17章 ロック対はじめ
セーフティエリアの構想が、着々と現実味を帯び始めた。まったくこの世界の情報を知らないが、今自分たちにできることをしていき、それなりの形になったら、次は世界を調べることになって行くだろう。そして、そこで何かトラブルになれば、またここに逃げて来ればいい。
欲を言えば、このようなセーフティエリアを別のところにも確保したいところだ。
あとは、ウオウルフとの共存だ。彼らも仲間になることで、やれること、安全の確保もできるようになるだろう。だけど、その反面、問題も増えていくだろう。
何が利益になり、何が不利益になるのかも想定して共存していく必要がある。
そして、今日、ウオウルフの主力をここに集めるように、ウオガウに伝えておいた。
そこで、ウオウルフに、安全の徹底を強いるつもりだ。
もちろん、ウオウルフが、そこで裏切り、総力をかけて攻撃してくる可能性もある。だから、ロックには、グラファイト装備で万全で臨むことを前日に話をしてある。
もしかしたら、ウオウルフ総力との決戦になるかもしれない。前回は23匹だったが、今回も同じぐらいの戦いになる可能性もあるのだ。
あの時は、ほとんど裸状態で、木で造った服しか着ていなかったが、今回は鎧もあれば、武器もある。
20匹程度なら守り切れるだろう。
ウオガウには、まだ、ロックハウスなどの話は当然していない。
もしかすると気づいているかもしれないが、もしもの時は、ロックハウスの中に避難することになる。
ロックハウスでも危険だと判断したら、ロックハウスごと、リトシスで空を飛び、違う土地を探す予定だ。
違う土地にいって、ウオウルフとも会うことがなければ、もう争う理由もお互いに、なくなるはずだ。
今日は決戦になるのか、それとも本当に共存できるのか分かる。
朝から、ロックと源、そしてフォルは、グラファイト装備をして、万全を期す。
その姿のまま、朝食を準備して、ウオウルフとの会合の時間を待つことにした。
朝食を食べ終わると、ロックは、源に提案してきた。
「源。少し戦闘の練習で、手合わせをしないか?」
「ロックと・・・?」
「フォルとしてもしょうがないだろ」
「それもそうだけど、俺もロックと戦えるとは思えないけどね。手加減してくれよ」
こどもの大きさの源からすると、ロックの大きさは巨人だ。
ウオウルフの毛皮を着て、また風格があがったように見えるから、ロックと手合わせというだけで、怖い気がする。
「練習だからもちろんさ。でも、そうやって訓練を積むのもこの世界では、必要じゃないのか」
確かにそうだ。源は中学生までは、柔道をやっていた。始めたのは、小学校からで、それまでは柔道をしていたので、格闘技経験は0ではない。
でも、源はあまり競技には不向きな性格をしていた。
決して弱いというわけではなかったが、競うという想いがあまりない性格だったので、相手に負けたくもないが、勝ちたくも無かった。だから力を柔道では発揮することができずに、高校からはやめてしまっていた。
でも、ここでは、競技ではなく、本当の戦いで、負けは死ぬことと直結する。
源の精神力の強さは、本質をつくことだ。
相手が悪だと認識した時は、明確な意思を持って相手を裁く。
競技では、相手は悪ではなく、同じレベルの大義なので躊躇したが、ウオウルフの時のように、相手が一方的に攻撃してくるようなら、必要なだけの強硬手段を取れるようになる。
たまに、悪人にも愛を示すという人もいるが、それは源たちの時代だから言えることで、イエス様の愛が理解できるようになるまで、人々はひとつずつ階段を登るように成長してきたのだ。急に違う段階に飛び越えられるわけではない。こどもが少しずつ成長していくように、世界も少しずつ成長させていかなければいけない。
だから、聖書には、目には目を、歯には歯をという言葉が書かれている。
拉致され、拘束された時にも、相手の喉に器具を刺した行動力も相手が常軌を逸した犯罪者だと認識したからだ。
必要な裁きならそれを感情論ではなく、実行できるのが、源だということだ。
それは聖書の教えでも同じだった。聖書は決して偽善的なものではない。
イスラエル人は、善を正義として民を形成させていたが、カナン人は悪を正義として組織を成り立たせていた。嘘や裏切り、乱暴や姦淫などあらゆる悪で、イスラエル人の祖先を攻撃してきたこともある。人間のこどもを生贄にするという残酷なことも行っていた。カナン人の子孫、フェニキア人は、カルタゴで勢力を伸ばしたが、カルタゴが滅んだのもそのためだったという。カルタゴを発掘した時に、大量のこどもたちの心臓がなくなっていた遺体が発見されると、考古学者は、なぜ神はもっと早くカナン人を滅ぼさなかったのかと嘆いたという。彼らにとっては人間も動物も同じだったのだ。相手は動物だと卑下するのが彼らの正義だった。
イスラエル人は、悪を正義とする相手には、徹底的に裁きを下してきたのだ。それは時代が違うからで、この世界も源たちの価値観と同じだとは思えない。
だが、前回のウオウルフは、こちらが悪い点もあったかもしれない。でも、対話よりも先に攻撃を仕掛けてくるのなら、こちらも自衛するまでだ。そして、今回も、もし騙して襲いかかってくるのなら、相手をする。
そんな世界だからこそ、日ごろからの訓練もロックがいうようにとても大切なことだろう。
「分かったよ。ロック。手合わせしよう!」
源とロックは、フル装備で、湖前の広場で、模擬戦闘訓練を始めた。
ロックは、スピードはないかもしれないが、それでも、遅いわけじゃない。
ウオウルフたちもロックの攻撃を喰らっていたように、一般的なスピードはある。ロックアックスという重い武器を使っていても、当てるほどだ。
そして、何よりもパワーがある。源が、そのパワーにまともに競り合おうとしたら、負ける。そんなことは解かりきっていることだ。源にとっての武器は、相手の動きを先読みして、無駄のない動きから良い位置を確保することだ。
源は、ロックの状態をあらゆる感覚によって研ぎ澄ませ、その動きを先読みしようと集中した。
すると、ロックが、セカンドアックスを強く握り込もうとする。
そして、それを右側から左側に振り回そうとしていることが分かった。
それは分かったのだが、本気ではないので、途中で止められるのも、分かった。
ロックは練習だから怪我をさせたくないので、力をそれほど、入れずにいる。
源がその状況を造り出せばいいのだ。
そこで、源は、ロックが斧を止める位置まで、進んで行き、何も防御しないで、立ち尽くす。
ロックは、自分が振ろうとしている位置に、源がいつの間にか入ってきているのに驚き、セカンドアックスを止めた。
その止めたギリギリの場所に、源の首があった。
「おい!何やってるんだ?源!」
「ロックがかなりの力をセーブしていることとか、動きがまるわかりだったから、斧が止まるここに立っただけさ」
「なぜそんなことが分かるんだ?そんなもの、俺の気分次第だっただろ?もし、俺がそのまま軽くでも振っていたら、怪我をさせていたぞ」
「その時は、分かったから、避けていたよ。
ロックのセカンドアックスの握り方、その力のかけかた、表情、体の硬直や目の動きなど、あらゆる情報から、ロックは、ここで斧を止めることが俺には分かった。止めなければ、俺はここには立たなかった」
「本当にそんなことが分かるのか?」
ロックは、あの一瞬で相手が武器を止めるのかどうかを確実に解るなんてことは信じられないという顔をしている。源は、それをみて、どう証明しようかと考え、提案した。
「ああ。分かる。俺がグラファイソードをここに、かざしておくから、振りぬいても、振りぬかなくても、ロックが決めて、試してみてよ。振りぬくのなら、当たる一瞬に、俺は剣を引いて避ける。止めるのなら、そのまま1ミリも動かさないよ。これを何度か繰り返しても、ソードに当たらなければ、本当だってことだろ」
そういわれ、ロックは、考えた。本当にそんなことが分かるのか、分かるのなら、どのように自分は裏を取って欺くのかだ。さっきと同じ動き、右から左へと振りぬこうとしたら、簡単にそれは判断されるかもしれないが、違う場所から、違う動きで攻撃したらどうなんだ?それも顔がみえない状態にして、と考えた。
「分かったよ。本当にそれが分かるのか試してやる」
そういうとロックは、セカンドアックスを握りしめた。
そして、セカンドアックスを後ろに振りかぶろうとしているようにみせて、そのままグルっと体ごと回転させて、バックブローのように素早く攻撃して、そのまま剣に当てようと考えた。
廻し蹴りを手の裏でする攻撃だ。ロックができうる限りの速さで、不意をついての後ろ回転攻撃。
剣に当てるだけなのだから威力も特段制御しなかった。
セカンドアックスは、逆側から源のグラファイソードに襲いかかった。
ロックは、源がグラファイソードをまったく動かしていないことをみて、確実に当たると思って、アックスを振りぬいた。
だが、武器同士が当たる音は聴こえなかった。
ロックは、攻撃が当たらず、空気だけを切ったので、ふらついた。
「あれ!絶対に当たったと思ったのにな!」そういいながら、驚いた顔をした。
源は、グラファイソードを物凄い見切りで、わざわざギリギリで避けていたのだ
ロックは、ソードを切ったはずなのに、まるで影を切ったかのように錯覚してしまうほど見事な空振りだった。それほど完全に当たると思った瞬間だったのに、当たらなかった。
「なるほど・・・源には、振りぬかないで手加減する必要はないってことだな」
「ロックと対峙するまで、俺もどうすればいいのか分からなかったけれど、ロックとの訓練がはじまって、そう確信したよ。振りぬかないという手加減は、いらないね。ただ・・・全力のパワーは、まだよして・・・」
「わかったよ。これからは振りぬく時は、ためらわず振りぬく」
とロックがいうことで、振りぬかない時もあるという遠回しのやり取りをロックがみせた。
源は、次は、ロックの体からの情報でロックが振りぬくことを理解した。
右上から左下にかけてだ。源はガードすることもなく、自分の剣を下げたまま、見切りだけで、その攻撃をすり抜ける。剣を構えないことは、決して、ロックを舐めてのことではなく、剣をあげることで逆に死角などが邪魔をして、情報が欠如するからだった。
また、ロックは、空ぶって、空気を切ってしまった感覚に襲われるが、今回は、前回よりは、空ぶることを想定していたので、次の対応が早かった。タイミングがずらされたのを無理やりパワーできり返し、下から右へ、斜め横へとセカンドアックスを振りぬく。
源は2度のロックの攻撃をみて、余裕があると分った。3撃目のこの攻撃をかわすとともに、他に何かできることがあるだろうかと考えた。そして、ロックの下から横への攻撃を避けるだけではなく、自分の力も併あわせて、ロックが振りぬいている方向に、押してみようと思い、グラファイソードで、セカンドアックスの斧の首の部分を少し押してみた。もちろん、避けながらだ。
すると、ロックは、パワーで無理やり攻撃をしかけた攻撃にさらに源の力を加えられて、おもいっきりバランスを崩して、真後ろにズドーンと体をひねるように、倒れてしまった。
「まじか・・・」源は、つい口走った。
「まさか、投げ飛ばされるとは思わなかったぞ・・・」
「俺もそうなるとは思わなかったよ・・・」
その結果を分析して、愛が語る
『ロック様は、源の力で倒されたのではありません。ご自分のパワーで倒られたのです』
『なるほど・・・ロックは相当パワーがあるということと、それを利用してしまえるっていうことだな』
『そのようですね。源』
「ほんと、俺も驚いたよ。見えたから、押してみたらどうだろ?と思ってやってみたんだ」
「押してみたらか・・・フラフラで立ってられなかったぞ・・・」
源にとっては、ロックとの特訓は、とても為になると思った。練習だから、色々試せるからだ。
ウオウルフの時の戦いは、それを試すなんて余裕はなく、とにかく、相手を無駄なく倒すことを優先するだけだった。
でも、ロックからすれば、これが訓練になるのかと思えてしまう。
ロックは、源に聞いてきた。
「ウオウルフとの戦いで、源はかなりの敵を倒してたよな」
「うん。なんとかね」
「俺は自分のことで精いっぱいで、源がどうやってウオウルフを倒したのか、まったく見てなかったけど、今みたいに倒したのか?」
「うーん。今のは、はじめてやってみたよ。以前の世界では似たこともやってたけど、ここまでの効果は無かった」
源は柔道のことを言っているのだが、柔道といっても通じないと思ったので、遠回しにいう。
「ウオウルフの時は、相手の攻撃が当たる前に、相手の前に剣を固定して、相手の力を利用して、倒していったんだ。ロックとは違って俺はパワー負けしそうだったからね」
「すごいな・・・相手が攻撃をしかけて、その攻撃が当たる前に、倒したってことか?」
「そうなるね。この練習は、俺にはとても為になるけど、ロックにしては、役にたたないんじゃないのか?」
「そんなことないだろ。源のような敵が来た時、俺がどう戦えばいいのか、今のですこし想定できた気がするよ」
「なるほど・・・でも、武器が当たる感触とかも大切だから、少しずつ、力を込めて、打ち合いもしてみようか」
源がそう言うとロックもうなずいた。
ロックは、とても軽くセカンドアックスを横から源に向けて攻撃をした。
源は、ロックがまったく力を入れずに攻撃していることを判断しながら、ロックのパワーを一番衝撃を吸収して受け止められる地点にソードを立てて、受け止めた。
その時、また気づいた。衝撃がない・・・?
ロックは、同じ力でなるべく力を入れないように、次は、上から下にセカンドアックスを振った。
それを源は、一番パワーを的確に受け止められる位置と体位で、受け止めたが、また衝撃がない。
「ロック。一撃ごとに、力を入れていってもらえる?」
「いいのか?」
「無理そうなら、はやめに声をかけて、止めるから、それまで徐々に力をいれていってほしいんだ」
「分かった。絶対無理はするなよ」
そういうとロックは、先ほどよりも強めに攻撃をしては、受け止められ、そして、次の攻撃になる度に、力を込めていった。
1回、2回、3回、4回、5回
徐々に、源のグラファイソードとセカンドアックスが衝突する衝撃音が激しくなる
ズガン! ズゴン! ズガガン!
源は、その位置からまったく動かずに、ロックの攻撃だけを受け止め続けるが、どこへの攻撃も、衝撃が感じ取れない・・・
ロックは、徐々に力をいれていくが、かなりの力で振り始めていた。大丈夫なのか?という想いがありながら、受け止めている源の余裕のある状態をみて、さらに力を入れていく、もうほぼ、全力に近い力で、源に振り下ろしたが、源の様子は変わらない。
源は、変な感覚に陥っていた。ロックから得られる情報では、本気で打ってきているはずなのに、その衝撃を感じ取れない、ロックが騙す方法を手に入れたのか?と思うほど、衝撃がないのだ。
でも、衝撃音はすごい。そこで、確かめるために、ロックが上から下へと凄い勢いで、振り下ろしてきた攻撃を逆に源が、受け止めるのではなく、反発して、押してみることにした。少しだけ、力をいれて、上から下の攻撃に対して、下から上へと突き上げた。
すると、ズガーーーン!!というすごい音がして、セカンドアックスと一緒に、ロックの両手が手首から吹き飛んだ。
「ぐわっ!」ロックは、吹き飛ばされるように、後ろに万歳した状態で倒れ、ロックの両手は、セカンドアックスとともに、後ろに飛んでいった。
「えッ!!大丈夫か!ロック!」
源は驚いた。まさかこんな結果になるとは思わなかったからだ。
「グググッ」と吹っ飛ばされ、仰向きに倒れたロックは、痛みを我慢しながら、上半身を両ひじを使って自力で起き上がった。そして、ロックは両手をみたが両手は、無くなっていた。
源は、もの凄く慌てふためいた。起こった結果が理解できない。何が起こったんだ・・・。
すると、ロックの手は、ズズズと自然と生えてきた。そのまま、ロックの手はすべて元にもどり、指まで治った。
「治ったぞ・・・!」
ロックも何が起こったのか分からず、驚きの声をあげた。
源は、もっと頭が混乱した。ロックの手が吹っ飛んで、ロックを傷つけてどうしようかと混乱していた中、なぜかロックの手がすぐに回復したからだ。何が起こっているのか分からない。
「ははは。治ったぞ。源!」とロックは笑っていた。
源は笑えない・・・。
「なんで治ったんだ・・・?笑えるな」
「笑えないって・・・」
源は、もの凄く落ち込んでいた。仲間のロックを傷つけてしまったことにショックを受けた。その様子をみて、ロックは言った。
「大丈夫だって、ホラ。俺の手は、もとどおりに動く」といって、手を広げたり閉じたりして、源にみせて、励ます。
「大丈夫ならいいんだけど・・・本当にごめん・・・」
「いいって、治ったんだからさ」
なぜ治ったんだ・・・・リトシスの新しい能力が発動したのか・・・?
『源。これはわたしの憶測ですが』と愛が発言すると、源は光をみたように、愛に問いかけた。
『理由が解るのか!?愛』
『源のリトシスの能力によって、源への攻撃が無効になっているのではないでしょうか?』
『攻撃無効?』
『はい。普通の石を軽石に感じることもそうですが、実際は重さがあるものを無効にしているように、相手の攻撃を無効化してしまっているかもしれません。源』
『そうなのか!』
『おかしい点としましては、同じグラファイドで作った素材の武器なのに、源の持っているグラファイソードは傷ついておらず、セカンドアックスのほうが傷ついていることです』
『なに!?』
それを聞くと、源は、飛ばされたセカンドアックスを取りに行って、きちんとみてみると、確かに、グラファイソードは、原型のままだったが、セカンドアックスは、一部形を変えていた。特に最後の攻撃の時の衝撃が激しかったのか、セカンドアックスの刃が少しだけ欠けていた。
「源。何か分かったか?」源がセカンドアックスをまじまじと見ているのをみて、ロックが声をかける。
「正確には、分からないが、もしかしたら、リトシスが発動して、ロックの攻撃を無効化していた可能性がある」
「なるほど・・だからあれほどの攻撃を受け止めていても、ビクともしなかったのか」
源は、巨大な岩を運んできたが、あれほどの巨大岩さえも、持ち運び、重さを無効化したと考えれば、俺の攻撃を無効化したのも頷けるとロックは考えた。
「グラファイソードとセカンドアックスは、まったく同じ素材で作られているのに、セカンドアックスだけが欠損しているところをみると、そうなのかもしれない。それに、俺には衝撃がほとんど無かったんだ・・・」
「俺は最後は、本気だったぞ!それで衝撃が感じられなかったのか?」
「そうなんだ・・・。だから、最後は、少しだけ、反対側に押し出してみたんだ・・・そうしたら・・・」
「なるほどな・・・結果があれか。すごいな」
「本当にすまない。知らなかったんだ」
「だからいいって。知らなかったことも知っている」
そう話している間に、愛がさらに助言を発する。
『源。ロック様の手の回復もですが、もしかすると、ロック様は岩を蓄積できるのではないでしょうか?』
『蓄積?』
『ロック様は、数日前から、朝食や夕食に岩を食べられていました。体の中に岩を蓄積して保存していることで、自らの体を治したのかもしれません』
『ありえるかもな』
「ロック。ロックの手の回復は、ロックが朝や夕に食べた岩が、体の中に蓄積されていたからじゃないか?」
それを聞いて、ロックは少し記憶を振り返ってみる。確かに、必要もなくかなりの量を食べてた。
「食べれば保存できるってことか?」
「いや・・・分からないんだが・・・リトシスの効果で治したとは思えないんだよね・・・その治ったのは、ロックの能力だと思う・・・憶測だ」
「確かに、岩を食べれば体が治るのは、前から知ってたから、それをさらに保存していたというのは新発見だな」
ロックは喜んでいたが、源は心から喜べない。事故とはいえ、かなりショックを受けてしまった。
ロックは、気持ちを切り替えたのか、キリッとした声で、言った。
「そろそろ時間だぞ。源。お遊びは終わりだ。ウオウルフたちが来る時間だ」
ロックが心から本当にお遊びだったということを真剣な顔と声で話してくれたおかげで、源は少し救われた気分になった。
でも、ウオウルフたちとのやり取りで、俺たちの安住の地がどうなるのかが、決まることになる。
ロックのいうように、本当の戦いはこれからだ。
源にとって今の事故で仲間を傷つけたというショックを受けてしまい放心状態に陥ったが、次は事故ではなく、故意にウオウルフたちが、仲間を傷つけてくるかもしれない。
ウオウルフとの命がけの決戦になるのか、それとも共存できるのか、この会合でわかる。他のことを考えて落ち込んでいる時ではない!