ためらってしまう。


「目的遂行は、早ければ早いほどいい。早速、転移石を使ってください」


テンドウは、エバーの顔をみる。


「エバーお嬢様。どうかご無事で、新大共和ケーシスでお会いしましょう」


「はい。テンドウさん。お願いします」


エバーは、テンドウがいなくなることに少し不安を覚えるが、テンドウのことを想えば、それが一番いいことだと考えて、何も言わなかった。


テンドウは、転移石を使って新大共和ケーシスへと飛んだ。


「新国家、新大共和ケーシスって滅亡したボルフ王国の次の国のこと?本当にボルフ王国は、滅んでたの?」


「そうですよ。エバーちゃん。新大共和ケーシスのリリス・ピューマ・モーゼス様と伝説の天使だと言われているセルフィ様によってボルフ王国は、亡国となり、リリス様によって新しい国が誕生しているのです」


「じゃー・・・ワグワナ法国って国民に嘘を教え続けているってこと?」


「はい。人は大きな嘘ほど信じやすいものです。ドラゴネル帝国という大きな帝国があることを疑う人はいませんが、実際にその土地にいってみてもいないのに、本当に帝国があると分かるものではないのです

大きな嘘を堂々と国がつけば、国民は、それを鵜呑みにしてしまうものなのですよ」


「でも、今テンドウさんを行かせてしまって大丈夫だったの?」


「実はわたしは、迷っていたのです

テンドウさんを信じないわけではありませんが、わたしたちが目指す場所は、絶対に教えてはいけない場所なのです

そこにテンドウさんを連れて行くかどうか迷っていたので、テンドウさんのためにも、新大共和ケーシスに行ってもらったほうが都合がよかったというわけですね」


「そこには何があるの?」


「それを説明することは簡単ですが、わたしが話しても信じてもらえないでしょう

目的地につけば、納得してもらえるはずです

エバーちゃんは、なんとかして、そこまで辿り着かなければいけないのです」


「でも・・・わたし馬車なんて走らせたことないのよ?」


「わたしがやりますから大丈夫ですよ」


「何を言ってるのよ・・・そんな怪我をして・・・無理してたら、その目的地にいけないわよ!」


ダフキンは、少し笑った。


「そうですね。エバーちゃんにまかせましょうか。方角の認識はできますか?」


「それぐらい出来るわよ!」


「では、簡単です。馬車に使われる馬は、大人しいものです。荷台がついているだけ、縛られていますからね

あとは手綱を軽くもって、右に行きたいときは、右をひっぱり、左に行きたいときは、左をひっぱる。止まる時は、両方をひっぱればいいのです

比較的簡単に操作できるはずです」


「分かった・・・やってみる」


エバーは、少し嬉しさを感じていた。今まで何も教えてくれなかったのに、マット商会を捨てて旅に出てからは、どんな質問にもお父さんが答えてくれていたからだ。

本人は、そんな気持ちは、理解できていなかった。


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