144章 わたしは、リリス・ピューマ・モーゼス
レジェンドは、ボルフ王国討伐にあたって、独自の戦略で攻略することをドラゴネル帝国皇帝ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカから許可を得た。帝国の議会の内容が外に漏れていると思われるからだ。それほどのタイミングで、ボルフ王国が動いてきたからだ。
ボルフ王国第三王子サムジが、帝国の政治家たちとのやり取りをしていたことは、以前からサネル・カパ・デーレピュースから聞かされていたことから、ボルフ王国に、情報を流す者がいることは当然のことだろう。
そして、ボルフ王国は、自分やリリスがいても、逃げおおせるほどの手練れが付いている。それは謎の影の者だ。
触れるほどの距離にまで追い詰めたのに、それでも、自分の前から消え去った。一瞬で感知できなくなったのだから、転移的なスキルなどを使ったのだろう。
そんな相手が、モンスターへと羽化させる感染媒体を持っているのだから、さらに厄介だ。
なるべく早く、そして、情報を外に漏らさずに、ボルフ王国を攻略する必要があるのだ。
ボルフ王国を滅亡させるための方法はいくつか考えられる。
1つは、ボルフ王国王家の暗殺だ。
ボルフ王国を支配しているキグダム家を暗殺し、弱体化を謀る。
しかし、これは得策ではない。圧倒的に敵が強いのであれば、そのような手段を択ばなければいけないかもしれないが、ボルフ王国は、ドラゴネル帝国の連合国の1つでしかない。そんな相手に、わざわざ暗殺をして、滅ぼすなどをしたら、連盟している他の国に帝国は、いうことを聞かない他国の王族を暗殺までして、倒すと波が広がっていくのは必然だからだ。
そして、じわじわと弱体化させていく作戦は、日数がかかってしまう。相手も感染攻撃をしてくるかもしれないのだから、時間を与えることは、不利になる。
2つ目は、レジェンドによるボルフ王国の城への一斉攻撃。城が落ちたというのは、ボルフ王国滅亡が解りやすい。龍王が認めたケイト・ピューマ・モーゼスが、本来、この土地を相続する権利を有している。そのケイトの一族であるリリス・ピューマ・モーゼスとリタ・ピューマ・モーゼスを旗印にして、一気に占領してしまうのだ。
3つ目は、貧民地からの一揆を起こさせる方法だ。国民が、ボルフ王国ゆるすまじと行動した結果、ボルフ王国が滅亡する。
この3つ目は、とても効果がある。ボルフ王国は、その民からも信頼がなかったとドラゴネル帝国側は主張して、虐げられた民を助けた正義の味方を世に広めることができるからだ。よくアメリカなどの多国籍軍がやることだ。
しかし、これの欠点は、20万人の貧民地の民に被害が及ぶことだ。人数が多いだけに普通ならすぐに実行もできないし、貧民地の民は、その大半が農民で、戦える力がない。
前回、ボルフ王国の農業に手を貸したことで、農作物の採取量は増えたが、それでも、それは平均的な量に戻したほどであって、貧民地の民の体は細く普通の農民兵よりも力がない。
そんな民を戦わせれば、どれだけの負傷者が出るのか分からないし、相手に感染攻撃をする時間も与えてしまう。ただ、その農業での貧民地の民とセルフィである俺は信頼されるようになった。そこにリリス・ピューマ・モーゼスと合わせてボルフ王国と戦おうと情報を流せば、20万人も帝国との戦いの時のように、すぐに行動してくれるだろう。情報も、ミカエルのソースをみんなにこっそりと送り出して説明させればいい。
ボルフ王国は、すでに援軍を呼び寄せていた。ユダ村のミカエルのソースは、辺り一面に広がり、当然、三国同盟の国、ペルマゼ獣王国にも及んでいた。そのペルマゼ獣王国が動き始めた。大戦を終えたばかりだというのに、またボルフ王国に援軍を派遣したのだ。
だから、今回は、1でも、2でも、3でもなく、4つ目を採用することとなった。
2と3のハイブリットとドラゴネル帝国の権威を利用する方法を選んだ。さらに、圧倒的な物量による作戦で、感染攻撃の危機も素早く阻止してしまう。
―――源は、巨石飛行物をボルフ王国の前に、着陸させた。
黒い巨大な物体から、黒い鎧を着た兵士500人とウオウルフ50匹、黒い物質モンスター500体が(ユダ村のソースまで投入、ミカエルの人型ソース)次々と外に出て、整列する。
その中央に、アイスドラゴンのフレーが威嚇するかのように、動きボルフ王国の前の場所を確保した。
フレーの背中には、白いドレスの上から緑色の鎧を付けたリリス・ピューマ・モーゼスが、乗っていた。
さらに、半径1kmある巨石飛行物の左右には、貧民地の民が、10万人ずつそれぞれ、レジェンドからもらった小型ボウガンや剣などの武器を持って、一緒にボルフ王国に向かって立っていた。こどもたちも含めた20万人なので、弱い者は後ろに待機させる。貧民地の民を指揮するのは、リタ商店の護衛をしていたバルト・ピレリリだ。
前回と違うのは、ボルフ王国に不満を持つ貧民地の民も、立ちあがっていることだった。
ボルフ王国軍は、かき集めた兵士5000人を急いで、外に整列させようと動いていた。レジェンドが近日中に動くことは分かっていたので、それだけの兵士を集めることが出来ていた。帝国連合軍の時は、2万人以上の兵士を集めることが出来ていたが、今回は、多くがボルフ王国を見限って参加することは無かった。貧民地の民以外で、5000人集まっただけでも、凄いことだ。
ズシズシズシ
リリス・ピューマ・モーゼスは、ボルフ王国軍が、整列し終わるまで、地面を歩き回るフレーに乗って待機の姿勢を崩さない。
ボルフ王国が、整列すると、指揮官らしき騎士3人が、騎馬に乗って、前に出てきた。
騎士は、アイスドラゴンのフレーの前で、少し脅えているようだが、それを隠して、叫んだ。
「正統なるボルフ王国に反乱を企てた罪により、お主たちを成敗する!命がほしくば、武器を置いて、立ち去るがいい!残った者たちの命は保証しない!!」
リリス・ピューマ・モーゼスは、ドラゴネル帝国皇帝ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカから渡された書簡を広げて、話しはじめた。
その声は、もの凄く大きかった。源によって巨石飛行物体に搭載されたスピーカーとすでに、ボルフ王国全土に、広がって待機させている1mmのミカエルのソースから、リリスの声は、国全体に聞こえるようになっていた。もちろん、城に待機しているボルフ王国国王にも、その声は、届いている。
「ドラゴネル帝国連合国の1つとして、連盟に参加していたボルフ王国は、反旗を翻した属国となり、すでに、自滅している。帝国に弓を弾くだけではなく、ボルフ王国の民にまで、手を下し、残虐性をあらわにした、キグダム家は、死刑に処す。
非道な行いに手を染めていた第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジは、すでに亡き者となった。これは、ドラゴネル帝国だけの決定ではない。ボルフ王国の民による決定でもある。この土地は、帝国が、キグダム家に与えたものだったが、民を蔑ろにするほど腐敗したキグダム家より、以前は、平和に土地を治めていたケイト・ピューマ・モーゼスがその権利を有するのが、妥当であろう。
ケイト・ピューマ・モーゼスは、龍王みずから指名し盟主となった者だ。そして、モーゼス家の正統な後継者であるリリス・ピューマ・モーゼスをボルフ王国の滅亡の総責任者として、指名した。
リリス・ピューマ・モーゼスは、正当なるケイト・ピューマ・モーゼスの子孫だと帝国が保証しよう。
新たな女王を据えて、この土地は、栄え、ドラゴネル帝国の盟友となる国となるだろう。それでも、滅亡したボルフ王国に加担する者は、共に滅亡するものとなる。以上。
ドラゴネル帝国皇帝ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカ」
リリス・ピューマ・モーゼスは、さらに話しを続ける。
「わたしは、リリス・ピューマ・モーゼス。
ボルフ王国を牛耳るキグダム家は、シンダラード森林の資源である鉄を目的に、貧民地の兵士をシンダラード森林へと派遣したが、その農民兵をわざと森のモンスターに虐殺させた!ボルフ王国の王族は、民を見捨てたのだ!その後、生き残った農民兵をさらに盗賊を雇って、闇討ちした!大勢の貧民地の民は、キグダム家の道楽のために、命をさらに奪われた
連合軍との戦いでも、同じように、農民兵をわざと死ぬ戦へとかり出して、虐殺させた。民を人とも思わず、蔑ろにしたキグダム家は、この土地に住むものたちをその行動で冒涜したのだ。
世界を支配するドラゴネル帝国皇帝ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカ陛下の名の下、また、新たなこの土地の女王となるこのわたし、リリス・ピューマ・モーゼスの名の下、そして、証人として隣接するレジェンドのリーダーであり、伝説の天使であるセルフィの名の下に、ボルフ王国の滅亡は決定した
民がそれを望んでいるのは、共に後ろに立っている民が証明している。我々は、平和を築きにやってきた
わたしたちに発した言葉を返す。対峙する場所を間違えたと思う者は、その場に武器を捨てて、ボルフ王国の街へと戻れ。その者たちには厳しいお咎めはない」
次々と武器を地面に投げ捨てて、ボルフ王国軍の中の者たちが、街へと戻っていく。正統性を主張して急遽かきあつめた5000人の兵士たちは、ボルフ王国に疑問を持ち始めたのだ。
「待てー!お前たち、戦わずして、いなくなるのは、ゆるさんぞー!」
ボルフ王国軍の指揮官らしき者が怒りの表情を浮かべて叫ぶ。
しかし、少ない人数だが、大義がないことを知って、消えていく兵士は止まらず、移動していく。
リリス・ピューマ・モーゼスは、叫んだ。
「非道なボルフ王国にそれでも、手を貸す者は、このようになる!!」
巨石飛行物体の上に、光り輝く姿で、空を飛ぶ者がいた。
白い羽を背中から広げ、美しい姿で光の中を飛ぶのは、セルフィ。
セルフィは、右手と左手を両側に伸ばした。
右側の広い範囲に、電気が走ったと思うと、上から下へと巨大な太い雷が、大量に、後ろの広範囲に降り注いだ。以前、源が土地の回復に役立つようにと植えた木々が、雷に打たれて、倒れていく。
また、セルフィの左手には、巨大な炎の玉が、作られていた。20mにもなるような、巨大な炎は、左側の森へと投げられ、大爆発した。左側の森は、一気に燃え上がる。
戦場にいた者たちは、敵も味方も、どよめく。
リリス・ピューマ・モーゼスが乗っていたアイスドラゴンが、横に首を振ったと思うと、その口から冷たい息をまき散らした。すると、横一線に、大きな氷の壁が瞬時に築かれた。
それらをみて、大量のボルフ王国軍が、逃げるように武器を地面に捨て、街へと逃げていった。
ミカエルのソースが、男のボルア・ニールセンの声で、ボルフ王国の兵士たちの足元から大きな声をあげた。
「逃げろ!!このままでは助からないぞ!!」
その声は、兵士たちに伝染して、本当の兵士からも「逃げろ」という声があがり、残ったのは、2000弱の兵士だけになった。
指揮官が血相を変えて、戻るように叫ぶが、残った兵士たちも時間とともに、武器を置いて、減っていく。瞬く間に、戦力が半減し、残った兵士たちにも動揺が走る。
そんな指揮官の前に、突然、現れたのは、黒いマントを付けた男だった。
「慌てるな指揮官。お前たちに援軍を連れてきた。恐れず立ち向かい奴らを殺すがよい」
男は、マントを脱いで、悪魔のようなその姿をみせた。それは、マーレ・ソーシャスだった。
マーレ・ソーシャスが右手を地面に置くと、黒い魔法陣が、描かれ、その魔法陣から、200体余りの奇妙なモンスターが現れた。
アモラか・・・。源は、バーボン・パスタボと同じ羽化したモンスターをみて、思った。
さー。どうする?ここまでは、ソロモン・ライ・ソロが予想していたこと通りに動いている。アモラの集団が現れることも想定していたが、兄のスミスは出てくるのか・・・。
源は、ミカエルの通信を利用して、レジェンドの兵士に指示を出す。
『予定通り、アモラの集団は、俺が隔離して、処理する。その他の敵2000人は、リリスを中心にして、各自、計画通り、表示に従って行動してくれ』
『『『了解』』』
リリスと各部隊の隊長、ローグ・プレス、ロック、ボルア・ニールセンなどが、声を揃えて、返事をする。
ボルフ王国の指揮官が、叫んだ。
「かかれー!!」
両軍が、一斉に、前へと動き始めた。
源は、瞬間移動をして、200体のアモラと悪魔の姿をした男の周辺を闇範囲を発動させて、隔離した。そして、闇範囲に触って、さらに、その戦場から、200体のアモラたちを闇範囲ごと瞬間移動させた。
黒い四角い大きな物が、突然現れて、ボルフ王国軍は、驚く。しかし、すぐにその黒い物体は、消えて、援軍だといっていた200体のモンスターも消えてしまった。
しかし、もう軍は、前へと進み始めたので、そのまま行くしかない。
ボルフ王国軍は、前に進み、軍の後列に待機していた弓兵に弓を射らせた。
矢が飛んでくるが、レジェンド軍の前には、ミカエルのソースが、連結して、巨大な盾を形成し、ほとんどの矢を防いだ。
さらに、進んでくる敵軍の前に、体と一体化した盾を地面に突き刺して、硬い守りの壁を作り出すと、敵軍の勢いのある前進突撃を止めた。
その盾の後ろから、黒い鎧を着たウオウルフたちが、壁を飛び越えるように、飛び掛かり、敵軍の中を走り回る。ウオガウを先頭にして、各自、敵軍の中に散開する。ウオウルフたちの鎧には、ウィングソードというグラファイトの剣が飛行機のように取りつけられているので、敵兵士の間を走り抜けるだけで、次々と敵の足を切裂いていく。
レジェンドの兵士たち500人は、戦士長であるローグ・プレスを前に連なり、帝国連合軍との戦いで手に入れたドラゴネットに乗って、空からボウガンを撃つ。部隊はいくつかに分かれて、それぞれの部隊長は、ナノアイコンタクトに表示された指示に従って、隊を動かす。
貧民地の民たちは、バルト・ピレリリの指揮の下、小型ボウガンや剣、長い槍を持って、盾の壁となっている黒いモンスターの後ろから攻撃をしかける。20万人もいるものたちが、壁の後ろから攻撃をしかけていて、しかも、ひとりひとりに小型ボウガンが渡されていたので、すごい攻撃力となり、ボルフ王国軍は、黒い盾の壁を越えることができない。超えても、超えたほうが、20万の民に、袋叩きにあって危険になる始末だ。圧倒的な数の有利を活かしきった戦い方をした。
武器のない20万の民なら2000人いる兵士でも勝てるかもしれないが、武器を持つ20万の民となると簡単ではない。
そして、ウオウルフとともに、敵軍に入り込んだ。巨大なモンスターがいた。
ロックだ。ロックは、カーボンロングアックスを両手で握りしめ、ボルフ王国軍に攻撃をしかけていた。ロックは、ミカエルと同化しているため、源の次に、あらゆる戦場の動き、敵の動きを処理して、捉えながら戦うことが出来ていた。以前のロックの強さではない。
しかし、以前のロックひとりでは、コボルトにさえ止められ兼ねなかったが、今回は、ミカエルの10体と50人のレジェンドの戦士が、ロックの戦いをカバーしてくれていた。【猛虎隊】という名前の隊をロックが率いる。
ロックにしがみつこうとするものをはがしては、攻撃をして、ロックの威力のある攻撃を阻止させないようにしていた。そして、ミカエルが盾として、その50人を守る。
また、ロックの部隊を守るように、空からは、レジェンドの戦士のドラゴネット部隊が、その周りの兵士を狙い撃ちしていた。
ロックは、好き放題、自慢の武器を振り回せるので、無双状態になっていた。大きな物質モンスターを止められる人間は、ボルフ王国の兵士の中にはいなかった。
しかし、そんなロック以上に、無双となっていたのは、リリス・ピューマ・モーゼスだった。
リリスは、アイスドラゴンのフレーと共に、空を飛んで、口から冷たい息を吐き散らし、辺り一面の兵士を氷付かせていた。その氷をフレーは、コントロールして、大きな棘のようにして、また攻撃を加える。アイスドラゴンのフレーに弓矢を打っても、フレーには、ミスリルという羽のように軽くて、鉄よりも強度のある鎧をつけていて、まったく矢はささらなかった。ボルフ王国軍のキャスターたちの魔法をうけても、蚊にさされた程度のダメージにしかなっていなかった。
中からは、ウオウルフとロック、そして、リリスが、かき乱し、攻撃しようと前に出た兵士は、黒い盾の壁と20万の民にやられる。
空からはレジェンドの兵士たちによる強いボウガンの矢。
信じられないほど、ボルフ王国軍を圧倒していた。レジェンドの被害者は、貧民地の民も含めて未だに0人だった。
貧民地の民とロックを守る役目の兵士が負傷した程度だ。中に入り込んだウオウルフたちも、擦り傷1つない。
軍の中に入り込んだウオウルフの高さは、人の足ほどのもので、前に味方がいるのに、まさか足元を攻撃されるとは、ボルフ王国軍も思わなかった。味方の兵士の体が邪魔をして、ほとんど死角状態になっているので、足元から突然出てくるウオウルフに対応できないのだった。2000人の兵士が、距離間が狭く集まりすぎていたのだ。