143章 感染力
謎の影の男に、操られたと思われるエリーゼ・プルとバーボン・パスタボだったが、源がリリスへの攻撃を阻止し、男を捕まえようとしたが、男には逃げられ、バーボン・パスタボは、その男に何かを注射され、羽化状態へとはいってしまった。
源は、造り始めていた巨大金庫の中に、バーボン・パスタボを連れて行き、隔離し、何とか無力化して、体を調べた。
『源。どうやらバーボン・パスタボ様をこのような体にしたのは、核が原因のようです。どのような原理かは分かりませんが、バーボン・パスタボ様の体には、もともとあった核と細かいその他、沢山の核が体内にあり、本人の者とは違う核が、中央部分の隣にゆっくりと形成されています』
『つまり、その核を取り除けば、もとに戻るってことだよね?』
『はい。細胞レベルにまで浸食されてしまっているので、普通では、取り出すことは不可能ですが、源のリトシスを使えば、分離可能だと考えられます。源』
源は、モンスターとなって変わり果てたバーボン・パスタボの頭の方に片手を出して、スキャンするようにゆっくりと足へと手を移動させていくと、バーボン・パスタボの体から極小の核と小さめの核が排出された。
それと同時に、バーボン・パスタボの体は、もとの大きさへと変わっていった。
排出されたそれらの核は、絶対に外に出ないように、源がリトシスで即興で作った何重にも重ねられたケースの中にいれられた。
『何なんだ?この核は』
『分かりません。この核がおかしいのか、それとも、核自体が、このような効果をもたらすのか。定かではなりません。源』
確かに、核は、何のスキルの効果もない剣に、スキルの効果をもたらすことが出来る。しかも、それら核は、スピーシーズのようなモンスターのものを使っている。でも、だからと言って、剣は、変化しないし、源が作ったアクセサリーのスキルを人間が使っても、効果は落ちても変化するわけでもない。
『生き物。生命体の体に、核をいれるとこういう反応を生み出すのかもしれないな』
『分かりません。源。ですが、言えることは、体内の核を増加させることによって、バーボン・パスタボ様の能力は、その核の量と質によって強化されていたということです』
『本来、持っている核プラスアルファ、別の核を利用するからか』
『そうだと思われます。体こそ1つですが、バーボン・パスタボ様の今の状態のプログラムは、二つの生き物のデーターとなっているようです。もちろん、まったく二人というわけではありません。源』
この核って何なんだ・・・。色々な形があって、この世界の太陽のようにダイヤ型の核もある。
『あと分かっているのは、核は、体内にあるほうが、その効果を上げやすいということです。源』
『体内?』
『はい。源の作ったアクセサリーもそうですが、本来のスキル効果ではなくなっている理由は、その体と核の相性。劣化しない状態を保つのが、その核の持ち主の体だということです。源』
『ほぅ・・・。ということは、スピーシーズの体も核と一緒に確保して、それも鍛冶スキルなどで一緒に合成させれば、さらに割合を上げられるってことじゃないのか?』
『その体が腐敗すれば、効果は落ちるかもしれませんが、それまでは、効果を上げられるかもしれません。源』
『まー。今はそれどころじゃない。その核を液体状にして、誰にでも打ち込んで、モンスターにしてしまう敵がいるということ。そして、そいつは、精神を操る。この相手の対策を考えることだ』
人をモンスターに変えるというのも、厄介だけれど、音で人を操るという敵の能力は、かなり対処がめんどくさい。
裏切者が長い間の蓄積で、裏切るのならいいが、裏切る気もない仲間を裏切らせることも可能だとしたら、誰も信用できなくなる。しかも、液体ということを考えたら、いつ食事や飲み物にあの液体を盛られるのか分かったものじゃない。
『ミカエル。今までのみんなの様子。その動きや行動から、あの影に操られている人間かどうか、割り出せるか?』
『高い確率ではありませんが、普段の行動とは違うことを認識することは、6割程度の精度で判別できると考えられます。セルフィ様』
6割か・・・こんなに高い判別ができるのか・・・。相手が嘘をついているのかを90%以上の確率で割り出せるのだから、可能なのだろう。
『分かった。じゃー。普段とは違うと思われた者を色分けして、表示するようにしてくれ。完全に操られているというもの90%以上は、赤。80%なら青。70から60%なら緑にしてくれ』
『はい。分かりました。セルフィ様』
感情の起伏とかで、操られていると取り上げられる人も出てくるかもしれないけれど、安全のためには、しょうがない。レジェンドのみんなには、音で、人を操るということも映像をみて分かってもらえているはず。
『愛。あのモンスターの液体は、ずっと感染力を保持しているものなのか?』
『いえ、源。体外に出された極小の核は、長くて3分ほどで、劣化し、その効果は失われています』
『ミカエル。ボルフ王国の部屋で、ソースが破壊されたと言ったが、破壊される前までの映像をみせてくれ』
『分かりました。セルフィ様』
源は、ミカエルの出した映像をみた。国王が窓際に近づくと現れたのは、やはり、あの影の者だった。その後、すぐに、ソースは破壊される。
『レジェンドのみんな。バーボン・パスタボは、無事に、元に戻れた。これを起こしたのは、影の者だけど、ボルフ王国国王の部屋にも、現れている。丁度、リリスが襲われた時間帯だ。これからも分かるように、ボルフ王国が動き出した。これをみてくれ』
源は、皆に、モンスターが吐き出した映像をみせた。
『モンスターは、液体、血液などを出しては、その液体で人間を感染させて、あのようなモンスターにするようです
でも、この液体の感染力は、3分までしかもたない。3分間、液体に触れなければ、無力化する。だから、これからは、飲み物や食べ物など、口にするものは、3分間、口にしないようにして、3分過ぎてから、口に入れるようにしてほしい
そして、あの影の者は、音やその他の方法もあるかもしれないが、人を操る術を持っています
普段、裏切るはずもない人も操られる可能性があるので、普段とは違う行動を取っている人をミカエルが判定します
赤、青、緑の表示がされた人には、気を付けてください
このミカエルの判定は、誤認もあるものですから、確実ではないですが、ある程度、対策にはなります。さきほど、リリスも少し操られたのですが、映像をみられたように、大きな音や衝撃などで、正気に戻すことも可能なようです
なるべく早めに、解決しなければならいと思っていますが、それまでは、お互いに注意してください。何か命の危険にあうようなら、ミカエルを通じてすぐに、助けを求めてください。リリスも危険な状態でしたが、ソースを近くに持っていたため、すぐに、わたしが助けに入ることができました。みなさんも危険だと思ったら、すぐにミカエルを通して声をかけるようにお願いします
夜、遅いですが、レジェンドの主要メンバーは、これから会議を行いたいと思います。ミカエルの極秘通信で行いますので、お願いします。以上です』
源は、今後のことを主要メンバーと話し合った。
バーボン・パスタボとエリーゼ・プルは、操られていたかもしれないが、100%信用できるとは言えないので、レジェンドでもない安全な地下施設に隔離することにした。ミカエルが彼らを見張りながら、食事なども用意する。
そして、突然、ボルフ王国が、攻撃をしかけてきたのは、帝国の議会の内容が、外に漏れていただからと推測される。
帝国が、ボルフ王国に攻撃するという重要な会議の内容を敵は、手に入れて、先に動いたのだ。
ボルフ王国のスパイなどが、帝国に入り込んでいると思われる。そして、その者は、政治家として動いている可能性が高い。
ボルフ王国と戦うにしても、情報が漏れているだろう帝国に、すべての情報を流すのは、危険だということだ。
今回、ボルフ王国を亡国とする任務を実行するのは、レジェンドとピューマ・モーゼスの仲間だ。この仲間であっても、限られた人だけが、その作戦の情報の共有をして、漏れないようにするべき。
帝国にこのことを報告して、再度、どのようにボルフ王国と戦うのかをこのメンバーで考えることとした。
―――源は、帝国の宿屋に戻り、次の日、サネル・カパ・デーレピュース上院議員にこのことを報告した。
「もしや、それはアモラかもしれません!セルフィ様」
「アモラ?」
「4年ほど前に、この帝国に正体不明の謎のモンスターが2000体集まり、攻撃をしかけてきたのです。そのモンスターは、感染させる能力を持ち、駆除する対策には、苦労させられたのです。それ以来、出現してはいないのですが、4年以上前にも、突然、獣人が暴れ出す事件が起こり、それと何らかの関連性があるのではと考えられたのですが、やはり未解決のままなのです」
「今回は、その未解決事件が俺たちに降りかかったというわけですね」
「そのアモラ襲撃事件には、謎の男がいて、その男が、モンスターと一緒に、自爆してしまったことで、事件は迷宮入りです。そして、その自爆したモンスターは、実は、ソロモン・ライ・ソロの兄だったのです。その襲撃の総指揮を任されたのは、ソロモン・ライ・リアムで、ソロの父上に当たるのです」
「そうですか・・・ソロモンの意思に任せますが、その事件と何らかの接点が今回の戦いでもあるのなら、ソロモンも、今回の戦いに参加させてみるのもいいかもしれませんね」
「おー。そこまで、ソロを評価されてくださっているのですね」
「評価せざる負えない実績がありますからね。あの能力をわたしたちのために、使ってくれるのなら、心強い限りです」
「分かりました。ソロのことは、本人に聞いてみますが、帝国の会議の内容が漏れていたこと、今回の作戦内容は、すべてレジェンドに任せること、アモラらしきモンスターと影の者が現れたことは、わたしの方から上に報告させていただきます」
「わたしたちも気を付けていますが、サネル・カパ・デーレピュース様も、また御方も、気を付けてください」
「はい。3分ですね」
「そうです。3分です」
宿屋で、陛下が関わっているということは、簡単には口に出せない。どこで聞き耳をたてられているのか分からないからだ。
「あと、今回のボルフ王国への対応は、限られた人数で行おうと思うのですが、ボルフ王国の件が終わったら、少し時間を頂きたいのです。帝国のために、レジェンドが動くためには、それなりの準備期間が必要だからですね。ボルフ王国のことが片付きましたら、またその話をさせていただきます」
「御もっともなお話です」
「今回は、すでに攻撃されていますから、速やかに動かなければいけませんが、レジェンドが戦えるようになるには、時間が必要ですし、帝国の一神教の復古運動を進めるにも、時間が必要になりますからね」
サネル・カパ・デーレピュースは、思い出したように伝える。
「そうですね。そういえば、聖書66巻の増本のことですが、龍王の意思を受け継いだ村々に訪れて、それらの村から許可が下りれば、問題なく、増やすことができます。やはり、帝国教会の権威でそれを行うことは、権利上、問題が出てしまうので、申し訳ないですが、そのように動いてもらってよろしいでしょうか」
「ちなみに、その方法で、増本した聖書を帝国の民に、分け与えるということも、出来るのですか?」
「申し訳ないのですが、そこから利益を出してしまうと、それは問題となってしまうのです」
「利益を出さずに、ただ無料で分け与えるのなら、構わないのですか?」
「無料でなら、問題はそれほどありません。すべての本を無料にするのは、問題ですが、聖書だけを無料にして配るというのなら、大丈夫でしょう
聖書はそもそも、教会や帝国書庫に眠っていたような状態ですから、誰かが聖書で利益をあげているわけでもありません。それをまた無料で広げるのは、問題にはならないはずです
問題になるとしたら、帝国では、貴族以上の身分の者と学者以外には、情報を簡単に流さないという決まりがあるのです。1冊の本がそれにひっかかるかどうかですね」
源は、聖書が現世の世界を劇的に変えた現代の世界で生きていたので、どれほど聖書が世の中を変えるのかを知っていた。人権はもちろん、憲法や科学などの発展も聖書なしではありえなかった。それほどカトリックは巨大な権力を持っていたのだ。だから、今でも中国は頑なに聖書を禁止しているのだ。それをドラゴネル帝国の政治家たちが知ったとしたら、当然、問題があがるだろうと思った。自分から言うのもなんだし、1冊の本程度とみて許可してくれるというのなら、それでいいかと考えた。
「分かりました。ありがとうございます。最後にですが、これは、レジェンドで開発したソースというものです。これを肌身離さず、持っていてくだされば、もし、サネル・カパ・デーレピュース殿に何か危機があった時は、すぐにわたしが助けに入ることが出来るようになります。今回、リリスを助けられたのも、これのおかげでした。よろしければ、持っていてください」
「おおー。左様ですか!ありがたく頂戴いたします」
「これを通じて、わたしとの会話もできますから、活用していきましょう」
「なんと・・・!」
一応、釘をさすように源は言っておいた。
「もちろん、これは、レジェンドの特許技術ですけどね」