151章 首都ハーモニー建設
22万人の食事は、一日一回。水も川が近くにあるので、確保されている。畑も、思った以上の速さで作られていった。
レジェンドやユダ村の地下では、仮設住宅の壁などの材料が、着々と作られていた。ほとんど、板だけで支えられた2×4工法の簡単な仮設住宅だ。
それらの板は、仮設住宅だけに使われるのではなく、ミカエルには、その板で、トイレのスペースを作らせた。まわりに白い布だけだったので、板で敷居を作り、ミカエルが簡単に処理できるように、汚物入れを地面に置いておくという簡単な仮設トイレだ。
排泄物はエネルギーや畑の肥料にもなるので、衛生的なことも考慮しながら、集められる。
トイレは、新大共和ケーシスの各地10箇所に設置した。もちろん、男女は別々のトイレになっている。
寝床も、巨石飛行物体にほとんどの人が、入って寝泊まりできている。
男性たちが気を利かせて、外に野宿してくれていたので、我慢できないほど、狭さを感じさせなかった。
野宿してくれていた人には、奴隷も含めて、温かいコーンスープをサービスで付けた。自分たちのためのスープなのに、巨石飛行物体にいる人たちにあげる優しい男性たちもいた。
ドラゴネル帝国にボルフ王国国王を連れていき、報告をしなければいけないので、ある程度までの作業を進められたら、リリス・ピューマ・モーゼスと帝国に行く予定だ。それまでは、作業を続ける。
『ミカエル。ボルフ王国の領土内で、一番岩が多い地域を教えてくれ』
『はい。北東350km地点にあるチフス湿地帯には、大量の岩石があることが確認されています。セルフィ様』
源は、瞬間移動をして、そこに飛んだ。
まわりは、森もなければ、木も無かったが、確かに大量の岩が、チフス湿地帯には、あった。なぜチフスという現世人だと病気を連想させる名前なのか分からなかったが、その土地の岩を使うことにした。
以前までの源は、リトシスを発動させるためには、手を触れていなければできなかった。でも、今は、リトシスの発動可能範囲を広げて、操作できるようになっていた。手を広げて、目をつぶり、範囲を広げて、巨大な岩々を空中に持ちあげると、その空中のまま、四角い建物を5つ作った。
300m×300mのシンプルな巨大な建物だ。ぎゅうぎゅう詰めにすれば、9万人ほどが1つの建物に入れる。それが5つなので、45万人が入れることになる。
また、同時に、巨石飛行物体半径500mの規模が小さい物を作った。70万人以上が入れる規模だ。直径1キロになる。
巨石飛行物体の表面は、グラファイトで覆われていて黒いが、まだ、これは岩の色のままで、まだらのままだ。
『ミカエル。ボルフ王国領土内の大きな森は、どこになる?』
『シンダラード森林ほど大きな森ではありませんが、ボルフ王国から西200kmに、パモラ森林という森があります。セルフィ様』
源は、5つの四角い建物と小型巨石飛行物体をそこに転移させた。
そして、リトシスの範囲を広げて、森の探知を行った。森には、さまざまなモンスターや動物たちがいた。ゴブリンの村らしきところがあるぐらいだった。そこに迷惑がかからない場所の木を大量に、バランスよく引き抜いて、持って来た。
愛の性能を活かして、その木で、折り畳みもできない簡単な作りの長いすを大量に作り、5つの建物の中に並べた。また、建物の前のステージの上に、説教台をそれぞれ置いた。
小型巨石飛行物体の表面をグラファイトで覆って、黒色にして、見た目を良くした後、次は、木を使って、簡単な作りのベッドを大量に作った。見栄えは、シンプルすぎてまったくよくない。使えれば問題ないというクラスのものだ。
そして、森の外の平原の落ちている大量の干し草のようになったものを集めた。チクチクして痛いかもしれないが、硬い板のベッドの上で寝るよりはマシだろう。アルプスの少女ハイジのように、それを素直に受け入れてくれることを願う。シーツすら用意できないが・・・。
それらを木のベッドの上に置いて、ベッドを積み重ねるように、小型巨石飛行物体の中に大量にいれていった。
長椅子が並べられた5つの建物と小型巨石飛行物体を新大共和ケーシスへと転移させた。
人々は、巨大な建物や丸い巨大な物体が、突然、空から現れたので、騒めいた。以前、ボルフ王国にも似たようなことがあったのと同じ反応で、驚きを隠し切れない。巨大な建物が、空に浮いているのは不自然すぎるからだ。自然と22万人の注目を浴びる。
源は、新大共和ケーシスの土地に広がったミカエルのソースをスピーカーにして、22万人に語りかける。
「これから、5つの教会と小型巨石飛行物体をゆっくり、地面に降ろしていきますので、スペースを空けてください」
源は、それらをバランスよく、地面にゆっくりと置くと、次は、小型巨石飛行物体の中にいれていたベッドを時空空間ゲートを開いて、巨石飛行物体へと次々と転移させた。
巨石飛行物体の中にいた人たちは、大量のベッドが空間から出てきたのをみて、ざわついた。
「みなさんが、寝やすくなるように、簡単なベッドを用意しましたので、お使いください。また、野宿をしていた方達は、小型巨石飛行物体の中で寝泊まりしてくださって結構です。そちらにも、ベッドがありますので、ご自由にお使いください。家族と一緒に寝泊まりしたいという理由などで、巨石飛行物体から、小型巨石飛行物体に移動してもいいです。皆さんが住める仮設住宅が出来るまでの間は、これを利用してください。以上です」
これで野宿していた5万人も屋内で寝ることができ、外から来るモンスターなどの脅威も減ることになり、護衛していた兵士たちの負担も少なくなる。兵士たちも体を休めることができる。
源は、ミカエルを使って通信をはじめた。
『司祭様。そして、ユダ村のシャルロイ・ジャジャ司祭様。お二人に、お願いがあるのですが、それぞれ聖書を学んだ人たちの中で、新大共和ケーシスで、司祭見習いとして、聖書を教えてもいいという方を5人、来てもらえることは出来ないでしょうか?』
司祭様が答える。
『聖書を勉強した巫女たちがいますのじゃ。レジェンドからは、3人派遣することができるでしょう。申し訳ありませんが、ボルア・ニールセンは、わたしの後継者ですから、レジェンドからは外せませんのじゃ』
『もちろん、それは分かっていますよ。司祭様。色々ありがとうございます』
ユダ村のシャルロイ・ジャジャ司祭様も答える。
『では、ユダ村からは、二人を派遣すればいいのですね?』
『可能でしょうか?』
『龍王の意思、聖書の福音を広げるためです。願ってもないことで、名誉なことでもあります。お任せください。二人を選抜できたら、またご連絡をいたします』
『はい。ありがとうございます。シャルロイ・ジャジャ司祭様』
源は、さらに、チフス湿地帯に転移して、大量の岩々を新大共和ケーシスの場所に移動させ、その岩で、次々と巨大な壁を建造していった。
レジェンドの壁を作る時は、かなりの時間がかかったが、今ではその10倍は早く、壁を建設できるようになっていた。レジェンドの壁のように、表面には、黒いグラファイトが貼られ強化された。
人々は、巨大な物体や建物が空の空間から現れ、伝説の天使の凄さを実感していた。巨大なものを軽々と空に飛ばし、大量のベッドを用意しては、次は、見た事もないような巨大な壁を短時間で作っていくからだ。現実とは思えないような光景が目の前で行われていく。
リリスが、それをみてか、質問してきた。
『ねー。セルフィ。壁の配置が、広すぎない?』
『新大共和ケーシスは、村じゃなく、国の首都として栄えることになるからね。かなり広めに壁を設置してるんだ。広さ的には、8km×8kmの1000万人規模だね。そこまで人が増えるとも思わないけど、広めに取っておいたほうが足りなくなるよりはいいと思ってね。
あと、レジェンドとユダ村の司祭様たちに、新大共和ケーシスの民に聖書を教える司祭見習いを5人派遣してもらうように頼んでおいたけど、よかったかな?』
『うん。もちろんいいわ。何から何までありがとう。今週からは、みんなに聖書を教えられそうね』
『ミカエルが、使えるクリスチャンを神の民20万人の中から早く見つけ出せればいいんだけどね』
『そうね。でも、人の心までは、変えられないから・・・伝え続けていくしかないわ』
『うん。あと、リリス。新大共和ケーシスのここの首都の名前も決めておいてね』
『それは、わたしも考えてたの。ミカエルの知識から調べてんだけど
【首都ハーモニー】というのは、どうかなって思ってるの』
『ハーモニーか。調和とかそういう意味だね』
『それもあるけど、平和っていう意味もあるんでしょ』
『なるほど、平和ね。いいと思うよ。平和を求める女王が作る国の首都らしい名前に思えるね。何だか、明るいイメージもある気がする。それは古代語の知識がある俺だけかもしれないけどね』
『ありがとう。落ち着いたら、首都の名前は、正式にみんなに伝えることにするわ』
『あと、首都ハーモニーの街の設計図のイメージは沸いたかな?』
『うん。大雑把だけどミカエルのいくつかの設計図から選ばせてもらったわ。0からの出発だから、ごちゃごちゃした街並みじゃなくて、綺麗に直線的な道路を作って、建物を建てていこうかなって思ってるの』
『ああ。それがいいよ。ドラゴネル帝国の首都ドラゴは、ぐちゃぐちゃだからね・・・道や方角が分からなくなるんだよ・・・道路から作って建物を建てていくと綺麗な街になるよ。ミカエルには、その設計図にそって道路の目安を作っていってもらって、仮設住宅を建てるようにさせておくよ』
『うん。分かったわ。下水道施設と電力施設も楽しみにしてるわ』
『任せておいて。っていっても、作るのはミカエルだけどね』
源は、一日かけて、巨大で広い範囲の壁をつくりあげた。レジェンドでは、黒い華のような壁だが、今回は、普通の巨大な垂直の壁にした。
首都ハーモニーの広さは、ドラゴネル帝国の首都ドラゴとほとんど変わらない広さで設定した。
壁も負けないほどのものをと考え、建設していく。
ミカエルも、首都ハーモニーの設計図になるように、簡単な道路の印を付けていった。
次に、地下施設に瞬間移動して、ミカエルに頼んでおいた下水道施設と電力施設の進行を見に行く。
それぞれのパーツこそ、作られていたが、さすがに、まだ組み合わせていない状態だった。ただ、機械的なコントロールは、ミカエルがいるので、それを省くことが出来ていた。
以前から脳であるスーパーコンピューター、ブレインの数は、多くなり、いまでは1000機を超えていた。これらを利用すれば、問題なく、施設を運用できる。下水道施設と電力施設は、現世の形でそのまま作るわけではなく、見た目を変えている。
また、火力発電だけではなく、太陽ソーラーも開発していた。すべて火力だけにするには、この世界では、原油が無さすぎる。また、水素発電なども愛によって、設計され考えていた。空気中の水素や水の中の水素を燃やしてエネルギーにするのだ。
まだ、時間はかかるけれど、早ければ1週間もあれば、形になるかもしれないと思った。
源は、レジェンドの教会に足を運んだ。土曜日でもなければ、日曜日でもない平日の昼だったが、こどもや女性などが、いつものように勉強をしにやってきていた。みんなクリスチャンだ。
そこに来ていた人たちだけにミカエルで話しかけた。
『勉強中。すいません。セルフィですが、みなさんは、知っているのか分かりませんが、ミカエルを一緒に研究したニーナは、今は科学を勉強しています。ミカエルを作ったりするようなことを科学というのですが、この科学に興味がある方は、いないでしょうか?』
そのセルフィの質問に、多くの人が手を挙げた。
こ・・・こんなに??
源はそのひとたちを集めて、この前、リリスやリタたちに説明したことと同じように、下水道施設と電力施設のことを説明した。すると、女性たちは、見た事も聞いたこともないセルフィの話に、もの凄く興奮していた。反応は悪くない。
『今、この施設をそれぞれ3つずつ建造中です。この施設のことや仕事にもし、興味があれば、これらの管理をお任せしたいのですが、どなたか、仕事をやってもいいという方はいませんか?』
これまた多くの人が手を挙げてくれた。
多すぎて、どうやって選ぼうかと悩むほどだ。
『そうですね。この企画に参加できるのは、6人までとします。この6人が、レジェンドの下水道と電力の管理をミカエルと一緒にやってもらうことになります。その6人の方は、家の家事なども大変でしょうから、その方達には、それぞれミカエルのソース1台分を増やさせてもらいます。家に2台のミカエルを使えるように優遇させてもらいますね』
「わあああ!!」「本当に?」
みなさんが凄い声をあげた。ミカエルの便利さは、普段から利用しているから分かっているので、さらに1台増えることの意味を理解していたようだ。
どうやって6人を決めるのか悩んだ結果、じゃんけんというシンプルなやり方で決めることとなった。
そして、6人の女性が選ばれた。
『では、今回は6人のご婦人たちに、ご協力していただきます。ですが、みなさんも、これまで通り、勉強をしていてくだされば、他の仕事の提供をさせてもらう場合が出てくると思います。よろしくお願いします』
選ばれなかったひとたちは、残念そうな顔をしながら、教会に戻っていった。
「改めて、よろしくお願いします。では、今の状態で、真ん中で分けさせてもらいます。右側の3人は、下水道施設の運営を左側の3人は、電力施設の運営をお願いします。
まず最初にやることは、ミカエルのソースを使って、レジェンドの地下に、下水道と電力配線を張り巡らせていくことをしてほしいのです。ミカエルに指示すれば、行いますので、その管理などを皆さんに、お任せします。また、それぞれの施設が完成したら、3人で、ミカエルを使いながら、管理をお任せします。管理がちゃんと出来ているのなら、農業をしていてもかまいませんし、家事をしていてもかまいません。
みなさんに望むのは
1つ1つの家で、下水道が使えるようになること。
また電気が使えるようになることです。
その使えている状態をキープしてくだされば、仕事は概ね終わりです。
そして、最後に、レジェンドで上手くいったら、新大共和ケーシスとユダ村のクリスチャンたちに、この仕事を指導し、普及させてほしいのです。
何かご質問はありますか?」
ひとりの女性が手をあげた。
「ハーレ・ワイトと申します。ロー地区の者です。わたしは、左側なので、電気になると思うのですが、電気を生み出す方法がいくつかあると、先ほどご説明してもらいましたが、今回は、火力?がメインなわけですよね。それが上手く言った後、さらに違う方法で、電気の供給ができるように研究してもいいのでしょうか?」
「是非、お願いします。ミカエルの電気関連の情報をみれるようにしておきますので、創意工夫してくださると助かります。ですが、その情報は、クリスチャン以外の人には、教えないようにしてください。万が一、知識を悪用されてしまえば、世の中にどのように作用し出すか分からないからですね。他の方も、ミカエルから得られる知識は、クリスチャンだけに教えるようにしてくだい」
「はい!分かりました」
他の女性が手を挙げた。
「どうぞ」
「わたしは、C地区のメイ・プリードです。下水道施設の管理となりますが、創意工夫などをして、人手が必要となった時は、誰かを雇うという選択枠も考えてもらえるのでしょうか?」
「必要以上に、人手を増やされては困りますが、必要な人員補給は、みなさんの配慮でお願いします。それも管理の仕事のうちに入ります。ミカエルにさせられることは、ミカエルで補ってくださいね。また、この仕事以外のことをしたいとなった時は、レジェンドなどから後継者を指導して、引き継ぐ人を育ててからにしてください。お願いします」
「分かりました。ありがとうございます」
「注意事項としては、電力施設は電気を使う。下水道施設は水を使う。ということになりますが、それぞれ危険になる場合もあります。感電したり、水にアモラのような感染症になるものが混入されたりですね。このようなことにも、配慮して、みなさんには、仕事にあたってもらいたいのです。市民が安全に使えるようにですね。
電力施設の総責任者は、ハーレ・ワイトさんにお任せします。
そして、下水道施設の総責任者は、メイ・プリードさんにお任せします。
責任者といってもリーダーとして動いてもらうということで、本当の総責任者は、わたし、セルフィということになりますね。何かあったらわたしにミカエルなどで伝えてください。
では、他には質問はないようなので、大体、1週間ほどで、ミカエルが、施設を完成させると思います。ミカエルが製造しているところを見学をしてから、とりかかってください」
源は、6人を施設が建造されているところに連れて行き、見学させた。
ミカエルのソースが、施工工場のあちこちで、ひっきりなしで動いて仕事をしているのを訳も分からず、女性たちは、見続けた。物質モンスターがあらゆるものを作っていて、ひとつひとつの部品が何なのかまったく分からない。あっけにとられながらも、自分たちがこれに関わるのだという意思を固める。
そして、6人は、一緒になって、レジェンドの地下に、下水道や配線をどのように付けていくのか、ミカエルを使って、率先して決めていってくれた。
ちなみに、ミカエルには、光ファイバーや今後に使えそうな配線もついでに通しておくように伝えておいた。