160章 兵士の選択
源は、教会から退席するひとたちのためにも10分の休憩時間を与えて、再び、話しをはじめた。
次は、兵士たちに対しての話だった。
「残ってくれた兵士の皆さん。また、これから話す内容を理解したいと残ってくれたひとたち、感謝します
これから話す内容は、クリスチャン以外には、流してはいけない内容として機密扱いしてください
世界中に散ったウオウルフたちにもこの会話は繋がっています
レジェンドのほとんどの兵士たちは、もともと農民から兵士になった方たちです
レジェンドの武器を使って遺跡などでレベル上げをして、急速に強くなり、今ではF級クラスからC級クラスになった方たちばかりです
このクラスは、他の国の兵士たちと戦ったとしても決して劣るものではないでしょう
ですが、問題は、それ以上の強さが手に入らず、モンスターを倒しても、生命数値が上がらないことです。ウオウルフたちも、そのうち限界が出てくるでしょう」
教会にいた兵士たちも、新大共和ケーシスでミカエルの通信で聞いていた兵士たちも頷いていた。
「これ以上、成長することができないのなら、これから他の国々と戦う時にも、犠牲となってしまう確率が高いでしょう
ですから、わたしは、この世界の生き物たちが体に宿している核について、帝国の情報なども含めて研究しました」
源は、右手に、能力追加珠を持ち、左手に人工核を持って前に出した。
「わたしの研究結果として、この2つを開発することに成功しました
この右手にあるものは、能力追加珠といいます
この能力追加珠は、わたしが記憶しているスキルや魔法をこの中に記録させ、封印の珠のように他の人たちに与えることができるものです」
兵士たちは、耳を疑うように驚く。
「すごいじゃないか・・・!」
「人工的に作り出した封印の珠ということです
皆さんは、遺跡に入られていくつかの封印の珠を手に入れて、スキルや魔法を持っていると思いますが、手に入れたその能力を解析することで、この能力追加珠の中にその能力をいれて、他の人にも分け与えることができるということです
人工的に作り出した封印の珠ですから、わたしのほうで、森のモンスターなどを使って実験を行いました。今のところ、この能力追加珠による副作用などは観測されていません
ですが、いつ副作用が起こるのか分からないということをご理解したうえで、スキルや魔法の能力を手に入れたいという方、持っている魔法やスキルなどを提供してもいいという方は、ここに残ってください」
兵士たちは、誰も退席することがなかった。兵士という職業を選択したのだから、もともと命をかけているので、副作用の危険性よりも守れるための強さを求めたのだろう。
「次に、左手に持っているこの核は、人工核といいます
人工的に、核を作り出したものです
生き物には、主に1つの核を使っていて、人なら人の核があり、その核の容量によって生命数値の上限が制限されていると思われます
マナ力の量もその核の性能によって違うわけです
では、もともと持っている核の容量が一杯になってしまったのなら、新しく違う核をいれてみればどうなるのかと試行錯誤して作ったものが、人工核なのです
以前、アモラという謎のモンスターが出現しましたが、人に違う生き物の核を注入することによって人間を超えた能力を与えていたのです
核は、わたしたちの能力だけではなく、姿や知能までも変えてしまう性質があるということです
核は、生き物の性質を色濃く残しているので、人工核は、その生き物の性質の情報を消し去って、今の状態の情報からプラスされる能力を新たに記録させるという発想で開発してみました
この人工核も、森の動物たちにいくつかいれて、実験してみましたが、今のところ副作用もなければ、姿が変わってしまうということもありません
姿は今のままで、生命数値の限界の枠を超えることを可能としました」
兵士たちの悩んでいたことだったからか、興味を持って話しを聞き、注目していた。
「「「おおお!!」」」
「ですが、アモラの件を思い出してください。普通の人間が、あのような化け物のようになってしまいました。その後、わたしが250体のアモラを元に戻して、解放しましたが、人工核も能力追加珠と同じで、いつ副作用が出るのかは分からない危険性があることを忘れないでください
そして、最後に、ミカエルとの融合です
現在、皆さんには、ナノアイコンタクトとナノイヤホンを配って利用してもらっていますが、これらの表示には、時差があり、少しだけタイムラグがあります
これは、戦闘時に影響させるものです
ですが、ミカエルとの融合させることで、その反応速度、表示速度や解析速度をあげることが出来るようになります
例をあげるのなら、敵の攻撃がスローにみえるようになり、的確な戦い方ができるようになるということです」
「すごい!」
「強くなれるのか!」
兵士たちは、また声をあげた。
「ですが、これもまた、副作用がある可能性があると考えてください
1つめの能力追加珠は、もともと皆さんが持っている核なら100個以上の能力をいれられるので、副作用になる可能性が低いと考えていますが、人工核やミカエルとの融合は、体を書き換えるようなものだということを理解してください
そこで、一番危険だと思える人工核とミカエルとの融合は、さらに改良して、一カ月だけその能力が使えるようにする選択も出来るように作り変えました
体の情報を作り変えるようなことが出来るのは、わたしの他には、もしかしたらいないかもしれません
出来たとしても、アモラ程度の危険な変化しかできないと思われます
ですが、わたしがもし、敵に負けて死んでしまうことがあったら、皆さんは、元の体に戻せなくなるかもしれないということです
その危険性を排除して考えたのが、一カ月だけ能力を上げるというものです
体にいれた人工核が一カ月後、体から自然に排出するようにプログラムしたものです
ミカエルの融合も同じです
ですが、これは、狩りなどをして、生命数値を上げたとしても、一カ月後には、能力を蓄えた人工核が体外に排出されてしまうので、もとの能力に戻ってしまいます
ミカエルの能力も排出されれば、無くなり、元に戻ってしまいます
ですから、皆さんは、もし、これらを使うのなら、どちらかを選択してください
一カ月後に排出される人工核か、それとも、排出されない人工核かです
わたしがいる間は、排出されない人工核であっても、分離させることは出来ますが、わたしに何かあれば、一生、その人工核が入ったままの体になる可能性があるということですね
何かご質問あるでしょうか?新大共和ケーシスでこの話を聞いている兵士たちからでも質問は受け付けます
どなたかご質問をどうぞ」
大きな体躯をした兵士が手を挙げた
「その人工核ですが、ひとりの中に、いくついれることが出来るのですか?」
「今皆さんの体の中にある核は、だいたいC級クラスの核だと思ってください
そのC級クラスの核と同じ人工核を森の動物には、3ついれたものもあります
つまり、体の中に4つの核がある状態だということです
この森のモンスターは、未だに副作用はありません
一番多くて3つまでは、副作用なく今も利用でき、そのモンスターは、もともとの能力のさらに3倍もの容量を得たということで、今でも強くなり続けています」
「おー!」
「ですが、3つ4つと増やす必要もありません
もともとC級クラスのモンスターに、A級クラスの人工核をいれることも出来ました
そのモンスターも副作用は、観測されていません
この場合、以前の能力の約6倍の容量を体に蓄えたことになります
皆さんには、C級クラスの人工核か、それともB級クラスの人工核の2種類を選んでもらおうと思っています
はじめは、安全のためにも、1つの人工核だけにします
他に質問ありますか?」
「能力追加珠についてですが、セルフィ様が調べたスキルや魔法だけしか追加できないのですよね?
でしたら、兵士たちの持っているスキルや魔法を調べてもらって、セルフィ様に覚えてもらうほうがいいのではないでしょうか?」
「そうですね。ここに残ってもらった理由は、それです
皆さんのスキルや魔法の解析をさせてもらおうと思って残ってもらっていたのです
解析してもいいという方は、この後もここに残っておいてください
皆さんから解析して手に入れた情報をまとめて、後日、皆さんに3つの能力アップをミカエルの中で、予約してもらいます
自分の属性や適性な能力を選択して、予約を行ってください
一斉に、皆さんに能力を渡すことは、できませんから、予約制にしようと考えました
申し訳ないですが、レジェンドの兵士の方たちを優先とさせてもらいます
三国同盟の残りの2つの国と戦うのは、レジェンドの兵士たちになるからですね
新大共和ケーシスの方たちも予約をしてもらってかまいませんが、順番は、レジェンド優先となることをおゆるしください
ただ、これらの能力を手に入れれば、他の国の兵士たちに、簡単に引けを取らないようになることは間違いありません
B級といえば、帝国の騎士たちと同じレベルですからね
農民兵たちには、個別では負けることはないでしょう」
源は、兵士たちに納得してもらい、レジェンドの兵士たちのスキルと魔法の解析をリトシスを使って行った。
大量の能力のプログラムを記録した。
【炎】【炎弾】【炎嵐】【火守】【炎具】【火操】
【水砲】【水守】【水霧】【水具】
【氷雨】【氷守】【氷具】【氷壁】【氷弾】【氷防】【氷操】
【異空間】【真空】【真空守】【闇範囲】【影】【影操】
【空気砲】【鎌鼬】【空嵐】【空防】【空具】
【放電】【雷雨】【雷弾】【雷具】
【光線】【光】【光熱】【視界】
【回復】【大回復】【解毒】【体力段階減少】
【通信】【幻覚】【操作】【睡眠】【幻滅】【半幻滅】【視界阻害】【幻防】【幻覚回復】【幻覚反射】
【魔力回復】【段階回復】
【速度魔法】【強化魔法】【防御魔法】【魔法壁】
【武器強化】【鑑定】【イーグルアイ】【体力向上】【速度向上】【嗅覚向上】【聴覚向上】【スティール】【アニマルコントロール】【防御向上】【軽量向上】【はやぶさ斬り】【爆裂はやぶさ斬り】【探知】【威力向上】【剣技】【察知】【解読】【視力向上】【触覚向上】【クロス斬り】【重撃】【爆撃斬り】【盾向上】【拳闘】【柔術】【自爆】【硬質化】【擬態【毒牙】【石化】
これらのスキルや魔法のプログラムを手に入れたが、これらを能力追加珠で覚えるのは、15個までとした。
自分の属性と照らし合わせて、どのようにするのかを選んでもらうためと、あまりにも多く手に入れると副作用が出る可能性もあったからだ。
ほとんどの魔法は、難度1~3のもので、それ以上のものはもっと深くの階層にまで降りなければ手に入らないのだろう。
人工核にしても、自分の属性や将来性を考えて、選んでもらうことにした。
すべての要望には応えられないが、属性ぐらいの要望は、叶えられる。
源にとって嬉しかったのは、回復魔法を手に入れることができたことだ。
リトシスは回復というよりも新しく作り変えるもので、治す効果はなかったからだ。
説明を終えた後、リリスが、源に話しかけてきた。
「セルフィ。兵士やウオルフの方たちが終わったらでいいけど、ビックボアにも、強化をしてほしいの」
「そうだね。ビックボアは、かなりの戦力になってる。今でもその突進力で強いけど、防御に特化させた強化をすれば、より安全に戦えるかもしれないしね」
「うん。わたしにとっては動物たちも人間と同じぐらい大切なの。だから、生き残ってほしい。彼らはわたしのためと集まってくれているから・・・」
「そうだったんだね」
「小さい頃に知り合ったビックボアの仲間たちなの。それにしても、セルフィは本当に凄いわよね。強いだけなら他の国でもいるけど、仲間の限界の壁を突破させて、強くさせることができるなんて、セルフィぐらいじゃない?」
改めて言われてみればそうだと思った。自分だけが強くなるというのには、限界がある。いくら愛やミカエルがいても、思考することができるのは、俺の1つの脳だけで、多重に物事を考えられるわけではない。
仲間がいれば、それも改善できる。
すべてを把握することなどはできないのだから、個々で強くなってもらうのが一番だ。でも、それが普通、出来るわけではない。
リトシスと愛があって初めて可能なことだった。
「確かに簡単にはできないことだよね。でも、アモラというモンスターを作り出すことができる者もいるからね」
「そうだったわね。でも、アモラのように完全に副作用があるような物でもないわよね。セルフィの与える恩恵は。そこが凄いのよ」
「リリスのアニマルコントロールと同じで、たまたま手に入れていた賜物のおかげだね」
数日をかけて、源は、兵士たちに、能力強化を与えていった。
何か異変があったら、報告するようにとは伝えてある。
スキルや魔法を追加したことで、即戦力がアップしたが、それらについても、熟練度があがっていないので、訓練してもらう必要がある。
特に生命数値は、人工核を埋め込んだだけでは、手に入らない。遺跡などで戦わなければ、上がらないし、ミカエルとの融合にも慣れてもらうためには、実践あるのみだ。
これらを自分の物にして実践で使えるようになるには、さらに数カ月かかると考えた。まずは、新しい力に慣れてもらってから、覚えるものの数を増やしてもらうことにする。
源自体も、新しい魔法やスキルを試さなければいけないが、皆に与える作業量が多すぎて、それどころではなかった。
カーボンナノチューブやグラファイトの武器、銃などは、ミカエルに頼めば、作れるが、人工核や能力追加珠、ミカエルとの融合は、源のリトシスと演算能力の愛があってはじめて出来るものだ。
誰かに変わってもらうことも出来ないものの1つだ。
それでも、何とかまわしていった。
レジェンドの女性たちに話したゲーム。源がミカエルと作ったシューティングゲームは、戦争のシミュレーションもあったが、1mほど先の的を2発だけの弾で打つというものがあった。
これは、どうして、こんなに近いのかという疑問があがったが、意味があるんだよと言って、それも練習してもらった。
普通考えれば、敵が1mもドローンに近づいていたら、剣で攻撃されて終わるようなものだ。
あとは、まったく攻撃せずに、移動するだけのシミュレーションもあった。
ゲームへのこういう疑問もあったが、ミカエルが作り出したこのゲームは優れもので、本当のドローンの操作とゲームの操作は、ほとんど感覚が違わなかった。
ヘリコプターのように微妙に空気をとらえて飛ぶだけに、慣れるのが難しい。
それをゲームのようにすることで、練習を沢山できるように作られていたのだ。
このゲームが出来るのも、レジェンドに電力が行きわたっていたからだった。
このゲームは、レジェンドだけではなく、新大共和ケーシスのクリスチャンの家にも、届けられた。
ふたつの街では、ゲームを練習するひとたちが増えていった。
そのゲームとは別にソロモン・ライ・ソロの練習用のゲームも作った。
ソロは、レジェンドの地下にあるもっとも安全に作られた防空壕のような場所にいた。
ソロの仕事場の部屋には、大量のモニターが、100台以上配置され、ミカエルのソースからの映像や情報が、リアルタイムで、流れるようにしてある。
その部屋にいれば、世界中の情報が垣間見えるように設計されていた。
そして、ソロの頭には、ソロの考えを読み取る電脳測定機器が付けられる。
電脳測定機器は、ソロがイメージしたものや文字、考えを表示してくれる。それをミカエルが解読して、分かりやすく兵士たちに指示として伝えることが出来るようにしていた。
ソロは、ミカエルと融合することを選んだ。
だが、他の人と違うのは、一カ月経つと体外に排出される融合だった。
100個のモニターも全体を把握できたが、融合することでさらに情報を増やすことができた。
ソロ専用のゲームは、現世の歴史的なあらゆる戦争の状況を想定してつくられ、的確にソロが指示を出せるのかを試せるものだ。あらゆる戦争のパターンを体験できるように作られていた。
ソロモン・ライ・ソロのゲームの結果は、驚くものばかりだった。