156章 驚異の排除
【異空間】
源は、大共和ケーシス首都ハーモニーのど真ん中で、闇魔法、異空間を発動させた。
源のマナ量で行い作られた空間は、巨大な真空となり、辺り一面の物や人、モンスターを突然吸い込みはじめた。イグシオンが使っていた比ではない。
人々は、もの凄い勢いで、吸い込まれたので、建物などにしがみついて、耐えようとする者もいたが、耐えている者たちでさえ、体は横になって、まるで、こいのぼり状態になる。
近くに掴まることができなかった大勢の人たちは、突然のことで耐えられるわけもなく、巨大な真空空間に向かって、中へ中へと飛ばされていった。
【リトシス】発動
マーレ・ソーシャス以外の大共和ケーシスの者は、空中の者たちも、ピタリと静止した。
マーレ・ソーシャスは、突然のことに、地面に足を付いて踏ん張ろうとするが、耐えきれず、真空の中に、核分裂を始めた光りと一緒に、飛ばされた。
真空に触れようとした瞬間、マーレ・ソーシャスは、その場から消えた。
転移魔法でその場を逃れたようだ。
核分裂をしはじめている光りの珠は、真空の手前で時空空間ゲートによって開かれていたところに入っていった。源によって新大共和ケーシスとは、まったく違う場所の空高い場所に、空間転移して、源と一緒に消えた。
大共和ケーシスの場所から源がいなくなると、異空間とリトシスは、消滅し、人々は、ズシンズシンと1mの高さほどから地面に落とされた。
何が起こったのか分からないで、混乱していた民に、ボルア・ニールセンが説明をはじめる。
源は、核分裂する光りを空高い場所に移動させた後、すぐに【闇範囲】を発動させて、暗闇の中に閉じ込めた。
大量の水を転移させて闇範囲の中にいれ、水を減速材として利用する。さらに第二の減速材としてグラファイトを利用して、加速するのを抑えていく。
あらかじめ用意していたカドミュウムを地下金庫から取り出して、付着させ沈静化させていくが、それでも、加速は止まらない。
リトシスによって愛と解析を繰り返し、核分裂の作用を抑え込んでいく。
物凄いスピードで分裂する中性子の速さを超えて、愛の速度計算は、リトシスを制御させて、無力化していった。
その時間は、わずか5秒
わずかに汚染されたものは、闇範囲の中に入れたままにして、すぐに、源は、瞬間移動した。
マーレ・ソーシャスの後ろに突然あらわれた源は、後ろから弾き飛ばす。
大共和ケーシスの遥か1万2000km離れた魔法国モーメントのさらに外れに位置した場所で戦いはじめる。
レジェンドからは、ソロによる通知が源の視界に表示される。
【1km南方にスミス有り】
突然、後ろに衝撃を与えられたマーレ・ソーシャスは、また何が起こったのか分からずに、そのまま吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
新大共和ケーシスを突然、核爆発で吹き飛ばし、何が起こったのか分からないように混乱をまき散らそうとしていたはずのに、その自分が、逆に何が起こっているのか分からない状態にされ理解できていない。
間髪入れずに、源は、地面にうつ伏せになって倒れているマーレ・ソーシャスの首の根本に衝撃を与えるが、意識を飛ばすことは出来なかった。
攻撃を繰り返す源の後ろから何者かが攻撃してきたのを感知して、素早く距離を取る。
しかし、その距離を素早く詰めて、連続で攻撃を繰り返してきたのは、マーレ・ソーシャスと同じ悪魔の姿になったスミスだと思われるモンスターだった。
この数秒で、1kmもの距離を移動してきたのだ。
物凄いはやいじゃないか・・・・
『愛。5%』
『分かりました。源。5%の補助機能を開始します』
スミスだと思われるモンスターは、腰の剣を抜いて、横一線に素早い太刀筋で、斬りつけたが、精確に状況を把握している源は、その剣筋をギリギリの間合いで、躱す。
スミスの剣は、源の顔をすり抜ける。
「スミス。分かるか?君は、ソロモン・ライ・スミスじゃないのか!?」
スミスは、何の反応もせずに、攻撃を繰り返す。
その連続攻撃は、さすが騎士団長の父を持つだけあり、無駄のない剣さばきだった。
源の知覚は、愛の分析によってすべてのものがスローに感じるほど、的確で精密なものだった。
スミスの速い攻撃ですら無駄なく躱し続けるが、源は足を取られてしまった。
源の立っていた地面だけがまるで沼地のようになり、足が沈んでいく。
マーレ・ソーシャスが早くも参戦してきていた。
その隙を見逃さず、スミスが、源の首をなぎにいった。
源は、咄嗟に剣でその攻撃を受け止めると、後ろに大きく吹き飛ばされた。
リトシスを発動させなかったとはいえ、凄い衝撃に戸惑う。
『しょうがない。愛。20%』
『分かりました。源。補助機能20%を行います』
スミスの素早く威力のある攻撃の中に、さらにマーレ・ソーシャスからの緻密に配置された魔法攻撃が源の全方位から打ち放たれる。
氷もあれば、火もあり、風を使った斬り裂く魔法も追加されて、源に襲い掛かる。
しかも、無詠唱だ。
源は、スミスの攻撃と魔法を剣で防ぎながらも、正確に躱していく。
打ち込まれるたびに、力を感じるのは、さきほど手に入れた伝説の剣デフォルメーションだった。
ダンベラの大き目のその剣は、グラファイトで作られ、その硬度は理解していたが、戦いを続ければ続けるほど、力のようなものが、剣からほとばしるように溢れ出す。
また、それだけではなく、グラファイトで作られているのに、その剣は、変形して、形を変えた。
リトシスの効果で変形しているわけではないが、リトシスと組み合わせたことでさらに変形する剣のスピードが極端に早くなって敵の攻撃を防いでくれているようだ。
源が思い描くような形に、まるで生き物のように、動くので、枝分かれした刃の一本で、ふたりの攻撃を弾き返す。
マーレ・ソーシャスが苦々しい顔をする。
「なんだ。お前のその剣!それにお前、どうしてこんなところにまで、俺を追いかけることができたんだ!?」
源は、わざわざ答えない。
やっぱり、この剣・・・・普通じゃないな・・・その名【デフォルメーション】というように変形するのか
まるで手がいくつも生えたような気さえする。枝分かれしたデフォルメーションは、ナイフともいえないほど針金のように細いが一本一本が、リトシスによって強化されているために、スミスの攻撃を防いでしまう。
スミスに源は、攻撃をしていないが、スミスの攻撃をデフォルメーションで受け止めているだけで、スミスの剣は、破壊されていった。
源がリトシスで作り、能力追加珠などで不可したグラファイソードでも、これほどの剣の威力はない。剣自体が、生き物のように変形するのも、スキルとは思えない。
次の瞬間、マーレ・ソーシャスの後ろに瞬間移動して、4つ股に解れたデフォルメーションを上から下へと振りぬいた。
ザザザク
その剣は、マーレ・ソーシャスが反応することもできず、打ち付けられ、体は、4つに切られ地面にバタリと倒れた。
振りぬいた後は、すぐに一本の剣に戻った。
源は、切裂いた遺体に対して、すぐに炎弾を発動して、燃やし尽くした。
「ふぅー。これで1つの危険は、処理できただろう。あとは・・・」
スミスの顔をみる。
マーレ・ソーシャスが一瞬で倒されたのをみて、少し動揺している様子で顔を歪ます。
そして、すぐにその場から逃げ去ろうとした。
まずいな・・・
源は、地面に落ちている小石を広い、それにソースを埋め込むとリトシスを発動させて、スミスだと思われるモンスターの大体の方面に、投げ込む。
投げられた小石は、源のすぐ目の前に作り出した小さな時空空間ゲートの中に、入り、その先にいたスミスの後ろ右肩に命中してめり込んだ。
スミスは、倒れそうになるが耐えて、そのまま、もの凄いスピードで去って行った。
一番驚異だと思われていたマーレ・ソーシャスは、処分することができた。
レジェンドや新大共和ケーシスにとって、驚異だったのは、核爆発を起こせるほどの魔法を使えることだった。なるべく、速やかに処理することを予定として考えていた。いくら、大共和ケーシスを強化しようとしても、首都に入られて、また爆発させられたら何の意味もなくなるからだ。
あの魔法は、小型核爆弾よりも、質が悪い。
現世のように国に入るための関所が徹底しているわけでもないので、入り込めるし、魔法なので持ち運びすら関係がない。それにマーレ・ソーシャスは、転移魔法まで使える。
セルフィとリリスが、帝国に行けば、そこを狙われると予測したのは、ソロモン・ライ・ソロだった。
4年前、帝国の郊外で、核爆発だと思われる爆撃魔法を行ったのは、マーレ・ソーシャスではなく、ソロモン・ライ・スミスだったという報告情報があった。
つまり、マーレ・ソーシャスだけではなく、同じ魔法を使えるスミスもまた驚異のひとりだということだ。
だが、さきほども移動して逃げたことからも、スミスは転移魔法は使えないと思えるので、今は様子をみようと考えた。
源は、どうやって1万kmも離れたマーレ・ソーシャスの場所を追いかけることができたのか。
それは、前回、ボルフ王国での戦いの最中に、マーレ・ソーシャスの背中を腕ごと突き刺した時、ミカエルのソースをマーレ・ソーシャスの体に、いれて、取り除けないように軽く融合させておいたのだ。
もちろん、ソースの能力が使えるほどの融合ではない。
その時は、まさか核爆発を起こせる魔法があることも知らなかったし、敵がそれを使えるとは思ってもみなかったので、ソースから手に入る敵組織の情報のために、泳がせていた。
ボルフ王国がすべての黒幕ではなく、別の勢力も関わっていたので、少しでもその勢力に探りを入れたかったからだ。
あとは、ソロモン・ライ・スミスのことがあった。
ボルフ王国を爆破され、その後、目を覚ました時、マーレ・ソーシャスをすぐに追いかけて、亡き者にすることも出来たが、マーレを倒してしまえば、スミスの居場所が分からなくなる可能性があった。
ソロが、レジェンドに手を貸してくれていたのは、スミスを助けることができるのが、俺だけだということを予知していたかもしれないと考えたのだ。
案の定、帝国に出かけたその時に、攻撃をしかけてきて、スミスを発見することができた。
これらの脅威や問題が残っていることは、あらかじめ主要メンバーには、伝えてあるので、皇帝にはリリスが、新大共和ケーシスには、ボルア・ニールセンたちが、今頃、説明してくれていることだろう。
そして、スミスの肩に打ち込んだ小石もまた、スミスの位置を教えてくれる。
正直、スピードは、スミスのほうが早いかもしれない。瞬間移動を連続で繰り返して、スピードの差を埋めることもできるが、慎重に行うようにソロに指示されていた。
どうやらスミスの体には、他の生き物の核以外のものが、埋め込まれているようだ。
マーレ・ソーシャスにスミスは誘導され、あの姿にされたようだが、現在、スミスをコントロールしているのは、別の者だとソロは考えていた。
もし、スミスを元に戻すのなら、なるべく1対1で戦い、戦っている間に、リトシスによってスミスの体がどのように変化してしまっているのか、何が体に埋め込まれているのかをスキャンして対処するしかない。
そのためには、時間も必要だ。
スミスが寝ている時に、瞬間移動して、麻酔薬でも打って、深く眠らせ異物を分離させる方法も考えられるが、魔法はともかく身体能力はマーレ・ソーシャスを超えているだろうスミスに、通用しない可能性が高い。
あの影の男もかなりの反応の速さで触ることもできなかったことを考えると、寝込みを襲い分離しようとしていることを察知した瞬間、異物を作動させるかもしれない。
レジェンドと新大共和ケーシスは、ソロモン・ライ・ソロに借りがある。
帝国連合軍との戦い。それにボルフ王国との戦いで、多くの命を影で救ってもらった借りだ。
もし、ソロがいなかったら、サムエル・ダニョル・クライシスに俺も殺されていただろう。
源は、通信でソロに話かける。
『ソロ。すまない。スミスには、逃げられてしまった。向こうが戦おうとしてくれなければ、体を調べることも難しい。無理やり追いかけまわしても、いつ操っているやつが、体にしかけた何かを作動させないとも限らないからさ・・・』
『だいじょうぶ』
平然とした声だが、優しくソロは答えてくれた。
何とかスミスを元に戻してやりたいと源は、思った。