16章 異世界研究
ウオガウと源のやり取りの様子を見ていたロックは言った。
「源が、滅ぼすという言葉を使うとは思わなかったよ」
「あれはいわば、脅しだよ。実際にそうするわけじゃない。でも、それぐらい俺たちに攻撃したらいけないことを理解してもらいたいと考えての発言さ」
「なるほどな」
「それに、あれだけの言葉と会話が出来るのなら、もしかしたら、策略で俺たちを騙そうとしている可能性もある。最初は強さをみせて、関わりの中で、寛容さをみせていけばいいと思ったんだ」
「そうだな。正しい判断だったと思うよ。でも、ウォウルフとも戦う違うモンスターもいるということだから、ここもやはり安心はできないな」
「そうだな」
「ただ、人間ともいざこざがあるみたいじゃないか」
「そういうことも言ってたかな・・・」
「それがどういう経緯なのか分からないけど、そのウォウルフたちと一緒にいたら、巻き込まれるんじゃないのか?」
ロックは懸念を今後のためにも源に伝えた。
「うーん・・・出来れば人間とは争いたくはないよね・・・」
「そうだよな。ウオウルフたちは、たぶん俺たちを人間だとは思っていないからあんな提案したのかもしれないしな」
ロックの話を聞くと確かにそう思える。
「そういえば、そうか・・・俺の意識は人間だから、自分が鳥人間の姿をしていることをつい忘れてしまってたよ。その問題は、また今度、ウオガウに聞いてみるよ。」
源は考えるように、続けて意見を述べる。
「あと、やらなければいけない1つとして、少し安全の確率を高めるために、防具や武器の研究をしたいと思ってるんだ」
「武器製造の研究か」
源は頷いた。
「うん。そんなに本格的なことはできないとは思うけど、ロックハウスを建てる時に、見つけた鉄鉱石を使って、防具を作れないかと考えてるんだ。ロックは岩だけど、鉄の鎧を着ればさらに安全になると思うよ」
「ありがたい」
「逆に邪魔になることも考えられるから、そこは研究だな」
「なるほど・・・」
源は、ロックと話し終えると、一部の鉄鉱石を持って、湖の前に配置した丁度いい岩に腰をかけて、鉄鉱石をみる。
この鉄鉱石をみても、当たり前だが純性ではない、他の物質も入り込んでいる。とはいえ、純度は高い。不純物をどのように取り出せばいいのか考える。
『源。鉄鉱石から鉄を取り出すには、溶鉱炉が必要になります。1200℃以上の熱で、鉄鉱石を溶かして不純物を取り除く必要があります』
『だよね・・・』
さて・・・どうしたものか。今までは、もともとあった固まりを変形させただけで、鉄格子も岩も木もそれぞれの不純物を取り出したわけではない。例え、溶鉱炉があったとしても、そんなことがこの世界で、本当にできるのかも定かじゃない・・・
源は、左手に鉄鉱石を乗せて、右手でその鉄鉱石を少し触ってみると、鉄鉱石は、粉になっていった。スキャンをするかのようにズズズズと右手を持っていくと、不純物だけが外に排出されて、目的の鉄の粉は残った。
「出来てしまった・・・」
『源の今の行動から、不純物のない鉄Feを取り出すことに成功したことを確認しました』
こんなに簡単に不純物を取り除くことができるのか・・・なら、コークスや石灰もいらないじゃないか・・・熱を発生させずに不純物を取り除けるのなら、もの凄く純度の高い性質で物を作れてしまう。だが、純度が高ければいいというものでもない。例えば、ゴールドなどは純度が高いものほど、柔らかくなってしまう。
鉄もまた同じだ。鋼鉄を作るには・・・
『源。鋼を作るには、鉄に炭素Cを0.04%から2%を含め融合させることです』
『炭素でいいのか、なら、何でもいいってことか?』
『木材などで手に入れることが一般的になっています』
そうか。木でもいいのか。それを聞いて、源は、木から拳大をもぎ取ってきて、また岩に座った。そして、その木を丸く固め、左手にのせて、先ほどのように右手で、炭素だけを取り出すと、もの凄く細かい粉だけが掌に残り、不純物は外へと飛ばされた。源の認識、求めている物質だけが手に残る。
『100%の炭素Cを確認しました』
それを聞くと源は、手でその粉を丸めていく、すると100%炭素Cの固まりになって、源は驚いた・・・炭素の大部分は、黒色の固まりだが、一部が、とても綺麗な透明の固まりになっていた。
『愛・・・これって・・・』
『はい。炭素Cは、金剛石。グラファイトです。そして、炭素の配置によって一部透明になった箇所は、ダイヤモンドです』
「ダイヤモンドだとぉ!」
いやいやいや・・・ちょっとまて・・・鉄を取り出して、炭素をいれて、鋼を作ろうと思ったら、それよりも硬いダイヤモンドを先に取り出したってことか?
ありえないだろ・・・。
『ダイヤモンドは、地球で確認された中でも、3本の中に入るほどに硬いとされている素材で、利用できるものとしては、一番硬いものです』
それを木だけで純粋に取り出してしまったってことか・・・いわれてみれば、ダイヤは炭素だ・・・こどもでも知っているかもしれない・・・でも、その炭素だけを取り出すことなど出来ないから重宝されているんだ。それをこんなに簡単に手に入れてしまった・・・
『当たり前だけど鋼よりも硬いよね?』
『はい。硬さとしては地球では、最上位クラスになります』
『グラファイトで作ったものとダイヤモンドで作ったものでは、どちらがより硬いんだ?』
『ダイヤモンドです。源』
そうか・・・ダイヤモンドの8面体の結晶配列にすれば、たしかにグラファイトをダイヤモンドにすることは出来るが、問題は目立ちすぎることだ。この世界でダイヤがどれだけ価値があるのかはまったく分からないが、透明で光り輝く武器や防具なんて持っていたら、それこそ狙われ兼ねない。ダイヤに価値がなくても、光るものに目がない人間もいるからだ。
『硬さは確かにダイヤモンドのほうが上ですが、ダイヤモンドは、靭性がありません。ですから、瞬間的な衝撃などを加えられると歪が蓄積してしまい砕けてしまいます』
『そうか。硬すぎて、力を逃がせず、柔軟ではないってことか』
『そういうことになります。また、熱伝導率も高く、もし熱などに当たるとすぐに温度を通してしまいます』
『グラファイトならどうだ?』
『グラファイトは、結晶体が固定されてはおらず、熱伝導も劣ります。硬さも劣りますが、靭性はあるので、破壊されにくい素材の1つです。木と同じ炭素ですから600度の熱にさらされれば、燃えてしまいますが、武器としてグラファイトの剣を破壊しようと思えば2000度を超える熱が必要となるでしょう』
『分かった。ありがとう。グラファイトで作ってみるよ』
源は、ダイヤではなく、金剛石をさっきの要領で沢山集めた。
そして、愛の情報から細かい剣の細工をほどこし、精密なグラファイトの剣を作り上げた。金剛石だけで作られた1mもの長さの剣だ。
なるべく、豪華そうなデザインではなく、シンプルな剣にした。
鉄格子で作った剣とは違い、とても光沢のある素晴らしい剣にみえる。
そして、鉄格子の素材で作られた剣を置いて、グラファイトで作った剣で試しに思いきって、ぶつけてみた。すると鉄格子の剣は折れてしまった。
「すごい・・・」
鉄格子の剣も鉄の剣なのに、それを苦もなく折ってしまった・・・この世界の物質の基準が分からないが、地球の常識で考えたらすごいことだと源は思った。
グラファイトで作られた剣は、今のところ鉄よりも使えることが分かった。
名前はそのままだが、グラファイソードと呼ぶことにした。鋼で作った剣をはがねの剣というようにだ。
ダイヤモンドのように光るわけでもなく、透明でもないので、当面は金剛石で武器や防具を作ることにした。
源は、森の奥深くに行って、木を10本倒して、その木材からグラファイトを生成し、かなりの量を確保した。そして、それを使って、防具を作る。
愛の情報から仮想空間に映像として、いくつかの鎧のレパートリーを映し出させ、気に入った鎧の形を元に、先日、ウオウルフを的確に倒した精密な動きのように、グラファイトを加工していった。剣などを造ったことで要領がつかめてきた。
そして、西洋風の鎧を完成させた。
源は、その鎧を着てみた。サイズは愛が計算してピッタリだった。問題なのは、鎧の隙間が少なすぎて、動きずらいということだ。防御を重視すれば、動きずらくなり、動きを重視すれば、防御に穴があく。この問題をどう解決するかだ・・・。
そこで源は、鎖帷子を作ることを思いついた。隙間を広げ、動きやすくした分、鎖帷子で、空いた隙間を守るわけだ。もちろん、素材はグラファイトだ。
源は自分のサイズにあった体全体、手首や足首まで連なった、鎖帷子を作った。
そして、鎖帷子と鎧を装備して、動いてみた。思った以上に動きやすい。しかも、源にとって、鎧の重さはリトシスの効果によって無いのも同然だ。まったく重さは感じない。
そのまま、鎧を着て、ロックのところに自慢しに行った。
ロックは、目を丸くして、驚いてくれた。それほど出来栄えが良かったようだ。今は見た目だけのことだが・・・敵の武器に対して、この鎧が有効であると信じたい・・・
「よし、次はロックだ」
そう源が言うと、源は、地面にいくつかの鎧のデザインをとても正確な絵で、描き、ロックに選ばせた。
ロックは温和だと思っていたが、とてもごつごつとした、まるで魔王軍団のボスが着るような鎧がいいと選んだので、それを作り始めたが、人間の体とは違ってロックは、岩なので、鎧を付けると動けなくなってしまった。そこで、鎧はやめて、プロテクターのようなパーツとしての防具を作っていった。ほとんど体の岩がみえてはいるが、盾や重要な部分の胸や足、頭などを守るだけの装備にした。魔王装備とは真逆のシンプルな装備になってしまった。兜だけでも、すごいのがいいとロックは言い出したが、却下した。
隙間は、源と同じく、ロック用のゆとりのある鎖帷子を作って、カバーできた。岩の強度とグラファイトで作り上げたチェーンの二重防御となる。
フォルは、体全体を守るように作ったが、重すぎるとスピードが出せなくなるので、穴だらけにして、強度が保てる薄さにチャレンジし、重量を極力、減らした。視覚などは失われるが、嗅覚で判断するフォルの兜は、顔全体も隠れるような、しっかりとしたものにした。
一角うさぎの帽子は、気に入っているみたいで、兜を装備する時も中に被せるよう首を振って指示してきた。フォルの兜は、視界を遮っても防御メインに作ってあるので、まったく、うさぎ帽子はみえないのだが、こだわりがあるみたいだ。
もちろん、しっかりした鎖帷子もフォル専用のものを作った。
そして、もうひとつロックの装備品で重要な物、それは武器だ。
岩で即席で作ったロックアックスも、武器としては、貧弱だった。岩にぶつけていたら、粉々になっただろう。だから、グラファイトで新しいちゃんとした斧の武器を作ることにした。
その武器のデザインも愛からのデーターをもとに源が地面に絵を描いた。そのいくつかの斧のデザインからロックに選んでもらった。ロックが選んだのは、両股の斧で、厚みはあるが、長さはそれほどでもなく、接近戦用の短めの武器だった。その武器ならまるで敵を殴るように攻撃できると思っての選択だったようだ。左腕のプロテクターには、盾がついていて、右手に斧、パワーを重視した近接格闘技専用装備だ。
グラファイトで作った斧をロックに試してもらうことにした。2本目の斧ということで、名前はセカンドアックスとロックが命名した。両股という意味も含めてセカンドだ。
「ロック、セカンドアックスが使えるのか試してくれるかい?」
「もちろんだ」
「試して壊れても、すぐに直せるから、思いっきり試してくれ」
「分かった」
そういうと、ロックは、外の岩の前に立って、大きくセカンドアックスを振り下ろした。
ガオオンッ!というすごい音が響き渡った。音も凄かったが、大きめの岩が割れているのにも驚いた。
そして、セカンドアックスも確認してみたが、別段壊れていることはなかった。
「使える!」と源は、拳を握り込んで確信を得た。
それらが本当に、この世界の実践で、使えるのかはまだ疑問だが、今できる中では、最良の武器や防具だろう。ウオウルフにも勝ったロックアックスよりは、断然、セカンドアックスは上なのは確かだった。
グラファイトも熱伝導率が高いので、取っ手の部分は、鉄と炭素を合わせた鋼を薄く巻いて、その上をさらに木で巻き付け、握りやすくした。
源の剣の鞘は、鋼で作ることにした。鞘までグラファイトを使っているのを知られると、問題になるのではないかという懸念からだ。この世界では、グラファイトの価値がまったくなければ、その時にまたグラファイトの鞘を作ればいい。本当なら背中に鞘を背負って、格好よく剣を抜きたいが、今は羽があってできないので腰に装備する。
武器も、ふたりとも手に入れて、防御の鎧は、隙間に弓矢などを打ち込まれても、鎖帷子で防げるだろう。
下には、フォウルフの毛皮。そして、その上に鎖帷子。次に鎧や兜を着けて、最後は、ウオウルフのマントで万全だ。ただ、源にとっての戦闘は、情報が大切なので、兜などは、ほとんど頭部だけを守るもので、視界を確保しながら、さらに聴覚にも支障がないような兜に作り上げた。
あとは羽だが、これにも触覚があって体の一部だ。だが、その羽に鎧や鎖帷子を被せるのか?と疑問になり、いい案が出るまでは、外に出しておくことにした。
これで、今できる最善の準備が整った。
ロックハウスも完成し、武器や鎧もそこそこ使えるだろう。水も湖にあれば、食料も確保できる。ウオウルフとの契約もしたことで、彼らとすぐに戦うということもないだろう。セーフティエリアとして、着々と完成に近づいているように思える。
「あ!」と源は声をあげた。
「どうした源?」
「いや・・・さっき俺の新しい剣のグラファイソードの試し斬りに、鉄格子の剣を使って折ったから、料理に使う包丁が無くなってしまった・・・と思って・・・」
と言いながら、その折れた鉄格子の剣を拾いに行き、すぐにつなげて、治した。
「これで包丁も確保だ」