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155章 デフォルメーション

源は、リリスと共に、ドラゴネル帝国へと転移した。

黒い兵士の姿になったミカエル100体も連れている。

ミカエルには、棒の先端が球体のようになった模擬的な武器を持たせている。

ミカエルは、1mmのソースで変形できるので、あらゆる武器を作り出すことができるので、切れ味は悪いが手の部分を剣にも出来れば、槍にもできる。

模擬武器を持たせている理由は、物質モンスターの兵隊を豪華に使役しているとみせるためだ。


帝国に来た理由は、帝国連合を裏切った元ボルフ王国国王キグダム・ハラ・コンソニョール・ソールたち王族を帝国に連行するためだ。


リリスと源は、今まで着たこともないような豪華な正装服で身を包んでいた。

とくにリリスは、女王である気品が溢れ出す装いでというサネル・カパ・デーレピュース上院議員の指示によって、ミカエルをフル活用して、豪華なドレスを身にまとわせていた。

この世界では使うこともないと思っていたダイヤモンドをリトシスで作り出して、光るダイヤモンドでドレスを着飾った。

現世では、ノアの大洪水があったおかげで、原油などがあるように、圧縮された炭素であるダイヤモンドも存在したが、この世界には、ダイヤモンドというものは、ほとんど発見されていないので、ダイヤモンドの光る美しさは、人々の目を釘付けにする効果はあるだろう。


源たちが、現れたのは、帝国首都ドラゴで一番の広い街道の【龍の道】だった。

現れる前から、龍の道には、大勢のひとたちが集まり群衆となっていた。

サネル・カパ・デーレピュース上院議員によって、伝説の天使セルフィと伝説のケイト・ピューマ・モーゼスの末裔、リリス・ピューマ・モーゼスが、ボルフ王国を一網打尽にして、制裁を加えたことが、大げさに、民に宣伝されていたからだった。


これらのニュースは、首都ドラゴだけではなく、世界中の国紙に、載せられ、セルフィの注目度は、さらに増していた。

本当なら注目されたいはずもないが、帝国の権威を回復させるための仕事であり、レジェンドを帝国という巨大な権力から守るための条件の1つなのでしょうがない。


龍の道の10mも上の空間から現れたのは、源とリリス。

そして、ふたりの周りには、光の粒子によって光り輝いていた。

源がリトシスによって作り出した光りだ。コロシアムでの戦いでもこの光りが好評だったということで今回もさせられることになった。その光がまたリリスのドレスや装飾品のダイヤモンドに反射して、美しくみせた。

さらに謎の100体の黒い物質モンスターが整然と列をなして現れ、不自然にも、宙をまるで幽霊のようにゆっくり前進して進む。誰一人、どの機も歩く素振りすらしないが、前進していく。


その列の中央には、拘束された元ボルフ王国国王キグダム・ハラ・コンソニョール・ソールたちが、王冠を被りながらも、髪の毛は乱れて、連行されていた。


整然と並んだセルフィたちの行進をみて

「わああああ!!」という物凄いドラゴネル帝国の民の歓声が響き渡る。


サネル・カパ・デーレピュース上院議員が用意させたのか、首都ドラゴの建物の屋上には、人が乗っており、その人たちは、上から紙吹雪をばら撒いて演出していた。くす玉なども次々と開かれて、龍の道は、歓声に包まれた。


民たちが、セルフィたちの行進を邪魔しないように、沢山の帝国の兵士たちが、2列になって道を確保し護衛していた。

空を行進するとは思っていなかったため道の中央をあけるために用意されていた兵士たちだった。


その上を源とリリスは、リトシスによって移動する。


リリスは、内心、戸惑っていた。


なによ・・・これ・・・帝国民が、どうして、こんなに、わたしたちのことを歓迎しているの??


リリスは、まさかここまでとは、思っていなかった。


―――その様子をレジェンドの民たちも、ミカエルの映像を通して、遠く離れたレジェンドで、みていた。


「セルフィ様たち、すごい人気・・・」


「こどもも大人も、みんな笑顔で迎え入れてるわ・・・」



―――リリスは、ミカエルを通して、セルフィに疑問をぶつける。


『あのセルフィ・・・わたしたちって帝国と戦ったのに、どうして、こんなに受けれられてるの?この前、セルフィが話してくれた時、帝国もまだ信用できないってことだったと思ってたけど?』


ミカエルの通信では、リリスの本音ほんねが出ているが、表向きに見せている顔は、笑顔のまま群衆に手を振る。


『帝国連合軍とレジェンドの戦いのさなかに、帝国の政治家サネル・カパ・デーレピュース上院議員が来て、その後、帝国側に根回しをして僕たちを助けてくれたんだ。ソロモン・ライ・ソロも、上院議員が連れてきてくれた。

それで、帝国側としては、伝説の天使という存在を大々的に利用して、この騒ぎをわざと作り出して、帝国の敗退を誤魔化そうとしているわけだね』


『えっと・・・帝国の権威がレジェンドに追い返されたことで落ちてしまったものを、次は逆に回復させるために、わたしたちが利用されているってことよね?』


『うん。そういうことだね』


『それにしても、この騒ぎは、凄すぎない?わたし、正直、怖いんだけど・・・』


リリスの顔は、よくみると、少しひきつっている。


「リリス・ピューマ・モーゼスさまーーー!!」


リリスは大きな声で叫んでくれた民に手を振る。


『わたしの名前を叫んでる人がいるよ?』


『たぶん、上院議員が紛れ込ませた、サクラじゃない?』



龍の道の奥には、国会議事堂があり、その前には、巨大な噴水が建てられていた。

その噴水の広場に、待ち構えていたのは、ドラゴネル帝国皇帝ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカだった。


皇帝のまわりには、黄金で飾られた壁や装飾品などが、外に並べられ、地面には、あらゆる色の花びらが大量にまかれていた。

皇帝は、宝石で豪華に着飾った正装の効果なのか、その姿は、キラキラと光って見える。

レッドカーペットならず、ブルーカーペットが、3列に長く伸ばされ、帝国の国旗が大量に広場に掲げられていた。


大勢の騎士たちに守られ、その中には、サムエル・ダニョル・クライシスやパーシー・テリシなど、複数のS級騎士たちが、立ち並んでいた。

それらの兵士たちの強さを源は感じ取る。


サムエル・ダニョル・クライシス以外のS級騎士は、あの戦いには参加していなかった。本当にドラゴネル帝国は、あの戦争に本腰をいれていなかったことを痛感させられる。

あの時は、隊長クラスはもちろん、兵隊たちのほとんどが、各国の農民兵だった。

連れてきていた騎士たちも三軍といったところだったのだろう。

1つの村ということもあり、シンダラード森林に入ろうとしてきた帝国軍は、隊列も関係なく進行してきていたからだ。一流の部隊であれば、そんなことは無かっただろう。


陛下の前まで進み出た源とリリスは、ふたり並んで、皇帝陛下の前に、ひざまずいた。


すると、帝国の騎士のひとりが、巻物を大げさに、広げて、内容を読み上げる。


「新大共和ケーシスの女王リリス・ピューマ・モーゼス。

並びに、伝説の天使セルフィの支配するレジェンドは、帝国に反旗をひるがえした逆賊ボルフ王国を見事、打ち滅ぼした。

悪意で満ちたボルフ王国は、あろうことか、天使様たちを影で脅し、一度は、帝国と戦わせたが、ドラゴネル帝国皇帝陛下ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカ様が、両お二人を解放された。

解放されたお二人は、すぐさま、ボルフ王国へと攻め上り、これを滅ぼされた。

戦争期間は、半日。一日もかけずに終わらせ、こちらの被害者は皆無という奇跡を世に示された。

よって、ボルフ王国の領土は、ケイト・ピューマ・モーゼスの血を受け継ぐリリス・ピューマ・モーゼスに返還され、帝国に連盟する新しい国が誕生する。

それが、【新大共和ケーシス】である。

世界の平和に貢献したふたつの勢力には、それぞれ金1万枚を帝国陛下から与えられる。

さらに伝説の天使であるセルフィには、伝説の発明王セカンが作り出した伝説の剣【デフォルメーション】1点を与える。


ボルフ王国国王キグダム・ハラ・コンソニョール・ソールとその一族の身柄は、帝国が預かることとする。

帝国の兵士を殺め、天使様たちを苦しめた罪は重い。裁判を受けさせ、その沙汰を待て。


活躍された2つの勢力は、末永く帝国と共に栄えていくこととなり、リリス・ピューマ・モーゼスは、大侯爵。

そして、天使セルフィには侯爵の地位が与えられる。

セルフィは、前に進み出よ」


あれ・・・それぞれ1万枚??と源とリリスは思うが、黙ってお辞儀をした。


人々は、それを聞いて、さらに大きな声をあげて、盛り上がった。

国紙を書く人々は、必死でその様子を絵に描いて、この場面を記録していた。その絵は、顔はぼやかされて描かれる。

群衆の大声援と拍手が噴水広場に増幅されていった。


皇帝ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカの前に、源は、さらに進み出て、片膝を地面についた。


皇帝は、一本の剣を両手に持ち、セルフィの前に差し出す。


源は、皇帝から受け取った伝説の武器の1つといわれているらしい剣を手に持つと緊張が走った。


なんだ・・・この武器・・・普通じゃないぞ・・・


すぐさま、リトシスを発動させて、【デフォルメーション】を調べ上げる。


『源。驚くべきことに、この武器の素材は、グラファイトで作られています。そして、この武器に使われているコアは、A級プラス、もしくは、S級のコアが使われていて、30近くのスキルやマナが付与されています』


『グラファイト!?この世界でも、グラファイトを武器に変えられる技術があるというのか?』


『帝国兵士たちが使っていた武器の多くは、鋼鉄でした。サムエル・ダニョル・クライシスの武器の素材は、謎ですが、グラファイトを加工できるとは、わたしも思ってもみませんでした』


持ってみて感じた違和感は、武器というよりも、生き物のように感じたことだ。


伝説の発明王セカンというだけあって武器に対する研鑽は、群を抜いているようだ。


『発明王セカンとはどういった存在なんだ?』


『発明王セカンは、今からおよそ3000年ほど前に存在した王だと言われています。

人間しかいなかった世界に、突如モンスターが現れ、それを救ったのが、狼王だと言われていますが、その時代からモンスターと人間との戦いが加速化していき、1000年もの間、人間はモンスターを恐れて暮らしていたと伝承にはあります。そこに、モンスターに対して、有効な武具などを作り出し、世界を劇的に変えたのが、発明王セカンという物質モンスターだったという伝説が残っているのです。源』


『モンスターだけど、人間のために武具を発明していったということか?』


『そのようですね。源』


皇帝陛下が、伝説の天使セルフィに伝説の武器を渡したその瞬間、さらに人々は、大歓声をあげた。



皇帝ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカが、ふたりに軽く話しかけた。


「よくやった。思った以上の成果だったぞ。こんなところでは、ゆっくり話もできない。違う場所に移ろう」


セルフィとリリスは、頷いた。


皇帝陛下の隣には、見た事もない静観な顔つきの女性が皇帝の後ろにたたずんでいた。

皇帝は、権威をただ寄せながら群衆に向けて手を挙げる。

サムエル・ダニョル・クライシスが、転移石を手に持って、その女性も含めた5人で、転移した。

この距離を移動するのに、高価な品物である転移石を使用するという大判振る舞いだ。


100体のミカエルたちは、龍の道で整列して、微動だにしない。

帝国側の兵士たちに、ボルフ王国国王たち王族は、連れて行かれた。


源たちが、転移したのは、国会議事堂の中の大広間のようだった。


サムエル・ダニョル・クライシスが、部屋の探知操作を行ったのか、皇帝陛下に、問題がないと報告する。


広い広間に、たった5人だけが、椅子に座る。


遅れて、サネル・カパ・デーレピュース上院議員が広間に入って来て、源たちの隣に座る。


皇帝ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカが、リリスに話しかけた。

「リリス・ピューマ・モーゼス殿。お初にお目にかかる。其方の活躍も聞いておるぞ」


リリスは礼儀正しく頭を下げる。

「初めまして、皇帝陛下。嬉しい限りです

本来なら制裁や敵対されてもおかしくはないわたしたちに対して、寛大な心で、受け入れてくださったことに、心からの感謝を申し上げます」


「そういってもらえると助かる」


続いて、皇帝は、さきほどの女性のほうに手を差しだした。

「この者は、ラルクレイア・バシフィス。帝国の知略参謀だ」


つまり帝国の軍師だということだ。源も挨拶をする。

「はじめまして、セルフィと申します。帝国の知略参謀が、女性だということには、少し驚きました」


「セルフィ様のお話は、皇帝陛下やサネル・カパ・デーレピュース上院議員からも聞き及んでいます。

確か、ご自分では伝説の天使なのかどうか迷われているということですが、行ってきた異業はまさに伝説にふさわしいのではないでしょうか。

また、龍王の意思を復活させ一神教の統一した価値観を広げることこそ世の平和の足掛かりとなるとする知略には驚かされました。

皇帝陛下を支えるためにも、わたしも役立つように行動させていただきます。よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


言葉とは裏腹に、ラルクレイア・バシフィスの表情は、何の感情も含んでいないようにみえた。


皇帝陛下ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカがセルフィに笑顔で、首を動かし、その目は、源の武器の方を向いている。


「どうだ。伝説の武器といわれるデフォルメーションは」


「正直、少し戸惑っています。この武器を手にして、これが普通の武器ではないと感じたからです」


「そうだろう。この世界に武器という概念をもたらしたとさえ言われている発明王セカンによる力作だ。当然、その後に、それを超える武器も出てきてはいるが、金を積めば手に入るという武器でもないぞ」


「なんでしょうか・・・この武器は、まるで生きているかのように感じます」


「生きているか。確かにそんな気もするかもしれぬな。龍王もそのデフォルメーションを持って戦っていた時期があるというほどの剣だ。

龍王が待ち望んだ存在である其方なら使いこなしてくれると思って与えた」


「ありがとうございます。これほどの物を頂けるとは思ってもみませんでした」



「うむ。喜んでもらえればそれでいい。ところで、今回の戦いでは、犠牲者が出なかったいうのは、本当のことか?」


皇帝陛下の質問に、セルフィが答える。

「はい。陛下。わたしたちレジェンドも、新大共和ケーシスの20万人の農民たちも、犠牲者を出すことなく、終結させることができました」


「あの大爆発の中、犠牲者を出さなかったのは、驚異的だな」


「幸い爆発の直前に察知できたので、22万人の命は守ることができました」


「ふむ。どのように助けたのかまでは、聞くまい」


「ありがとうございます。陛下」


「しかし、ボルフ王国は滅び、新しく国を作り出すことは容易なことではない。

帝国は、其方たちを戦争にけしかけた側だけに、今後の支援は惜しまず行うこととする。

1つの国を亡ぼすのは、本当なら膨大な被害と費用とがかかるものだが、今回は、すべて其方たちに負担させてしまった。それは申し訳なく思っている」


「それで、それぞれの報奨金が1万枚になったのですか?」


「その通りだ。ボルフ王国が消し飛んだのなら、あれだけでは足りないことだろう。

だからこそ、物資も送り続けることとする。人手が足りないのなら、帝国側からも用意するから遠慮なく申し付けよ」


「「ありがとうございます」」


「サネル・カパ・デーレピュース。レジェンド、そして、新大共和ケーシスの今後の動向について話してくれ」


「はい。陛下。現在、政治的に、圧力をかけてきているタカ派は、帝国の動きをあることないこと噂を広げ、わたしたちの勢力にさらなる戦争を行う意見を持つ政治家たちをけしかけてきています。

逆にハト派は、戦争ばかりをするという理由で、あることないこと噂を広げ、戦争回避するようにとけしかけています。

どちらも、前に進むための実行力がないまま問題を増やしている状態です。

ですから、今回のレジェンドや新大共和ケーシスの戦いにおいても、どちらも文句が上がっています。

政治家は、そのような煮え切らない状態を続けていますが、民たちのレジェンドと新大共和ケーシスのイメージは、良く、支持層が集まってきています。

政治家以外では、商人からも、貴族からも、両者に支援したいと願う人たちは、後を絶ちません。

特に帝国に被害をもたらしたボルフ王国を滅亡させたことがその効果を強めたと思われ、連日のように、わたしのところに有力士族が、面会に来ています

他国からの者も多いので、世界中に戦争の勝利の情報は、流れているということですね


新大共和ケーシスには、国の復興をしていただき、レジェンドも戦力強化に取り組んでもらうことになるでしょう

次にレジェンドや新大共和ケーシスの標的となり、さらに世界中の注目を集められるのは、ボルフ王国と手を結んだ三国同盟のベルマゼ獣王国とワグワナ法国となるでしょう。

帝国側としては、早目に、これらの国の粛清を促したいのですが、セルフィ様。時期的にはどうでしょうか」


「正直、まだ、新大共和ケーシスとレジェンドの強化は、見通しが通っていません。

兵士の多くは元ボルフ王国の者たちで、農民の兵士も集めたばかりです。すぐに戦えるわけではありません。

戦いは命がけですから、信頼が必要になってきます。

ですが、その信頼を固めることができるのは、一神教を信じた者たちです。

まずは、クリスチャンをどれだけ育てるのかが重要になってくるということです。

もちろん、地固めを後回しにして戦い勝つことも可能だとは思いますが、そんなことをして戦って得た土地は、すぐに奪い返されてしまうでしょう。

さらに問題を悪化させてしまう可能性もあります。

信頼できない仲間との連携は負の連鎖を生み出し、手に入れたものさえも、失わせます。

それに、ペルマゼ獣王国やワグワナ法国のことをわたしたちはまったくといっていいほど知りません。

ボルフ王国は、因縁の相手でしたし、自国だったので、土地勘もあれば、相手のことを知る情報もあり、特にボルフ王国の政治は、悪政で、民からの反感もありました。その悪政によって兵士の練度も低く、こちらの死亡者を0に出来たのは、ボルフ王国が自ら滅びに向かわせていた愚か者だったからだとも言えます。

そんなボルフ王国を短期間で滅ぼしたかのように思えますが、実際は、わたしがこの世界に生まれてからの因縁に近いので2年近くもの時間をかけたことになります。

2つの国のことは、ほとんど分かっていないだけに、時間と情報をもらいたいですね」


帝国皇帝ヨハネは、もっともだという面持ちで、その意見を受け入れた。


「サネル・カパ・デーレピュース。2つの国の情報を今、伝えよ」


「はい。皇帝陛下。

では、わたしの知る限りの情報を端的にお話しします。

まず、ペルマゼ獣王国は、多種多様の獣人やモンスターによって形成された国です。主に、中心となる兵士は、オークやオーガ、それにウルフ族です

ベルマゼ獣王国を支配している王は、マゼラン・パテ・アガというライカンで、長らく王の座を保持しています

戦いこそ名誉であるという気質の文化があり、毎日のようにペルマゼ獣王国は、郊外でモンスターと戦うだけではなく、闘技場でも戦いを行い続けています。そのため兵士の平均的なレベルは、帝国にも匹敵するほどです。

帝国との連盟をしていたものの、三国同盟の反逆によって実質は、離脱した扱いです。

モンスター系が多い国だからか、国は、森の中に存在し、地形的な把握は困難となることでしょう」


源が、質問した。


「以前、少しだけペルマゼ獣王国に寄ったことがあったのですが、確か、ゼブル・パテ・アガという王が即位していたという話を聞きました」


「王の息子ゼブル・パテ・アガですね

大死霊ハデスとの戦いで、命を落としたのです

ですが、こちらの情報では、王であるマゼラン・パテ・アガが、息子が邪魔だったため、大死霊ハデスにわざと殺させたという話も聞き及んでいます」


「父親が息子を殺害させようと企んだのですか?」


「ゼブル・パテ・アガは、戦士として有名で、民からの信望が厚く、次の時代の王にと持ち上げられた存在だったのを長年王として即位していたマゼラン・パテ・アガが、殺させたと言われているのです

それも一度だけではなく、何度も暗殺されそうになっていたとか

わたしたちの常識では考えられませんが、ペルマゼ獣王国では、子は、親の道具として扱われ、親が子を食料とすることもあるのです」


「ペルマゼ獣王国の価値観からすれば、親が子を手にかけたり、暗殺することは、ありえるというわけですね?」


「はい。その通りですね。セルフィ様

ペルマゼ獣王国が、常に戦い続けている理由は、強さこそが正義という考え方もありますが、食料を確保するという意味合いも大きいと言われています

戦争では、敵を食料として動くので、沢山の奴隷を集めては、保存しておくということです」


以前、リタは、ボルフ王国は、あれでも国を存続させるための倫理の常識がまだある方だと言っていた。つまり、あのボルフ王国は、まともな国のうちに入り、それ以下の国も多くあって、その1つが、ベルマゼ獣王国かもしれない


「もし、本当にペルマゼ獣王国が、そのような価値観であるのなら、わたしとしても、それを排除するのに、何の躊躇もありません

前回、わたしは帝国の安定のために、一神教である聖書の価値観を広めて、【人権】を確立させることが重要だと言いましたが、帝国がどうのというより、世の平和や安定のため、レジェンドや新大共和ケーシスの安全のためにも、それらの価値観に世の中を変える必要があると考えています

もちろん、こちらからも調べさせてもらってから、動きたいと思います」


「では、ペルマゼ獣王国との戦いは、ご納得していただけたということですね?」


「はい。サネル・カパ・デーレピュース上院議員。納得できます

ペルマゼ獣王国に行った時、馬車ならず、人車を見ました

裸の人間の首に鎖を付けて、車をひかせていたのです

たぶん、奴隷とされている人間だと思いますが、その時の奴隷の態度が、普通ではないと思っていたのです

食料として扱われていたとしたら、彼らのあのおびえた態度は、なんとなく理解できる気がしますね」


「では、次にワグワナ法国です

ペルマゼ獣王国が、王による独裁政治であったのなら、ワグワナ法国は、法治国家としての政治主導の国で、王族は、ほとんど象徴とされている国です

そして、ワグワナ法国は、人間至上主義を掲げた国で、帝国の連盟から離脱しています

もともと、かの国は、寛容さを教える文化があり、様々な生き物を受けれていたのですが、近隣の国であるトリアティ師団国という獣人の国との折り合いが悪くなった時期に、獣人暴徒化事件が起こり、ワグワナ法国の王族もその事件で、命を失いかけました

そのことから、ワグワナ法国は、トリアティ師団国に疑念を持ち、その事件は、腹いせにトリアティ師団が起こしたものだと主張しはじめたのです

そのため、人間以外の生き物を信用するなという流れが続き、帝国にも、何度も人間至上主義になるように訴え続けていたのですが、帝国側としては、人間だけを認めるわけにもいかず、帝国にも敵対的な行動を取るようになっていったのです

それほどその事件が壮絶で、157人もの民が犠牲になったのです」


源は、その話を聞いて違和感を覚えた。


「寛容さをうたっていた国がどうして急にそんなに強硬的な意見になるのですか?

民が大切だからその事件によって怒りが湧いたということも分かりますが、それで帝国と戦争をするというのは、さらに民を犠牲にすることで、本末転倒ですよね?

人間至上主義を掲げているにも拘わらず、獣人の国のペルマゼ獣王国と三国同盟を組んでいますし、何だか意味が分からないですね」


「帝国は、他国の内政などには、極力手出ししないという取り決めがあります

宗教も自由ですし、その国の文化も認めています

ですから、なぜワグワナ法国が、強硬的な国の決定をはじめたのかまで、詳しくは分かってはいません

あの事件以来、ワグワナ法国とトリアティ師団国との戦争は何度も行われています

民の被害者は増える一方ですね

昔は違いましたが、現在では、それだけ人間至上主義の思想を世界に広めなければいけないと強く考える王族と政治家たちがいるということです

ペルマゼ獣王国との同盟に関しては、巨大な権力である帝国を倒すための致し方無い選択だと考えたのかもしれませんね」


「正直、なぜワグワナ法国がそのような国になったのかが分からないので、ワグワナ法国をボルフ王国のように亡国とするのは、どうかとわたしは思ってしまいますね」


「ですが、世の安定を担っている帝国にまで、戦争をしかけてきたのですから、それはゆるされるべきではありません

何かしらの報復を与えるべきだと帝国側としては考えているのです

それに、三国同盟に加盟するような形で参加させられたレジェンドを裏切り、レジェンドの民を手にかけたのではないのですか?」


「策略をしかけ裏切ったのは、ボルフ王国で、ボルフ王国の情報を流されての行動だったわけですから、戦争に巻き込まれた形のワグワナ法国を一方的に悪だとするのも、わたしには出来ませんね

ですが、亡国まではせず、何かしらの報復を与えるべきというのなら、わたしも賛成です

ワグワナ法国に関しては、何だか違和感を感じますね」


「違和感と申しますと?」


「例えば、レジェンドは、帝国と戦いたくはありませんでした

ボルフ王国に、人質を取られていたような状況だったために、帝国と戦うという暴挙のような行動を取らざるおえなかったのです

サネル・カパ・デーレピュース上院議員も、レジェンドの風評の違和感を感じて、レジェンドを助けてくださいましたよね

ワグワナ法国も、何かしらの理由があるのではないでしょうか」


「確かに、獣人暴徒化事件にしても、違和感があり、それらは解明されていません

かといって、帝国が尋問したとしても、帝国と戦争をするような国になってしまったのですから、素直に話すわけもなく、情報漏洩しないための対策もされています

一度は、その防衛している壁を打ち砕き、帝国側が調査できるように介入しなければいけないでしょう」


「一方的に、裁くということではなく、その理由を解明するための戦いというのなら、レジェンドとしても、納得できるかもしれませんね

ペルマゼ獣王国と同様に、こちらからも調べさせてもらいます」


ミカエルが助言を与える


『セルフィ様。サネル・カパ・デーレピュース上院議員は、情報を知っていながら、話していない可能性があります』


『何か隠し事があるということか?』


『悪意があってのことなのかは、分かりませんが、隠しごとがある可能性は、8割を超えています。セルフィ様』


皇帝陛下やサネル・カパ・デーレピュース上院議員の態度からは、悪意があるとは思えない

俺も現実の世界での記憶があることを隠しているように、帝国側も何か言えない事情があるのかもしれないな


ペルマゼ獣王国よりも、ワグワナ法国のほうが、実は厄介かもしれないな・・・


サネル・カパ・デーレピュース上院議員が、これからの行動についての助言を提案する。


「当面は、レジェンドと新大共和ケーシスの戦力強化や国作りを行ってください

その間にも、情報が入り次第、セルフィ様とリリス様には、ご報告させていただきます」


「分かっていることだとは思いますが、前回、帝国側との提携した条件は、あくまで、レジェンドと帝国のものです

新大共和ケーシスとは、女王リリス・ピューマ・モーゼスと話を詰めて、おこなってください

ですから、帝国からワグワナ法国やペルマゼ獣王国と戦う命令がレジェンドに来たとしても、新大共和ケーシスとは、別だということですね」


「もちろん、それは分かっております

新大共和ケーシスとは、1つの国としての権利を持って、帝国の連盟に加盟してもらおうと思っています

戦争の発令時に、新大共和ケーシスが、軍を差し出すかは、新大共和ケーシスが決定することです

ですが、帝国の頼みを何度も断っていれば、それだけ心証も悪くなるということは、覚えておいてください

わたしはともかく、他の政治家たちが何を言い出すか分かりませんからね」


リリスも、頷きながら答える


「はい。帝国が龍王の意思である一神教を復古しようと願われているのでしたら、新大共和ケーシスは、出来るだけ協力していきたいと思っています」


皇帝ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカは、セルフィに話しかける。


「セルフィ。其方たちが、帝国を信頼できないのは、十分理解できる。わたしが、其方たちの立場であったら、同じように距離を測ろうとするだろう

だからこそ、こちらも、其方たちに歩み寄ろうと考えている

ボルフ王国は、すべてそちらに任せたが、次の2つに関しては、帝国側からも軍を出して、レジェンドだけに負担を被せるようなことはしないと約束しよう

ただ、今回は、レジェンドが単独でボルフ王国を倒したという事実が、世界中の人々に広げるために必要なことだったのだ

ゆるしてくれ」


「申し訳ございません。陛下。わたしも帝国と距離を置こうとは本心で思っているわけではありません

陛下のように物事を良い方向へと向かわせようとする方達とは、親交を深めていきたいですが、政治とはそんな単純なものではないと思っています

こちらが良いという方向は、他の人の不利益になる場合もあり、悪意ある者も、もちろんいるはずです

龍王の意思である一神教による価値観の一致が帝国に広がっていない以上、どうしても、様々な思惑が衝突してしまうからです

それまでは、距離を詰めようにも、お互い詰められないのではないでしょうか」


「そういった問題も、一神教の価値観の一致が解決できるとセルフィはみているのか?」


「はい。人の欲や考え方は、小事でしかないことをクリスチャンは理解しています

人ではなく、いかに神に基準を置くのかという意識が働くのですね

犯罪者は、自己欲や利己的な思考を悪意を持って行う常軌を逸した者がいますが、クリスチャンは、自己犠牲、不利益になったとしても、善を選ぼうとする善意を持って常軌を逸した者たちなのです

悪意を持って悪を行う者の真逆の存在であり、対局にある者なのですね

救世主イエスキリストは、人間を愛しているからこそ、すべてのひとを罪から救うために、十字架に身を差し出されたのです。

地位や名誉でもなく、自分たちの命さえも、神の基準のために投げ出すものが、クリスチャンという常軌を逸した者たちなのです

乗り越えられないと思われていたことも、神を中心にした考え方のおかげで乗り越え、限界を突破してきたのです」


「確かに、一神教を信じた龍王は、世界を変えた。その前に世界を変えたとされるエジプタスの国も一神教が広がっている

多くの問題に目を向けると手の施しようがないと思えるが、1つにまとめて共に考えれば、その他多くの問題も見えなくなる

違いや無い物をみるのではなく、共通したものやあるものから共に解決していけばいいということだな」


「はい。すぐに共通認識に至ることはなくても、少しずつ共に歩むことで理解していくものでしょう

住めば都という言葉がありますが、最初は相手を理解できないは当然です。ですが、時間とともに関わっていけば、人は知らないうちに共通点を見出していくものなのですね

今は距離があったとしても、本心では、いつかはその距離も乗り越えていけるはずです」


『セルフィ様。新大共和ケーシスに、侵入者。マーレ・ソーシャスです』


源は、慌てて、言葉にする。


「大共和ケーシスに敵が現れました。すみません。詳しくは、また」


そう言い残すと、一瞬で、源は、その場から消えた。


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