179章 検問
テンドウは、外に出て、様子を伺う。
門の前には、2体の黒色の物質モンスターが黒の金属の棒を持って立っていた。ほとんど動くことなく石造のように立っていたが、たまに動くので石造ではないことが分かる。2mにもなる巨体の物質モンスターは強そうにみえた。だが首都の正門を守るにしては2体は少ないように思えて違和感を覚える。
黒い壁の前に露店が現れ、食べ物などが並べられていた。
来客用に設置された露店にはほとんど人が立っておらず、新大共和ケーシスを説明してくれた虫モンスターが商売をしていた。
それほど品数が多いわけではなかった。
しかし、それら1つ1つの大きさは、一般的なものよりも明らかに大きかった。
どのように育てたのかは謎だ。
塩や胡椒、砂糖、はちみつなどの調味料は、確かに一般的だが、その色が一般的ではなかった。塩も砂糖も真っ白だ。
聞いたことがない調味料なども売られていた。
ミソというものやショウユというものらしかった。試食という試しで食べられるサービスがあり、少し食べてみたが、味などからすると他国にあるミーユとケイガに似ていた。
塩や胡椒は売れているようだが、それらはあまり客たちに売れていないようだ。
「テンドウ様。検閲官テラス・プリムとの時間が決まりました。そこで許可を得られれば、首都ハーモニーに入ることが可能となります。ご案内します」
「分かりました。ありがとうございます」
検閲官テラスという者に会うために、移動するが、その間に、門の外で騒ぎを起こしているものたちがいた。中に入れないことに対する苦情でも言っているようだ。
どこからともなく新大共和ケーシスの兵士がやってきて対応しているが、苦情に対して困っているようだ。
そんな風に問題を起こせば、猶更、入れてもらえなくなるのは、当然だろう。愚か者だな。
小さな個室に案内され入ると、テンドウの全身を調べるかのように見渡す男が目の前にいた。
「わたしが、検閲官テラス・プリムです。マット商会のテンドウ様ですね。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
「では、いくつか質問をさせてもらいたいのですが、よろしいでしょうか?」
「はい。お願いいたします」
「新大共和ケーシス首都ハーモニーに来た、本当の目的をお話ください」
「本当の目的・・・ですか・・・?。ミカエル殿にも話しましたが、わたしは、ワグワナ法国からやってきたマット商会の商人です。建国したばかりの新大共和ケーシスと今後、貿易を営んでいきたいと思い。まずは、新大共和ケーシスを見学したいと馬車でやってきました」
検閲官テラスは、独特の癖があるのか、あらぬ方向に目をやったと思うと頷く。
「テンドウ様は、突如として、亡きボルフ王国跡地から現れました。それは転移石をお使いになったということでしょうか?」
なに・・・!どうして、それを知ってるんだ!?ボルフ王国の跡地には、人どころか生き物一匹すらいなかったのに・・・
「は・・・はい。確かに転移石を使って首都ハーモニーから近い場所に転移して来ました」
「ワグワナ法国と新大共和ケーシスは、情勢が厳しい状況になりつつあることを知っていると思うのですが、それでも、首都ハーモニーに入り、貿易を考えるのでしょうか?」
「確かに国と国との摩擦が出来始めていることは承知の上で、ここまで来ました。ですが、わたしたち商人は、利益を生むのかどうかが選択の決定のひとつとなるのです」
「新大共和ケーシスから言えば、ワグワナ法国からのスパイかもしれないあなたを入れることの難しさを感じています
ミカエルからの報告によってあなたは、ワグワナ法国のスパイではないとは思いますが、ワグワナ法国からすれば、あなたが手に入れた情報をほしがるはずです
そんなあなたに許可を出すわたしたちの利点は、何になるのでしょうか?」
「わたしは商人ですから、やはり貿易で新大共和ケーシスの得になるように提案していくだけです。確かにワグワナ法国は、わたしから情報を得ようとしてくるでしょう。ですが、わたしは、今のところ新大共和ケーシスに対して、好意的な見解しか持っていません。新大共和ケーシスが謎ばかりに包まれ、ワグワナ法国と争いがはじまったのなら、敵への恐怖心のあまり、更なる悲劇が訪れるでしょう。
少しでも、好意的な意見や情報をワグワナ法国に与えることは、決して新大共和ケーシスにとっても不利益だけになるとは限らないとわたしは思うのです」
「つまり、ワグワナ法国と新大共和ケーシスの橋渡しのような役目となりたいということでしょうか?」
「はい。その通りです。女王エジプタスは、この世界に経済の利点を説きました。国と国とが経済で結ばれることによって争いを軽減しようという思想です
経済によって平和を維持させることに成功しました。
認め合える要素がいくつか生まれれば、すれ違いの争いも減ります
また、マット商会は、ワグワナ法国の中でも指折りの商会ですから、新大共和ケーシスにその技術や製品を提供することもできるはずです
ワグワナ法国にだけ情報を渡すわけではないということです」
検閲官テラスは、また違う方向をみたあと、頷いた。
「分かりました。その言葉を信じましょう。では、マット商会は、新大共和ケーシスとどのような貿易をお望みでしょうか?」
「わたしたちマット商会としては、新大共和ケーシスへの参入を希望したいと思います
新大共和ケーシスにも、店を構えて、やり取りが可能になれば、大きな国際貿易の足掛かりにもなるのではないでしょうか
さすがに軍事的なものを提供することは、ワグワナ法国から禁止されると思いますが、その他のワグワナ法国の品や食品の提供などもできると思います」
「そうですか。ですが、新大共和ケーシスには、それらはあまり交渉の材料となるとは思えません。まだ、半年ですが、自給自足ができ、これからはさらに収穫を増していくと考えられますからね」
「確かに、壁の外の露店の品々をみせていただきました。それらはどれも大きく育ち、栄養価が高いと思われました。ですが、品ぞろえが豊富だとはいいがたいのではないでしょうか。ワグワナ法国では、数十倍もの種類の食べ物や飲み物などがあり、それらを提供することができます」
「テンドウ様の言う通り、食品の品ぞろえは多くはありませんね・・・。マット商会では、それら多くの品々の種子なども提供していただけるのでしょうか?」
「種子・・・ですか?それはもちろん、簡単に手に入れることができますが、わざわざそれらを育てようとお考えなのでしょうか?」
「はい。新大共和ケーシスが他国よりも勝っていると思われる点の1つは、農法だと考えています。種子さえ手に入れば、品質のいいものを育て上げることが可能だと思っています。わたしも一応、今でも畑を持って育ててもいるのですよ」
「審査官も農業をされてるのですか。農業が盛んなのですね。あれだけの良品を育て上げるのですから、さぞ素晴らしい農法技術をお持ちなのでしょう」
「テンドウ様。どのような貿易をマット商会と行っていくのかは、貿易部門の者たちと打ち合わせをしていただくこととなりますが、新大共和ケーシス、そして、首都ハーモニーの入国を許可いたします
ですが、マット商会の中でも、許可を下りているのは、テンドウ様だけです
他の方が入る時は、また同じように精査させていただくことになります
今回は、新大共和ケーシスの見学が目的ということですから、どうぞご自由に見て回っていただいて結構です
ですが、新大共和ケーシスの品物は、買って勝手に他国で売ることは禁止とされていますのでご了承ください
案内は、ミカエルが致します
そして、入国される時は、この赤い腕輪を付けてください
これにより他国からの来客だと街の中の人たちも判断できるようになるからです
この腕輪には、不正防止などの機能もありますので、ご注意ください
入国中は、この腕輪は外すことは禁止とさせていただきます
よろしくお願いします
もし、ご興味があれば、どのような農法を行っているのかもお教えできますので、ご見学されてはどうでしょうか」
「農法の技術を教えてくださると聞こえたような気がしましたが・・・」
「はい。新大共和ケーシスの農法は、秘匿情報ではありませんので開示しております」
「え・・・よろしいのですか?!」
「はい。リリス・ピューマ・モーゼス様もセルフィ様も、この農法については世界中に広げたいと願われています
食料不足によって戦争が起こされる場合もありますので、そのような悲劇が起こらないためにも無料で提供しています
ですが、これらの情報を悪用するのであれば、今後の新大共和ケーシスの入国は禁止となりますので、これもご注意ください」
「マット商会は、そのようなことは致しませんのでご安心ください」
「そうであることを願います。そちらの腕輪は、今後また新大共和ケーシスに来られた時にも利用できますのでお持ち帰りしてくださって結構です」
テンドウは、赤い腕輪をはめようと左手に持っていくと、その腕輪が自動的に変形して、丁度いいサイズに固定された。
これも・・・物質モンスターなのか!?
このモンスターが監視しているということか・・・。
ミカエルの案内に合わせて、テンドウは、新大共和ケーシス首都に入ることとなったが、見た事も聞いたこともない光景が、広がっていた。
壁の外だけでも驚いていたが、中はさらにその上をいっていた。
未知の世界だと思わされた。