15章 契約
源たちは、朝を迎えた。
ロックハウスの効果なのか、それとも昨夜の戦いのためなのか、森のモンスターたちは姿を現さなかった。
とても静かな夜が続き、暖炉の明るさもあって、快適・安全に時を過ごせた。
この世界に来て、初めてのゆとりのある時間だっただろう。
これを繰り返すことが出来れば、ロックの恐怖症も少しずつ回復していくはずだ。
源は、狼型モンスターも解体して、食料にできるのか試してみたが、一角うさぎと違って、肉は硬く、匂いがきつくて食べられなかった。
だが、狼型モンスターの毛皮だけは全部とって、動物の毛皮を手に入れることが出来た。死骸は、それぞれ穴を掘って土葬で葬った。
その毛皮を太陽の光で干して、乾燥させ、腐敗しないように措置をした。数日かけて、それを繰り返し、水で洗っては干して、毛皮の材料の完成だ。
その毛皮を使って、源は服を自分のものとロックのもの、そして、フォルのものも新調した。
かなりの数のウオウルフの毛皮だったので、十分三人の服を作れた。また、木で作った服は、やはり硬くて、動きずらかったが、毛皮の服は、快適だった。リトシスを使って、皮と皮を繋げることもできたので、簡単に服は新調できた。
ロックはもともと岩人間で大きかったが狼の毛皮のコートを着るとまた雰囲気のある威風を漂わせているようにもみえた。
フォルは、自分の毛があるので、狼の毛皮のコートはいらないが、ペットに服を着せてみたいと考える人もいるように、気分で作ってみた。
フォルの嗅覚なら狼の匂いを嫌うと思ったが、強くなった気分を味わいたいのか、案外気に入ったようだった。
フォルには、毛皮の帽子も作ってあげた。それは狼ではなく、一角うさぎの毛皮でできたピンク色の帽子だ。
少しペットらしくみえてきた気がする。
俺の服は、羽が出せるように、背中には二つの穴を開けた毛皮になっているが、服とは別に、毛皮のマントも用意した。これを使えば、羽も隠すことができる。背中が少しボコっと膨らんでしまうが、折りたためば、気にはならないだろう。
リトシスで空を飛ぶ時に、マントは邪魔かとは思ったが、よく考えてみれば、空気抵抗もなく飛べるので、まったく邪魔にならなかった。むしろ、空を飛ぶ時、マントがバタついていないことが不自然にみえるかもしれない。
湖の水に反射させて自分のコートを着た姿を少しだけみたが、こどもが動物の毛皮を羽織っている姿は、思ったより見栄えがよかった。どこかの金持ちの息子のようにみえなくもない。狼の毛皮は誰にでも似合うのかもしれないと思ったが、ピンクの帽子も付けたフォルはさすがに違和感があった。
最初の狼型モンスターの襲撃から数日が経つが、それからは、攻撃してくるモンスターはまったくいなかった。それどころか、なぜか狼たちは、毎日のように一角うさぎを近くまで運んで、供物を提供してくる。
友好の証のつもりなのだろう。
『源。今日もまた、あの狼型モンスターが一匹来ました』
『今日は、早いな』
『今日は、いつもの場所で止まるのではなく、そのまま進んでこちらにきます』
『何?襲撃の可能性は?』
『分かりませんが、ゆっくりと歩いて近づいてきます』
それを聞くと、源はロックに報告をする。
「ロック。今日の狼は、いつもよりも近づいて来てる。一匹で、ゆっくりと近づいて来ているが、一応警戒してくれ」
それを聞くと、ロックは、ロックアックスを持って、待機する。
すると、狼型モンスターは、口に2匹の一角うさぎを加えて、近づき、少し離れたところに、うさぎを置くと、地面に腹をつけて、頭を垂れるように伏した。
たぶん、敵意はないという表現方法だろう。
源は、近づいていった。
「源。気を付けろよ。騙して襲ってくる可能性もある」
「ああ。分かってる」
源は、黒い剣を右手にちゃんと持って警戒する。
狼型モンスターの2mほどの距離にいき、源は足を止めた。よくみると、たぶん、あの襲撃のリーダーのモンスターだと思われる。
狼型モンスターは、みな同じような姿をしていたが、源には見分けがついた。
狼は、口をパクパクしているかと思うと、話し始めた。
「わわわ・・わた・・わたしは・・ウォ・・ウォウルフの頭・・」
「お前話せるのか!?」
源は驚いた顔で聞いた。
「ははは・・・はい・・・うま・・うまくは・・話せま・・・せぬ。ななな・・名前は・・うううう・・・ウオガウ・・・です」
狼は、本来言葉を話せる声帯はない。だから、その口や舌、口の中を起用に動かして、人の言葉の発音に近づけているようだ。
「君の名前は、ウオガウか?」
「ははは・・はい」
「えええ・・・エモノは・・・敬意のあらわれ・・・」
「うん。それはなんとなく分かったよ。礼をいう」
「あああ・・あり・・ありがとう・・・ございま・・す・・・わわわ わたしたちは・・・あなたがたを・・・みみみ 認め・・めめめ 命令にししし・・・従いま・・・す」
「それはありがたいが、ウォウルフは、突然裏切ったりはしないのか?」
「ウォ・・・ウォ・・・ウォウルフは・・・強き・・者に・・・ちゅ 忠誠を誓えば・・・攻撃ししし・・・しません・・」
「それは本当だな?」
「ははは・・はいい・・ししし・・・しんじて・・いたたけ・・まますでしょうか・・・?」
「正直言って君たちを信じていいのかはまだ疑問だ。だけど、君たちには悪いことをしたとは思っている」
「そそそ・・・それは・・ななな なぜでしょう・・・?」
「ここは君たちの縄張りなんだろ。そこに突然俺たちが現れて、住みつこうとしはじめていた。君たちが怒りを表して、襲撃したのも、しょうがないとも思える」
「あああ・・・あああり ありがとう・・・ごございま・・す。ももももお・・おそいま・・・せせせん」
「うん。こちらも、君たちから攻撃されない限りは、攻撃をしないよ。ただ、僕たちも食料がなければ、生きていけない。だから、この森の生き物を食べる分だけ捕獲することをゆるしてほしい」
「ここここ・・ここは・・ごごご・・・ご自由に・・おおつかい・・ください・・」
「自由に生活してもいいのかい?」
「ももも・・・もちろん・・・でごごございます・・ただ・・・わわわわたしたちも・・・ててて敵がいいいいま・・す」
「敵?」
「はははhはい・・・別のモンスターたたたたち、そそそそして・・・人間んです・・・あな・・な・・あなたたちに・・・つつつかえることで・・ななな、なかまを守りたいのです・・」
「そういうことか。僕としては、君たちが助けを求めてきたら、助けるつもりだ。でも、君たちが俺たちを裏切ったら、容赦はしない」
「ははははい・・・うらうら 裏切りままません・・・」
「あと、供物は毎日持ってこなくてもいいよ。僕たちは僕たちで出来ることをして、生きていくからさ」
「わわわ・・・わかり・・まし・・た。」
「君たちも僕たちと仲間になってくれるのなら、ここの出入りの自由も許可するよ。お互い関係を深めていこう」
「あああ・・ありがとう・・・ございまっます。わわ我々の毛皮・・・お似合いでござい・・ます・・」
あッ・・・!これやばいのか・・・?仲間の死骸から毛皮をとったんだから・・・
「君たちが襲って来た狼たちの毛で服を作ってしまったんだ。これは君たちにとって怒りになるのなら、この服は着るのをやめておくよ」
「いいいいえ・・・ぎゃぎゃ逆です・・・」
「逆?」
「ウォウォウルフは、嗅覚で・・・ははは判断します・・・それを着て・・・いれば・・・仲間に・・・なれます・・また・・つつつよさのあかし・・」
「そういうことか。逆に同じ匂いをまとわせるから、親しみが湧くようになるのか・・・」
「はははい・・」
「でも、違う服も着ることもあると思うから、俺たちの匂いもみんなに記憶しておいて、間違いがないようにしてほしい」
「わわわ・・わかわかりました・・・かかかならず・・・そそそう・・します・・」
「正直いって君たちを完全に信頼したわけじゃない。もし、今の約束を一匹でも破れば、それは全体責任だとして、僕は君たちを滅ぼす。だから、間違いでも、絶対に俺たちを傷つけるようなことはしないように!」
「わわわ・・わわかり・・ました・・・ててて徹底いたいたいたします・・・」
そう言い残すと、ウォウルフという種族の狼型モンスターリーダーのウオガウは、頭を下げ気味に去って行った。