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148章 市民権

源は、前回と同じように、残りの12万人の食事を新大共和ケーシスの土地へと運び、5000人が、それを受け取り、配っていった。


その様子をリリス、リタ、バルト・ピレリリが見ている。


彼らは、最後の最後で食事を取ることを決めていた。これから王族として、先頭に立つ、支配者として、ふさわしい行動だった。


下の者ほど、高くされる。それは、聖書の教えだからだ。



人は、正しい者は、ひとりもいない。誇るほどのものじゃない。神様の下で、人は、みな平等なのだ。ただ、役割がそれぞれ違うだけで、リリスは、役割として、女王となる。


「貴様!!どけ!我は、マルシュ・ギウ伯爵なるぞ!」


「す・・・すみません!すみません!」


貴族らしい男が、食事のために並んでいた貧民地の民を押しのけ、自分たちの家族を先頭に、移動させようとしていた。怒鳴られた貧民地の民は、必死で謝っている。


こういうことをするから、下にさげられるのだ。



源は、シラけた顔で、そこに行こうとしたが、その前に、リリスが、動いていた。


リリスは、大型犬タークの背中に乗って、マルシュ・ギウ伯爵なる男の目の前にまで、移動した。タークが、険しい顔で、吠える。


「ウオン!!ウオン!!」


マルシュ・ギウ伯爵は、後ろに仰け反る。


「な・・・な・・なんだ!!」


リリスは、タークの背中から降りて、吠えるのを手でさえぎった。


「あなたは、何様のおつもりですか?」


「わ・・・わたしは、由緒ある貴族を受け継ぐ、ギウ家の当主だ。何か問題でもあるか?」


リリスは、深く溜め息をついた。


「ミカエル。わたしの声がみんなに聞こえるようにして」


「はい。分かりました。リリス様」


「バルト・ピレリリ。そして、ボルア・ニールセン。ボルフ王国の兵士とボルフ王国の貴族たち3700名を一カ所に集めなさい。食事をしているものは、食事を取るのをやめさせて、連れてきなさい」


「「はい。分かりました。リリス様」」


「そして、マルシュ・ギウ伯爵に、謝っていたあなた。あなたの名前を教えていただけますか?」


必死に謝っていたのは、貧民地の少女だった。


「わ・・・わたしは・・・リーチ・・・。リーチ・ポストと言います・・・リリス様。申し訳ありません。今度から気を付けますので、お許しください」


「リーチ・ポストさん。申し訳ないですが、あなたも、一緒に、来てください」


「そ・・・そんなぁ・・・お許しください」


「安心して、あなたを責めようとは思っていないわ。わたしのために、付いてきてほしいの」


少女は、やっと顔を上げて、リリスの目をみた。


「わ・・・分かりました・・・」


ボルア・ニールセンは、レジェンドの兵士たちを使って、言われたように、ボルフ王国の兵士と貴族たちを広場に駆り集めた。


集められた者たちは、異様な雰囲気に呑み込まれ、無言のままだ。


リリスは、ミカエルのソースによって、すべての民22万人も聞こえるようにして、話しをはじめた。


「マルシュ・ギウ伯爵。あなたは、なぜ、人々が並んでいる中、割り込んで、食事をとろうとしたのですか?」


マルシュ・ギウ伯爵は、青ざめた顔で、答える。


「わ・・・わたしは、貴族だ。どうして、あのような貧民地の民などと並んで食事が取れようか!!」


「あなたは、何か勘違いしているようですね。あなたは、ボルフ王国の貴族。ですが、あなたの国、ボルフ王国は、滅亡しました。あなたの国は消え去ったのです。つまり、あなたは、何者になったのですか?」


「わ・・・わたしは、ギウ家の当主、マルシュ・ギウ伯爵だ!!」


「いえ、あなたは、伯爵ではありません。あなたの爵位を認めていた国は、滅亡したからです。次に、リーチ・ポストさん。あなたは、何者ですか?」


少女は、とても脅えていた。


「わ・・・わたしは・・・貧民地の何でもない、奴隷のような者です。父も母も失いました・・・。孤児です。どうか、お許しください」


「いいですか。リーチ・ポストさん。あなたは、貧民地の者でもなければ、奴隷でもありません。なぜなら、貧民地は、ボルフ王国と共に滅んだからです。これからは、貧民地という蔑んだ民の名は、消え去ります。代わりに、あなたたちは、【神の民】と名乗りなさい。

そして、元ボルフ王国の兵士たち、そして、貴族たちは、わたしたちに負けたのです。

ボルフ王国は、歴史を改ざんし、平和だったこの土地を汚しました。400年以上前、この土地は、大共和ケーシスという龍王騎士団長のひとりケイト・ピューマ・モーゼスが支配していました。争うこともなく、上も下もない平和な国を作り上げていたのです。この土地のひとたちは、動物に優しい。そして、動物も人間に食べ物を持ってくるなどの光景が見られていたのです。今でもその風習はあり、それは大共和ケーシスのなごりなのです。


わたしの名は、リリス・ピューマ・モーゼス。ピューマの名を受け継ぐ者です。そして、みなさんにも、ピューマのPがそれぞれ与えられています。

この少女リーチは、リーチ・ポスト。戦いの時、みなさんの指揮をとったバルト・ピレリリ。そして、その友人イール・ポゲル。冒険者アドベンチャーのエリーゼ・プルとバーボン・パスタボ。みな名前にPが付いているのです。

みなさんは、平和を受け継ぐ民なのです。


ボルフ王国に住む多くの人々の家名にPが付けられているという事実は、大共和ケーシスという国があった証拠なのです」


人々は、騒めいた。自分たちにも、Pの名が付けられていたからだ。集められた3700人のひとりとなっていたテェアリア・パラディンにも、Pが付けられていて、彼も驚いていた。


「みなさんに、これから、この新しい国の名前を発表します。


この土地で、新しく作られる国の名は、【新大共和ケーシス】です。


あなたたち、ボルフ王国軍と貴族たちは、新大共和ケーシスとその同盟軍のレジェンドによって、滅ぼされました。よって、あなたたちを、新大共和ケーシスの奴隷とします」


集められた。3700名は、どよめいた。


「なんだとぉ!!俺たちが奴隷??」


「ふざけるな!!」


「なぜ、奴隷にならなければいけない!!」


貴族から物凄い反発の声が上がった。


リリスは、右手を前に出して、その罵声を止めた。


「ミカエル。この者たちに、首輪をつけなさい!」


「分かりました。リリス様」


ミカエルのソースが、各自の体につかまり、上へと昇っていくと、ソースが、首に巻き付いて、首輪を形成した。3700人は、驚いて首に手をやるが、首輪は取れない。


「あなたたちは、戦争に負けたのです。本来なら、殺されていても、文句は言えません。ですが、わたしは、あなたたちに、生きるチャンスを与えましょう。神の民の20万人は、民として、新大共和ケーシスで暮らせることを許可しましょう。しかし、神の民を敵として戦ったあなたたちは、神の民たちの奴隷として、6年間、働きなさい」


「ろ・・・6年だとぉ!!」

怒りの声をあげる。


こうなる前に、逃げておけばよかったという声まであがる。


「次に、許可なく発言した者は、奴隷年数をひきあげます。注意して、口を出しなさい」


元貴族たちは、不満そうな顔を浮かべながらも、声を出さず、歯ぎしりして、悔しがる。


戦争でほとんど戦わなかったような貴族は、騒いでいたが、戦った兵士たちの多くは、受け入れているようだった。


「新しい国、新大共和ケーシスでは、一神教の教えを国教とします。そして、聖書を信じて歩む者をクリスチャンと認めて、その者には、市民権を与えます。クリスチャン以外の者は、民として、扱いますが、市民権を得ることはありません。心から、聖書の神を信じた奴隷は、6年以内であっても、奴隷から解放され、市民権を得ることが出来るようになります。新大共和ケーシスの民は、1週間に1度、教会で、聖書を学ぶこととします。奴隷は、強制的に、これに参加させます。6年後、奴隷から解放され、民となった時は、教会にいくかどうかは、あなたたちの自由です。


人に優しくし、人に愛を与えることを教え込みます。これを伝説の天使であるセルフィは、こう言いました。


【人権】です。


傷つけてはいけない。人にも、動物にも優しく、人を下の者として、見下してはいけません。

元マルシュ・ギウ伯爵。あなたは、人を見下し、神の民を恐れさせました。少女リーチ・ポストに、今ここで謝りなさい」


「お・・・俺は謝らないぞ!!」


「本当に、それでいいのですか?」


マルシュ・ギウ伯爵は、首を振る。

「・・・」


「では、元マルシュ・ギウ伯爵。そして、現在は、奴隷マルシュ・ギウは、リーチ・ポストの奴隷となるように命令します。マルシュ・ギウの家族もみな、リーチ・ポストの奴隷とします。リーチ・ポストを助けなさい。逃げようとしたり、リーチに逆らったりすれば、それだけ奴隷年数も上がります。その首輪をしている限り、あなたの位置は、把握されています」


「そ・・・そんな・・・・」マルシュ・ギウは、うなだれた。


「元貧民地の民だった20万人の方達に言います。あなたたちは、もう貧民地の民ではなりません。新大共和ケーシスの民です。ですから、この奴隷たちを恐れる必要はありません。そして、あなたたちが、この奴隷に、愛と優しさを教えなさい。奴隷だからといって、非人道的に扱ってはいけません


そして、クリスチャンと認定されれば、民も奴隷も、市民権を与えられるということも、覚えておいてください。リーチ・ポストは、クリスチャンになるかは、分かりませんが、あなたには、奴隷を与えます。そして、クリスチャンになり、市民権持った、他の民にも、奴隷を付けさすこともあるでしょう。聖書の正しい教えを奴隷に伝えてあげてください


何か、質問がある方はいますか?」


元ボルフ王国の兵士のひとりが手をあげた。


「どうぞ。発言をゆるします」


「わたしは、亡きボルフ王国の兵士100人隊長ワッパ・ジル・パシパと言います。わたしたちは、戦争に負けました。そして、女王リリス・ピューマ・モーゼス様は、勝利されました。ですから、奴隷となることは、当然のことでしょう。この状況で、食事を与えられるだけ、他の国の奴隷よりもましです

ボルフ王国が、あなたたちに酷いことを強いてきたことも知っています。ですから、わたしは、新大共和ケーシスに、償いたい気持ちがあります。わたしが出来ることと言えば、兵士ぐらいのものですから、奴隷兵士として使ってはもらえないでしょうか」


「分かりました。なるべく、奴隷の皆さんの要望に応えられるようにしましょう。ですが、奴隷の間は、武器を渡すことはできません。武器を使わない見張りなどの仕事などをしてもらうかもしれません。何度も言いますが、奴隷だからといってないがしろにしようとは思っていません

それに、先ほども、食事の手伝いなどをしてくれた奴隷の方もいました。そのような前向きな姿勢の方は、奴隷年数を下げることも考慮いたします

もし、あなたたちの尊厳を傷つけるような者が、新大共和ケーシスの民にいたのなら、その民も罰します。人に優しく、人を大切にする生き方を聖書から学んでください

奴隷になったと心を腐り果てて、悪事を行い始める奴隷は、さらなる自由を失います。聖書には、【目には目を、歯には歯を】という教えがあります。マルシュ・ギウは、己のした行為によって、その仲間と一緒に奴隷となるきっかけを作ったのです。どうして、滅亡した国の貴族が、偉そうな態度で少女を怖がらせるのでしょうか。おそれるべきは、あなたなのです」


ワッパ・ジル・パシパは、頭を下げた。


「ありがとうございます。リリス様」


「他に、何か聞きたいことがある方は、いますか?」


テェアリア・パラディンが、奴隷側なのに、叫んだ。


「ボルフ王国は、腐っていました。新大共和ケーシスに従います!!」


リリスは、テェアリア・パラディンは、ボルフ王国の動向は秘密裏にリリスたちに教えてくれていた。こちらを助けてくれていた助け手だったので、奴隷にはしたくないという想いがあったが、彼の為にも、言葉を呑み込んだ。もし、特別扱いをしてしまえば、裏切者だという敵意を向けられれてしまうかもしれなかったからだ。

リリスは、テェアリア・パラディンの言葉に頷く。



リリスが奴隷たちを見渡すが、貴族たちは、罵声をあびせず、下に目をそらした。


「断っておきますが、わたしたちは、奴隷が欲しくて言っているのではありません。むしろ、奴隷がいたほうが、大変です。食べ物も、住む家も用意しなければいけないからです。では、外に放り出せばいいと言われるかもしれませんが、何も持っていない人を外に出せば、飢え死にするか、モンスターに襲われることでしょう

運よく、他の国や村に辿り着いたとしても、何も持っていない人を受け入れるかは、わかりません。わたしたちに付いてこなかった人たちは、過酷な選択をしたとわたしは思います。ですが、他人に迷惑をかける人まで、民として保護しようとは思いません。だから、奴隷として、制限をかけますが、生活の保護は、出来る限り行うということです

では、バルト・ピレリリとボルア・ニールセン。奴隷の管理の方もお願いします。以上です」


「承知いたしました。リリス様」



リリスは、リーチ・ポストのところに近づいていった。リーチ・ポストは、まだ動揺しているようだった。


「ごめんなさいね。リーチ・ポストさん。あなたの意見を聞く前に、奴隷をつけてしまいましたね・・・」


「・・・。わ・・・わたし・・・奴隷は、どう扱っていいのか・・・分かりません」


「そうよね。奴隷以外に、ひとり、あなたに付けて、その人に奴隷の教育をしてもらうことにするわ。あなたの役に立つような奴隷になるように、教育してくれる人ね。奴隷の生活に必要なものは、新大共和ケーシスが責任を持って提供しますから、安心してください」


「ありがとうございます!!」


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