165章 龍の壁
源は、レジェンドの司祭様に会いに行った。
「セルフィ様。どうかされたのですかな?」
「司祭様。以前、司祭様から教えていただいたヨシュア村に足を運ぼうと思ってるんです
ヨシュア村は、首都ドラゴからもレジェンドよりは近いですからね」
「そうですか。ヨシュア村は、私の古くからの友レヴィンチ・タダが司祭をしておりますところですじゃ
是非、会ってくださいませ」
「司祭様のご友人なのですね」
「はい。そうですじゃ。もともとレヴィンチ・タダはロー村で生まれ育ったのですが、司祭として40年前にヨシュア村に赴いたのですじゃ
ですから、レヴィンチは、ロー村についても詳しいですな」
「では、司祭様もヨシュア村にわたしと行きませんか?」
「いえいえ、わたしはレジェンドのことがありますし、今週も礼拝を行わなければいけないので、無理ですじゃ
確かにレヴィンチ・タダとは死ぬ前に一度はまた会ってみたいですがの」
「司祭様。わたしには転移スキルがあります
ミカエルのソースはすでにヨシュア村を発見していますから、移動可能です
隣の家に行くようにヨシュア村にもユダ村にも行けるんです」
司祭様は、細い目を大きく開いて驚いた。
「おぉー!そういえば、そのような能力を持たれておられたのですの。すぐに戻って来れるというのなら、わたしもお願いします
あ奴も驚くことでしょう」
「これからは何度でもご友人と会うことができますよ
リリスも瞬間移動魔法が使えますし、ミカエルも一日5回までなら、移動可能です
ですが、突然、行ってもいいものでしょうか」
「突然、行っても大丈夫ですじゃ。何の問題もありませんですじゃ
それにしても、瞬間移動とは便利なものですのー」
アポを取って許可されてから出向くのは、現世では当然のようだけど、ここには電話さえもないので、突然、訪問するのはそれほど問題ではないようだ。
源は、ロックとフォルも連れて行くことにした。
ロックは、いつもレジェンドの防衛のために待機してくれているので、こういう時は誘うことにしていた。
そして、4人で、時空空間ゲートを通って、ヨシュア村の外に移動した。
移動してとても驚いた。
物凄く高くて大きな壁が、地平線の彼方にまで長く続いていた。
万里の長城を実際にみたことはないが、その壁の2倍はあるんじゃないかと思わせるほどの大きな壁だった。万里の長城は、宇宙からでもみえるといわれているほど大きな壁だが、それを超える高さをみて驚愕してしまった。
「なんだ・・・この壁・・・」
ロックも源と同じように驚いていた。
「ほほほ。セルフィ様たちは、この壁を見るのは始めてですかな
これは龍の壁と呼ばれる龍王が建設した巨大な壁ですじゃ」
「龍の壁・・・ですか」
「龍王ヒデキアは世界を統一した方ですが、世界といっても、わたしたちが知りうる土地のことを指し、それ以上先には、まだ世界は続いているのですじゃ
本当かどうかは分かりませんが、空の上にも、土地があるという噂もありますのじゃ
ですが、この龍の壁の向こう側は、あふれんばかりのモンスターがおり、龍王の力によってなんとか退け、壁を建設したのですじゃ」
「つまり、壁の向こう側は、わたしたちが住んでいるよりも多くのモンスターが溢れかえっているということですか?」
「わたしは、見たことが無いので、本当かどうかはわかりませぬがの」
「司祭様。見てみましょう」
そういうと、リトシスで4人は、宙を浮いて壁の上にまで移動してみた。
『壁の高さは、25mです。万里の長城の約3倍です。源』
3倍か・・・まー高さも凄いけど・・・長さがとんでもない・・・俺の強化した目でみても、終わりがみえない
龍の壁の頂上に足を運んだ。10mほどの厚さの道が続いている。
やろうと思えば、馬車でも移動可能だろう。
そして、壁の外側の方を覗き込んだ。
「なッ!!」
「なんだこれ!」
ロックも声を出す。
大量のモンスターたちが、壁をよじ登ろうとしていた。
壁から幅、10mほどに集中してあつまっていて、そのさらに外側からはモンスターの数は減っているが、驚くのは、長い壁に沿ってモンスターが大量にいることだ。
「なんですか!?こいつら!」
司祭様も少し青ざめた顔で答える。
「わたしも始めてみましたので、よくは分からないですじゃ・・・まさかこれほどとは・・・」
これ・・・龍の壁がなかったら、一体どんな世界になるんだろう・・・
龍王が作ったドラゴネル帝国は、わざわざ世界でもモンスターが出現するのが多い場所を選んで建設されたという。
普通の土地に比べて、首都ドラゴ付近にある遺跡の数は、2倍にも及ぶ。
それは、世界にモンスターの数を減らして、人が住めるためのもので、冒険者組合もそのために古くから設立されてきたものだった。
遺跡のことならそれで対処できよかったのかもしれないが、この大量のモンスターが、殺到していたとしたら、今と同じように安全に暮らせていたのかと疑問が残る。
源は、壁に群がるモンスターを凝視する。
モンスターを見る分には、知的レベルは、D以下のようだ。
もしかしたら、龍の壁の中の遺跡は、モンスターの出現率が低く、本当は、遺跡からはこれと同じぐらい大量にでるものなのかもしれないと思った。
『龍王は、約500年の長い時間をかけて、龍の道を建設したと記録にはあります。源』
『500年か・・・500年もなのか、それともたった500年でなのか解らないが、相当な労力が費やされているぞ・・・レジェンドやハーモニーの壁を作り、守るだけでも大変だったのに、龍王は、世界そのものに囲いを作ったということだろ?』
『そのようですね。源。広さによれば、2万キロ×3万キロの囲いのようです。現実の世界のヨーロッパ以上の広さであり、ロシア領土と変わらない広さに、このような壁を建設したようですね』
『とんでもない広さだな・・・北海道とかならまだギリギリ理解できても、その広さに、壁を建設するなんて・・・』
源は、龍の壁の岩を叩いてみた。
カッカッカ
という音がする。強度も相当なものだ。
ロックが、その様子をみて聞いてきた。
「どうしたんだ?セルフィ」
「いや、この壁の素材は何で造られているのか知りたくてね」
『グラファイトのようです。源』
『はああああ!!???グラファイトぉ?』
『はい。そのようです。壁全体が、グラファイトではないようですが、壁のかなりの厚さに渡ってグラファイトが使用されています。源』
『おいおい・・・この巨大で途方もなく長い壁がグラファイトってありえないだろ・・・』
『どのように作られたのかは不明ですが、グラファイトが使われていることは事実です
それに、どのようにしてなのかは分かりませんが、モンスターを退ける何かがほどこされているようです。源』
核でも使用されているのか?いや・・・核は寿命がある。体から切り離されて、何百年も保持できるような核は考えにくい
源は、壁に群がるモンスターたちの様子をじっくりみてみた。
何だか、普通のモンスターではないように思える。
そういうモンスターがたまたま集まっているのか分からないが、狂気さのようなものを感じる。
目が赤くなっているモンスターも多い。
あまり近づきたくはない。
壁から離れた奥は、森になっていて、それほどモンスターはいないようだが、それでも、内側の世界と比べれば、モンスターの数が多い。
「セルフィ。俺たちは、壁の中で生まれてよかったな・・・」
ロックは、しみじみと声をもらした。
「本当だよ・・・」
こんな修羅道のような世界の遺跡でロックとフォルと生まれていたとしたら、助かったとは思えない。
今でこそリトシスなしでもなんとか戦える力が持てているが、この世界に来た時は、何も分からず、石を投げてなんとか、巨大サソリを倒したぐらいしか、力が無かった。
20匹程度のウオウルフとも戦ったが、最初からこの数で攻められていたら、生きていられたかは分からない。