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145章 全滅の危機

源は、200体のアモラを闇魔法の闇範囲ダークゾーンを使って、隔離かくりしたあと、瞬間移動で、戦地からアモラたちを遠ざけた。


アモラは、A級もしくは、B+級のモンスターであるのに、アモラから出される体液は、生き物に感染させる能力がある。もし、戦場で、野放しにしてしまえば、被害が広がるだけだ。敵も味方もアモラにさせるわけにはいかなかった。


200体のアモラは、闇範囲ダークゾーンの中で、真っ暗なのにも拘わらず、的確に源の位置を嗅覚で認識して、攻撃をしかけてきていた。


源は、あらゆる感知機能を駆使して、暗闇の中でも、的確にアモラたちの動きを見抜き、攻撃を躱していく。


『アモラは、目がないみたいだな。村雨有紀教授やサネル・カパ・デーレピュース殿に聞いた通り、匂いや音で、相手の位置を認識しているみたいだ』


『はい。そう思われます。源』


源は、剣すら抜かずに、攻撃を躱し続けていた。


本当に、どうするかだよな・・・。このアモラたちをここで斬り捨てるのは、俺には簡単だ。だけど、このアモラたちの本体は、本当に敵なのか?ということが問題なのだ。


もし、バーボン・パスタボのように、敵でもない人、拉致したような人たちをアモラとして利用していたら、その人たちまで殺してしまうことになる。


ソロは、このアモラたちを俺が対処するように指示したが、斬り捨てるのとは違うといったニュアンスだった。俺なら、この200体も助けることが出来るということなのだろうか・・・。


未来予測操作・・・か・・・。


源は、考えながらも、紙一重で、アモラたちの攻撃を躱し続ける。

アモラは、口からも体液を吐き出して、攻撃してくるが、それも源は想定していたし、把握して対処する。


本当なら、ミカエルのソースがあれば、バーボン・パスタボのように1体1体を拘束して、無力化できるけれど、今回は、そうもいかなかった。


なぜなら、アモラは、この戦いだけに投入されただけではなく、ボルフ王国の街にも、何体か放たれていたからだ。だから、ボルフ王国の街にも、ミカエルのソースを配置する必要があって、ソロは、そうするように指示を出していた。

今、街で数を増やそうとしているアモラをミカエルが、拘束してくれている。その数は、確認できただけでは、10体だった。

街に留まっている何も把握していない民をアモラにしようと狙っていた。


なので、こっちにまわせるソースは、まだない。


ミカエルの人型ソースは、作られた当初、ロックと練習していた時は、2歳児のこどもよりも、早く動けなかった。それが、今は、ロボット並みの動きで動けるようになっている。1mmのソースが各部分を支えて、動かしてるので、普通のロボットよりも、高性能なだけ動くための処理が難しいからだ。

ロボット並みの動きにまで成長したのは、凄いけど、それでも、動きが極端に遅い。だから、10体のアモラには、それなりの数のソースを投入しないといけなかった。今のところ、街で暴れ出したのに、街の人の被害者はいない。アモラは、決してスピードが遅いモンスターではないので、じわじわとソースで追い詰めていくしかなかった。


そして、そのアモラを200体相手にしている自分は、ソースで拘束することもできない。


ここで使えるものはといえば・・・。


影操シャドウコントロール


感知できるまわりの影をコントロールすることができる闇魔法だ。


闇範囲ダークゾーンの中は、闇しかないというものだから、普通よりも影操シャドウコントロールを効果的に利用することができる。


でも、欠点は、影は影でしかないということだ。その影を利用して、激しい攻撃を繰り出せるわけでもなければ、硬く拘束することもできない。せいぜい邪魔をするぐらい。


しかし、源のマナ力の効果は、影操シャドウコントロールの精度を上げるので、アモラたちは、沼地に入り込んだ程度の効果で、動くスピードを極端に落とした。


源だけは、自由に動ける。



「そこの魔族のような人。あなたは、マーレ・ソーシャスという人ですよね?」


「・・・・」


アモラたちを操っていると思われる男は、無言のままだった。


「帝国に4年前に現れて、アモラを暴走させたというじゃないですか。あなたたちって、一体何なんですか?」


「・・・・」


「ソロモン・ライ・スミス」


源が名前を出すと、男は、少し動きをみせた。


『ソロモン・ライ・スミスの言葉に反応しました。スミスと関わりがあることから、やはり、マーレ・ソーシャスという人物の確率が高いです。源』


「彼は、アモラとは違う姿。そう・・・あなたのような魔族のような姿になって暴走して、4年前に辺り一面、あなたと一緒に、大爆発を起こして消えた言われていますけど、あなたが今、ここにいるということは、彼も生きているんじゃないんですか?」


ソロが、どうして、俺に興味を持って、ドラゴネル帝国連合軍と戦うレジェンドをその才能で助けてくれたのか。その理由は、ソロの兄スミスにあると源は思った。ソロは、スミスがまだ生きていて、そして、そのスミスを助けることが出来るのは、俺だということを未来予測操作で知っているんじゃないのか?


ソロは、今回も、レジェンドのために力を貸してくれている。なら、そのソロに恩返しをする義務が、俺にはある。


「魔法国モーメント」


マーレ・ソーシャスは、また少し反応した。


『魔法国モーメントにも、反応しました。源』


「アモラの技術は、やっぱり、モーメントから受け継ぎ、あなたたちが、悪用しているというわけですね。ボルフ王国は、アモラのようなものは、以前から利用していなかった。でも、あなたは、4年前にアモラを利用している。ということは、アモラを利用することが出来るあなたは、ボルフ王国の者ではなく、別の組織の者で、今回は、ボルフ王国に加担しているというわけですね」


「・・・・」


「アモラなどが、ボルフ王国の技術なら、すでに使っているはずですからね」


「・・・・」


「プロット」


『プロットに反応しました。源』


「スミス君に近づく餌として、魔法の強化を使いましたね?」


この世界の情報が集まった帝国図書館の情報を愛は、すべて持っている。その情報の中に、魔法国モーメントといえば、魔法であり、その魔法のさらに根幹のようにされているのが、プロットというものだと一部の書籍に書かれていた。リトシスのように、この世の理を組み立てる技術らしいということだ。さすがにリトシスほど効果がないにせよ。その研究が進んでいるのなら、魔法レベルは、相当なものだと予想できる。


アモラに変貌させるコアのありようも、プロットのような技術が使われていると思われた。


そのプロットを餌にしてまで、スミスを手に入れようとした理由は、一体何だったのか。スミスが特別扱いされていることは、スミスがアモラにされていないことで、分かる。だから、スミスが生きている可能性は高い。


マーレ・ソーシャスの反応からそこまでは、分かった。分かったけど、その他の情報を渡してくれない。やっていることからして、帝国に敵対していることは分かるけれど・・・。


「どうして、帝国の邪魔をする?」


「帝国の邪魔をしているわけではない」


『嘘はついていません。源』


おっと、やっとしゃべってくれた。


「邪魔じゃなければ、何が目的なんだ?」


「平和だ」


「平和?」


「平和を守ることが我々の存在意義だ」


「俺も平和が大切だと思ってるんですよね。戦いをやめて、仲間になりましょうか」


「それでは、平和は築けん。物あるものは、いずれ崩れ去る。その在り方自体が、平和なのだ」


「破壊神」


「!」


『破壊神に反応しました。源』


ダメだな・・・こいつ・・・。こいつの思想は、カルト思想だ。あっちにいっちゃってる。愛や平和が、根底からズレて受け入れてしまっている。姿も悪魔のようだが、心も悪魔側の思想になっている。


破壊できるということは、『ある』ということだ。死ぬということは、『生きている』ということだ。『ある』『生きている』ということが前提にあるのに、破壊や悪という二次的なものに目を向けて、あっちのほうに行こうとしてしまっている。


『ない』ものを破壊することはできない。『生きていない者』を殺すことはできない。


現世も、この世界も、『ある』ということが、前提なのだ。それを無視して、闇へ闇へと入り込もうとするのは、ヒステリーを起こしているこどもと変わらない。

感情論で悪い方向へと思考を映して、酔っているだけだ。

無神論者は、この世は『偶然』だと信じているが、そんなわけがない。偶然で、スーパーコンピューターが出来ると思うのか。そのスーパーコンピューターを作った人間が、偶然できると思うのか。スーパーコンピューターを作った人間はスーパーコンピューターよりも、優れているという証拠だ。スーパーコンピューターが偶然できないのに、どうして、それよりも優れた人間や動物やあらゆる生き物が、偶然できると吹っ飛ばすのか。

人は、スーパーコンピューターを作れるが、人間は作ることができない。それは、それだけ人間は高性能だという証拠で、それが偶然、作り上げられるわけがない。大嘘なのだ。

そして、偶然だと思うと、自分に意味がないと信じ込むことになる。そう無神論とは、サタニズムのことであり、悪魔を信じ込ますことではなく、神や悪魔はいないと信じ込ます思想なのだ。


『ある』という現実を無視して、ゆっくりと本質からズレた思想を生み出し、悪であっても、愛や正義だと持っていき、恐怖心や猜疑心などの感情論で、利己的にさせ、動くようにさせていく。


無神論などは、カルトの可愛い思想で、無神論者は、カルトの可愛い信者さん程度だが、こいつは違う。


吹っ切れた連続殺人犯などは、心の底から、自分は正しいことをしていると考えている。壊すこと、破壊することに喜びを感じて、脳内麻薬を分泌させて、気持ちよくなっているのだ。


恋愛や犯罪、ギャンブルやあらゆる依存症は、脳内麻薬の分泌による気持ちよさをうながしている。だから、不倫などを正義で気持ちいいと考える人もいれば、嘘をついて利益になれば、気持ちいいと感じる者もいる。


ドキドキしてそれが愛だと思っている人は、犯罪予備軍。


脳内麻薬や感情が悪いわけではない。それをカルトは、悪い方向へと使うように誘導するのだ。そして、悪いことをするとそれが気持ちいいと脳を錯覚させ、破壊が正しいことと誘導していく。


それにスミスが、巻き込まれ、自分の意思とは関係なく操作されているとしたら、問題だ。こいつらの利にならなくなれば、捨てて壊すのが、こいつらの正義や愛だからだ。


『愛。100%』


『解りました。源』


源は、次の瞬間、瞬間移動で、マーレ・ソーシャスの後ろを取り、全力のスピードと正確さで、背中を殴りつけ、拳が、マーレ・ソーシャスの体の中にめり込んだ。


グボッ


「!!」


マーレ・ソーシャスは、すぐに、移動して、闇範囲ダークゾーンの反対側に瞬間的に移動した。


こいつも、瞬間移動ができるみたいだな。


「さすがは、サムエル・ダニョル・クライシスと戦っただけはあるな」


マーレ・ソーシャスは、手を源のほうへとかざした。すでに、源から受けたダメージは回復したようだ。達人級の魔法使いだ。


このやり取りの間も、アモラたちは、動きが鈍いなりにも、源に攻撃をしかけている。


ゴン


源は、後ろから、攻撃を喰らった。衝撃が来たと思うと、後ろにまとわりついたのは、黒い手のようなものだった。その黒いものは、大きくなっていき、源の体を包み込みはじめる。動けなくなった源は、黒い姿になり、闇範囲ダークゾーンの床に倒れ込む。


その黒いものに覆われた源をアモラたちが、殴り続ける。


ドガ ドガ ドガドガドッドガ


そして、口から液体を大量にだして、黒のものに包まれ倒れているセルフィに吹きかけた。

マーレ・ソーシャスから離れた青色の炎は、ゆっくりと倒れた源の体に当たり、当たった瞬間、激しく燃えた。


ボワ


炎の強さに、アモラたちも距離を置いた。


しかし、源は、後ろからマーレ・ソーシャスに蹴りをいれようとした。マーレ・ソーシャスは、素早く避けた。


「あんな風に、やられるわけないよね」


黒いものは別にして、自分だけ瞬間移動で移動していた。黒い倒れたものの中身は空洞のリトシスだった。


「簡単には、ゆかぬか・・・。まーいい、お前の足止めは、こいつらで十分だろ」


そう言い残して、マーレ・ソーシャスは、その場から消えた。


源は、床に手を置いた。


影操シャドウコントロール全開」


源は、闇範囲ダークゾーンのまわりにさらに強烈な影操シャドウコントロールを形成した。


そして、動きがにぶくなったアモラを残して、その場から消えた。



―――リリスたちとボルフ王国軍との形勢は、接戦へとボルフ王国が保ちはじめた。逃げずに残ったボルフ王国軍の兵士は、誇りを持った騎士たちだった。そんな騎士が2000人いるので、それを崩すのは簡単ではない。レジェンドの攻撃を把握しはじめ、指揮官が指示を出すと、兵士たちは、それぞれの隊列の距離を広げた。

間隔が狭かった時は、死角が多かったが、見渡せる視野が広まることで、ウオウルフたちの攻撃を防いだり、躱しはじめていた。

空からの攻撃も、ひとりが盾を持ち、上からの矢を防ぎ、ひとりが下で、ウオウルフに対応した。

暴れまわる物質モンスター、ロックには、近づかないように距離を置いた。味方同士の距離が多いと一振り一振りでやられてしまう人数が増えるからだ。強くて無双とはいっても、近づかなければ、その1連隊だけで、2000人は倒すことはできない。

ボルフ王国軍も、その戦いから工夫して、戦いはじめていたのだ。そして、これからボルフ王国の反撃の時間だというタイミングになった。

アイスドラゴンのフレーの背中に乗ったリリスのナノアイコンタクトの画面に、表示が示された。

敵の軍への指示がされる。


【ビックボア隊。西→東10度。南→西北25度。東→西60度。3人の副隊長。ウオウルフ赤】


リリスは、目をつぶって、動物たちを感じ取り、一体となった感覚で、その文字と画面上に表された分かりやすい青いマークに沿って命令を実行する。動物たちには、それぞれソースが乗っていて、リリスは前以上に動物たちの状況を把握できるようになっていた。


ボルフ王国軍の優勢になる時間と思ったその絶妙な時間に思わぬ攻撃が、ボルフ王国軍に襲い掛かった。それは、分厚い装備を付けたビックボアだった。

ビックボアは、縦長に、列になって突然、軍の中に飛び込んできた。兵士たちは、それに跳ね飛ばされていく。来るとは分かっていても、味方の兵が邪魔をして、すぐに躱せない。

ビックボアは時速50km/hもの速さで突進してきたからだ。しかも、それが3隊。100匹の列に並んだビックボアが、3つも突っ込んできた。それぞれのビックボアの列は、丁度その流れにいた副隊長たちを見事に倒していってしまった。ビックボアの鎧にはサイのような太い牙のようなものまであり、敵兵士はその牙に刺さって、そのままビックボア隊と一緒に連れ去られていたものまでいた。


その後、ウオウルフの攻撃に慣れ始めたと思っていたのだが、そのウオウルフが赤く光はじめた。光はじめただけではなく、その攻撃は前以上に早く、また重い攻撃になり、防ぐことが出来なくなった。


【レッドアビリティ】


せっかく立て直そうとしていたところに、リリス・ピューマ・モーゼスの能力によって、さらなる追い打ちが駆けられ、崩れてしまった。その隊では、また巻き返すことは、難しい。特に、今回のように、大義を失った状態で、戦いに挑んだことで、ボルフ王国兵士たちに、それだけの気力が無かった。

まったく減らない敵の数とさらに強くなる敵。そして、追加で現れる敵。さらに現れるのではないか?という不安に対して、ボルフ王国側は、次々と兵士たちが弓や槍の攻撃で消耗され、戦える兵士の数が激減していった。倒れた兵士がまた足元の邪魔になって、さらに戦いを困難にしていた。

攻撃こそ最大の防御といったように、ボルフ王国の攻撃のターンさえも封じ込める時間差によるあらゆる攻撃の連携が、ボルフ王国軍を圧倒する。


ボルフ王国軍の中央では、アイスドラゴンが、冷たい息で兵士たちを凍り付かせ、空からは、ドラゴネットによる矢の攻撃。攻めようとしている方には、盾が硬すぎて、攻撃が通らない。

一番混乱を招いたのは、低い位置から赤く強くなったウオウルフによって攻撃されることだった。ドラゴンのように大きくて解りやすい攻撃ではなく、突然現れては、鋭い刃物で斬りつけられるので、隊の混乱に収拾がつかない。さらに、ビックボアに、はねられないようにと、逃げた兵士が詰め寄ったところに、無双した物質モンスターのレジェンドの精鋭部隊が攻めたてて来た。


ロックは、ミカエルと自分の意思を同一化して、ナノアイコンタクトを付けてなくても、的確な指示をくれる画面をみて、動くことが出来るので、嘘のように敵が集まっている場所に辿りつき、自分の攻撃を有効に繰り出すことができていた。


ボルフ王国の兵士たちは、外へ外へと逃げて行く。


逃げるためのルートは、多数わざと開けられ、リリスたちの攻撃は繰り返される。逃げる者たちは、攻撃されないことも気づきはじめたようだ。


仲間の数が減って、武器を捨てて手をあげ、降参する者も攻撃をしなかった。それでもあきらめず、攻撃する者もいたが、その兵士は、ウオウルフたちに蹴散らされていった。


指揮官は、薄ら笑いを浮かべている。5000人いたはずの兵士は、2000人となり、その2000人も、500人もいない状態で、ほとんどが、降伏していたからだ。



―――問題となっていたボルフ王国の街に放たれた10匹のアモラたちだったが、何とかミカエルのソースが、足止めをしてくれていたので、5匹は、拘束し、残りの5匹も、ソースが作り出した壁で囲まれた状態になっていた。街の人たちに感染はなかった。アモラは、井戸に何かをしようとしていたようだが、それも阻止された。


そして、残りの5体の方には、源が瞬間移動で現れて、ソースと一緒に、身動きが取れないように、拘束した。


すでに、拘束された5体と合わせて、10体のアモラを拘束すると時空空間を開いて、ダークゾーンの中に10体を投げ込んだ。


そして、源も、ミカエルのソースと一緒に、ダークゾーンの中に戻っていった。


源は、影操シャドウコントロールによって沼地に入り込んだように、動きが鈍くなったアモラを殴りつけた。


そのアモラは、吹き飛んだが、すぐに起き上がって、源の方へとまた向かってきた。


うーん・・・。打撃で、大人しくなるかなーと思ったけれど、無理っぽい・・・。


【リトシス】


200匹のアモラが、少しだけ、宙に浮く。地に足が付かないので、その場でバタバタするしかできないようになった。しかも、影操シャドウコントロールがあるので、そのバタバタも、動きが遅い。


源は、アモラたちを等間隔の距離に移動させて、一匹一匹を源が、抑えて、アモラの腕や体をソースで、縛り上げていった。


少し宙に浮いたアモラの足元から、ミカエルは、ソースを縦に伸ばして、アモラの足にしがみつき、体をソースをはわせて、アモラを拘束しはじめた。


源が、リトシスと影操シャドウコントロールを発動すれば、ソースだけでも、アモラは、拘束が可能だった。


『ミカエル。このまま、アモラたちは、拘束しておいてくれ』


『解りました。セルフィ様』



源は、アモラがすべて拘束できたので、次は、リリスたちのところに飛んだ。




―――源が、戦場に戻ってくると、すでに、戦いは終わっていた。


『ミカエル。こちらの被害は?』


『負傷者56人。死者0です。セルフィ様』


すごいな・・・死者0だったのか・・・。こんなことは、はじめてだ。人間よりも弱いコボルトとの戦いでも、ウオガウの息子ガーウやその他のウオウルフの犠牲者が出た。

帝国との戦いでも、死者は多かった。俺を可哀そうだと抱きしめてくれたウィルおじさんも、帝国との戦いで戦死していた。唯一、死者0で終えたのは、帝国の物資船を襲った時だったが、あれは隠れて、奇襲作戦だったので、死者が出なかったのだ。その時でも、ウオウルフに負傷者が出たほどだった。それが今回は、まともな戦争なのに、死者0・・・。愛でさえも無理だといったことをやり遂げてしまう未来予測操作は、驚異的だ。一体どこまでできるのかまだまだ未知数だ。



ボルフ王国軍側の中央には、フレーの背中から降りたリリスが、数人の武装解除した騎士が座っている前に、立って何か話していた。騎士たちは、ソースによって造られた手錠で両手を拘束されている。


「あなたたちの負けを認めなさい。指揮官!」


「や・・・やもえん・・・我々の負けだ・・・」


その指揮官の言葉は、ミカエルやスピーカーから流され、ボルフ王国中に流された。


貧民地の20万人が一斉に、勝利の声をあげた。


「わあああああ!!」

「勝ったぞ!!」


源は、リリス、ロック、ローグ・プレス、ボルア・ニールセン、ウオガウ、そして、リタを集めて、時空空間の中に、案内した。最後のしめくくりは、あの人物を捕らえることだ。


その先は、ボルフ王国の城の裏側だった。ボルフ王国国王は、王子たちや女王を連れて、逃げようとしていたが、ミカエルがそれを阻止していた。


「逃がすわけないだろ」


源が、国王に、指を振る。ボルフ王国国王は、以前の姿とは違ってやせ衰えていた。


「セルフィ殿。わたしは、国民のために、手を尽くしてきた。前にそれを伝えたであろう」


ミカエルが、通信できるすべての人に伝わるようにいう。


「『嘘をついています』」


国王にも、聞こえるようにミカエルが話したので、国王は驚いている。


「う・・・嘘などではない!ボルフ王国の経済との板挟みとなり、それでしかたなく・・・」


「『真実です』」


「仕方なく、なんでしょうか?」


「し・・・仕方がなく・・・こうせざるおえなかった・・・」


「仕方なく、国民を虐殺したということでしょ?」


リリスが、国王につめかける。


国王は、リリスの足にしがみついた。


「助けてくだされ、リリス殿。わたしは、お主の母には手を出さなかっただろ?命を助けた!」


「王様。あなたが今こうしているのは、あなたが、国民を人だと思わず、見殺し続けたからです。国民は、権力にさからえず、ずっと我慢してきたのです。次は、あなたが、何も言わずに、我慢する番です。見過ごせる罪と見過ごせない罪があります。貧困で死んでいった人たち。戦争でわざと殺された人たち。あなたの策略で殺された人たち。あなたは、人の命を奪い過ぎました。わたしではなく、あなたが、今のあなたを作ったんですよ」


「国王という地位は、非情にならなければ、やってゆけぬ時がある。それが分からないのか?」


「では、レジェンドの最高責任者のわたしセルフィと新しいこの国の最高責任者のリリス・ピューマ・モーゼスも、あなたに対して、非情になる選択をします」


「ヒーーッ!そ・・・そういうことでは・・・」


「あなたの処遇は、ドラゴネル帝国皇帝陛下が、帝国の議会で行われる採決にゆだねます。わたしたちは、非情な気持ちで、あなたをそこに送り届けましょう」


リリスが、そのようにいうと、国王は、諦めたように、肩を落とした。


『ミカエル。ペルマゼ獣王国軍の進行は、どの当たりまで、来ているのか、表示してくれ』


『分かりました。セルフィ様』


ミカエルは、源たちに解りやすく、全体地図をみせて、赤色でマーキングして、点滅させた。約3000km先に、進軍してきていた。


もし、時間をかけて、ボルフ王国に攻めていたら、ペルマゼ獣王国軍も、もっと近くまで来ていただろう。また、早く実行したことで、アモラも、200体ほどで済んだ。もし、1日でもさらに遅れれば、さらに被害者が増えていた可能性が高い。


影の男は、戦場には、現れなかったけれど、これだけの被害で、済んだのは



『撤退』


ソロモン・ライ・ソロの声が、突然、ミカエルを通して、全体に伝えられた。


『レジェンドの皆を?』


と源が問いただすと、ミカエルがソロの頭に被せた意思疎通認識装置からソロの考えを割り出して赤い点滅した表示を出した。


【ボルフ王国にいる10km四方にいる生き物すべて、1分以内で即時撤退】


『生き物すべて、1分!!??』


【リトシス】


『愛。10km圏内にいる生き物をすべて把握!!』


1分以内で、10kmの外に移動させるなんてことが出来る方法は、限られている。


源は、虫などの生き物以上のものだけをリトシスで捕らえて、瞬間移動した。



すべての人が、突然、いたところから、別のところに場所を移動した。


しかも、そこは、遥か空の上だった。



100万にも及ぶ数。レジェンドだけではなく、ボルフ王国軍も、敵も味方も平民も貴族も、アモラも、ボルフ王国国王さえも関係なく、虫以上のすべての生き物を移動させた。

安全に、移せる場所など、空以外には、すぐには思いつかなかった。何か移動した先に物があれば、その物の中に、生き物が現れて、合体してしまうからだ。人が木と合体できるわけがないので、死んでしまう。


空しかなかった。


しかし、空の遥か上に移動したのはいいが、すべての生き物が、下へと落下していた。


「うわーーーー!!」


すべての生き物は、何が起こったのか分からず、混乱する。ウオウルフやビックボアなども空中で足をばたつかせていた。なぜか分からないが、みたこともないほどの大量の生き物が、目の前にいるのに、そこは、空の上。現実とは思えない状況。意味が分からない。


かろうじて、レジェンドの兵士たちだけが、少しこの状態をセルフィとソロの突然の命令から連想して理解したが、それでも、なぜ空の上にいて、落下しているのかは、分からず、混乱した。


空を飛ぶ鳥やフレーやドラゴネットは、飛ぶことができるが、突然のことで混乱して、いつものように、羽をうごかせない。何とか落下する生き物を助けようとするが、100万を越える生き物を乗せられるわけがない!


「ぎゃあああーーーー!!」


叫び声とともに、気絶する人たちが、続出する。


リリスは、叫びながら、ミカエルを通して、呼ぶ


『セルフィ!セルフィ!みんなの落下を止めて!』


源の反応がない。


『セルフィ様は、目の前にいますが、白目になって今にも気絶寸前です!』


レジェンドの兵士らしき者が、答える。


『どうにかして、セルフィを起こして!』


源は、100万を越える生き物を瞬間移動させた。転移魔法は、その物質の質量に比例して、マナを消費する。さすがの源のマナの量も、限界だった。連れてこれなかった生き物は、そのままだ。


この世界に、スカイダイビングを楽しむ人間なんて、そんなにいない。レジェンドの兵士で、空気抵抗を利用して、すぐにセルフィに近づける者もいなかった。


『どうにかして、セルフィを起こさないと、このまま落下して、死んじゃうわよ!』


リリスが、叫ぶが、レジェンドの兵士も、なかなかセルフィのところにはいけない。



そうこうしている間に、遠いところで、大爆発が起こった。


ドフーーーーン!!!!


物凄い音が響き渡る。爆発したところには、巨大な、きのこ雲が舞い上がった。だが、空を落下する人たちには、それを気にする余裕はない。


『『『セルフィ!!はじめ!!』』』


ロックたちの声がミカエルを通して、かけられるが、源は、限界ギリギリだった。



『あ・・・ぃ・・・リ・・・ト・・・シス・・・たの』


源は気を失った。


『あーーーー!!ダメです。セルフィ様は、気を失われました!!』


『『『もうお終いだー!!』』』



そうみんなが、諦めたところに、すべての100万いる生き物の落下が、ピタリと止まった。


そして、ゆっくり、ゆっくりと地面へと降りていく。


『セルフィ様が目を覚まされました!!』


セルフィの近くにいた兵士がそう報告した。


『申し訳ありません。みなさんを安全に、降ろします。リリス様。降りた後は、わたしは、気を失いますので、絶対に、アモラには生き物は、近づけないようにしてください。今はミカエルが、アモラを拘束していますが、感染する可能性があるからです。アモラになった人たちは、のちに人に戻すことができるかもしれませんので、生かせることが出来たら、生かしておいてください。わたしたちは、さきほどの戦いでアモラを作り出したマーレ・ソーシャスをわざと取り逃がしました。彼は、瞬間移動の使い手ですから、アモラ奪還に動くかもしれません。今のところ、マーレ・ソーシャスは、遥か8000km西南にいますが、注意してください。さきほど爆発があったところがボルフ王国ですが、その爆発によって汚染されています。これ以上、爆発したボルフ王国に近づくと汚染され死ぬ可能性が高いですから、レジェンドの皆さんは、何も知らない人たちに、「近づくな。爆発によって汚染されている」と各自呼びかけてください。現在、ボルフ王国は、その爆発によってすべての建物、すべての生き物が喪失して、何も残っていないでしょう。決して、戻って近づくことなどしないようにお願いします』


愛であっても、マナは源に依存する。だが、リトシスは魔法マナのようで魔法マナではなく、法則の外にあるスキルのようなものだった。源の意識は無かったが、愛がリトシスで源以上のきめ細かい精度で、皆を無事に降ろし続けていた。


『分かったわ。セルフィ。今は、無事に地面に降りることだけを考えて』


『分かりました。リリス様』


レジェンドのみんなは、何か違和感を覚えるが、今は空の上で、それどころではなかった。

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