161章 海
警戒音が鳴り響く。慌てた声で、リリスに報告をする。
『リリス様!デジー村の領主マギーです。まわりに突然、モンスターの大軍が現れました!!我々だけでは、対処できません!』
『え!?何?どういうこと?』
『村の冒険者から数日前からモンスターの数が増えているという報告があったのですが、まさかこれほど多くなるとは思いもよらなかったのです!』
『落ち着いて、まず、モンスターの数とその種類を大体でいいから教えて。ミカエルは、デジー村のまわりの様子を映像でわたしにみせて』
『モンスターの数は、分かりません。数千・・・いえ・・・たぶん万単位で集まっています・・・オーガもいれば、オークもいます・・・ゴブリンなどもいるようです』
リリスは、ミカエルの映像をみて絶句した。
想像以上のモンスターの群れが、街から1km離れたほどのところに集合し、さらに増え続けているようだったからだ。
『セルフィ。聞いてた?』
『うん・・・。聞いた・・・ミカエルのソースを100km単位で散らばらせず、もっとこまめに配置しておくべきだった・・・ごめん・・・』
『新大共和ケーシスの兵士1万を連れて行くわ。セルフィ転移をお願いできる?』
源は悩んだ。レジェンドの兵士は、準備を続けてきた。帝国連合軍とも戦った経験がある。でも、それでも、新しい能力を与えたのは、数日前だ。対応できるとは思えない。必ず被害者が出てしまう。新大共和ケーシスの兵士は、猶更のことだろう。
『リリス。あの大軍を制圧するにしても、新大共和ケーシスの兵士たちでは、犠牲者が大量に出てしまうよ。レジェンドや首都ハーモニーなら壁もあるけど、122村には、それほどの壁は作られていない』
『じゃーどうするの?』
ソロが通信に入って来た。
『大丈夫』
『ソロ。君は、この状況になることを知ってたのか!?』
『うん』
『知ってたのなら、どうして・・・いや・・・教えないことが正しいと判断したのか・・・俺はどうすればいい?』
源の画面に指示が表示された。
【セルフィ一人で、対処可能。デジー村南側に待機】
『リリス。デジー村の民たちの被害は完全には抑えられないかもしれなけど、俺が行くよ。ミカエル。デジー村には、何人の村人がいるんだ?』
『1322人の村人がいます。セルフィ様』
『分かった。今から速やかに、デジー村の中央に、すべての住民を集めてくれ。時空空間ゲートを開いて、首都ハーモニーに転移させる。マギーも、兵士も皆転移するつもりで、みんなをすぐに集めてくれ』
『あ!!』
マギーの声が出る
『どうした?』
『突撃してきました!!ああーー!!』
源は、すぐに、デジー村に瞬間移動した。
デジー村を南・西・東の3方向から数万のモンスターが、全力で突進してきている。土煙が舞い上がりながら、距離500mまで近づいていた。
源は、デジー村の中央に、時空空間ゲートを開き続ける。
『デジー村の村人は、すぐに中央の転移門の中に避難しろ!!』
源は、闇範囲を発動させて、デジー村全体を囲み、自分は、外に瞬間移動した。
中は真っ暗になってしまったが、ミカエルから光りが出て、次々と中央から転移ゲートの中へと逃げて行く。
大量に押し寄せるオークが、武器を持って攻め立てる。
【水守】
闇範囲のさらに外を囲むように、5mの厚さの氷の丸いドームが作られた。
源は、腰からデフォルメーションを抜き、左手を前に出した。
【鎌鼬】
源の左手から轟音と共に、もの凄い巨大な真空の刃が、横一線に大地へと流れていく。
真空の刃は、前方方向に向かって、大量のオークやオーガたちの体を真っ二つにして、吹き飛ばしていく。
鎌鼬をいくつも連続で放ち、前方方向にだけいく限定されたマナ攻撃を繰り返す。
大量のモンスターたちは、切裂かれたり、吹き飛ばされたりするが、それでも生き残ってさらに前進してきた。
その間に、西側と東側から大量のモンスターたちが、氷守にぶつかって破壊しはじめた。
ソロからの指示が表示される。
【西側に移動・補助スキル】
源は西側の敵のど真ん中の位置の数m上に瞬間移動した。
【速度向上】【武器強化】【体力強化】【リトシス】
大軍のオーガの群れの中に、そのまま降りた源は、デフォルメーションを持って、横一線に斬りかかった。
デフォルメーションは、もの凄く長くその剣の形状を伸ばした。横一線に振りぬいた源の攻撃で、数百単位で、モンスターが倒されていく。しかし、万単位でモンスターたちは、雪崩れ込んでくる。
デジー村の村人たちの避難は、完了していない。
【影操】
大量のモンスターたちの影がモンスターたちの体を掴んで、動きを鈍らせた。
辺り一面のすべての大量の影が、同時に動きを封じ始める。
唯一の見える敵として、源を見つけたモンスターたちは、倒そうとして源に集まるが、リトシスを発動させている源には、まったく攻撃は通じない。
源の体に触る前に、もの凄い早さのデフォルメーションの攻撃に吹き飛ばされていく。
デフォルメーションは、源のまわりをくるくると回転するかのように、覆いその枝分かれした細い剣によって、モンスターたちは斬られながら吹き飛ばされていく。
デフォルメーションの形の変化は、早かった。モンスターの速度では対応できない。枝がまるでムチのように縦横無尽に攻撃を繰り返す。辺り一面の敵をリトシスの効果をのせたままモンスターたちを殲滅していく。
木の枝のように細く別れた剣であっても、リトシスの効果があれば、強力な武器となるので、枝の数が多いほど倒せる数も増える。
生き物のように剣は、50本以上の剣になって、源のまわりは、まるで球体のように守られながら、その球体内の敵が、弾き飛んでいく。
【鎌鼬】
同時に魔法も発動させ、大量のモンスターが、1つの魔法だけで、吹き飛び、その先に生えている木までも斬り倒していった。
【東側に移動】
指示を確認してすぐに、東側に瞬間移動した。
東側の氷守は、破壊され、闇範囲の壁にまで達していた。
まだ避難は終わっていないが、敵の数の多さをみて、マナを発動させるしかないと判断した。
【空嵐】
源が出したマナは、巨大だった。直径50mにはなるほどの竜巻が、高い風抵抗を持つ源以外のものを巻き込んで、村の外へ外へと連れ去っていく。
大量のモンスターたちが、巻き込まれながら上へとぐるぐる巻きあげられる。
空嵐を3つほど出して、東側のモンスターのほとんどを一掃する。
しかし、そのせいで、東側の氷守が、ほとんど崩壊してしまった。
領主のマギーから連絡が入る。
『村人は、避難させました。セルフィ様』
『わかった』
ソロからの指示の表示が与えられる。
【上空に移動・マナ発動】
源は、氷守の真上に移動して、全体を見渡した。
モンスターの数は減ったが、それでもまだまだ大量に村へと押し寄せて来る。
好き勝手に村を破壊させるわけにはいかないと、両手を真上にあげて、マナを発動した。
【雷雨】
数キロに渡って、辺り一面の空から、太い雷が大量に地面に降り注いだ。
ズガン!ドガーン!ズガー!ズドドドドド!
【水霧】【魔法障壁】
さらに、大量の霧が発生したが、それは霧というより、水に近かった。霧の中に入ると体中がすぐに水浸しになる。その状態で雷が降り注ぐと、辺り一面に放電を起こして、大量にモンスターが感電死した。
リトシスを広範囲に、広げて、生き残ったモンスターをすべて感知すると、さらに追い打ちをかけるように、光魔法を発動させた。
【光線】
大量の光りのビームが氷守の頂上にいる源のところから弧を描くようにして、地面にいる生き残ったモンスターに迫り寄り、眩しいと感じた一瞬で吹き飛ばしてしまう。
ズドドドドドドドド!!
光線の威力によって地面には大量の穴ができた。
光の速さの魔法は、生きていたモンスターのすべてを瞬時に消滅させた。
時間が経つと、巨大竜巻に上へと向きあげられたモンスターたちの遺体が次々と地面へと落ちてきた。
源の膨大なマナ力の効果によって3万にも及ぶモンスターの風・光・雷による外傷の遺体がデジー村のまわりに倒れ広がっている。
さらに外側から集まろうとしていたモンスターたちは、足を止めて、その光景をみていたが、恐れの余りに逃げて帰って行った。
「何だったんだ・・・・こいつらは・・・」
源の体に力がみなぎる。数万のモンスターからの膨大な経験値が、入り込んできた。
『あれらのモンスターは、新大共和ケーシスの遺跡から大量に排出された可能性があります。セルフィ様』
『遺跡からあんなに大量に生み出されることがあるのか?』
『はい。源。海という周期があるようで、何百年に一度、このような出来事は観測されています』
『そうなのか・・・。ということは、マーレ・ソーシャスたちの組織とは関係ないってこと?』
『それは分かりませんが、遺跡を操作できるとは思えませんので、この世界の住人の意図的な攻撃ではないと思われます。源』
『セルフィ。大丈夫?』
リリスが、心配して、通信してきた。
『うん。何とか倒すことができたよ
倒しきれず、生き残ったモンスターたちは逃げて行った。でも、俺の攻撃のせいで、デジー村の建物のいくつかは、壊してしまったかもしれない。村の外は穴だらけだし、遺体も散乱してる・・・』
『そう・・・でも、死者はでていないわよ。モンスター襲来に慌てて少し怪我をした人がいるぐらいよ』
『そうか。死者が出なかったのは、本当によかった
今回の襲撃は、遺跡から海という現象が起こされて、大量にモンスターが出現したみたいだ。遺跡の現象だから、どこかの国の策略とかではないと思う』
『やっぱりそうだったのね。あの数は異常よ。海が発生すると国が亡ぶとさえいわれていたんだから、建物が壊れたぐらいで済んでよかったわよ』
『リトシスを発動させて全体を把握することもできるけど、ソロがその役目を行って指示を出してくれたから俺は実行することに専念できた。もっと時間があれば、安全に、対処もできたかもしれないけど、今回は、これが限界だった』
源は、首都ハーモニーとの時空空間ゲートを開いて、デジー村の村人を戻した。
戻って来た村人たちは、外をみて愕然とした。空いた口が塞がらない人もいた。
3万にも及ぶ大量のモンスターが、村の外で倒れていたからだ。
村の外は穴だらけになり、煙が大量にたちこめていた。
源は、リトシスを発動させて、それらの遺体を一斉に宙に浮かして、レジェンドの地下倉庫に集めた。
これらの核は、人工核として利用できるし、遺体は石油エネルギーにもなる。
今の戦いで、源の生命数値は、220を超えた。
生命数値224
力:33117∑
体力:32363∑
熟練:26282∑
早さ:22673∑
魔力:--∑
魅了:10620∑
「凄いな・・・遺跡の戦いとは違って戦争規模で戦った時の恩恵は、計り知れないな・・・一気に生命数値が上がった・・・」
デジー村の村人たちは、源に膝をついてお礼を伝えていた。
「皆さんが、無事でよかったです。素早くモンスターの襲来を教えてくれた領主のマギーと、女王リリス・ピューマ・モーゼスに感謝してください。被害にあった建物の修復は、わたしたちが行いますから、申し出てください」
村人たちは、そこまではさせられないと断って来たが、大した問題ではなかったので、そうさせてくれるようにしてもらった。
村人は、新しい領主のマギーに信頼を寄せるようになった。
この海の出現は、不幸だとも思えたが、終わったあとの恩恵を考えれば、幸でもあった。
3万にも及ぶモンスターの遺体から、核も手に入れることが出来たので、そのまま世界中に散っているウオウルフたちの強化にもつながるからだ。
デジー村にも、ソースは、50体分は、待機させているので、そのソースたちに、建物を再建してもらうことした。