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157章 悲しみの誓い

スミスの位置は、把握できるようになった。そして、マーレ・ソーシャスも処分した。

固定された魔法をプロットという方法で、改良できる者は、それほどいるとは思えない。

リトシスは、源が認知したこの世界の法則を作り変えるものだが、源が認識して作り変えているわけではない。プロットはこの世界のプログラムをフォーマットの中で、解明し打ち込み変えるものだ。リトシスほどではないが、法則を組み替えることが出来るということだ。

レジェンドに敵対心を持っている敵であったマーレ・ソーシャスは、プロットが使え、しかも核爆発を起こせるプログラムを作り出していた。

その存在がいなくなったことで核爆発の脅威は、かなり軽減できただろう。


首都ハーモニーとレジェンドでは、ミカエルを大量に配置させているで、怪しい人物が現れた時は、すぐに表示するようにさせていた。


ドラゴネル帝国内で核爆発を起こす可能性もなくはないが、さすがにそこまでは、阻止できない。

それにもし、ドラゴネル帝国の首都ドラゴを爆発させるのなら、とっくにやっていたことだろう。

憶測でしかないが、ドラゴネル帝国の存続には、あいつらは意義がなく、むしろ利点が多いのだろうと考えられる。


源たちが帝国に出向いた日に、すぐに攻撃をしかけたところをみると、やはり帝国の内部にやつらの手が及んでいるだろうと推測できる。


源は、会議の途中で、抜け出してきたので、すぐに帝国国会議事堂に戻った。


大広間に戻ると、そこで待っていたのは、リリスと数人の兵士だけだった。


「セルフィ。無事に解決できた?」


「ソロの兄のスミスは、捕らえることは出来なかったけど、爆発魔法を使用するマーレ・ソーシャスは、完全に処理できたよ。あの魔法を使える者が、スミスの他にはもういないことを祈るぐらいだね」


「そう・・・皇帝陛下には、あの後、きちんと説明をしておいたわ。陛下たちは、それを聞いてすぐに、爆発魔法に対する対策を検討するといって出て行かれたわ」


「なるほどね。これでサムエル・ダニョル・クライシスは、猶更、首都ドラゴから離れられなくなって、レジェンドが変わりに、各地に派遣されることになるかもしれないな」


「新大共和ケーシスも、セルフィがいるからすぐに対処できるけど、セルフィ以外のわたしたちも対処できるようにならないといけないわね」


源は、通信で話し始める


『サムエル・ダニョル・クライシスは、たぶん、瞬間移動は使えないんだ。だから、転移石を使って転移する。

瞬間移動魔法が使えても、転移先の状況が分からないと遠くには飛べないしね。

その点、俺はミカエルがいるところなら、その場所の状況を把握できるから、どれだけ離れた場所にも、転移できる。

ワグワナ法国に派遣されても、レジェンドや新大共和ケーシスに、爆発魔法を使用する気配があれば、すぐに戻ってくれるというわけだね』


『そうだけど・・・他の人も対処できるようにしておいたほうがいいんじゃない?』


『確かにね。時空空間ゲートは、リトシスによって作り出したスキルのようなものだから与えられないけど、瞬間移動魔法ならリリスに与えれるよ。

リリスも、持っておく?』


『そんなことも出来るの?』


『うん。ただ、他の人にスキルや魔法マナを譲渡するという能力追加珠アペンドボールは、まだ実験中のものだから、どのように作用するのか分からないという危険性がある』


『それでも、持っておきたいわ。わたしもミカエルと融合しているから、ソースがあるところにも、瞬間移動ができるはずでしょ

セルフィのように使えるようになれば、怪しい人間を一緒に、飛ばすことができるようになれる』


『そうだとは思うけど、今は転移魔法などに慣れている俺が対処するほうが安全だと思うから安易に使わないでね』


『そうね。でも、瞬間移動は手に入れたいわ』


『わかった』


源は、時空空間ゲートを開いて、森の木から破片をもぎ取ると、同時に素早くリトシスで、瞬間移動の能力追加珠アペンドボールを作り出し、広場にいる兵士に気づかれないように、リリスに渡した。

瞬時に複雑なことができるのも、愛の常識を超えた演算能力があるおかげだ。


『これが、能力追加珠アペンドボールだよ

封印の珠と同じように、能力を閉じ込めてある

両手で持って、息を吹きかければ、使えるようになるよ

でも、ここの兵士たちに気づかれないように使ってね』


リリスは、能力追加珠アペンドボールをテーブルの下に隠しながら、息を吹きかけた。


何かを手に入れた感覚を封印の珠の時と同じように感じた。


『時空魔法だから、距離は関係ないけど、使用する時に、それなりにマナを消費するから気を付けてね』


『分かったわ。ありがとう』


『でも、リリスに瞬間移動魔法を与えたことで、思いついちゃったよ

ミカエルのマナソースにも、瞬間移動をいくつか与えておいて、怪しい人物は、一旦、レジェンドや新大共和ケーシスから離れた場所にミカエルが遊離させればいいよね』


『ミカエルも魔法マナが使えるの?』


『実は、使えるソースもあるんだよ

リリスが瞬間移動で、爆発魔法の相手と一緒に、遠くに飛んでも、そこでリリスは、その相手と自滅してしまう可能性があるけど、ミカエルのソースなら、爆発させられても問題ないからね』


『それ、皇帝陛下にも教えてあげたらどう?』


『いや・・・申し訳ないけど、そこまで優秀なミカエルという道具を教えるのは、まだ危険だと思う

さっきも話したけど、帝国が一神教、龍王の意思に立ち戻り、新大共和ケーシスやレジェンドのように、クリスチャンで形成させるような方向に向かうまでは、まわりの人間が信用できない。なるべく、こちらの能力は、外には出すべきじゃないね』


『そうね・・・ごめんなさい・・・何度も言われていたのに・・・』


『謝らなくていいよ。リリスが、優しさで言ったことは分かってるからさ』



大広間に、兵士がひとり入って来て、源たちに近づく。


「セルフィ様。皇帝陛下が、おひとりで、部屋に来るようにとおっしゃられています。よろしいでしょうか」


「はい。分かりました。リリス。待っててもらえる?」


「わたしは、話が終わったから、新大共和ケーシスに自分で戻ることにするわ」


「ああ。なるほどね。分かった」


源は、兵士と一緒に、皇帝陛下の部屋へと歩いて移動した。

さすがに、ミカエルのソースは、帝国の議事堂など重要な場所には潜らせてはいないので、瞬間移動はできない。首都ドラゴの街には、ソースはいきわたらせているが、同盟国を無断で盗聴するわけにはいかないからだ。


コンコン


「皇帝陛下。セルフィ様が、来られました」


兵士はドアを開けて、セルフィを部屋にいれ、頭を下げて、廊下に待機する。


「セルフィ。入ってくれ」


「はい。失礼いたします」


「爆弾魔法を仕掛けてきたというのは、間違いなかったのか?」


「はい。予想通り、この日に仕掛けてきました

無事に、対処することができ、マーレ・ソーシャスは、処分しました。転移魔法が使えるマーレ・ソーシャスがいなくなったので、帝国の脅威も少なくなったと思います」


「よくやってくれた。だが、こちらも、何もしないわけにもいかないからな。色々な対処を行うつもりだ」


「はい。その方がよろしいかと思います。ですが、その割に、この部屋には、わたししかいないようですが・・・」


「ああ。二人だけで話がしたかったのだ」


「少し不用心ではないですか?陛下」


「わたしは、お前を信頼している」


「ありがとうございます。閣下」


「その信頼を深めるために、お前に、お願いがあるのだが、聞いてくれるか?」


「わたしが出来ることであれば、なんなりとおっしゃってください」


「断らないと約束してくれ」


「・・・そうおっしゃられても・・・わたしにも出来ることと出来ないことがありますので・・・」


「いや、お前なら必ずできることだ。断らないと約束してくれ」


何だか、嫌な予感がする・・・


「・・・分かりました。どのようなことでしょうか。閣下」


「お前の転移魔法で、おれを郊外に出してほしいんだ」


「・・・」


そんなことできるわけが無い・・・


「お前なら出来ることだろ?」


「能力的には、できますが・・・状況的に、できませんよね・・・?」


「そこを断らないと約束しただろ」


「何のために、郊外に出ようとされているのですか?」


「お前なら分かってくれるとは思うが、一国の主となれば、そこには責任が付きまとう。帝国は世界の国々をまとめるからこそ、さらに責任は重大だ」


「おっしゃる通りです。陛下」


「毎日毎日、爆発魔法のような危機に対処しなければいけない。それはストレスの何者でもない。たまには、気晴らしをさせてもらってもいいと思わないか?」


「気晴らしのために、郊外に出たいと?」


「その通りだ!」


威厳を醸しだしていた皇帝陛下とは思えない少年のような顔つきになる陛下をみて、源は少し笑ってしまった。


「しょうがないですね・・・ですが、郊外に陛下を連れて行ったとして、わたし、サムエル・ダニョル・クライシスに、殺されたりしませんよね?」


「うーん。殺されそうになるかもしれないが、その時は、俺が止めよう」


「・・・」


「セルフィ。お主の強さは証明されている。それに私は、お前を信頼している。セルフィがいれば、安全も確保されているようなものだろ。少しでいいんだ。郊外に、お前と二人だけで、出かけてみたい」


「分かりました。わたしは命がけですが、陛下の頼みを聞きましょう。これも友好関係の1つだと考えます」


『ミカエル。首都ドラゴの郊外で、見晴らしのいい景色がる場所を表示してくれ』


『分かりました。セルフィ様』


源の視界には、地図と赤いマークが表示され点滅していた。


源は、人が通れるほどの時空空間ゲートを開いた。


皇帝ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカは、ゲートを覗き込むと足を踏み出して、外出た。


源もその後を追う。


その場所は、ゆるやかな丘が広大な自然の中にあり、緑や花が茂って、綺麗な景色を作り出していた。


皇帝ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカは、背伸びをして、地面に倒れ込んだ。


「あー。気持ちいいな。こうやって自由に行動したのは、何年ぶりだろうか」


「わたしは、命がけですけどね・・・」


「まーそういうな。こんなことも自由に行動できないわたしを可哀そうだと思ってくれ」


「確かに、帝国を支配するのは、計り知れないご苦労があることでしょうね」


「なー。セルフィ。本当に、神はいるのか?」


「もちろんです。陛下。以前にも話した通り、この世界は、規則正しく存在しすぎているのです。わたしたちの存在自体が、神の存在を証明しているのです」


源は、草原に生えた1つの小さい白い花を摘まみ、皇帝陛下の前に差し出した。


「陛下。この花の名前をご存知ですか?」


「それは、しるぎ草だな」


「はい。仰る通りです。では、どうして、これが、しるぎ草だとすぐに判別できるのでしょうか」


「それは、一目みて、その形や色で、こどもでも、しるぎ草だと分かるからだ」


「はい。こどもでも、分かるということは、つまり、しるぎ草は、この形として、世界に根を生やしているという法則が、存在しているということです。しるぎ草だけではありません。あらゆる生き物、あらゆる生物は、各自、形や性質があるのです。それをみて、わたしたちは、すぐに、あれは人間だ。あれはエルフだと判断できるわけです。どうして、人の両目は、それぞれ左右対称なのでしょうか。100人いれば、ほとんど100人が、左右対称の顔で、美しく位置を保持しているのです。それは、何者かが介在して、法則を作り出しているという証拠になるんです」


現世でも、たんぽぽは、たんぽぽだとすぐに分かり、ひまわりは、ひまわりだとすぐに分かるのは、法則がある証拠なのだ。


「わたしが、しるぎ草の種を蒔きました。では、その種から、何が育つでしょうか?」


「もちろん、しるぎ草だな」


「はい。その通りです。これは当たり前のように思えるかもしれませんが、深く考えれば、当たり前ではなく、不思議なことなのです。しるぎ草の種を蒔いたら、ほとんど100%の確率で、しるぎ草が育つということは、もの凄く固定された法則がそこには存在しているという証拠であり、それが、偶然できるなどという発想こそ、嘘だと現実は、証明しているのです」


「なるほどな。以前話した人の形と同じように、あらゆる万物が、例え小さいしるぎ草の花であっても、もの凄く精密に計算されて、存在しているというわけだな」


「はい。こんな小さなものも、小さな小鳥も、犬も猫も、きちんとコントロールして、ほとんど100%の確率で存在しているということは、そんな小さなものまで把握できている全知全能というほどの存在がいるということです。その存在のことを【神】と言っているのです」


「この世のすべての物が、神を証明しているわけだな」


「はい。その通りです。これは、例え、皇帝陛下でも覆すことはできません。誰がどれだけ権力を持っていたとしても、神の存在は、覆ることのない事実だということです

国や学問を教える者たちが嘘をどれだけ教えても、この世界に神がいることは、誰にも否定できない事実なのです

だからこそ、その神様の正義や愛を基準にして、人は、その神様に作られたものとして、従うべきなのですね。それ以外に、基準とできるものなどないのです」


「なぜ多神教という思想が存在しているんだ」


「事実をみれば、世界があまりにも統一されているだけに、本物の神は、唯一の存在であることは、間違いないのですが、だからといってすべての人が、その神様に基準を置くわけではないからです

龍王の意思である創世記では、神は、人に自由意思を与えていることが書かれています。人は、自分という小さな考え方に基準を置いて、現実を無視して悪を行うのか、それとも現実を認めて神様に従い善を行うのか選択できるのです。そして、神を無視して、人間を基準に置くからこそ、他の神々を作り出して、都合よく利用していくのです。それを偶像思想といいます」


「偶像か。確かに多神教の多くは、人が作りだした像を神として崇める」


「はい。人が作り出した人よりも下のものが、神なわけがありません。それらは石造であり、木です。また、像だけが偶像ではなく、偶像とは、現実には存在しないもの、架空な思想や非現実的な思想、思い込みのことです。現実を無視して、思い込み人が行動すると、現実と乖離しているので、世の中は、さらに混乱を作り出していってしまい、悲劇が生まれるのです」


「偽物の神々を拝むようになるとそれが悪を生み出していくというわけか」


「この世界の最初の根本がズレていれば、そこから生まれる思想も、ズレていくのは当然のことだからですね。今は帝国が支配している国々は、まったく違う偶像思想が、大量に存在していますが、ズレたところで育てば、それが正義や愛になってしまうのです

人には、愛や正義がないからです

愛や正義は、唯一の神様にしかなく、それに従うことでしか、人は愛や正義を固定することができないので、犯罪者が堂々と犯罪を正義や愛だと主張できてしまう世の中になるのですね

同じ人間の立場から否定しても、何の解決にもなりません

この世界の存在そのものによって、否定しなければ、人を基準にしても、答えなど出ないのですね」


「俺の父パウロ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカは、世を正そうと政治家たちの権利を排除しようとした。あらゆる分野に手を出して、正しい基準を設置させようとした。しかし、父は、暗殺された。自分の立場を顧みず、正しい正義を貫こうとしたし、わたしにもそのように教えた。わたしも、父の意思を受け継ぎたいと思っている。父は失敗したが、俺は賢く少しずつ変えていこうと考えている」


源は、物語を語った。


「世界が戦争や抗争によって争っていた時代。ソロモン王は、貿易や経済によって、国と国がつながることを世界中の王や女王に説いて、仲間としていきました

国を支配する王族たちが裏でつながることで、支配する民を上手にコントロールしようとして、莫大な富を築いたのです

戦争も激減され、その秩序を理由に、正義を語ったのです

つまり、【お金】で世を支配しようとしたのです

しかし、ソロモン王が死ぬと、王族と民との間には角質がさらに広がり、また戦乱の世に逆戻りしました。お金の価値観を持った人間は、そのお金で武器や人を雇っては、国を転覆させようと画策し、その民を信用できない王族たちは、民を恐れたのです


次に、広大な土地を支配しようとした皇帝がいました。彼はお金ではなく、【法】によって世の中を支配しようと考えました。言葉も違えば民族も違う国々を共通した法律を持つことで、人々にどのような人であるべきなのかを伝えたのです

しかし、法を強めれば強めるほど、人々は、悪へと走るようになりました。

法が厳しくなると、人は、法律に裁かれないように隠れて悪さをしようとしはじめたのです。表では法に正しく生きているように振舞い、裏では、徹底的に悪を行って、盗みという少しの犯罪をみられれば、見た人間を殺すようにもなったのです

つまり、法では、本当の平和は訪れないのです


ひとりひとりの中に、神の存在を認める心があることこそが、現実的な平和な世界を作り出すための糸口なのです。心から神を信じる者たちは、多神教であっても、人がみていないところでも、罪を犯さないように自分を戒めるためです

悪をしようとすると神がみていると畏れ、胸が痛むのです


ひとりひとりの中に、逃れることができない、まもるべき法を作る必要があるのですね

それは、国や他人から言われて手に入れるものであってはいけません

もし、それが歯止めとなっているのなら、国や他人という歯止めがなくなれば、悪を行うようになるからです」


ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカは、納得した表情で話しを聞いていた。


「そうか。金や経済でもなく、法律でもない。ひとりひとりに道徳を刻み込み、さらにその道徳が、人の目線でもなく、実在する神に向けるからこそ、安定した平和が築けるというわけだな」


「はい。12使徒が伝えた聖書の教えをローマ帝国は、認めたことで、あらゆる違った価値観を1つにまとめ、ひとりひとりのうちに、神を信仰する心が芽生えたことで、反乱を起こすこともない世界が、1000年以上も続いたのです。あまりにも、民の落ち着きように、王族貴族も驚き、政治のためにも一神教の神を信仰するようになったのです

その後、ドラゴネル帝国のように、また多神教に傾いたり、ご都合主義に走り、聖書の教えさえも変えようと腐敗した聖職者たちがしてしまったので、崩壊しましたが、それさえなければ、帝国の安定は、崩れなかったことでしょう」


実際、カトリックは、今でも続いて存在している。


「それらは、太古の昔の歴史というわけだな」


「そうとも言えるでしょうね」


「なー。セルフィ。わたしの友になってくれないか?お前はレジェンドの長という立場で、日々試行錯誤している。わたしは世界の王として悩みが多い。小さい頃からわたしに近づくこどもは、ほとんどいなかった。近づいて来る者は、わたしの背景が狙いだっただけに、友という友がわたしにはいない。伝説の天使という使命もあるお主なら、この気持ちが少しは分かるのではないか?」


「友ですか・・・。友になろうとして友になるものでもないでしょうけど、そういっていただければ、時間とともに信頼が築けていくでしょうね」


「二人の時は、敬語で話す必要もない。名前もヨハネと呼んでくれればいい」


源は少し悩んだように考えた。

『ミカエル。皇帝ヨハネは、ここまでの話で真実ではないことを口にしたか?』


『いえ、この場所に来てからは、嘘はついてはいません。セルフィ様』


「普通ならありえないけど、わたしは、地位や名誉を欲しいとは思わないから、敬語を使わないようにしましょう

分かったよ。ヨハネ。二人の時は、皇帝としては扱わない。それでいいよな?」


「うん。そうしてくれるとありがたい。本当にお前は、凄い奴だなセルフィ」


ふたりは、顔を見合わせて、笑った。皇帝に敬語を使わない人間などいない。平然とそれをセルフィがするのが、皇帝としては嬉しかった。悪意があって敬語を使わない者とは違うからだ。


「じゃーヨハネ。君には、これを渡しておくよ」


源は、ミカエルのソースを1つ取り出し、また箱も用意した。


小さな粒のようなものを渡され、ヨハネは、首をかしげる。


「何なんだ?これは」


「分かりやすく言えば、それは、レジェンドで開発した物質モンスターというところかな

それを持っていれば、俺との通信がすぐにできる。俺の方からは、会話を聞き取るだけじゃなく、映像もみることができるから、ヨハネ。君の危機があった時は、すぐに俺がかけつけることができるようになるよ」


「これが生き物?」


「正確には、生き物じゃないね。剣や鎧のような道具のようなものだ。でも、それを持っていると、会話なども聞かれてしまうから、聞かれたくない時は、この箱の中にいれてくれ、この箱にいれれば、こちらから聞けないようにしておくからさ。皇帝としては、そういう配慮も必要だろ」


「なるほど、ボルフ王国の情報やマーレ・ソーシャスの発見も、こいつが関わっていたから出来た事なんだな?」


「まー・・・そういうことかな。ヨハネは、悪用しないにしても、他の者は、悪用する可能性があるから、クリスチャン以外には、使わせない。ヨハネも、心から聖書の神様を信じるようになれば、使えるようにしておくよ。ただ、他の者には、これのことは内緒にしておいてくれ。今は通信としてしか君は利用できないけどね」


「これは、他にも利用できるのか?」


「俺とリリスが、帝国の龍の道に現れて、空を行進した時、100体の物質モンスターがいただろ。あれは、それの集合体なんだ。つまり、そのソースは、兵士にもなるんだよ」


「凄いな・・・」


「クリスチャンになった時のお楽しみということで持っておいてくれ

そいつは、人の嘘を見破る能力もあるから、心から信仰心があるのかを判別して、そのソースが認めれば、ヨハネ、君にも色々使えるようになるよ」


「人の嘘を見破る・・・それこそ使えるじゃないか」


「100%の精度で判別するわけじゃないけどな。君たち帝国側が、俺たちに何か話せないことがあることも実は気づいていたりするんだ」


「そうか・・・分かっていたのか」


「言いたくても、言えない事情があるんあろ?サネル・カパ・デーレピュース上院議員も、悪意を持って言わないとは思えないからね」


「あぁ。そう考えてくれると助かるよ」


「友としての君を認めていくことも、皇帝としての君を認めていくことも、これからはしていくつもりさ」


「ありがとう。セルフィ」


「それはお互い様さ。そのソースは、あげるけど、俺もデフォルメーションという伝説の剣をもらったからね。マーレ・ソーシャスと戦いながら、使わせてもらったけれど、これは本当に凄い武器だな」


「気に入ってくれたのなら、こちらとしても喜ばしい。まー実は君を懐柔させるための贈り物なんだけどな」


「おいおい・・・」


源は、デフォルメーションを抜いて、右手に持ち、剣をあらゆる形に変化させた。


ヨハネはそれをみて、驚く。


「何だそれ!」


「え?デフォルメーションだよ」


「それが、あの伝説の剣!?どうして、そんなに変化しているんだ?」


「え・・・そういう武器じゃなかったのか?龍王の伝記にも、変化する剣だと書いてあるけどね」


「いや・・・確かにそうは聞いたことがあるが、それにしても、その動きはなんだ。早すぎないか・・・?剣が本当に変化する剣とは思わなかったぞ」


デフォルメーションの変化の速度は、異常だった。目にも見えないほどのスピードで、あらゆる形に変化していた。

「どうやら、デフォルメーションは、俺と相性がいいみたいだ」


源の持っているリトシスを発動させ、さらにデフォルメーションの変化をうわのせすることで、目にもとまらぬ速さで、あらゆる形へと変えることができていた。

実際、リトシスを使っても、源の作り出したグラファイソードでは、出来ない変化だ。


「手にしっくり来るというか、なぜか馴染む気がするんだよな。この剣・・・本当に良い剣をもらったと思ってるよ」


「伝説の剣には、まだまだ秘密があったのだな。お前にあげたのは、もったいなかったとさえ思えるぞ」


「返せなんて、言わないでくれよ・・・」


源は、ヨハネを部屋に戻して、別れを告げ、ドアから出ると、サムエル・ダニョル・クライシスが、冷たい目をして、源をみていた。


「次、俺に何も報告もなしに、陛下を飛ばしたのなら命はないと思え」


「・・・はい・・・わたしもお止めしたんですけどね・・・」


どうやら、サムエル・ダニョル・クライシスは、転移した場所にも付いてきていたみたいだ。

当たり前だろう。かりにも世界を支配している帝国の皇帝をこんなに簡単に連れていけるわけがなかった。


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