170章 海2
ミカエルからの報告が入った。
『セルフィ様。リリス様。新大共和ケーシスの村デジーにまたしても、多くのモンスターが生まれ始めているようです』
『また、あのデジー村なのか?』
『はい。前回、海と呼ばれるスタンピート現象が起こった村から近い遺跡にまた発生しているということです
デジー村の領主マギー様にも、報告はしていますが、デジー村内の冒険者と兵士だけでは、対処できない可能性があると考えられます。セルフィ様』
リリスは、聞き直した。
『でも、前回のように対処できないほどの数にはなっていないのでしょ?』
『はい。今のところモンスターの数は、一千程度、確認され、3つの遺跡から発生していると思われます
デジー村でもなんとかそれ以上増やさないように対処は出来る程度です。リリス様』
『セルフィは、これから帝国に行く予定があるのよね?』
『その予定だったけど、この問題が収まるまでは待ってもらうことにするよ』
『いえ、新大共和ケーシスで起こった問題だから、わたしたちで何とか解決してみるわ
前回は、兵士たちの訓練が行き届いていなかったけれど、あの時よりもここ数カ月でみんな成長しているわ
あとは実践を体験させてあげたいの』
『分かった。でも、ロックとローグ・プレスにも連絡をして、レジェンドからも援軍を送れるように頼んでおくよ
それでも対処できない場合は、すぐにおれに連絡してくれ』
『ありがとう。やってみるわ』
リリスは、エリーゼ・プルとバーボン・パスタボに連絡した。
『リリスだけど、前回海が報告されたデジー村に、また一千近くのモンスターが発生していることが分かったわ
今回は、新大共和ケーシスの兵士で対処してほしいの』
エリーゼ・プルが、ハキハキとした声で応える。
『分かりました。リリス様。お任せください』
エリーゼ・プルは、バーボン・パスタボと一緒にミカエルとデジー村の領主マギーから詳しい情報を聞き出した。
デジー村から10km圏内にある三カ所の遺跡からモンスターが多く発生していた。
新大共和ケーシスの兵士は1万。防衛に2000人を残したとして、8000人の兵士が使用できる。
新大共和ケーシスにあるマナソースは、1万で、5千は、レジェンドに待機されていた。
8000人の兵士と2000匹のドラゴネットを連れて、マナソースで瞬間移動して、向かうことができる。
さらに、レジェンドからの援護が要請できる。
ロックとローグ・プレスに連絡を付けて、レジェンドからは、500人のBランクを超える精強な兵士とマナソースを積んだ人型ソースが、500体援軍としてデジー村に向かえるということだった。ハーモニーの兵士たちは、元ボルフ王国の兵士以外は、農民だったので、Cランクに行くか行かないかといったところだった。
女王リリスは、首都ハーモニーにいてもらうことになり、すぐにそれらの兵士をデジー村に召集させた。
デジー村の外は、セルフィが以前戦った時の痕が、まだ残っている状態だったが、その場所に、新大共和ケーシスの兵士8000とドラゴネット2000匹、そして、レジェンドの兵士500とミカエル人型が500体、デジー村を守るように待機した。
マナソースによって、瞬間移動で到着した。
デジー村の村人たちは、次々と突然あらわれ、いつの間にか大軍がデジー村に集まったことに驚く。
エリーゼ・プルとバーボン・パスタボ、そして、ロックとローグ・プレス、デジー村の領主マギーが、集まり軍事会議をはじめる。
中心となるのは、新大共和ケーシス兵団長エリーゼ・プルだった。
「これから3つの遺跡を同時に、制圧したいと考えています
新大共和ケーシスは、4000人の兵士と1000匹のドラゴネットの2隊に分かれて、南遺跡は、わたしエリーゼ・プル。そして、西遺跡は、バーボン・パスタボで対処しようと考えています
わたしたち新大共和ケーシスの兵士たちと比べて、レジェンドの兵士の方々は、A級クラスにも劣らない力があると考えられますので、東遺跡には、ロック様とローグ・プレス様が率いるレジェンドの兵士500人と人型ミカエル500体で、制圧してほしいと考えています
デジー村の防衛は、デジー村の冒険者と兵士たちに任せようと思いますが、どうでしょうか?」
ロックは、頷きながら答える。
「俺は、それでいいとは思う
でも、ロック様という言い方はよしてくれ
俺はエリーゼたちを仲間だと思っているからロックと呼び捨てにしてくれ」
「分かりました。ロック
新大共和ケーシスのために、援軍ありがとうございます」
ローグ・プレスは質問する。
「エリーゼ殿。レジェンドの兵士たちは、A級に近い力を持っています
さらに戦争は数回行い、実践経験があります
遺跡探索も毎日のように行われていますので、一番モンスターが多いとされる南遺跡をわたしたちレジェンド兵が担当してはどうでしょうか?」
「援軍に来ていただいた方々に、一番大変な戦いを任せるのは、やはり・・・気が退けます・・・」
「ロック殿もおっしゃいましたが、わたしたちは、仲間です
今回、新大共和ケーシスの兵士たちは、初の実戦になります
もちろん、遺跡探索はしていたとは思いますが、軍全体で遺跡に挑むのは、はじめてのことでしょう
そこで、ひとりでも死傷者が出たとしたら、それこそ仲間を失い損害となります
今回は、新大共和ケーシスの兵士には、実践ですが、なるべく被害がでないように動かすのが指揮官としてベストな選択ではないでしょうか」
ロックも、ローグ・プレスの意見に賛成のようだ。
「分かりました。では、レジェンドの皆さんには、南遺跡をお任せします
マギー殿は、デジー村の防衛を固めて、民がひとりも傷つけられることがないように守りを固めてください」
「分かりました。エリーゼ・プル様」
南遺跡は、敵600体 レジェンド軍
東遺跡は、敵200体 エリーゼ・プル 兵士4000人と1000匹のドラゴネット
西遺跡は、敵200体 バーボン・パスタボ 兵士4000人と1000匹のドラゴネット
デジー村の防衛マギーと冒険者
それぞれが、各自散開して、準備し行動に移す。
新大共和ケーシスの兵士たちは、各自隊列を組んで、5km先の遺跡へと向かう。
3000の歩兵の数とドラゴネット1000匹に乗る飛行部隊によって、デジー村を突破するモンスターがいないように警戒しながら進んだ。
新大共和ケーシスの兵士たちの半分は、農民兵から育て上げた者たちだったが、今では、C級クラスにとどくほどの兵士の力を擁していた。
源にその実力を認められ、ローショット(アサルトライフル)の使用を許可されたルシル・ピアゴは、ここぞとばかりに暴れまわっていた。
ルシルは、単独で、20匹いるモンスターの集団の中に入り込み、まるでヌンチャクを振り回すように、銃を回しながら、四方八方に弾を発射していく。
まわりをモンスターに囲まれている状態がルシルにとって一番、おいしい配置となる。
一般兵には、ミカエルの支援は限定されているが、ルシルは、位置把握だけにしぼってミカエルの能力を利用して、あとは自分の身体的能力だけで、数秒のうちに20匹を蹴散らした。
一発一発は、銃にマナが少し宿った程度の威力だが、アサルトライフルによって連射された弾は、一匹に数発命中して、モンスターを絶命させていた。
ソ連による最高傑作とさえいわれるアサルトライフルの威力は、この世界のモンスターにも有効だった。
ドラゴネットに乗る兵たちによってモンスターを空から発見しては、ミカエルの通信によって報告がされ、そこに隊形を維持した兵士たちが、囲い込み、確実に対処していった。
ミカエルによって文字で東と西の部隊に表記される。
【エリア1、エリア2、エリア3、エリア4、、、、クリア】
【エリア1、エリア2、エリア3、エリア4、、、、クリア】
東遺跡と西遺跡は、なんとか制圧できると思われた。
一番数が多く発生していた南遺跡は、600匹ものモンスターが遺跡のまわりに散らばっていた。
ソロモン・ライ・ソロの指示に従って、500人のレジェンド兵士は、固まって真っすぐ南遺跡へと向かった。
固まった兵士たちとは対照的に、広く大きく進行していたのは、ミカエルのソースだった。
大量のソースが、一匹もモンスターを逃さず、把握して、各自レジェンド兵士へと通達される。
レジェンド兵士は、B+級クラスが多く、ソロの指示がでるとすぐに行動を起こして、移動した。
【速度向上】【防御向上】のスキルを発動させて、その移動速度を増さしていた。
発見したモンスターは、前回と同じオークとオーガだった。
オークはC-級モンスター。そして、オーガは、C+級モンスターだ。
相手は、10匹で、レジェンド兵士は5人。
しかし、連携はレジェンド兵士が上だ。
レジェンド兵士は、慣れたように、マナで先制攻撃を発動させ、目をくらまし、接近戦をしかけて、モンスターの急所をカーボンナノチューブの武器で切裂いていく。
装備している武具の性能が圧倒的に違う。
カーボンナノチューブの武具は、軽くて、ダイヤモンド並みの強度を誇る。
しかも、兵士たちは、セルフィの人工核によって強化されている。
限界突破できる兵士たちは、戦えば戦うほど強さを増すことが出来る。
そして、能力追加珠によって一般の兵士よりもスキルやマナを多く保持している。
モンスターが2匹同時に襲いかかったとしても、はやぶさ斬りによって、難なくモンスターを蹴散らしていった。
それだけの力になると少人数で動いたほうが、融通が利いて安全にさえなる。
各方面に、少人数が送り込まれては、それらを制圧していった。
戦えば戦うほど、その力を自分たちのモノにしていく。
こちらは、Bクラスが、500人。そして、相手は、Cクラスモンスターが600匹。
数こそ負けていたが、圧倒的にレジェンド兵が上回っていた。
ミカエルの表示によってレジェンド兵に状況が文字で報告される。
【エリア1・エリア2・エリア3・エリア5、、、、クリア】
ロックとローグ・プレスが出るまでもなく、制圧していく。
問題が起こったのは、発生数が少なかった東と西の遺跡だった。
新大共和ケーシスの兵士たちを吹き飛ばすほどの力を持ったモンスターが現れた。
エリーゼ・プルがみたその相手は、オーガでも、オークでもなかった。
「魔族?」
「はははは。人間ども、我らに蹂躙されるがよい!たかが人間ごときが、我ら魔族と戦えることを喜ぶがいい」
吹き飛ばされた兵士たちは、速やかに他の兵士たちによって、後ろへと運び込み、新しい兵士が、魔族の前に立ちふさがる。
ファイアボールやエアーカッターなどのが魔族に打ち込まれるが、まったく気にすることもなく魔法をはじいて、魔族は、堂々と歩いて、兵士たちに近づいた。
「人間にしてはお主ら、やるではないか。それほどのマナを使えるとはな。だが、魔族の体には、傷一つ付けられんがな!ガハハハハ
A級を超える魔族の・・・」
と話している間に、魔族の頭は、首から斬り離されていた。
新大共和ケーシスの兵士たちが、マナを発動させていたが、その攻撃を隠れ蓑にするかのように、エリーゼ・プルが、攻撃を加えていた。
連携通りの成果を出した。
【即斬居合斬り】
魔族の探知をかいくぐり、隠密気配で、近づき、ミカエルの処理能力がエリーゼ・プルだけに集中され、時間は凝縮、素早く斬り込んでいた。
魔族の体は、その後、赤い炎で燃えていく。
ファイア系ウェポンにより武器は強化されていた。
その様子を伺うように、空の上に、アイスドラゴンのフレーに乗ったリリスが、見ていた。
兵士たちを吹き飛ばすほどの魔族が現れたことを気にして、瞬間移動で、フレーと共に、首都ハーモニーから戦場にまで来ていた。
エリーゼ・プルは、速やかに、はやぶさ斬りで、さらに魔族の体を切り払い確実に始末した。
『リリス様。来られたのですか?』
『ごめんなさい・・・魔族が現れて、死傷者が出るかもしれないと思ったからつい来ちゃったわ・・・エリーゼ・・・あなた、本当に強いのね』
『これでも新大共和ケーシスの総軍団長ですから、鍛えていますよ』
エリーゼ・プルは、日中の訓練が終わった後は、遺跡にバーボン・パスタボと入って、ギリギリの戦いを自分たちに課して、毎日のようにレベルを上げていた。
成長限界さえも突破させる人工核がある限り、強くなっていけるからだ。
その力は、A+に迫るものだった。
もちろん、同じようにバーボン・パスタボも強さを増していた。
西遺跡にも、違う魔族が現れたが、すぐにバーボン・パスタボがカーボンアックスで打ち砕いた。
報告に上がっていたモンスターは、200匹だったが、実際は、遺跡内部も含めると300匹を超えていた。
しかし、3000人の歩兵隊だけで、怪我することなく制圧することができた。
一番、モンスターが発生していた南遺跡は、部隊長であるロックとローグ・プレスがまったく出る機会もなく、600匹を超えるモンスターは、制圧された。
バラバラになって攻撃をしかけてくるモンスターに対して、隊列を組んだ、新大共和ケーシスとレジェンドの兵士には、手も足も出ることなく、海の予兆は、回避された。
デジー村の村人たちから、助けに来てくれた兵士たちの噂は広がり、新大共和ケーシスの村々に伝わっていった。
まだ、作られて半年足らずの国であっても、民を守ってくれるほどの強さがあることを証明したとして、信頼がさらに増し加わった。
税率がボルフ王国と比べてあまりにも小さいのに、その対応は、ボルフ王国では考えられないものだった。
瞬時に現れた兵士たちのことも噂が流れて、安心して住める国になるのではないかと期待が高まっていった。
海の余波が続いたデジー村には
アドバンスドヘビーマシンガン→ビッグショット
アサルトライフル→ローショット
が、置かれることになった。
もちろん、クリスチャンの兵士だけが使えるもので、デジー村の冒険者は使えないが、もし、想定外のモンスターが現れても、防衛できるように用意された。