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142章 憎しみの関与

ボルフ王国国王キグダム・ハラ・コンソニョール・ソールの顔は、日に日に痩せこけ、精神的に疲弊していることが、誰にでも分るほど、不安定な状態になっていた。


国王は、部屋に入ると、頭を抱えて、恐怖におののき、頭を掻きむしる。


我が息子サムジよ・・・。お前の首をわたしの目の前に、投げ捨てたのは、一体誰なのだ?帝国の仕業か、それともセルフィなのか・・・。三国同盟の誰かが裏切って、送り届けてきたのか・・・。帝国は追い帰したものの、まったく計画通りではなかったではないか・・・。


国王の部屋の窓を外から叩く音がした。


コンコンッ


なんだ!?ここは、城の最上階だぞ・・・?


王は恐る恐る窓に近づいていくと、黒い姿の影のような者が、窓をゆっくりと開けて、静かに入り込んできた。その者は、低い姿勢になって、頭を下げる。


「な!何者だ!?」


「ボルフ王国国王キグダム・ハラ・コンソニョール・ソール様。シンの使いでございます」


その者は、男とも女とも、人間なのか、それともモンスターなのかも分からない変わった声を吐き、床に手をかざしたと思うと、その床から何かを手にして、黒い石のようなものを手の中で砕いた。


そして、ふところから両手で、黒い四角い板を置いた。


その床に置かれた黒い板から黒いマントフードを被り顔を隠した老人が突然、現れ、それはしゃべりだした。それは目の前にいないことがなんとなく王であっても分かった。いないのに幽霊のように姿がみえ話しだすので、気味が悪い。


「久しい・・・ですな。ボルフ王国国王キグダム・ハラ・コンソニョール・ソール殿」


国王は、心の中に気持ち悪く入り込んでくるような声で話しかけてくる老人に対して、動揺しながら答える。


「な・・・何だ?何の用だ?」


「シンとの懸け橋となっていたキグダム・ハラ・コンソニョール・サムジ殿のご冥福をお祈りする。つきましては、ご子息を殺めた者をお教えしよう」


「し・・・知っておるのか?」


「世を乱し、我らの秩序を壊すために生まれた、日浅き者。セルフィぃぃ~」


憎しみとともに、国王の目は鋭く周りを見渡す。

「やはり・・・セルフィか・・・」


「その者は、帝国皇帝と手を結び、動き始めるは、ボルフ王国滅亡ぉの思案。帝国に反乱を起こした国へのお咎めという大義名分での指示を実行するのは、かの者ぞぉ・・・・」


怒りをぶつけるかのように、手を握りしめ、国王は吐いた。


「何故だ!?おかしいではないか!わしらは、お主たちの指示通りに動いたにすぎん。約束と違うではないか。お互いに戦争を楽しむのが筋であろう?約束をたがえるのなら、お主たちを差し出すのみよ!」


老人は、右手を前に向けると敵意をみせた国王を暗い亜空間へと迷い込ませた。上も下もなく、地もなく、暗闇にひとりとり残される。


「うわああああああ!な・・・何だ!?ここは!」


物凄く遠いところから、赤い光が、信じられないスピードで王の元へと近づき、光は王を呑み込んだ。


王は、恐怖で両手を顔の前に出して、身構え、目をつぶる。しかし、明るさを感じて、周りを見ると、そこは、炎で埋め尽くされた大地に、人々が苦しめられ、怒るオーガが、手に持っている武器で燃えて苦しむ人々を突き刺していた。


「ふぎゃあああああ」


そこに白い光で現れたのは、さきほどの老人。


「助けてやろうのぉ。手を差し出せ」


震える王は、涙を流しながら、老人の手にしがみつくと、まわりは一瞬で、別の場所に移り変わった。次は、金銀財宝、美しい女性が立ち並び、まるで天国のようなところだった。


「王よ。我が救ってやろう。救われたいかぁ」


「お救いください!わたしは、あなたに従います!」


また、場所が一瞬で変わり、元の王の部屋とさきほどと同じ立ち位置で、立っていた。その不思議さを味わい王は、荒い息づかいをしていた。


「邪悪な妖精族ケイト・ピューマ・モーゼス。大共和ケーシスの同魂リリス・ピューマ・モーゼスが、名を使い、この国を略奪せんと謀略すぅ」


「妖精・・・リリス・ピューマ・モーゼス?もしかして、あの小娘か」


妖精族は、祖父が狙っていた一族・・・。なぜ妖精族を祖父はあれほどまでに嫌い狙っていたのか、謎だったが、そういうわけだったのか。


「世を乱す者どもは、この世の秩序と平和を理解しておらん。犯罪者と同じように、約を反故にする。そのような者たちは、ゆるしてはおけんなぁ」


「そうだ!平和を乱す者は、殺すべき!どんな手を使ってでも、排除するべきだ!」


老人の口元はうっすら笑いを含んだ。


「手段を択ばず、排除しようのぉ」


黒い板の上に現れた老人が、影のような者に首を振ると、影のような者は、手をかざして、不気味な音を奏で始めた。


その音のせいか、国王は、白目になり、口からよだれを垂らし始めた。


窓から背中に黒い羽を持つ悪魔のような姿の男が入り込んで、老人の後ろに立ちつくす。


「この者は、平和と愛をもたらす使者。マーレ・ソーシャス。この者の指示に従うがよい。国王よぉ」


気がふれたようになりながら、泡を吹く王は、答える。

「わわわばわわ・・・ばかった・・・」


次の日、ボルフ王国国王キグダム・ハラ・コンソニョール・ソールは、目を覚ますと左手に痛みを感じた。目を向けると、手には火傷の痕が残っていた。




―――リリス・パームは、力をつけるために、毎日のように、遺跡におもむいていた。生命数値レベルを上げて、今では60を超えていた。リリスの冒険者組合アドベンシエーションでのクラスは、C+だが、レベルだけで言えば、A級になっていてもおかしくはないほどだった。


リリスとリタは、セルフィが、ドラゴネル帝国皇帝との会見での話を聞いて、その時が来たと喜んでいたが、決して、口に出して、それを話題にはしなかった。例え、自分たちの家だったとしても、アイコンタクトだけで、口に出せないことは、やり取りしていた。


ボルフ王国に、貧民地の民を人質に取られ、ドラゴネル帝国と戦わされた絶望しか思い浮かばないような状況から、逆にそのドラゴネル帝国が、後ろ楯となって、あの憎むべきキグダム家に、制裁を加えることができる。


帝国連合軍との戦い以来、ボルフ王国は、動きを見せていなかった。


ボルフ王国第三王子サムジの首を斬り跳ね、セルフィが、ボルフ王国国王に、その首を送り届けたというので、復讐が復讐を呼び、何をしてくるのかと身構えていたので、拍子抜けしていた。


実は、何があってもいいように、ボルフ王国の周辺には、ウォウルフたちが、待機していてくれていた。セルフィは、貧民地の民にも、ボウガンや剣などの武器を護身用に持たせたままだった。武器の依頼は、ボルフ王国からの依頼からはじまったものなので、文句のいわれる筋合いはないと用意していたが、そんなことは、やろうと思えば、何とでも押し付けて向こうの正義で裁かれることになる。やろうと思えばボルフ王国は、白であっても黒だと言い張ることもできるのだ。


しかし、それでも、ボルフ王国は、静かに何も動かなかった。


帝国の兵士で、レジェンドにボルフ王国国王からの使者として、伝言板を行ったテェアリア・パラディンも、密に、ボルフ王国の動向を探っては、リリスたちに密かに報告をあげてくれていたが、特に問題行動に出るような情報は無かった。彼は、ボルフ王国に忠誠を誓ってボルフ王国の正義を信じていたが、セルフィたちの話を聞いて信じていたボルフ王国に疑念を抱き、今では、リリスの役に立ってくれている。


リリスは、今日もリタに、一日のことを報告する。その報告の中には、わざと偽りの情報も含めているのだが、それはリタからの教えだった。話している間に、手の形で、合図を送り、偽りの情報なのか、それとも本当の話なのかを判断するようにしていた。しなければいけない、実際の報告は、ミカエルを通して隠れて行っていた。


リリスは、人差し指と親指で輪を作るような手の形で報告する。


「今日は、久しぶりに、冒険者アドベンチャーの依頼を受けて、貧民地に近づいたモンスターを退治したわ」


その手の形は真実のほうだと思いながらリタも話をする。


「そう・・・。何だか、また入り込もうとするモンスターが増えたような気がするわね」


「そうかもしれないけど、ボアやビックボアとか、それほど驚異じゃないモンスターばかりだったし、以前、セルフィが作って切れたトゲのある壁が、ボルフ王国郊外を囲んで、畑への侵入箇所を減らしてくれているから、楽に対処できたわ」


「あの壁は便利よね。水も流れているから、利用できるし、それほど大きな高さでもないから圧迫感もないし」


「うん。そうだね。レジェンドほどじゃないけど、セルフィのおかげで、収穫も多いみたいよ」


「この平和のまま、生活が続けばいいんだけど・・・」


リリスは笑顔で答える。


「大丈夫よ。お母さん。ボルフ王国も、戦争で懲りて、平和にやっていこうと思っているはずよ」


リリスの手は、いつの間にか、人差し指を立てていた。これは偽りの言葉だということだ。何をするのか分からないのが、ボルフ王国。ここまで来たら、安心という想いになるわけがない。


「外のモンスターよりも、アイスドラゴンのフレーをみて、驚くみんなの顔が面白かったよ」


「まだ、成長過渡期だけど、それでもドラゴンだから、大きいからね。それが普通の反応よ」


リリスは楽しそうに笑う。

「今日は、早めに、休むね」


リタは優しく頷いて見送る。


リリスが、二階の自分の部屋に向かい廊下で、エリーゼ・プルとすれ違う。エリーゼ・プルとバーボン・パスタボは、リリスの護衛を今でも行っている。家にいる時の護衛は、女性のエリーゼ・プルの役目となっていた。


リリスは、エリーゼ・プルにいつものように、会話を交わす。


「ご苦労様。今日は、わたし休むね」


エリーゼ・プルは笑顔で返す。

「お疲れ様。おやすみなさい」


リリスは、暗い廊下を歩き、自分の部屋のドアを開けようとすると、肩に痛みが走った。


ズバッ ドサ


薄暗い廊下の床に、腕が落ちた。


リリスは、その腕が自分の腕だと分かり、床に倒れるように、ひざをついた。


「いッ・・・・!」


そして、後ろをみると、エリーゼ・プルが、剣を抜いて、構えていた。持っている剣には、血がついている。


「リリス・パーム。良くも平気な顔で、わたしと生活していたな。どんな気持ちで、わたしに護衛をさせていたんだ?マックル・セスドは、わたしの兄のような人だった。マックルを殺したのは、あなたでしょ!」


リリスは、肩の痛みで、顔を歪める。


ミカエルからの報告が速やかに上がる。


『みなさん。ボルフ王国国王キグダム・ハラ・コンソニョール・ソールの部屋のソースがすべて破壊されました。警戒2を発令します』


『『『何?』』』


セルフィを含めたレジェンドの主要メンバーの驚く声が上がる。


セルフィが、命令を下す。


『ミカエル。すぐに、みんなの近くに、ソースを送って、何が起こっても対処できるように動いてくれ』


『はい。分かりました。セルフィ様』


『た・・・たすけて・・・』


『『『!!』』』


女性の助けを求める声が、ミカエルから聞こえる。


『リリス?リリスか?』


セルフィが問いただす。



エリーゼ・プルは、まるで憑りつかれたかのような憎しみの目で、リリスをにらみみつけながら、宣告する。


「あなたを殺す前に、あなたの目の前で、あなたの家族を殺す。それをみて、わたしの気持ちを味わうといいわ!。その前に、動けなくするために、あなたの片足も斬らせてもらう」


エリーゼ・プルは、剣を振り上げ、リリスの太ももめがけて、鋭い剣さばきで、振り下ろす。

リリスは、斬られると思い横に顔をそらしてギュっと目をつぶった。


ガキンッ


リリスの斬られそうだった足の周りには、ミカエルのソースが、少数だが集まり、小さい盾のようになって、リリスを守った。


「ちッ。時間がない・・・死ねー!」


エリーゼ・プルは、リリス相手に致命傷を負わせるための剣術を躊躇ためらうことなく執行した。


しかし、次の瞬間、エリーゼ・プルは、廊下の先まで、吹き飛んだ。


ドガン!ドゴォ!


リリスの前に、時空空間が開けられ、そこから手が伸びていた。そして、その穴からセルフィが現れる。


エリーゼ・プルは、倒れながら驚いた表情をみせる。


源は、すぐに、リリスの腕を持って、リトシスで治療をはじめた。


「あ・・ありがとう。セルフィ」


「どうして、エリーゼ・プルがこんなことをしたんだ?」


「あの子の兄のような存在をわたしは手にかけているの。ボルフ王国と彼は裏で繋がっていて、ピーターを殺したのも彼だった。殺したくなかったけど、あの時は、殺すしかなかったの」


源は、リリスの腕を治し終えるとリリスと一緒に立ちあがって、エリーゼ・プルに近づく。エリーゼ・プルは、ふらつきながらも廊下にたたずむ。


「エリーゼ。君に与えたその剣をリリスに使うとは残念に思う。君がリリスを狙う理由は、あるみたいだけど、なぜ今だったんだ?いつでも、リリスを狙う時はあっただろう?」


「うるさい!!マックル・セスドの想いはわたしが受け継ぐ!お前たちの命はわたしが必ず取るからな!」


そう言い残すと、廊下の二階の窓を割って、外に飛び出していった。


リリスは治してもらった腕を触りながら立ちあがる。


「エリーゼ。何か変よ」


「変?」


「いつものエリーゼじゃない気がする。話が噛み合わないし・・・、わたしの事情も知っているのに、問答無用で攻撃してくるような子じゃないと思うんだけど・・・」


「今まで演技していて、あれが本性だったとかじゃないの?ミカエルは、エリーゼ・プルとバーボン・パスタボには、クリスチャンじゃないから使えなくしてあったしね。それに、リリスの足を狙ったあの剣術の的確な攻撃をみると、まともな気がするんだけどね」


「もし、あれが本性だったとしても、わたしには彼女を否定する言葉はないわ・・・わたしも復讐心を持ってボルフ王国と戦っていたんだもの・・・」


「でも、君とボルフ王国の王族を一緒にはできないね。リリスは、悪意のある行動に巻き込まれた被害者だったけど、そのマックル・セスドという男は、ボルフ王国と繋がっていたんだろ?そういうのを自業自得っていうんだね」


「そうだとは思うけど、家族を失った悲しみは、それを奪った人間に向けられるのは当然でしょ」


「その彼の命を奪ったのは、リリスかもしれないけど、そうなるようにさせたのは、リリスが赦せないとするボルフ王国で、本当の悪の本質をみれば、エリーゼ・プルとリリスは、同じ敵を見るべきじゃないのかな。感情的になってしまっているエリーゼ・プルに、今は何をいっても通じないかもしれないけど、何だか、怪しい動きがあるね。国王の部屋に忍ばせておいたソースも壊れたその時に、エリーゼが攻撃してくるんだからね」


二階から激しい音が聞こえて、様子をみにリタが来た。


「何かあったの?」


「大丈夫よ。お母さん。セルフィが助けてくれたから」


源は、真剣な顔をして、二人に伝える。


「リリス。リタさん。エリーゼ・プルの服に、ミカエルのソースをつけておいたんだけど、その映像みてみて」


リタとリリスは、ナノアイコンタクトでソースの映像をみる。

エリーゼ・プルは、どこかの建物の中に入ると、二人の男が待ち構えていた。ひとりは、バーボン・パスタボ。そして、もうひとりは、影のような黒い姿の怪しい奴だった。


「邪魔が入り、失敗しました」


影のような男は、手を伸ばして、エリーゼの服についているソースを握り込んで、破壊した。



「誰?あれ」

リリスは、疑問を声にした。


「誰というよりも、何?かもしれないね。なんだか、生き物じゃないような気がした・・・。男とも女とも言えないようなあの声は、ロボットのように聞こえたんだけど」


「ロボット?」


「ミカエルの人型のようになった状態みたいなのが、ロボットだね」


「人間じゃなく、物質モンスターってことね」


「まー。そんなところかな。声が潰されて、ああいう声なのかもしれないけど、不思議な存在だな。人間とは思えない」


源は、ふたりに、静かにするように、人差し指を鼻の前に立てた。


そして、目の前に、小さい時空空間を開けて、その様子をみたが、影のような男が、エリーゼ・プルの首を掴んで、持ちあげ、今にも殺しそうな状態になっていた。エリーゼ・プルが邪魔にしかならなくなったのかもしれない。


源は、影のような男の真後ろにも、時空空間を開けて、殴りつけたが、男は、エリーゼ・プルを放して、素早く避けた。その回避した体の動きは、人間のそれではなかった。エリーゼは、そのまま倒れそうになるのを、源が、受け止める。


空間から源が現れても、男は、動揺する素振りがない。バーボン・パスタボは、うつろな目をしたまま、立ちつくす。


リリスが言っていたように、もしかしたら、エリーゼ・プルやバーボン・パスタボは、操られているかもしれないと思った。


だとしたら、やばい・・・


男は、音を出し始めた。


その瞬間、愛は、リトシスを発動させて、源たちのまわりの空気の振動を停止させた。


『源。空気の振動を止めました。許可なく動きました。申し訳ありません』


『いや、いい。よくやってくれたよ。やばいって思った瞬間だったからね。察知したら動いてくれていい』


影の男が、バーボン・パスタボの方に手を向けると、バーボン・パスタボは、男の方へと歩いて移動していった。


源は、リトシスで、エリーゼ・プルを固定しながら、そうはさせないと、影の男に、攻撃をはじめる。しかし、男は、暗い部屋の中で、またも源の攻撃を人間とは思えない体の動かし方、上半身だけが、横にスライドするように躱した。


源は、後ろから攻撃され、それを感知して防いだ。攻撃したのは、リリスだった。男の音は、源には効いてなかったが、時空空間の向こう側にいて、見ていたリリスには届いていたようだ。リタはセルフィに攻撃したリリスに驚いていた。


その隙に、男は、バーボン・パスタボに何かを注射した。


バーボン・パスタボは、叫びながら、苦しみ始めた。


「・・・・(ぐわわああああ!)」


「・・・・。(何をした?)」といっても、今は空気振動が停止されていて、音が出ず、相手にも伝わらない。操られてはいけないので、これを解除もできない。


影の男は、自分の影の中に入り込んで、その場から消えた。その男には、触れなかったのでソースはつけることは出来なかった。完全にその場から消え、男の気配は無くなった。


リトシス。解除


「があああああ!」


バーボン・パスタボは、苦しみ続けている。


「リリス!君は、大丈夫か?」


源は、両手で、手と手を当てて、大きな音をたてた。


パンッ!


リリスとリタは、キョロキョロして、正気に戻った。


「あれ・・・どうしたの?何が起こったの?」


「あの男は、逃げた。でも、あいつが、バーボン・パスタボに、何かを打ち込んだんだ。そうしたら、苦しみ始めた」


リタが、時空空間から出て、バーボン・パスタボの様子をみる。


「これはまるで、妖精族が、完全な妖精に羽化うかする状態と似ているわ」


「羽化?」


「まったく別の体へと変化することよ」


『源。少し調べましたが、リタ様のおっしゃる通り、バーボン・パスタボの体の変化は、そのプログラム自体が改変されはじめています。異質の何かに生まれ変わろうとしています』


バーボン・パスタボの体からは、骨の音がバキバキバキと聴こえてくる。


腕や足が、大きく膨れ上がり、苦しいからか、装備や服を自分で、壊すように脱いでいく。


『これは止められないのか?』


『完全な肉体の調査を行わなければ、これを止めることは、出来ません。源』


『そんな30分も、1時間も調べていることなんて、出来ないぞ!』


バーボン・パスタボは、床を殴りつけると、家の床に、大きな穴を開けた。


まるで、ホラー映画を生で見せられているようだ。とても人間の姿とは思えないみたこともない生き物へとバーボン・パスタボが、変わっていく。しかも、暴れたことで建物を壊すほど凄いパワーを持ち始めているようだった。


『そうだ!今、ミカエルに、巨大な金庫をグラファイトで造ってもらっている。あそこにひとまず、閉じ込めるぞ』


『エリーゼ・プル様は、どうしますか?』


あー・・・!もうー・・


「ミカエル。エリーゼ・プルが動けないように、拘束しろ。リリスたちは、エリーゼを頼む。俺は、バーボン・パスタボを隔離かくりさせる。あの影の男に注意してくれ。ミカエル。あの男が現れたら、何よりも優先して、教えろ」


源は、早口でそう伝えると、バーボン・パスタボの体に触って、瞬間移動した。


「影の男の映像をレジェンドのみんなに見せて、注意をうながしておいてくれ」


巨大金庫の中にいたミカエルのソースが答える。

「分かりました。セルフィ様」



ナノアイコンタクトとナノイヤホンを付けている人々の目線に、映像が割り込んで、影の男を映し出し、バーボン・パスタボやセルフィたちにした能力のことを開示した。


【要注意人物。影の男。発見次第、速やかに退避と報告を】


という赤い表示が点滅する。そして、レジェンドでは警戒命令のサイレンが鳴らされた。これでナノアイコンタクトをしていない人や寝ている人も気づくはずだ。


源は、巨大金庫の中でも、暴れるバーボン・パスタボの体をリトシスで調べ続けている。周りを攻撃するので、それを躱しながらの作業になる。今はまだ、苦しんでいるので、いいが羽化が終えたら、戦いながら調べなければいけなくなる。


今は、どれほど体が大きくなるのか分からないので、ミカエルのソースで拘束することもできない。


バーボン・パスタボは、暴れることをやめたと思うと、突然、起き上がった。


「何だ・・・これ・・・」


目がない?顔に穴があって、手が3つ・・・?


「どうやったら、こんなモンスターになるっていうんだ・・・!」


『気を付けてください。源。調べつくしていないですから、触ったりするのは、得策ではありません』


「瞬間移動する前、触ったんですけど・・・?」


それは、攻撃をしかけてきた。


「以外と早いし・・・」


攻撃は早いけど、単調で、今の俺なら油断しなければ、当たることはないな。


正直、これぐらいの速さなら、止まって見える。


『愛。続けて、調べ・・・』


モンスターは、口から何かを飛ばして来た。


うわ!


源は、その飛ばした液体をすべて把握して、完全に、躱しきる。


「何だ?あれは?」


『申し訳ありません。成分は分かりません。セルフィ様』


「ああ。お前は、分からないよな・・・。ミカエル」


君に言ったんじゃなくて・・・


『あの液体の中には、大量の小さいコアが含まれているようです。あのコアを体にいれると、もしかすると、羽化のような変化をもたらすのかもしれません。源』


『まじか・・・きもちわるい・・・ということは、体にも触れないってことか?』


『いえ、どうやら体の表面には、あのようなコアは、見受けられません。気を付けるべきは、液体のようです。口から吐き出した先ほどの吐物や血液などには、注意が必要でしょう。源』


源は、モンスターの攻撃を躱しながら、解決策を模索する。


『血液も危険だということは、剣とかは使えないってことだな』


「ミカエル。こいつを拘束する。俺がこいつの動きを止めるから、拘束してくれ」


「分かりました。セルフィ様」


源は、リトシスを使って、モンスターを触ることなく宙に持ちあげた。宙に挙げられたので、その場から動くことができない。出来るのは手足が届く範囲に、攻撃することと、吐物を吐くことだ。


そして、両腕を持って、固定させ、すぐにミカエルが、ソースで頑丈な手錠、ほとんど、グラファイトで手を凍らせたような手錠で、動けなくした。その間にも、足やもう一本の手で攻撃をしてくるが、源は、それを躱す。


同じように、手足を拘束し、首も動けないようにして、口も塞いだ。


体全体で、何とか動こうとしているが、リトシスで宙に浮かせているので、何ともならない。


その状態で、バーボン・パスタボの体をナノレベルで調べつくす。それだけの細かい情報を手に入れるには、愛やリトシスを使っても、かなりの時間を要する。


この巨大金庫は、空間転移が可能だということが分かってからミカエルに作らせたもので、各地の地下に設置した研究所や施工工場よりも、さらに深い階層で、まったく違う地域の土地に建設した。まだ、穴を掘って壁をグラファイトにしているだけの簡単なものだ。

入り口もなければ、出口もない。深い地下に1mmのソースだけが出入りできる穴ともいえない土地にできた亀裂のようなものしか外とは通じていない。空間転移などでしか来れないので、狼王の遺跡以上に、発見しずらい。


地下なので、一定の温度が保たれ、ある程度の保存も効く。食べ物やモンスターの素材なども置いておける。源にとっては巨大な財布だ。


もし、バーボン・パスタボを元の姿に戻せなかったとしても、ここで隔離しておくことができるだろう。


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