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185章 誰も信じない

「エバーちゃん。起きてください」


「ん・・・?もう朝?」


「起きてください。朝方ですが、エバーちゃんに話したいことがあります」


エバーは、外をみるが、まだ外は、明るさを取り戻してはなく、カーテンまわりも暗いままだった。

「なによ!まだ、起きる時間じゃないでしょ!」


「エバーちゃん。ワクバイアさんが、お見えになっています」


「え・・・エリー?」


「エリーさんのお父さんです」


「どうして、こんな時間に、エリーのお父さんが来てるの?」


「エバーちゃん。落ち着いて聞いてくださいね。まずは座ってください」


エバーは、起き上がった。


「エバーちゃん。まずは、わたしの話を聞いてください」


「何よ!ワクバイアさんが来てるんでしょ?会わないと」


ダフキンは、エバーの肩をもって、ベッドに座らせた。

「いいですか。深呼吸してください」


「はい?何を言ってるのよ」


エバーは、眠たさを押し殺して、目をこする。


「落ち着いて聞いてください。分かりましたか?」


「だから、何よ!」


「エリーちゃんに不幸がありました」


「何!エリーに何かあったの!?」


「はい。最悪な状況です」


「最悪ってなによ。まさか・・・!怪我でもしたの?!」


「ふぅー・・・」とダフキンは、深いため息をついて、間をあけようとする。


「早く教えて!エリーに何かあったの?」


「昨晩、エリーちゃんは、亡くなったんです・・・」


エバーは、頭が真っ白になった。

「うそ・・・」


ダフキンは、ゆっくりと答える。

「残念ですが・・・、本当です。昨晩、エリーちゃんは、自殺をはかったようです・・・」


「じさつ・・・?エリーが・・・?」


違う・・・絶対に違う・・・エリーが、自殺なんてするわけがない・・・


「あいつらよ!あいつらがやったのよ!!うッぅぅぅ・・」


エバーは、ショックのあまり、もどしそうになる。


「エバーちゃん。落ち着いてください」


「エリーが死んだって本当のことなの!?」


「はい・・・残念ながら本当のようです・・・」


「エリィー!!!エリー!!嘘よッ!!」


エバーは、大声で叫び、ダフキンの腕を振り払う。


そして、廊下を走り出そうとした。


「エバーちゃん、待ちなさい!」


ダフキンは、エバーを抱き上げて、床に撒いてある撒きびしに怪我をしないように、廊下まで運ぶ。


「放してよ!放して!!」


無理やり、ダフキンの腕から抜け出し、廊下を走る。

朝なので、使用人たちさえ待機していない。


広場につくと、エリーの父が椅子に座っているのを見つける。


「叔父さん!!エリーが、死んだなんて嘘よね!?嘘なんでしょ!!」


ワクバイアは、真剣な顔で、顔を横に振る。


「うそ・・・エリィー・・・」


廊下の床に崩れ落ちるように、座り込み放心状態になる。


エリーが・・・死んだ・・・?ついさっき、夕方まで一緒にいたじゃない。エリーは、笑顔をみせてくれたわ・・・。もう大丈夫とも言ってくれていた・・・あのエリーが死んだ?意味が分からない。


エバーは、じわじわと実感しはじめ、目から涙を流した。


ダフキンがすぐにやってきて、エバーを優しくソファーに座らせた。


「ワクバイアさん。今は、話せる状態ではありません。落ち着いたら、わたしたちのほうから伺わせてもらえますか?」


「いえ。ダフキン様。今、聞きたいのです。どうか、お嬢様と話をさせてください。お願いします!!」


ワクバイアは、感情を抑えきれないかのように、頼みこむ。


「そうですか・・・」


ダフキンは、エバーに声をかける。


「ワクバイアさんが、エバーちゃんに聞きたいことがあるというのですが、話しができますか?」


エバーは、泣きながら、頷く。


ダフキンは、ワクバイアに、近くに座ってもらった。


「エバーお嬢様。何があったのか、聞かせてもらえませんか?本当の話を・・・エリーのことを少しでも大切だと思ってくださるのなら、真実を教えてください」


「うう・・・うぅぅぅ・・・うぇ・・・うぇ・・・はい・・・。全部、話します・・・」


エバーは、泣きながら話した。


「エ・・・エリーとわたしは、ちょっとした冒険を・・・冒険をしようとふたりで、街を歩き回ったんです・・・エリーが、クリミーの大冒険っていう文芸を読んで、同じように街の人たちの話を集めようって・・・それで・・・それで・・・西区にある古い工場で、あるものを見てしまったんです・・・」


エバーは、頑張って、知っていることを話した。黒い影のような者と目をひからせた女や男のこと、そして、学院にまで、赤色の目にひからせた女がやってきたこと。王族にも危険を教えたけれど、その王族は殺されてしまったことなどを隠すことなく話した。

王族の執事をしていたトロイ・モクバという老人が、家族には言わないほうがいいと言ったので、内緒にしようとエリーと話し合ったことなど。


ワクバイアは、下にうつむいて、顔を振る。


「残念です・・・本当に残念です・・・お嬢様・・・」


「はい・・・ごめんなさい・・・。トロイ・モクバというご老人は、家族に話さない方がいいっていうので、言わなかったんです・・・。エリーもそれがいいって・・・」


ワクバイアは、エバーの両肩をグッと持って、凄い目で、睨む。


「そんなことを聞きたいんじゃないんです!本当のことを教えてください!嘘なんて聞きたくもない!!」


「嘘・・・?」


エバーは、ワクバイアが言っている意味が分からなくて、目をみる。


「嘘じゃないんです。今話したことは、本当のことです。エリーは自殺なんて絶対にしません!あいつらに殺されたんです!」


ワクバイアは、怒りのあまり顔を震わせる。


「じゃー。これは何なんですか!?」


ワクバイアは、手に持った紙をエバーに渡した。


「何ですか?これ・・・」


「エリーの最後の言葉です・・・。それには、あなたからイジメられていたことが書かれています。文字は、震えるように乱れていますが、それは間違いなく、エリーの筆跡です!これでも、嘘をつくんですか!!」


「どういうこと・・・?」


エバーは、その紙にかかれた内容を読んだ。文字は、もの凄く乱れていた。


《お父様。お母様。自害することをおゆるしください。わたしは、学院の者たちにいじめられていました。学院の先生にも相談したのですが、そんな事実はない。ただ遊んでいるだけだとあしらわれました。一番の友達だと思っていたエバーからもいじめられ生きていくことができません。死んでしまうわたしをおゆるしください。エリー・ワクバイア》


「嘘よ!これ嘘のことが書かれてるわ!」


ワクバイアは、さらに睨めつける。


「それを読んでも、まだいいますか!!」


「だってわたしとエリーは、仲良しですもん!!いつも二人で一緒にいたのよ!叔父様信じてください。エリーは、叔父様が護衛をわたしの分まで、頼んでくれたといっていました。そんなこと頼むということは、身の危険があったからでしょ。わたしが、エリーをイジメるわけないじゃないですか!!」


「ふざけるな!!エリーは、護衛のことはダフキン殿には、内緒にといっていた。お前の指図だったのだろう!!エリーはなー!エリーは、苦しんだんだぞ!!いじめられる側の立場になってみろ!!言い逃れしても無駄だぞ!!」


激しく、エバーの腕を掴むワクバイアに、ダスキンが、間にはいって、止めようとする。


「ワクバイアさん。落ち着いてください。それ以上は、やりすぎです」


「やりすぎ!?やりすぎなのは、お前らだろ!!エリーは、死んだんだぞ!殺すこと以上にやりすぎなんてあるのか!」


「叔父様。わたしじゃない!!その手紙は、あいつらが書かせたのよ。エリーに無理やり書かせたから、そんな乱れた文字になってるのよ」


「このやろう!!」


ワクバイアは、手を挙げようと、右腕を振りかざした。


ダスキンが、その腕を掴み、止める。

「もう今日は、お終いです。お引き取りください。そんな興奮した状態では、話などできません。誰か。誰か来てくれ!」


警備の者がやってきた。


「ワクバイアさんは、お帰りになる。玄関まで、送り届けてくれ」


「はい。分かりました」


ワクバイアは、悔しそうに、体を震わせながら、護衛たちに半ば強制的に、連れて行かされた。


その様子をみて、エバーは動揺する。


「どうして・・・どうして信じてくれないのよ・・・本当のことを言ってるのに・・・」


エバーは、信じられないという面持ちで、泣き続ける。


「あんたも、信じてないんでしょ!!わたしが嘘をついてるって思ってるんでしょ!!」


ダフキンは、エバーの肩を優しく抱きしめる。


「エバーちゃん。わたしは、エバーちゃんの話をすべて信じますよ」


「信じて・・・くれるの・・・?」


「信じますよ。ワクバイアさんは、今は興奮していて誤解していますが、毎朝、エバーちゃんを迎えに来てくれていたエリーちゃんのエバーちゃんをみる目は、愛情を感じさせるものでした。エリーちゃんにとっても、エバーちゃんは、親友だったんです」


その言葉をきいて、エバーは、いままでのエリーとの思い出を思い出す。

「エリィー・・・エリー。本当に・・・本当に死んだの?エリー・・・うわぁぁーー」


エバーは、悲しみに打ちひしがれ、泣き崩れた。

ダスキンは、そんなエバーに言葉をかける。


「わたしは、ずっとエバーちゃんを見てきました。今の状態のエバーちゃんが、あれほど上手な嘘をあの状況で上手に言えるわけがない。エバーちゃんは、本当のことを言っていたのでしょう?」


「うん・・・お父さん・・・本当よ・・・。エリーを殺したのは、ガマル・ワ・ルィール・チェクホンさんを殺した奴らなのよ。エリーは、絶対に自殺なんてしない!」


「エリーちゃんの次は、エバーちゃん。あなたも狙われるかもしれません。落ち着くまで学院は、休んでください。いいですね?」


エバーは、泣きながら頷いた。



―――やり場のないワクバイアは、エリーの最後の手紙を持って、学院に押し掛けた。

エリーがイジメていたことを相談したにもかかわらず、それを放置していた学院がゆるせなかったからだ。


しかし、学院側は、そんな相談は受けたことがないと否定した。エバーとエリーは、とても仲良しで、イジメているところなど見たことが無いと伝えるが、ワクバイアは、責任逃れだとして、激しく学院を糾弾した。


学院には、なぜか、エバーが、エリーをイジメていて、そのせいで、エリーが自殺したという噂がどこかしら生徒たちに広まっていた。


エリーのお葬式に、エバーが顔を出すと、皆しらじらしいと言った顔で、エバーを睨めつけた。


「自分がいじめておいて、葬式に顔を出すなんて、なんて子かしら」


エバーや学院だけではなく、エリーの親であるワクバイア夫妻も、他人から陰口をたたかれていた。

親なのに、自殺するほど悩んでいるこどもに気づかなかったなんて、親失格だと言われ続けることになる。


結局、エリーを殺した犯人は、親でもなく、学院でもなく、友達でもなかったが、三者三葉、それぞれが、ぞれぞれの立場で、原因を親や子、そして、学院へと向けたが、誰も真犯人ではなかった。


エバーは、本当のことを堂々というようにしたが、ダフキン以外、誰もそれを信じてくれず、まるで犯人扱いされるようにみられた。

他人からは、第三者から暗殺されたという真実ほど、嘘のように聞こえた。

奇怪な真実よりも、納得いく嘘のほうが人は信じやすいのだ。


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