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180章 冒険少女

エバーとエリーは、聞き耳を立てながら、町中の情報を集めた。メモ用紙に書き足されていく。


・ブタのプリシオーネの脱走

・クルス麦食堂の毒入りパスが安くて美味しい

・学院長は、実はハゲている

・トリアティ師団国への侵攻が間近

・リッチ通りの街道が壊れている

・首都ダリンには、こどもの遊び場がない

・劇団随一の役者コサイラ・フェリュレの突然の引退―――


「ふたりで一応、情報を集めてみたけど、これからどうするの?エリー」


「そうね。まずは、これらの情報が本当のことなのか確かめてみない?」


「検証するのね」


「そうよ。上から順番にやってみましょう」


エバーは、少し沈黙した。

「でも、わたし・・・ブタなんて食べた事はあっても触ったこともないのに、捕まえることなんて出来ないわよ・・・」


「そ・・・それはわたしだって同じよ。本当の話なのかを確かめるだけだから、わたしたちが捕まえる必要はないわ

ブタのプリシオーネが、走り回っているのかをみて、その場所を教えてあげるだけでもいいんじゃない?」


突然、エバーはエリーの後ろを指さして、声をあげた。

「あ!!」


「何?」


「今、何かが道を横に走り抜けていったわ!たぶん、ブタよ。ブタ!」


「え!もう見つけたの?」


ふたりは、そのブタらしきものが走っていったルートを追いかける。

ブタは、走っては止まり、走っては止まりを繰り返しながら、逃走をはかっていた。

ブタが、止まった隙に、ゆっくりと近づこうとするが、近づくのも怖くてできない。

「やっぱり、怖いわ・・・エリー・・・」


「わたしも・・・無理・・・。何だか気が荒れてるみたいだし・・・近づくのは無理ね。飼い主さんにここにいたということだけ教えてあげましょう」


飼い主を見つけ出して、報告すると彼女は、とても喜んで、銅貨5枚と小さなブローチを報酬としてエバーたちに渡して、その場所へと急いで向かっていった。


「まさか、お金がもらえるとは思わなかったわ・・・」


「すごいわね。たったあれだけのことで、お金になっちゃった・・・可愛いブローチまでもらっちゃったわ」


ふたりは顔を見合わせて、驚きと一緒に、興奮してきた。


「次いきましょ!エリー。次」


「分かったわ。次は・・・【クルス麦食堂の毒入りパスが安くて美味しい】ね」


「パスに毒を入れるってどういうことなの?」


「さー・・・分からないわ。でも、クルス麦食堂は、確か西区のお店だったと思うけど」


興奮しているふたりは、早歩きで、西区へと向かった。

クルス麦食堂の前には行列が出来ていたので、それに並び、その間に、並んでいる人に質問してみた。


「あのーわたしたちここのパスが美味しいと聞いて来たのですけど、パスに毒が入ってるって本当のことですか?」


「ああ。なんだ。初めての人か」


「はい。初めてきました」


「西区の人でもなさそうだね」


「はい。わたしたちは、中央区です」


「中央区!どこかの貴族のお嬢様たちですかい」


「貴族ではありません」


「中央区から来たのなら知らないかもしれないけど、ここら辺では、毒入りパスは有名だよ。ポストマッシュというきのこの毒をほどよく入れて、舌をマヒさせるのが、このお店の人気パスだ」


「毒なんて入れて大丈夫なんですか?」


「ああ。大丈夫だよ。舌のマヒは数分したら治るからね」


ふたりは、並んで、毒入りパスを手に入れてお金を払って食べてみた。


「やっぱり、パスなだけにスパイシーな味付けね。でも、本当に美味しい!味わったことのない舌のピリピリひゃんが、何とも言えないわね」


「ワグワナ法国特産の麦で作られたパスの皮に、スパイシーなタレを絡ませて、オークの肉を挟んで食べるのは、やっぱり美味しいへど、このパスは、やめられないぐらい美味しいはね!」


「しゅかも、ひょうど・・・りょうか5枚ひょ?」


「しらがまわってないわよ。ヘリー」


「ヘマーもよ。あひゃひゃひゃひゃ」


「ひゃひゃひゃひゃひゃ」


ふたりは、へんなしゃべり方になって大笑いして楽しむ。


ブタの捜索で得た銅貨5枚で丁度パスの代金となったことに、変な偶然を感じて、ふたりは調子に乗ったが、その他の情報は、ほとんどデマだった。


学院長の髪の毛を何とか自然な形で、ひっぱってみたけれど、カツラではなかった。

トリアティ師団国との戦いは、誰でも知っていることなので確かめる必要もなく、道路は、すでに直された後だったのか、いくら探しても、壊れていなかった。

【劇団随一の役者コサイラ・フェリュレの突然の引退】も、演劇上に足を運んだら、夜の上演に、コサイラが出演することとなっていた。


ふたりは、歩き疲れたように反省会をする。


「結局、ほとんどが、デマやもう分かっていることだったわね。ブタとパスがまともな情報だった気がする」


「でも、学院長の髪の毛をマッサージといいながら思いっきりひっぱるエリーには、驚かされたわ。本当に笑っちゃった」


「学院長は、生徒と関わることが少ないからか、なんだか嬉しそうだったわよね」


「うんうん。それに立派な髪の毛でした」


「中央区は、首都ダリンの中心部だから土地が少ないけど、それ以外の場所は、ほどほどに広場があるからこどもたちも遊べてる気がするけどね」


「そうよね。中央区はってことだったのかもいれないわね。でも、ちょっと休憩ーー!」


街中に設置された木のベンチに腰を下ろして、座り込む。

エバーは、満足気な顔で両手を伸ばして空を見上げた。そして、何か影をみた。


「誰か。建物の屋根の上を移動してる!」


「え?」


「あれよ。あれ」


「ホント・・・え・・・」


黒い姿の屋根を伝っていったものは、まるで影のように目立つことなく、音もたてずに、素早く古い工場の大きなえんとつの中に入っていった。

上に、顔をあげなければ、絶対に気づかなかったが、エバーは、その影に気づいた。


「あれ・・・人間?」


「分からないわ。えんとつの中に入っていったわよね?エバー」


「うん・・・すごい古い工場だけど・・・なんだろ・・・」


「行くしかないわ!大冒険の香りがするわよ」


「ふふふ。そうね。あれが何なのか知りたいわね。煙突の中に入っていく生き物の話をみんなに出来るかもしれないわね」


ふたりは、見つからないように、慎重に古い工場の敷地内に入って、どこかから中に入れるのかドアをチェックするが、空いていなかった。


ホコリまみれになった窓も閉まっていたが、どこかしら声が聴こえたので、その方向に近づいていった。

丁度、中腰になるとのぞけるような20cm幅の壁の穴をみつけて、外からふたりで、聞き耳を立てた。


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