152章 アルティコア
ボルア・ニールセンによって、20万人の畑の場所が、振り分けられた。1家族につき4エーカーもの広さの畑を与えられ、新大共和ケーシスの民たちは、喜んだ。
1家族の畑の広さにしては、十分すぎるほどの広さだ。
レジェンドやユダ村から新芽を分けてもらい。早目に育つ芋類などを中心に、農業は作られはじめる。
バルト・ピレリリが中心となって、奴隷や民たちから兵士候補が集められた。
その数、5000人。
ほとんどが、兵士を経験してきた者や冒険者をしていた者たちだったので、すでにDやCランクの者が多かった。
それらの兵士たちには、新大共和ケーシスの警護をしてもらうことになった。リリスたちと戦った兵士たちは、奴隷になっているので、武器は与えられていなかったが、それ以外の人たちには、この世界では一般的な鉄の剣や鎧を与えた。まだ、クリスチャン認定されていないので、ミカエルやレジェンド特製の武器は使えない。
ウオウルフたちは、引き続き、新大共和ケーシスの警護を続けてもらい。レジェンドの500人のうち200人は、レジェンドに戻って通常勤務の警護についてもらい、残りの300人は、70カ所の村々に領主として働いてくれている兵士を助けに向かってもらった。
レジェンドの兵士たちは、皆クリスチャンでミカエルを使える。ミカエルが3体いるとはいえ、たったひとりで、突然、「領主になれ」と命令されても、むちゃすぎるから300人の助け手を送った。
112の村のうち残りの42村は、ボルフ王国の時からの変わらない領主のまま継続させる。
日を追うごとに、それらの領主たちが、新しい国の女王であるリリスに会いに現れては、献上品を差し出そうとしてきたが、リリスは、献上品は、1つも受け取らなかった。
のちに、その領主をクリスチャンの領主に、変えるかもしれないし、その献上品は、民に返すべきだと思っていたからだった。
ただ、問題が浮上した。
それは、各村の冒険者組合の問題だった。
この異世界には、遺跡というあらゆる生き物を生み出す場所が、各地にあり、シンダラード森林には5つの遺跡がある。
そして新大共和ケーシスのすべての領地には、あわせて200個もの遺跡が存在していた。その200個の遺跡からは毎日のように、モンスターなども生み出され、排出されているので、その中に害をもたらすようなモンスターを排除するのが、冒険者であり、冒険者組合の役目だった。
モンスターが多くなることは、命の危険が増すことで、食の問題と変わらない重要なものだけに、国が、冒険者組合の半分の保証を出していた。冒険者を育成するのも、国の保証から出されているものだった。
ボルフ王国が滅亡し、新しい国が誕生したというのなら、その新しい国、新大共和ケーシスは、冒険者組合を前と同じように保証してくれるのか?という問題が、各地であがっていたのだ。
そして、冒険者として優秀な者は、国が兵士として雇ってくれる仕組みも、変わらないのか?といった質問や優秀な冒険者を排出するための企画も、同じように続けてもいいのか?といったものまで、問題として上がっていた。
これには、リリスと源も頭を悩ませた。
首都ハーモニーの22万人のことでも、一杯一杯のところに、112の村の管理まで、しなければいけない。そして、冒険者組合だ。
新大共和ケーシスの主体となる人は、クリスチャンにしたいだけに、あまりノンクリスチャンの冒険者を増やしたくもなかった。一般的な武器だとしても、それらは武器なだけに、どのような価値観を持った冒険者かも分からないからだ。
この世界では、冒険者としての活躍できた人ほど、国や領主が騎士として雇ってくれるようになっていた。その点は、江戸幕府の時代と似ている。武士たちが、強いということを誇張していたのは、どこかの藩主に雇ってもらうためだった。いつまでも雇ってもらえない野武士は、盗賊にさえなってしまっていた。この世界もそれは同じだろう。盗賊などにならないために、世界中に設置されていたのが、冒険者組合なんだ。冒険者としてでも生きていくことができる。
とはいえ、国の騎士になるには、クリスチャンになることが新たに条件となることを伝えれば、それだけ反発して、冒険者の数が減ることも予想された。
冒険者が減れば、モンスターが増えるわけだから、国の民たちの命が脅かされるという悪循環が生まれてしまう。
なので、新大共和ケーシスの国教は、一神教だという話を42人の領主などにも、少しずついれて、112の村の冒険者組合にも、そういう情報を流すようにしながら、当面は、ボルフ王国と変わらない保証を約束した。
しかし、優秀な冒険者の発掘するという企画は、今は余分なので、取りやめた。
冒険者に対する保証は、他国よりも劣るようにしてはならない。でなければ、冒険者は、保証がいい国に移動してしまうからだ。首都ハーモニーが、落ち着いたら、112の村々にも、教会を建てて、民たちに一神教を理解してもらえるように、促していくしかないだろうと考えた。
何にしても、人手が足りない。
そこで、リリスと源は、二人に会いに行った。
転移した場所は、大金庫。
囚われていたいと願ったふたり、エリーゼ・プルとバーボン・パスタボだ。
リリスが、ふたりに話しかけた。
「ふたりに、お願いがあってきたの」
エリーゼ・プルは、前回よりも落ち着いた声で応える。
「どうしたの?リリス」
「うん・・・。それが、新大共和ケーシスの領土内には、200個の遺跡があって、112の村の冒険者組合から国の保証など、どうなっているのかという催促が来てるのよ。でも、今はわたしたちは、新大共和ケーシスの再建に一杯一杯だから、各村々の冒険者組合をまとめてくれるような人がほしいと思ってるの。信頼できる冒険者は、あなたたちしかないのよ」
エリーゼ・プルは、頷きながら話を聞いてくれていた。
「まだ、わたしたちを信頼できると思ってくれているの?」
「わたしは、信頼したいと思ってる。あなたたちに、国のすべての冒険者組合の統括を頼みたいの」
エリーゼ・プルは、小さな声で話しだす。
「リリスたちは、信じてはくれないかもしれないけど、わたし、リリスに酷いことをしてしまったことを心から悔やんだの。そうすると、心から神様に祈れるようになった。「神様、おゆるしください」って、心から祈っているのよ。神様を信じるということが、自分の過ちを経験して、少し分かった気がしているの。まだ、クリスチャンに成れたなんて、大それたことは言えないけど、神様を信じたいと思ってるわ」
ミカエルは、源たちに、伝えた。
「エリーゼ・プル様は、本心を言われています。セルフィ様」
「そうか。ミカエルがそういうのなら、大丈夫だろう」
エリーゼ・プルは、驚いた顔で、セルフィの顔をみる。
「うん。セルフィやミカエルが言うのなら、わたしも反論はないわ」
「リリス・・・。ゆるしてくれるの?」
「もちろんよ。エリーゼ。わたしこそ、ゆるしてね」
エリーゼは、頷いた。
「聖書には、心から悔い改めた人は、何度も何度もゆるしなさいと教えてる。俺も含めて、人は間違う生き物だからだね。エリーゼも納得して、ここから出てくれるのなら、バーボン・パスタボも、出てくれるよね?」
セルフィの言葉を聞いて、バーボン・パスタボも、答える。
「もちろんです。セルフィ様。わたしたちが出来ることは、やらせてもらいます」
「正直、君たちには、色々やってほしいことがあるんだよね。特に軍事面でね。バルト・ピレリリさんは、もともと農民から兵士になったから、元騎士たちを指揮するのが大変なんだ。だから、バルト・ピレリリさんを君たちが支えてほしい」
「軍の総指揮を執れと?」
「もちろん、二人には、教会に行って聖書のことを学んでもらうけどね。軍事の総指揮と冒険者組合の管理をしてもらいたい。バルト・ピレリリさんには、元貧民地の兵士たちを指揮してほしいかな」
「分かりました。お任せください。教会については、もともと行こうと思っていました」
リリスが、二人に命じた。
「エリーゼ・プル。そして、バーボン・パスタボ。あなたたちを新大共和ケーシスの騎士とします。軍の采配をバルト・ピレリリと行い。冒険者組合の管理も行うように!」
「「はい!承りました」」
バーボン・パスタボも、エリーゼ・プルと牢屋に入って色々と考えていたらしく、ミカエルを使用できるようになっていた。つまり、聖書の神様を信じていたのだ。
ふたりには、リリスを傷つけた武器を渡すのも、心苦しいので、新しいカーボンナノチューブの武器をそれぞれ与えた。鎧までは、さすがに用意できないので、以前のものを返した。
ミカエルの通信を介して、112の冒険者組合とのやり取りをしてもらうことになった。
新大共和ケーシスの領土内の冒険者に対しては、金貨1枚を与えて、防具の強化ができるようにバーボン・パスタボが、申請し、そのようになった。源が冒険者たちに、鉄の武具を与えることはできたが、それをすれば、武器屋などが仕事を失ってしまう。なので、お金を配ることで、保証の強化をし、武器屋たちにも仕事を与えることになる。新しくなった国は、冒険者に手厚い保証をしてくれるという認識を与えたかった。それらのお金は、ボルフ王国が持っていた隠し財産からリリスが新大共和ケーシスとして出すことになる。
5000人の兵士の育成のほか、さらに民から集めた5000人を集め、新大共和ケーシスの兵士は、1万人となった。首都ハーモニーは、自給自足を目指しているので、兵士たちには衣食住を約束する代わりに、お金などでは雇わない。
家具なども発展とともに無料で手に入れることができるようになるという話をしているので、例えクリスチャンではなくても、他の国に比べて、兵士も民も待遇がよくなる。クリスチャンの得点は、ミカエルが使えるようになることと政治家やミカエルからの情報を得られるというだけで、他の国と比べれば、奴隷でさえ優遇されている。
彼ら兵士には、午前中は、聖書の勉強をさせ、午後からは訓練をするようになった。エリーゼたちが、自ら考えたスケジュールだ。神を信じると口だけで言う兵士も出たが、ミカエルが使えないことが偽クリスチャンである証拠となるで、嘘をついてまで簡単に信じるという人は、信頼を落としていった。
ミカエルによる判別は、まるでキリシタンの踏み絵のようでもあったが、これを使わなければ、クリスチャンとしての生活を何年も積み重ねなければ、クリスチャンと判別できず、時間がかかってしまう。ミカエルが判別してくれれば、短縮できるし、奴隷たちにも希望が出てくる。例え、奴隷であっても、心から神を信じれば、6年を待たずに、自由の身になれるからだ。
――――源は、壁と教会を用意し、仮設住宅などもミカエルによって作られはじめ、時間にも余裕が出来始めたので、ドラゴネル帝国で学んだ核の活用法の研究を進めることにした。
源には、疑問があった。生き物の核を物質である剣などに付与しても、剣は変化するわけでもなく、しかも、核の性質を100%ではないが、付与できていた。
また、ロックに、ミカエルのプログラムを改変させたが、未だに問題なく、むしろ、ロックの強さを増させていた。
これらのことから、生き物の一部である核は、無機物であるものには、影響をそれほど与えずに、能力を強化できるのなら、何らかの処置をすれば、生き物の体に、生き物の一部の核をいれることもできるのではないかと考えていたのだった。
『愛。アモラを調べると、もともと人が保持している核とは違う、その他の核が、体の中に入ったことで、アモラ化していたと推測できるんだよな?』
『はい。源。核には、マナ力を保存できる性質があり、また、魔法だけではなく、スキルも、核に保存できるように、その生き物の性質を深く核は、記録できていると思われます』
『アモラの情報を記録された核を体に打ち込まれたから、人間もアモラとなってしまったというのなら、どうにかして、影響されない程度に、生き物を強化できるようには出来ないかな?』
『アクセサリーのように、単体で保持するだけで、その性質を付与できるのなら、保存状態を保つようにできれば、強化は可能かもしれません。源』
源は、レジェンドの地下に保存してあったモンスターの核を持って、シンダラード森林とは別の森のモンスターで実験してみた。
C級の核をC級のモンスターにリトシスで組み入れてみた。
すると、モンスターは、羽化しはじめた。
「やっぱり、核を入れるだけでは、核の影響が出てしまう。ダメだな・・・」
『そのようですね。源。ですが、このモンスターは、核を増やしたためか、マナ量は、増えています』
『そうなのか?』
ということは、やはり単体の生き物のプログラムを上手く改変さえできれば、強化は、可能かもしれないというわけだ。
源は、モンスターの中から核を分離して、羽化状態を止めた。モンスターは、核を入れられる前となんら変わらず、もとに戻すことができた。
次に、木の破片を手にとって、生き物と物質の中間のような炭素で強化させ、まるで、核を守るかのように、包み込み、その中に、もともとのC級モンスターの素材をいれた。
体の一部や血液などの中に、核を入れてみた。核は、体外に出してしまうと劣化するのなら、体内のような状況を作り出せば、劣化が抑えられると思ったからだ。
それらの血液などを閉じ込めている塊りは、ナノレベルで、プログラムされ、もともとの体の中に核があるかのように保存することができた。細胞よりもさらに細かいレベルで、核に無理のない改変、劣化を防ぐことに成功した。
『源。アクセサリーの場合と比べて、その状態の核の性能は、9割を超えました』
『アクセサリーにすれば、7~8割の性能しか付与できなかったのに、9割にできたってことか』
『はい。源』
源は、その状態の核を再度、C級モンスターに入れてみた。すると、今度も、羽化したが、その変化は抑えられていた。もともとのモンスターの姿に、違う核の生き物のデーターが少し反映されたような姿となった。しかし能力は、核の9割の性能が増し加わった。C+または、B-のモンスター程度の強さになった。
核を体内から取ると、元の強さに戻った。そして、違うC級モンスターにも同じように、行ってみたが、同じように強化できた。
とはいえ、これは人間などに使うには、危険すぎる。
あれ・・・ちょっと待てよ
『愛。ミカエルのソースをマナが使えるようにしようとした時、つまりマナソースを作る時、俺の核の複製を作ってソースにいれるのは危険だという話をしたよな』
『はい。源の核は、膨大なエネルギーを保持しているので、源の体があってはじめて使用できるものだとは思いますが、もし、ミカエルが、源と同じ核を持つことが出来たとしたら、マナの発動した時、マナ量が大きすぎて周囲が危険にさらされるため、危険性を進言したのです。源』
『うん。それはいいんだけど、俺の核が、作れるのなら、普通の核も作れるってことなのか?』
『核そのものの素材は、炭素です。炭素の中に、プログラムを打ち込みます。人間でいうところのアミノ酸のような情報を組み上げる物質ですね。そのプログラムには、個体の能力を保存しているので、ベースとなるプログラムさえ解読できていれば、木などの素材があれば、同じものを作り出すことは、源なら可能です』
『核を入れた時の副作用は、その生き物の性質が核に保存されているから、違う生き物に核を入れた時に、羽化しはじめるんじゃないのか。だったら、核を炭素で作り上げる時に、その生物のデーターの部分を0にしてみたら、どうなるんだ?』
『体による変化は、無くなるかもしれませんね。無いものは、有るものに影響させることはできないからです。源』
源は、また木の一部をもぎ取り、C級モンスターの核をベースにした人工核を作り出した。魔法やスキルが入る容器としての核で、C級モンスターの体の性質のデーターは、除外した。
人工核を森のC級モンスターの中に入れてみると、体には、何の変化も無かった。
「よし!変化してない!」
源は、ぎゅっと拳を握り込む。
『源。人工核による変化はありません。マナ量も増えています。ですが、身体的な強化は、まったくありません』
『なるほどね。アモラが強いのは、生き物の性質の部分を強調していたからかもしれないな。だから、あれほどの激しい身体の変化、羽化しはじめたというわけだな』
『そのようですね。源』
『それじゃー。性質のデーターを0にしていたところに、埋め込む側の性質が、人工核に伝染するようなプログラムは、作れないか?』
『つまり、埋め込む側の核の性質のデーターを人工核にコピーするようにプログラムしていくわけですね。源』
『うん。でも、そのまま上書きすれば、それこそ羽化したように、身体が2倍なんてことに成り兼ねないから、埋め込まれた時点を0として、その後に、上がっていったステータスの身体的な数値のデーターをコピーするようにできないか?』
『埋め込まれた時点を0として、その後、成長したデーターをプラスとし、そのプラス分だけを人工核がコピーしていくように、プログラムするわけですね。源』
『うん。出来るかな?』
『もちろん、できます。そのようなプログラムは、すでに現世のプログラムでも当然あります。パソコンのデーターを日にちなどで設定して、そこに戻すことさえ出来るのですから、その時点を0として、記録していくことは可能です。源』
源は、木をもぎ取り、先ほどの人工核のプログラムに、さらに、性質をコピーしていくという新しいプログラムを打ち込み、人工核を作り出した。
その人工核は、ダイヤ型の黒色だった。
これを【人工核】と名づけた。
人工核を100個ほど作り、50匹のモンスターにいれて、そのモンスターにミカエルのソースで首輪を作り、取りつけ、その後の経過をみることにした。一匹の中に3つの人工核をいれたり、その核に能力追加珠で源の持っていたマナである炎弾などのマナを複数いれたりもした。今のところ、50匹すべて副作用はない。
源以外の人間が無理やり核による実験を行えば、細胞レベルの改変ができないので、アモラのように風変りな別のモンスターとなってしまうかもしれないが、リトシスや愛を使えば、その副作用なしで、個体の能力を伸ばせるかもしれないことが分かった。実際は、経過をみないと分からない。
レジェンドの兵士たちは、もともと農民から兵士となったものたちだった。遺跡探検を行いモンスターを倒して、強くなり、レベルも、40を超えて、C級の強さを持つようになっていた。農民兵の時の強さを知っている源からすれば、それはかなりの成長だと思わされる。
でも、それ以上の伸びがなく、そこで打ち止めとなっていた。源やリリス、ロックなどは、まだ伸びしろがあり、生命数値を伸ばしていたが、ローグ・プレスやボルア・ニールセンなどは、それぞれ50前後から、伸びなくなっていた。それは、ウオウルフやリリスのモンスターも同じで、80レベルほどから伸びなくなっていた。
それが、その個体の限界なのだろう。エリーゼ・プルなどは、60を超えて、さらに伸びしろがあるようだが、どこかで打ち止めになるかもしれない。
だが、人工核の安全性が証明できれば、その限界の枠を超えさせることが出来るかもしれないのだ。
アモラは、厄介な存在で、今でも元に戻すのに苦労させられているが、すべて無駄というわけではなかったようだ。