164章 魔法壁とポーション
源は、速度強化を使いその効果を実感した。使いすぎることは危険を伴うが、S級ランクの相手には、効果的だと思われた。
さらに兵士たちから手に入れた魔法で、試してみたいものがあった。
それは、【魔法壁】だ。
スピードスターのパーシー・テシリやサムエル・ダニョル・クライシスが使っていたのは、リトシスで作り出した障壁ではないはずだ。
想定できるのは、物理障壁魔法や魔法障壁のマナだ。
S級クラスは規格外なので、参考にはならないが、スキルでそのようなものは、今のところ発見されていない。
パーシー・テシリは、今持っている俺の最高のマナである光線を受け止めて見せた。
あの時は、全力の光線ではなかったけどね。
その時のパーシー・テシリの魔法壁は、何層にも重ねつけられていた。
リトシスがあるので、魔法壁を使用する必要もないようにも思えなくもないけど、リトシスの弱点は、自分が認識しているものにしか作用しないところにある。
認知できない攻撃には、無効だ。
それを無理やり、愛は、認知しなくても、自分のまわりに固定された障壁を作り出すことができたが、それには、それを作り出し、持続させるための認識が必要で、神経を張り詰めながら行うので疲労もある。
なので、リトシスで常に障壁をかけ続けるということもできない。
それにリトシスの障壁をサムエル・ダニョル・クライシスは、何らかの方法で破壊した。新たな障壁で強化することが必要だろう。
魔法壁は、物理攻撃には、効果はないかもしれないが、魔法には効果があると思われる。
それを認知しなくても持続できるのであれば、ある意味リトシスよりも優秀だ。
まずは試してみよう。
【魔法壁】
源の体のまわりを白い光りがほとばしる。
炎弾を飛ばして、外からの魔法にどれだけ強いのか試してみることにした。
【炎弾】
巨大な20mの炎球を作ろうとしたが、源の体のまわりにはりめぐられた魔法壁の中で、炎弾は、大きくなることもできずに、燃え広がった。
「おい・・・炎に包まれてるし・・・・」
こっちの魔法も、外に出せないじゃないか!
「ダメだ!これ欠陥魔法だ!!」
『魔法壁の熟練度が足りないからかもしれません。源』
『そうなのか・・・。それにしても、試すこともできないじゃないか!効果が消えるまで、待たないといけないのか・・・』
10分経っても、20分経っても魔法壁は、消えなかった。
結局、2時間以上待って、やっと魔法壁は、消えた。
自分で出したものは、炎弾のように自由に消せるようにしてほしい・・・これも熟練度の関係なのか・・・
源の繰り出すマナは、威力も桁違いなら、その及ぼす持続効果時間も桁違いだった。
やっと魔法壁が、消えたところで、次は、発動させる前に、空に浮かびながら、自分の1km先に、大きな時空空間ゲートを出した。
炎弾を全力でぶつけたとしても、その衝撃はたかが知れているので、源の属性である光魔法を使うことにした。
源は、パーシー・テシリの時とは、比べ物にならない威力のライトレイをマナ力の半分の力で、放った。
【光線】
全力で行えば、へたをすると死んでしまうと思ったからだ。
光線を放ったあと愛の補助を使って瞬時に
【魔法壁】発動
光りの速さで、源の場所から1kmのゲートを抜けて、真横からライトが、戻って来た。
ズガガガガガガシューン!!ドガガガガガガガガガ!
という物凄い衝撃音と光が弾け、源のまわりの魔法壁からはねかえって、辺り一面四方八方に、光の粒子が飛び散った。
あまりにも巨大なエネルギーだったため、拡散した光線の光りは、辺り一面の大地の形を変えてしまった。
こ・・・・こんなことになるのか・・・・これが属性魔法の効果か・・・
『源。今まで観測したこともない巨大なエネルギーをぶつけましたが、魔法壁は中に衝撃を与えることはありませんでした。そして、その光りの曲がった地点と先ほどの炎弾との地点からすると、5mほどの厚い魔法壁が形成されているようです』
『確かに、体のどこにもダメージはないし、魔法壁にも異常が感じられない。
自分の魔法で怪我をしたくなかったから、魔法壁をほとんど全力で形成したからかな。
全力で攻撃側の光線を放ったら、どうなのかは分からないけど、これぐらいのエネルギーを持つ奴もそうそういないだろうから、効果があることは確認できたね』
『サムエル・ダニョル・クライシスのウェポン系マナと比較したとしても、防ぐ確率は高いと思われます。源』
『なら、大丈夫だな。後は、物理系の障壁魔法もいつかは手に入れたいな。
だけど、パーシー・テシリのように、魔法壁を何重にも重ねて行うのも、熟練度が必要だということだよね?』
『もともと生命数値にある熟練度の数値も大切ですが、マナやスキル自体の熟練度も必要になってくるようです。源』
『確かに、氷操を手に入れるまで、氷守の量を変えられないというのは、不自然すぎるからね。やっぱり、熟練度なのか』
『ですが、魔法壁の中から外にマナを打ち出す時に、リトシスを利用されてはどうでしょうか?源』
『あ・・・そうか・・・その手があったね。熟練度でまだ出来ないのならスキルとマナの併用だ』
源は、リトシスを発動し、自分のマナの性質を分析したものだけ魔法壁が素通りできるようにプログラム再編させた。
そして、魔法壁が持続させながら、炎弾を発動させると、次は、魔法壁の外にまで、炎弾が大きく膨れ上がった。
炎弾を時空空間ゲートに投げ込んで、リトシスで魔法壁を瞬間的に元に戻し、横からの炎弾を防いだ。
ズガーーーン!!
『魔法壁に損傷はありません。源』
『うん。そのようだね。戦いの時は、愛のほうで、この繰り替えをしてもらってもいいかな?俺がやると面倒そうだしね』
『分かりました。源』
『魔法壁をリトシスで変えられるなら、無理やり消すこともできるんじゃないのか?』
源は、リトシスを発動させると体のまわりの魔法壁を消滅させることに成功した。
できた!
『魔法壁が消滅しました。源。ですが、リトシスによってあらゆるものを通過させることができるのであれば、安全性のためにも常に魔法壁は張っておいたほうがよろしいのではないですか?』
『そうか・・・普段から使用しておいたほうがいいね・・・消す必要ないのか。でも、毎回2時間おきに魔法壁を張るのも面倒だからこれも愛に頼んでもいいかい?』
『分かりました。源』
『あとは、やっと手に入れたヒール系の魔法を使いたいところだけど、さっき足を怪我をした時に、使えばよかったよ・・・これからわざと怪我をするのは、何だか自傷行為をしているようで嫌だし・・・』
『そうかもしれませんが、源が現在使える回復と大回復では、怪我をした場所を塞ぐことはできますが、切断された足を元に戻すほどの効果はないと思われます。源』
『そうなのか。もともとあったプログラム通りに足を回復させるプログラムが形成されていると思ったけど、傷口を塞ぐだけのものが、ヒールなんだな』
『源のマナ力は、他とは比べられませんが、もともとあったマナを巨大にした効果なのを考えると、やはり、回復なども、足を元に戻すほどの効果を発揮するととは考えにくいですね。源』
リトシスは、治すというよりも、新しい体に作り変えて、つなぎ合わせるようなものだった。
源は、それも可能にするかもしれないヒール系マナに期待していたが、そこまで都合よくは作られてはいなかった。
『でも、ポーションなどでは、破損した体も元に戻せるんだよね?』
『作り出したそのポーションによって効果が違います。
ほとんどのポーションは、そこまで高性能ではなく、稀に破損さえも回復させるものが、作られるのですが、今でもそれは自由に生成されているわけではありません。
なので、兵士たちは、高いお金を払ってまで、効果があるのか分からない運任せのポーションを買おうとはしないのです。源』
『ポーションを製造している者であっても、効果を狙って作れるというわけではないんだな』
『はい。記録ではそうなっています。龍王の時代に、やっとそこまでの技術がもたらされたのですが、それから数百年経ったいまでも、同じです。源』
ポーションや薬草といえば、リタさんだな。
ミカエルの通信を利用する。
『すみません。リタさん。セルフィです。今よろしいでしょうか?』
『いいわよ。どうしたの?』
『リタさんは、妖精族の知識を持って薬草などを作っているんですよね?』
『そうね。今までは、ボルフ王国の目をひかないように、ありふれた効果と比べて若干性能がいい製品だけを販売していたけど、今は妖精族であることを隠す必要もないから、妖精族の知識を使った薬草作成をしているわ』
『ポーションや薬草で、失った腕を元に回復されるほどの効果のある物を製造することはできないのですか?』
『そうね・・・。本当は、出来ないと答えなければいけないのだけど、セルフィになら本当のことを教えるわ。
妖精族は、完全回復薬を作ろうと思えば作れるわ。
でも、それらは危険なことでもあるの』
『危険?』
『例えば、世の中に、完全回復薬の製造方法を流してしまえば、人は、守りを強化できることでさらなる争いに発展するかもしれない
龍王の時代から妖精族は、帝国に、完全回復薬を提供していたのだけれど、龍王は、その製造方法は、妖精族だけの限定にして、しかも、完全回復薬なのか定かではないように、他のポーションと混ぜて販売し、情報操作することにしたのよ
妖精族がボルフ王国から弾圧されていた時であっても、妖精族は人道的な面から帝国に影で完全回復薬を提供し続けたの
もちろん、作ろうと思えば作れることは、内緒にし、対価ももらいながらね』
『新たな争いを防ぐために、妖精族は情報を規制したということですね?』
『そうね。だから、このことは誰にもいわないでね』
『分かりました。作ろうと思えば作れるということが知れただけでもよかったです』
『でも、簡単に作れるわけではないのよ』
『どういうことですか?』
『完全回復薬を作るためには、世界樹の若葉を使用しなければいけないの』
『世界樹の若葉ですか?』
『ここからでも、遥か東方に見える木があることを知ってるかしら、それは世界の中心にあるとされる巨大な世界樹という木なの
その世界樹から生み出される若葉を使用する必要があるのよ
でも、若葉は成長した葉よりも成長する能力が高く回復に充てられるのよ
簡単には、手に入らないから完全回復薬の数量も限られるけれどね』
『そういうことですか。あの・・・製造方法を教えてもらうことは無理ですよね?レジェンドや新大共和ケーシスの人だけに密に使えるように準備したいと思ってるんですが・・・』
『妖精族の族長たちに許可をもらわなければ、わたし個人としては、教えてあげることはできないわ
ごめんなさい』
『ですよね。レジェンドでいえば、ミカエルの製造方法を他国に渡すようなものですからね。わたしも、相当信頼できなければ、許可しません』
『でも、族長たちに話を持っていくことはできるわ
これでも、ピューマ・モーゼスの意思を受け継ぐ妖精族の王家ですからね』
『本当ですか!?お願いできますか?』
『いいわよ。ただ、一方的にもらうだけよりは、何か手土産になるような交換条件のようなものがあれば、さらに話しは前向きに進むとは思うわね』
『完全回復薬という凄い秘密と同等に交換できるものですか・・・やっぱり、ミカエルとかかな・・・でも、ミカエルは、クリスチャンだけにしか利用できないし・・・』
『セルフィに行っていなかったかな
妖精族は、ケイト・ピューマ・モーゼスの意思である一神教を昔から信仰するようにしているのよ
だから、一神教のクリスチャンも、受け入れるのは、それほど難しいわけではないわ
セルフィが教えるのは、龍王の意思である聖書ですからね』
『そういえば、そうでしたね
それじゃーミカエルを妖精族たちにも使えるように、提供するという交換条件ではどうでしょうか
ただ、クリスチャンになった妖精族だけしか使用はできません』
『話し合いをスムーズに持っていくためには、十分な交換条件だと思うわ
ミカエルはとても優秀ですからね
兵士にもなって、妖精族を守らせることもできるのは、争いがあまり好きではない妖精族たちからは喜ばれると思うわ』
『それじゃー。交渉の件。よろしくお願いします
あと、ボルフ王国の地下に埋まっているリタ商店の財産は、首都ハーモニーのリタ商店か、レジェンドのリタ商店に移しておきますね』
『いつも、ありがとう。セルフィ
交渉の件は、任せておいて』
ミカエルの通信を切って、考える。
製造方法は、妖精族から教えてもらえるとしても、その製造にかかせない若葉を手に入れるのは、難しい。
全兵士に完全回復薬を所持させるのは、できないということか。
俺とリリスだけが完全回復薬を随時、所持して、必要なものに渡すことになるかな。
リリスにも、俺が持っている地下金庫のような場所を提供すれば、リリスは瞬間移動できるから、アイテムなどをそこに置いて持ち運ばせればいい。
『ミカエル。リリス専用の地下金庫を作っておいてくれ。その場所は、俺にも分からないようにして、リリスとミカエルだけがその場所を把握できるようにしてくれ』
『わかりました。セルフィ様』
完全回復薬が手に入るかは分からないが、一国の主のリリスには、金庫は必要だろう。
源は、その後も、兵士たちから手に入れたマナやスキルを試した。
どれも使えるものだった。
だが、操作という精神系マナだけは、使えない。
神様が与えた自由意思を阻害するようなマナだからだ。
相当な悪人か、奴隷にしても絶対に変わらないような人間ぐらいにしか使わないかもしれない。
敵の兵士たちをコントロールして戦争を回避させることもできるかもしれないが、2時間後マナの効果が無くなったら、意味が無い。
自分の意思で争いをやめるという選択をさせる必要があって、操作を使えば、結局、問題は根深くなるだけだ。
違うかもしれないがマーレ・ソーシャスと共にいた謎の黒い男も、これを使っていたかもしれないな。
自分の能力を伸ばすこともそうだが、他にしなければいけないことといえば、ドラゴネル帝国の一神教の布教だ。
これに取り掛かるには、やはり、首都ドラゴから近い龍王の意思を受け継いだ村に行く必要がある。
場所は、ミカエルによってすでに分かっている。
ドラゴネル帝国の首都ドラゴからみて、東北3000kmにある。
そろそろ、行ってみるか。