147章 新大共和ケーシス
『ニーナ。料理の進行状況は、どうなってる?』
『はい。レジェンドでは、5万人分の料理ができました。ユダ村でも、5万人分の料理が準備されています。巨大な鍋やミカエルが用意した入れ物にいれてあるので、持っていくだけです』
『ニーナ。よくやったね。俺は、料理を移動させるために、そっちに行くよ。あと12万人分になるけど、それも頼むね』
『はい。お任せください。セルフィ様!』
源は、瞬間移動で、レジェンドの地下へと移動した。そこには大量の料理が用意されていた。器とスプーンの簡単なものも大量に用意され、準備万端だった。
『ローグ・プレス。10万人分の食事が出来たから、これからそっちへ持っていく。受け取るための、そちらの準備を頼む』
『大丈夫です。すでに、食事の配膳の手伝いをさせる5000人が手配されていますから、こちらに、持って来てくだされば、人々に配れるようになっています』
『さすがだね。それじゃーそっちに、料理を運ぶからね』
源は、時空空間ゲートを開いて、次々と、料理や食器類を新しい土地の空の上に出現させた。空間を抜けると、ローグ・プレスが、指示をして、料理が置けるスペースをきちんと用意して、5000人が、待ち構えていた。ニーナもだけど、ローグ・プレスも、出来る男だった。ニーナは、出来る女だ。しかも、まだこども。
源は、そのスペースに、レジェンドで作られた大量の食事5万人分を置いて、5000人に任せた。
『ローグ・プレス、これはまだ5万人分で、これからユダ村からさらに5万人分の食事を届けるからよろしく』
『分かりました。セルフィ様』
まるで、日本人だと思えるほど、的確な働きをしてくれるレジェンドのみんなに、感心して、何だか楽しくなってきた源だった。
そして、すぐに、ユダ村に、瞬間移動した。
そこにも、レジェンドのように、鍋や大きな入れ物に、食べ物が用意され、簡単な器とスプーンも大量に用意されていた。
飛んだ先には、ユダ村の司祭様がいた。源は、下に降りて、お礼を言う。
「シャルロイ・ジャジャ司祭様。この度は、本当にありがとうございます。前回もそうですが、ユダ村のみなさんには、いつも、もらってばかりで、大変ありがたく思っています」
シャルロイ・ジャジャ司祭は、顔を横に振った。
「何をおっしゃられるのですか!?セルフィ様。それはこちらの言葉です!セルフィ様が与えてくださったミカエルが、どれほどユダ村のためになっていることか・・・ユダ村では、【ミカエルショック】という言葉が広がるほど、劇的に進歩を遂げているのです。少しでも、そのお返しが出来るのなら、何でもいたします!」
「そういってくださると、助かります。ミカエルは、役立ってくれていたのですね」
「役立つどころではありませんよ。
その話は、また時間がある時にしましょう。ユダ村のことは後回しにしてください。今は、大変な時でしょうから、どうぞ、5万人分の食料が出来ていますから、届けてくださいませ。その後は、6万人分をこれから作ります」
「ありがとうございます。早速、持っていかせていただきます」
源は、時空空間ゲートを開けて、5万人分の食事と食器を転移させた。ローグ・プレスは、またスペースを用意してくれていたので、すぐにそれらを降ろすことができた。2500人が、分かれて新たに届けられた食事を配る手伝う行動に出る。
食事が届けられたことを知ると、22万人のひとたちが徐々に集まりはじめ、列になって待ち構える。
どのようにして、食事は、ひとり1回とカウントするのだろうかと思っていたけれど、源が持って来た大量の薪を使って、ミカエルが、小さい木の板を作り、それをひとり1つ渡していったようだ。それを食事券として利用していた。
源にも、1つ渡してくれた。
「使い終わった食器とスプーンは、川で洗って、返してください」
とミカエルを通して、全体に、お願いする人もいた。
食事をもらった人たちの多くは、頭をさげて、感謝してくれていた。
次の6万人分の食事が作られるのにも、まだ時間がある。リリスたちと話を打ち合わせたほうがいいと思い、源は、リリスのところに瞬間移動した。
「セルフィ・・・。ありがとう」
リリスの近くには、ボルア・ニールセンとバルト・ピレリリがいて、色々と管理し、手配を進めてくれていた。
「リリスたちも食事が来たから食べるといいよ。満足するようなおいしい料理とまではいかないかもしれないけどね」
「ううん。大満足よ。この人数の食事があるなんて信じられないほどだもの。わたしたちは、最後の最後にいただこうと思ってるわ」
リタも、バルトも笑みをうかべてうなずく。
「リリスたちらしいね。ところで、三人には、この先の国の形をどのようにしていこうとしているのか、イメージだけでも聞きたいと思ってね。ここだと誰が聞いているのか分からないから、レジェンドで話し合わないかい?」
「そうね。食事も大丈夫そうだし、寝床もある。元貴族たちの中には、問題をおこしそうな人もいるようだけど、レジェンドの兵士さんたちがいてくれるから大丈夫そうね」
「うん。何かあれば連絡してくれるよ
ボルア。俺たちは一旦、話し合いをはじめようと思うけど、ここを離れても大丈夫そうか?」
「はい。大丈夫です。実は、ボルフ王国の兵士たちも、何か手伝いたいと申し出をしてくれたんです。ですから、人手は、十分確保できています。お任せください。何か起これば、リリス様とセルフィ様にミカエルを通じて連絡します」
「ボルフ王国の兵士がね・・・。攻撃的に反発しないだけいいと思っていたけど、手助けまでしてくれるとはね・・・。じゃー安心だし、任せるよ」
源は、時空空間ゲートを開いて、レジェンドのロックハウスにつなげ、三人と一緒に転移した。
リリス・ピューマ・モーゼスとリタ・ピューマ・モーゼス、そして、バルト・ピレリリは、テーブルの椅子に座る。リリスが、口を開いた。
「新しい国の名前は、【新大共和ケーシス】にしようと思ってるわ。何もかも0からはじまるのではなく、ボルフ王国よりも古い由緒ある国が復活したというイメージにしたいと思ってるの」
源はうなずいた。
「うんうん。それは良いアイディアだね。ケイト・ピューマ・モーゼスの意思も伝えられやすい気がする。ボルフ王国側だったドラゴネル帝国の政治家たちなどから言わせれば、新大共和ケーシスという国の名前は、思わしくないと思えるかもしれないけど、その他の人たちからみれば、未来の国の在り方が、分かりやすく映ると思うよ」
「ありがとう。セルフィの言う通り、ケイト・ピューマ・モーゼスの意思を受け継いで、新大共和ケーシスは、お金を使わない国にしようと思うの。どのような政治をしていたのかは分からないけど、できれば、レジェンドのやっている政治と同じにしたいと思ってるわ」
「それは、聖書を中心にした価値観の人々によって作る国ということだね?」
「うん。毎週教会に通うひとたちをクリスチャンとして任命し、その安定した平和の価値観を持った人に、色々な仕事などを任せていこうと思ってるわ。でも、新大共和ケーシスで暮らしても、それでも、多神教を信じたり、聖書を基準にしない価値観の人も、もちろん多く出てくるはず
そういう人たちも、生活ができるように、普通の権利を与えたいと思ってるわ。ただ、クリスチャンではない人は、政治家にも、役職にもつける気はないわ。いつ裏切られるのか、いつ情報を反対勢力に流すのか、分かったものじゃないから・・・。」
「うん。そこまでレジェンドのやっていたことに共感を感じてくれていたのなら、レジェンドは、クリスチャンには、レジェンドとユダ村の人たちと変わらない協力のサポートをしていきたいと思う」
「え・・・。いいの?」
「もちろんさ。ミカエルも、クリスチャンには使えるようにしよう。それに、新大共和ケーシスには、俺が大きな教会を作らせてもらうよ。万単位のひとたちが、教会に来れるようにね
そして、その教会で、聖書の価値観を脳に入れて、平和を固定させる。人権を教えるんだ。心から聖書の神を信じた人にだけ、ミカエルは使用できるようにする。レジェンドと変わらない。サポートだね」
「何て言えばいいのか分からないほど、ありがたく思うわ」
「ミカエルを新大共和ケーシスでも解禁するのなら、レジェンドの俺たちは、なるべく最低限のサポートに留まろうと思う。例えば、仮設住宅の建造まではしても、ちゃんとした家は、新大共和ケーシスの民が、自分たちの考えで復興していくことが、成長につながるからね」
「分かったわ」
「レジェンドとして、提供するのは
1、ミカエルの解禁。
2、教会の建造。
3、聖書の知識の斡旋。新大共和ケーシスに司祭見習いを提供など。
4、自給自足ができるまでの食料の提供と畑の提供。
5、自衛ができるまでの護衛兵の提供。
6、政の提案。あくまで、提案で、少しサポートする程度。
7、ドラゴネル帝国と新大共和ケーシスの架け橋。
そんなところかな」
「助かるわ。貧民地の20万人のひとたちの多くは、クリスチャンになろうとしてくれると思うから、その中から優秀な人材が育つまで、十分すぎるほどのサポートだと思う」
そんなに簡単にクリスチャンになってくれるとは思えないと源は考えるが、否定することもないと思った。
源は、バルト・ピレリリにも聞いてみた。
「バルト・ピレリリは、新大共和ケーシスは、どのような国にしたほうがいいと思ってる?」
「そう・・・・ですね・・・。正直、わたしには学がないので・・・、難しいです。ですが、わたしも、教会に通って勉強し、クリスチャンに認められたら、お役に立ちたいと思っています。俺の親友イール・ポゲルは、リリスを守って死にました。俺もリリス様とリタ様のためなら、命をかける思いです。俺は、リリス様に一度命を救われたからです。そして、このふたりを守れるだけの力がほしい・・・すみません。答えになっていませんよね・・・」
源はうなずきながら答える。
「そんなことありませんよ。バルト・ピレリリさん。あなたのような人が、リリスのことを想ってくれていることは、本当に力になってますよ。心から信頼できる人は少ない。僕ができることがあれば、バルト・ピレリリさんの能力向上になるようなものを提供させてもらいます。リタ商店の護衛もしていたのですから、新大共和ケーシスの軍団長のような立場になってもらうかもしれませんね」
「お・・・お、俺が軍団長!?」
リリスも当然だという雰囲気でうながす。
「そうよ。本当は、軍事面のことは、冒険者のエリーゼ・プルやバーボン・パスタボに、まかせたかったことだけど、彼らは今は、地下に捕らえられてるの。だから、今は、バルト・ピレリリ。あなたが、兵士の中心となるような戦士になってもらいたいと思ってるわ」
「リリス様・・・。頑張ります!」
源は話を続ける。
「今は、ボルフ王国の元兵士たちの武器は、奪っているけど、彼らの処遇は、どうしたらいいと思う?」
「そうね・・・。新大共和ケーシスの兵士は、必要だわ・・・。でも、価値観の固定がまだされていない人たちに、武器を持たせようとは思えない。だから、クリスチャン以外の人たちには、武器は、禁止したいと思ってるわ」
「うん。そうだね。それが安全かもね。俺は、彼らを奴隷にしたら、どうかと思ってる」
「奴隷に?」
「うん。聖書は、奴隷制度を容認している。聖書の価値観がない人間の恐ろしさを聖書は教えてるんだ。今回は、ボルフ王国軍は、完全に負けた。そして、新大共和ケーシス軍とレジェンドの同盟軍が、完全勝利を収めた形だ。だから、彼らを奴隷として扱う
そして、強制的に、聖書を学んでもらう。奴隷の期間は、6年間だ。6年間は、奴隷として、平和とは何か、人権とは何か、なぜ人を騙したらいけないのか、なぜ人を大切に想い、愛を与えることが大切なのかを学んでもらう。それに共感して、ミカエルが使えるようなクリスチャンになった人は、奴隷から解放する。6年経っても、クリスチャンに成らなかった者には、奴隷として働いた分だけの資産を与え、その後は、他の国に行ってもいいし、新大共和ケーシスに残ってもいいということにしたらどうかな?」
リリスは、考えながら口に出す。
「聖書の教える奴隷制度とは、愛や優しさを半強制的に教え込むということなのね」
「そうだね。詐欺をする正義ではなく、詐欺はダメだという価値観を奴隷として生活させることで、脳に植え込むんだ。人は、自分が正しいと思っていると違う価値観をどうしても受け入れられない。こどもならまだ、価値観を変えられるけど、大人になると決して簡単なことじゃないんだ。だから、奴隷で、悪を正義とするのは、低い身分になることになるのだと体でも覚えさす必要がある」
「元ボルフ王国軍の兵士の生き残りは、2000人ほどかしら」
「ミカエル。何人だ?」
「セルフィ様。ボルフ王国の兵士は、5000人でしたが、途中から逃げたものも、奴隷の中にいれるのでしょうか?」
「リリス。どう考える?」
「そうね・・・一時とはいえ、ボルフ王国軍として、あの場に立ったのだから、入れたほうがいいと思うわ」
「でしたら、元ボルフ王国軍の兵士の生き残りは、3201人です。セルフィ様」
「次に、ボルフ王国の貴族の生き残りは、何人だ」
「貴族の家族も含めれば、約500人程度です。セルフィ様」
「3701人とエリーゼ・プルとバーボン・パスタボたちが奴隷になるというわけだな。バーボン・パスタボは、詳しく聞いてみないと分からないけど、エリーゼ・プルは、奴隷になってもらうことになるだろうね」
「そっか・・・。あの二人と貴族の家族も奴隷になるということになるのね」
「その奴隷たちには、ミカエルのソースで作った首輪を付けよう。そうすれば、その者たちが、何か画策しても、筒抜けだし、居場所も特定できるからね」
「セルフィに聞きたいけど、奴隷には、何をさせればいいの?」
「それは、新大共和ケーシスに役立つことを何かさせればいい。例えば、農業とか、家を建てる手伝いとか、奴隷兵士として、武器を持たせない仕事をしてもらうとかね」
「もっと、下の位のような仕事をさせるということじゃないの?」
「いや、違うね。聖書の奴隷制度は、奴隷にも、人権を与え、権利を与えている。例え、主人であっても、奴隷に、ひどいことをすれば、主人も裁かれる。つまり、奴隷には、人間らしい生き方を脳に植え込むために、なるべく、人権的な生活を送らせることなんだ。地位的には、一番下だけど、奴隷にも、愛を与え、優しさを与え、人間らしい権利を与える。それが、聖書の奴隷制度だね」
「つまり、6年間は、奴隷となるけど、生活スタイルは、一般の民と変わらないように、大切に扱うということね?」
「うん。そうだね。脳に愛を教えるには、愛を与えなければいけない。脳に優しさを与えるには、優しさや人とのつながりを与えなければ、脳にそれらを植え付けることはできないんだ。動物を可愛がるということをさせたり、物を大切に扱うということを教えたりね」
「奴隷にすることで、無理やり、正しいことを頭に植え付けるということね」
「うん。そして、愛を理解して、心からクリスチャンになった人は、1週間で、奴隷から解放してもいいし、1年で解放してもいい。それは、リリスたちの采配だね」
「ミカエルがいれば、それも可能だということね」
「そういうことだね。心から悔い改めている人ほど、早く奴隷から解放されるだろうね」
リリスは、納得していたけれど、リタはその考え方に、驚いていた。
「リリスたちに、伝えたいことが、まだあった。俺たちが、ボルフ王国に勝利したことを帝国の政治家サネル・カパ・デーレピュース上院議員に報告したところ、帝国側からも、大量の食料を用意してくれるということだね。そして、新大共和ケーシスとその協力したレジェンドには、1万枚の金貨が送られることとなった。これらは、5000枚ずつに新大共和ケーシスとレジェンドで分けようかと思ってるけど、どうかな?」
「凄い・・・。食料と5000枚の金貨??」
「うん。帝国からの戦勝金。報奨金らしいよ」
「でも、それはもらえないわ・・・セルフィ」
「え?どうして?」
「食料は、申し訳ないけど、頂かなければ、新大共和ケーシスはやっていけない。でも、その1万枚の金貨は、レジェンドのものよ。わたしたちがもらうわけにはいかないわ。これからも、多くのものをレジェンドに提供してもらえるのに、さらに5000枚の金貨なんて・・・」
「うーん・・・。まだ、本格的に探していないから分からないけど、本当なら、ボルフ王国にある財宝などは、リリスたちのものになっていたはずだけど、あの爆発で、財宝がどうなったかは分からない。これから国を作るには、人を動かさないといけないのにね
人を動かすには、お金が必要になってくる場合もある。だったら、5000枚の金貨をリリスたちが持っていたほうが、レジェンドとしても、余計な時間と出費をする必要がなくなるんだ。レジェンドが、1万枚をもらえば、プラスになるかもしれないけど、結局、労働的な面をみれば、分けたほうが効率がいい。本当なら、その1万枚もすべて渡したいぐらいだけど、それじゃーリリスたちが納得しないでしょ?」
「そうかもしれないけど・・・」
「それにね。レジェンドは、決して損はしてないんだ。要は、新大共和ケーシスにレジェンドは、投資をしていて、新大共和ケーシスが発展すれば、それは、レジェンドにとって利益になるんだよ。もし、レジェンドが危険にあった時、同じように、食料が無くなった時、新大共和ケーシスが、発展していれば、助けてもらえる。お互い様というやつだよ」
「分かったわ。違う形で、未来には、レジェンドに貢献できるように頑張るわ」
「うん。そのほうが、こっちとしても、ありがたいね。正直、レジェンドでは、お金なんて必要ないからね」
「ああ。そうよ。そのお金がないままで、どうやって国を運営していけるのかを教えてほしいの」
「うん。分かった。それは」
と源が話そうと思っていた時に、ニーナから連絡が入る。
『セルフィ様。6万食と6万食の用意が出来ました』
『分かったよ。すぐに、そっちにいく。ありがとう。ニーナ』
『どういたしまして』
「よし、それじゃー。この続きは、向こうで食事を終えてから、ゆっくり夜にでも話そう」
「分かったわ。セルフィ」