18章 ウオウルフとはじめ
ロックとの訓練の中で、事故が起こったが、その事故による被害は、ロックの回復の能力によってひとまずは、無事解決した。回復しきれなかったのは、源の心で、仲間を傷つけてしまったことにショックを受けて、少し放心状態に陥っていた。
しかし、そんな猶予などはなく、ウオウルフたちが、やってくる時間にさしかかった。
ウオウルフが話した内容が事実で、源たちとの共存を本当に望んでいるのなら、問題なく会合は終わる。
でも、ウオウルフによる策略で、仲間のフリをして、一気に多勢で、源たちを襲ってくる可能性もある。
夜行性だと思われるウオウルフたちに、白昼に会合を開くと言ったのは、ウオウルフたちの時差ボケによる能力低下を狙ってのことと、源が把握できる情報は、明るいうちのほうが増すからだった。
明るい時なら、さらに正確な状況を見極めて、全体さえも把握できると源は考えたのだ。
多少だが、相手は戦力ダウン、こちらは戦力アップになる。
『源。ウオウルフだと思われる集団が、近づいてきます』
『その数、40・・・50・・・70・・・100以上です』
『100だって!?』
20匹ほどが相手になると思っていたのに、100!?
源は、ロックに報告した。
「ロック・・・ウオウルフの数は100以上だ!」
「何!?100だとぉ!」
「どうする?もうここまでの距離は、30mを切ってる」
「攻撃してくるような素振りはあるのか?」
源は、ロックにそう言われて、神経を集中して、ウオウルフたちの状況を把握しようとした。
「ん・・?」
「どうしたんだ?源?」
「いや・・・なんだか、小さいウオウルフとか、年寄だと思われるようなウオウルフとかもいるな・・・というかあまり強そうではないものが、ほとんどだ」
「どういうことだ?」
「もしかしたら、戦士たちだけじゃなく、こどもや家族まで総動員で連れてきたのかもしれないな」
「それは、総動員で、攻撃してくるってことか?」
「いや・・・分からない・・・でも、足取りは、ゆっくりしてる。攻撃するための足取りには聞こえないが、もしもの時は、ロックは、フォルとロックハウスに入っててくれ。撹乱した後、俺がロックハウスと一緒に空に逃げて、そのまま違う安全な土地を探そう。この数と戦うのは危険だし、こどもなんて殺したくもない」
ロックはすぐに小声で返事をした。
「分かった」
そういうと、二人は警戒しながらも、しっかりと装備の点検をする。
ダイヤモンドと同じ炭素で作られた金剛石グラファイトの装備と武器で、以前戦った時よりもあきらかにレベルをあげている。逃げ切るだけなら出来るはずだとふたりは考えた。
森の中から次々とウオウルフたちが現れた。その足取りは、ゆっくりだった。
先頭に、リーダーのウオガウがいる。
10mほどの位置に近づくと、ウオガウは、一度吠えた。すると、足を止め、その後に続いているウオウルフたちも真似るように、足を止め、次々と集まり始めた。
100匹以上のウオウルフたちの並んだ状況は、壮観だった。
そして、ウオガウだけが、ゆっくりと、源たちへと近づいてくる。源たちの心中は穏やかじゃない。命がけの緊張感を抱きながら、平然とした態度をとらなければいけない。
そして、5mほどになると、ウオガウは以前のように、腹ばいになって、頭こうべを垂れる。
「すすす・・すべての・・・うううウオウルフ・・・をつつつ連れてきました・・・」
「そうか。来るのは戦士だけだと思ってた。まさか、こどもも連れてくるとは思わなかったよ」
「ははは・・はい・・・わわわ・・・わたしの・・・むすこも・・・います・・・」
「そうなのか」
「ははふぁい・・・ぜぜんいんで、あなたにししし従いまます」
「これで仲間ということだな」
「ははは・・・はい・・・ここにみみなを連れてきても・・・よろしい・・でしょか・・・?」
「いいぞ。来てくれ」
そういうと、ロックが横から
「源」
という小さい声をかけた。その声を聞いて、分かっているというジェスチャーを左手で送る。
いつ攻撃がはじまるのか分からないが、攻撃するのなら、このタイミングだろうということだ。
「ウオオオオーン」とウオガウが一声、吠えると、次々と、ウオウルフたちが、ゆっくりと近づいて前進してきた。
源たちは、緊張感がピークに達する。ここでこの数のウオウルフとの激しい戦いになると、かなりの凄惨な接近戦になると考えられる。
ウオウルフたちは、ウオガウの後ろに腹ばいになってウオガウよりも低く身を伏せる。
小さいウオウルフも、老人のウオウルフも、お腹の大きな妊娠していると思われるウオウルフもみな、腹ばいになっていく。
みなが、同じように、身を低くして並ぶと、ウオガウが源に声をかけた。
「どどどうか・・・みなに・・・お声をかけてください・・・わわたしが・・・通訳・・・いたします・・・」
そういうことかと源は思って、話し始めた。
「わたしは、末永源すえながはじめという」
「うおうう・うおーーー。ススエナガハハハジメ」ウオガウが通訳をしていく
すると、もの凄いウオウルフたちは叫びだす。
ウオオオオーンン!ウォンンウオン!
静かになるまで、少し待って続ける。
「君たちとわたしたちは、今日から仲間となる」
それを通訳し、皆が聞くと、また吠え始めた。今度はすぐに鳴きやんだ。
「あああ・ああありがとう・・・とみみなが言っております・・」
もしかすると、本気で共生を考えてくれているかもしれないと源は考えをかすめながら話を続けた。
「だが、仲間は裏切らないこと。そして、わたしたちに危害を一匹でも加えたら、ウオウルフはすべて絶滅させる!」
その話にどよめく
「ううう裏切らないと・・・いっておりまます・・」
「もし、共に仲間として、生きていけるのなら、わたしは、君たちを助け、わたしの仲間も君たちを助ける」
そうすると、大勢のウオウルフたちが、大きく吠え始めた。
「ウオオオオーン!」
「みみみなあ・・・よよよよろこんで・・・いいます・・・」
源は、秩序をきちんと守って、仲良くやっていけるのなら、大切にするという意向をみせるためにも、叫んだ。
「仲間として共に生きるのなら、みなは、俺の家族だ!」
すると、ウオウルフがさらに雄たけびをあげて、吠えだす。中には、泣いているようなウオウルフもいる気がした。
源は、狼って泣くのか・・・?と少し考えながら、みなかったことにする。
ウオガウも目に涙をためたように、源に声をかける。
「ううああありがとう・・・ごございます・・・きゅきゅ うきゅうえせいいし・・しま・・・」
ん?今なんて言った・・・?
源は、ウオガウなのか、他のウオウルフからなのか、何か聴こえたような気がしたが、気のせいだと思って聞かなかったことにした。
すると、ウオウルフたちは、整然と並んでいた隊列の真ん中を聖書物語のモーセの海を分けた道のように開けはじめ、ウオウルフの道が開いたと思ったら、後ろから、次々と、こどものウオウルフたちが、一角うさぎをそれぞれ、一匹ずつ咥えて、20匹の一角うさぎが、源たちの前に、献上されていく。どうやら、俺が一角うさぎが好物だとでも思っているようだ。
源は、献上していくところをみて、ウオウルフって頭いいんだなー・・・と感心させられた。
そして、続いて、雌めすのウオウルフたちが、口に果物などを咥えて、献上していった。
次の列は、口に魚を咥えて、献上した。
「おー!魚だ!」と源は口にして喜んだ。
「よし、それじゃあ。お祝いに、みんなで、宴会をしよう」
と、源は、ロックをみて、提案すると、ロックも頷いた。ロックも大丈夫だろうと考えたのだろう。
ロックは、ロックハウスに隠れていたフォルを肩に乗せながら、暖炉から火を持って来て、大きなキャンプファイアーをはじめた。
源が、魚などを食べられるように準備をして、キャンプファイアで、肉を焼き始めた。
ウオウルフのこどもたちは、フォルに近づくと、フォルやロックにも頭を下げていた。
どうやら、かなり礼儀を知っているようだと、少し安心した。
湖の水を飲むウオウルフもいれば、じゃれあって遊んでいるウオウルフたちもいた。本当に戦う気はないようだ。ウオウルフたちとの共生は、出来るのかもしれないと源は思った。
食べものが、焼きあがると、みんなで食べた。
すると、食事をしている源の前にウオガウが、数匹のウオウルフとこどもを連れてきた。
「ここここのものたちが・・・せせせんし・・・です・・・」
戦士長みたいなウオウルフなのかと認識した。
そして、一匹ずつ前にださせると
「ここここれが、がうがおう です・・・これが・・・ごううが・・です・・・・これが」
と名前らしき言葉が並べられたが、源は手でさえぎって、言った。
「ごめん・・・俺からすると、みんな狼の鳴き声にしか聞こえないから解らないや・・・」
「そそそう・・・です・・・か・・・すすすみませんん・・・」
「謝らなくてもいいよ。顔とかみて、覚えるからさ。なんとなく違いは分かるから」
源は戦士長A・B・Cとかで覚えることにしようと思った。
「そそそうですか・・・」
そんな戦士長たちと並ばされていた子をみながら源は質問する。
「でも、その子は?」
「ここれは・・・わわたしの子・・・ガーウ・・です・・・」
「ウオガウの息子ガーウか。よろしくね」
というと、言葉が解るのか、ガーウは、頭を下げた。ウオウルフも、これぐらい小さいと可愛いものだと思わされ、源は、頭を撫でた。
ガーウは、気持ちよさそうに、目をつぶった。
ほとんど犬と変わらないな・・・と思った。
「おおうさま・・・」
「ん?王様って今言った?」
「はははい・・・」
「俺が王様?」
「そそそうでごございます・・・」
「俺は王様じゃないよ」というと、ウオガウは、困った顔をして、聞いてきた。
「でで・・では・・・なんと・・・おおよびすれば・・・?」
「源でいいよ。はじめ」
「ははじめさま・・・」
「様はいらないけどね」
「よよよるの・・・ごごえいは、ウオウルフにおおおまかせ くだささい・・・」
「夜に見張りをつけてくれるってこと?」
「はははい・・・」
「そこまでしてくれるんだ・・・」
「ももももちろん・・・で・・・ございます・・」
どうして、もちろんなのかは、分からないが、確かに夜行性のウオウルフなら、夜も苦も無く警備ができるだろう。夜が一番安全とは言えないので、ロックと源は、交代で番をして、正直、疲労が溜まっていた。とても助かる提案だった。
「ひひるには・・・かかずが・・・へって・・しまいます・・・」
「あーいいよ。君たちは、夜行性だろ?昼は俺たちは起きているから護衛はいらないよ」
「いい・・一匹は・・・つつかせます・・・」
「そうかい?無理しないでね」
「あああぁ・・・ありがとう・・・ございます・・・」
源は、ウオウルフとは、争いなく、それぞれの暮らしを認め合うだけでいいと思っていたのに、それ以上のことをウオウルフからしてくれるというので、正直、驚いた。これから戦うのではないかと本当に懸念していただけに、そのギャップは激しい。
一気にウオウルフたちに好感度が湧いた。
もちろん、まだ完全には信頼していないし、問題も起こるとは考えているが、幸先悪くないと思った。
もっとウオウルフは、野性的で、動物っぽいのかと思ったけれど、かなり感情も持ち合わせた優れた種族のように思えた。共存可能かもしれない。