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187章 逃亡

エバーは、目を覚ました。

長テーブルの白いテーブルクロスから顔をあげた。


「きゃーーー!!」


壮絶な光景をみて、エバーは叫んだ。

30人近くいたひとたちが、みな倒れて、食堂は、壁にも床にも、テーブルクロスにも、血が散乱して飛び散っていた。


「なに・・・・なによ!!何が起こったの!!?」



弱弱しい声が、後ろの壁から聴こえ、振り返った。

地面に座りこんで、血だらけになっていたのは、ダフキンだった。


「お父さん・・・!!何があったの!?」


エバーは、恐る恐るダフキンに近づくが、ダフキンは、かなりの深手を負っているようだった。


「何がどうなってるの?」


「わたしが始末しました・・・エバーちゃんに手を出すものは、誰であってもゆるさない・・・」


「どうしてこんなことになっているの?」


「エバーちゃん。よく聞いてください」


ダフキンは、服の内ポケットから紙を取り出して渡した。その紙にも血がついている。


「これは何?」


「いいですか・・・。その紙に書かれている場所に・・・これから必ずエバーちゃんは、辿り着くと約束・・・してください

そこには、わたしが今まで蓄えた財産と食料・・・など必要なものがすべて揃っています

そして、そこに辿り着ければ・・・多少は納得できるでしょう」


ダフキンは、息をきらせながらも、起き上がった。


「お父さん!動いたら危険よ!」


エバーは、起き上がろうとするダフキンを支えようと手を出す。


「ありがとう。エバーちゃん。屋敷の裏に馬車を用意しています。その馬車で、逃げます・・・。そこまで行きましょう

そして、約束してください・・・。わたしが死んでも、必ずその場所に向かうと・・・」


「意味が分からないけど、約束するから、死なないで・・・」


「今はまだ死ねません・・・。エバーちゃんをそこまで送り届けるまでは・・・。ですが、すぐにここを・・・出なければいけません。彼らは組織の裏切者には、必ず処分するために、手を打ってくるでしょう」


エバーは、ダフキンに肩を貸して、部屋を移動しようとするが、下にヘッドとベルの遺体が横たわっていた。


「ヘッドさん・・・ベルさん・・・し・・・死んでるの?」


「はい。彼らも組織の者で、あなたを殺すことしか考えていませんでした。下をみないようにしてください。行きましょう」


「でも、血だらけのままいくの?わたしもお父さんも服に血が・・・」


「着替えや治療道具なども馬車に乗せていますから、このまま馬車に・・・」


「分かったわ・・・」


ダフキンは、大きな時計台の裏に手を伸ばしたと思うと何かを引き抜いた。

その後、数分すると屋敷の至るところから火があがり、屋敷は燃え広がりはじめた。


ふたりは、よろつきながらも、食堂の裏に続くドアへと向かい、ノブをまわして、外へと出た。


「お嬢様!ダフキンさま!!」


テンドウが、驚きながら、林の影から出てきて、走り寄って来た。


「テ・・・テンドウさん?どうしてここにいるの?」


「お嬢様を連れて、他国に亡命することにすると言われたので、わたしもついていくことに決めたのです

ですが一体何が起こったのですか?」


「話せば長くなるわ。まずは、ここから逃げましょう。すぐに追手が来るらしいわ・・・」


「分かりました!」


テンドウは、ダフキンをささえて、馬車の荷台に運び込んだ。


エバーは、治療道具を探し出して、ダフキンの傷をみる。そして、テンドウは、馬車を走らせて、暗闇の中の街を走り出した。


「深すぎる・・・」


ダフキンの体には、3カ所、とても深い刀傷があった。武器を持つこともなかったエバーは、このような怪我をみたこともなかったので、何をしていいのか分からなくなる。


「エバーちゃん。ポーションを・・・」


エバーは、すぐにポーションを探し出して、ダフキンの傷に注ぎ、また飲ませた。


「完全には、塞がりませんね・・・」


ダフキンは、治療道具から糸を取り出して、動く馬車の中で、自分で傷口を縫い始めた。

暗闇の中で見ずらいが、それでも、的確に傷をぬっていくのをみて、エバーは動揺する。


「エバーちゃんも、服を用意しているので、着替えなさい。マット商会の娘としてではなく、平民の娘として変装してもらいますから、気に入らない服かもしれませんが、それに着替えてください」


「お父さんは、大丈夫なの?」


「テンドウに馬車を走らしてもらっていれば、わたしも休めます

これぐらいの怪我なら死ぬこともないでしょう」


エバーは、少し安心して吐息をもらす。


テンドウも動揺しながら、馬車を走らせ続けるが、何が起こっているのか分からないようで、エバーに質問する。


「お嬢様。一体何があったのですか!?」


「わたしも、分からない・・・何が起こっているのか、頭が混乱していて・・・でも、テンドウさんは、組織の人間ではないのですか?」


「わたしは例の組織の者ではありません。ですが、マット商会が裏の組織と繋がっていることに気づき、殺される寸前の時がありました

ですが、ダフキン様が対処してくださり、わたしは命を助けられたのです」


「その組織がわたしの命を狙い始めたので、お父さんが組織を裏切ってわたしを助けてくれたみたいです」


「だから、マット商会もすべて捨てて亡命しようとされているのですね

なんとなく状況がみえてきました

安全に、お嬢様を連れだすという予定だったはずですが・・・」


「わたしもさっき知ったばかりで、何も分かってないの・・・」


ダフキンが、後ろから声をかけてきた。


「わたしから説明します

エバーちゃんにも説明していないこと、1から説明しています

分からないことがあれば、聞いてください」


ダフキンは、馬車の荷台に横になりながら、説明をはじめた。


「わたしは、遺跡からミステリアスバースとして生まれました

まだ、こどもで何が何なのか分からず、遺跡から這い出してきたのです

そこに現れたのが、その組織の者たちでした

組織は、何も分からない私をさらって、殺しの技を教え込んでいったのです

わたしは幼い頃から、人を殺すことだけを教わり、それが悪いことだとさえ認識がありませんでした

わたしと同じように幼いこどもたちが拉致されて、一緒に訓練を積まされ、そして、その子供同士で殺し合いをさせられてきました

生き残れるのは、極小人数の能力がある者たちばかりです

わたしは、運よく生き残り、そして、魔族と融合させられたのです」


「魔族と融合?」


「はい。目が光るのもその魔族との融合に適応させる副作用のようなもので、力を発揮する時に起こってしまう現象です

組織は、遺跡から生み出される魔族を捕えては、その魔族と融合できる適性のあるこどもたちをさらって、実験を繰り返していたのです

わたしはそのうちのひとりでした

特殊な能力さえあれば、生かされるので、多種多様な才能があれば、助かりますが、私の場合は、暗殺だったのです」


「お母さんを殺したというのは、本当なの!?」


「信じてくれるかは分かりませんが、わたしは殺してはいません」


「屋敷にいたひとたちが、みんな組織の人だったのよ。すべてに裏切られた気分になったわ・・・わたしって何だったのかと思わされた・・・そんな想いをさせられた、あなたを信じられるとでも思うの?」


「難しいでしょう・・・ですが、エバーちゃんを助けるには、冷酷な組織側の人間である態度を取らなければいけなかったのです

奴らには、わたしが組織を裏切らない者だと思わせていなければ、エバーちゃんを助けられるチャンスはありませんでした」


「本当に、お父さんが、彼らを倒したの?ヘッドさんがいってたけど、屋敷にいる者たちは、みなA級クラスの者たちばかりだって・・・」


「本当は、彼らと戦うつもりはありませんでした。何とかエバーちゃんだけを連れだして、逃げる予定だったのですが、それが出来なくなったので、戦うはめになったのです」


「剣を持った姿さえみたことないのに、信じられない・・・お父さんは、そんなに強いの?」


「戦うことだけを小さい頃から訓練させられ続けてきたので、その点は、秀でているかもしれませんね

それにわたしには、特殊な才能が、賜物ギフトがいくつかありまして、そのおかげで、生き残って来れたのです

しかし、心が育っていませんでした

それを育ててくれたのは、シェラフとエバーちゃんです」


「お母さんとはどうやって出会ったの?」


「わたしは、組織の言われるまま暗殺を続けていました。わたしの意思や想いなどは、皆無でした

心のない暗殺者であり、マリオネットだったのです

ですが、ある夜。白い服を着た幼い女の子に出会ったのです

わたしは、そのような者たちもすべて暗殺するようにと命令されていました

しかし、その子は、自分の身を盾にして、子犬を守ろうとしていました

小さくて弱いはずの少女が、さらに弱い子犬をいのちがけで守ろうとする様子をみて、わたしのナイフを持った手は止まったのです

その少女に手を出すことができずに、秘密の場所にかくまうことにしたのです

彼女は、その子犬だけではなく、わたしにも優しさを与えてくれたのです

人と関わることに、うとかったわたしに、心を教えてくれた最初の人でした

ですが、その少女は、病気になりそのまま亡くなってしまいました

わたしはそこではじめて泣きました

わたしにとって、その少女は、大切な存在だったことに気づきました

途方に暮れていた時に、シェラフと出会ったのです」


「わたしたちも殺されるところだったのでしょう?」


「はい。組織は、レジスタンスのすべてを暗殺しろと命令を出しました

しかし、わたしは、あなたを守ろうとするシェラフに手を出すことができなかったのです

そこで、わたしは、商業を行うという提案を組織にして、マット商会を立ち上げ、あなたたちをわたしの家族として受け入れることで、守ったのです

シェラフは、商人の娘でしたので、シェラフから色々なことを教わりました

組織は、利用するものとして、家族という形を用意しただけでした

シェラフも利用できる女性だったので、生かされていたのです」


「それでわたしたちと生活をはじめたのね」


「はい。シェラフは、エバーちゃんから離れませんでした。わたしを警戒し続け、まったく信用していませんでした。それは当たり前です

目の前で彼女の大切な者たちをわたしは手にかけたからです

ですが、時とともに、シェラフは、あの少女のように、わたしにも優しさを見せてくれるようになりました

そして、シェラフは、商業のいろはを教えるにあたって、わたしのことを認め始めてくれたのです

わたしも、二人を家族のように思い始めました

わたしは、亡くなった少女とエバーちゃんを重ね合わせるように、みていました

組織からは、こどもには、何も教えないようにと命を受けていましたが、わたしも、組織のことに目を向けられれば、ふたりの命が危険になるとエバーちゃんには、何も教えないようにしたのです」


「そういうことだったのね」


「邪魔な存在は、暗殺する組織を後ろ楯にしていたマット商会は、急激に大きくなっていきました

ですが、マット商会を支えているのは、組織の域がかかったベル・フルートなどでした

組織の域がかかっていない人間で信頼できるのは、テンドウさんぐらいです

あとは、何も知らない者か、組織の者たちでした」


テンドウは、真剣なまなざしで伝えた。

「わたしはダフキン様を信頼してマット商会に入ったようなものです。そして、命までも救っていただきました

お二人のためなら、この命を懸けることもいとわないです」


ダフキンは、その言葉を聞いて頷いた。

「ありがとうございます。テンドウさん

そして、エバーちゃん。わたしが何をいっても、あなたに信じてもらうことはできないでしょう

ですから、あなたには、実際にみてもらうしかありません

その場所に行けば、わたしの言葉を信じてもらえるかもしれません」


「何をみろというのよ」


「それは付けば分かります。とにかく、何が何でも、その場所に辿り着いてください

ですが、その場所のことは、誰にも言ってはいけません

尾行もされることなく向かうために、遠回りしていく必要があります

そこに無事に辿り着ければ、生きていくことができます

その後は、その財産をもって、他国に亡命するなり、次のことを考えましょう」


「わたしはあなたを嫌いになったわ。あいつらが、エリーを殺したようにあなたも多くの人を手にかけてきたのでしょ

わたしはそんな人は一生、信頼できない!」


テンドウは、それをきいて、悲しそうな声をもらす。


「お嬢様・・・」


「エバーちゃんのいうとおりです。人を殺め続けてきたわたしは、汚れています

ですが、エバーちゃんたちは、汚れてほしくはなかった

幸せにしたかったのです」


「あなたをゆるしたら、エリーが可哀そう!わたしの親友だったのよ!!絶対にゆるさない。あいつらも、あなたもよ!」


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