140章 天使様
S級騎士パーシー・テリシ軍団長に、勝利した源は、冒険者S級クラスの騎士としての称号を与えられた。本来、実力があるだけでは、S級騎士にはなれないのだが、セルフィの強さだけではなく、対応力などは、戦争でも実証済みだった。そして、セルフィは、1騎士という立場ではなく、レジェンドという組織をまとめ上げる存在でもある。だからこそS級騎士の称号だった。
コロシアムでの試合は、セルフィの宣伝に大いに役立った。以前からセルフィの噂は、流れていたが、首都ドラゴという身近な場所で、多くの人々の前で見せたその強さは、今一番の話題となって帝国領土に駆け巡った。
試合が終わってからは、セルフィのまわりには、大勢の人たちが一目会いたいと集まった。
源の泊まっていた宿屋の前には、数えきれないほどの人が連日、集まってしまう。
部屋の前と宿屋の扉の前には、精強な兵士が立つことで、さすがに部屋に入り込んでくる人もいなければ、宿舎の中で迷惑になるようなことは無かったが、外は大騒ぎになっていた。
もちろん、宿舎は満員だ。天使セルフィと同じ宿に泊まりたいと、すぐに満室となった。
一般人が集まるのは、源の裁量で相手することも自由なので問題はないが、貴族や王族、政治家などがセルフィに会いたいと出向いてくる者は断ることは難しい。サネル・カパ・デーレピュースからは、出来るだけ有力士族には、会ってほしいと頼まれていたが、ひとり5分という時間に区切ってもらって対応することにした。
また、源が一神教だということも知らないのだろう。あらゆる宗教の者たちも押し寄せてきていた。政治と宗教は、深く結びつくのは当たり前なので、宗教幹部のような者にも無下に扱うことはできず、会う時間を設けた。
あとは、商人たちだ。自分の店に来てくれと言ってきた商人なども大量に来ては、お店の品を宣伝のように置いていった・・・。宿屋に置いていかれても、困るのに・・・。
それらは騎士に頼んで、別の場所に運んでもらうのだが、ひっきりなしに、置いていくので、騎士たちは、休むこともできず運搬業者と化してしまっていた。
本当に申し訳ない・・・。
宿屋の主人には、何度も謝ったが、まんざらでもないようで、この宿屋に大勢の人々が来てくれることだけでも宣伝になると笑顔でゆるしてくれていた。宿の外のドアも人々が押した過重で少し壊れたが、まったく問題はないと主人は喜んでいた。
宿に泊まる客のほとんどが、セルフィ目当てだっただけに、押し寄せる人々への苦情なども無かったようだ。
1つの部屋に何人も泊まるという状態で、満室400%を超えていたのをリトシスと愛を使って分かったので、宿屋の主人のご機嫌なのも納得だった。
サネル・カパ・デーレピュースは、こうなることを予定して、動いていたので、昼からは、国紙の取材なども宿屋で受けさせたりと、さらにセルフィという存在の拡散を広げるように作戦を実行していた。
セルフィだけではなく、サネル・カパ・デーレピュースにも、沢山の政治家たちが訪れては、セルフィと会わせてくれとせがんで来るので、政治家としての地位をあげていったのだった。
源は、大勢がせっかく集まってくれているのと、宿屋の主人が喜んでくれているので、構わず、外に出て、顔を見せることにした。
外に出ると、もの凄い歓声が上がった。
相乗効果というか、集団催眠というか、あまりにも多い人たちが、1つの目的、セルフィとの接点を持ったせいか、それは熱気となって伝わり、人々が興奮して、前の人を押し始め、あわや、大惨事になりそうだった。危険だったので、リトシスを発動させて、怪我のないように守った。
「興奮して、押したり、騒ぎ過ぎないように伝えてもらえますか?」
源は、騎士たちにそういうと、50人ほどの騎士たちが、その言葉を人々に伝えて、何とか人々の変なモードを落ち着かせた。
リトシスを発動させて分かったが、松葉杖を突いた片足のない若者が家族なのか、彼を支える人と一緒に、人込みの中で必死に、耐えながら立っていた。
源は、人込みで隠れてしまっているその人の方へ右手を出して、リトシスで、家族も一緒に、宙に浮かせた。
「うわっ!!なんだ!?」
片足のない男性とその家族?は、人々の上を飛んで、源の方へと移動した。
そして、そっと地面に降ろした。家族は、男性を支える。
「足を負傷されたのですか?」
男性は、話が出来たからか、嬉しそうな顔で、答える。
「はい。セルフィ様。戦争で戦った時の怪我です。わざわざ、わたしなどのために、お声をかけてくださるなんて、ありがとうございます!」
源は、彼の頭の上に手をかざして、スキャンするように下へと手を移動させ、愛に分析させると、植木職人のような人が、セルフィのためにと持って来た木をリトシスで浮かせて、その1mほどの木を手に持ち、加工して、彼の足に、それを取りつけた。
生物の構造はとても複雑難解だが、愛の分析力があれば、右側の足の対照となる左足を作り上げることもできる。源が、左足の部分を下へと手を伸ばしていくと、無かったはずの足がまるで生えてくるようにゆっくりと形成されていく。
若い男性は、叫んだ。
「足だ!俺の足が現れた!」
それを見ていた人々は、大興奮して、「「「天使様の奇跡だ!」」」とまた騒ぎ始めた。
この世界には、薬草やポーションというものがある。だが、存在しているのは、ハイポーションだけで、フルポーションのようなものは無かった。怪我をしたばかりであれば、ハイポーションを使えば、欠損した箇所も回復できるが、そのまま固定させてしまえば、その状態が固定され、欠損部分は、元に戻ることはない。ハイポーションは、値段が高いので、全員が持てるものでもないし、ましてや傷ついた他人に使ってあげる人は少なかった。ハイポーションの効果も、1つ1つムラがあって、欠損部分を治さないポーションも多い。この男性も、そういった理由で片足を無くしたのだろう。
奇跡だと叫んだのは、もうすでに固定された状態なのにも拘わらず、足を回復させたからだった。実際は、回復させたのではなく、新しく足を作ってそれを繋げたのだけれど、回復したようにみえるし、回復したという言い方が一番伝わりやすかったのだろう。
男性と家族は、涙しながら喜んだ。
他にも、リトシスで把握できた状態異常を患っている人たちを宙に浮かせては、治していった。
人々は、その癒しの奇跡をみては、目の色を変えて祈り始めた。
ただの風邪で寝込んでしまうような子を連れてきた女性もいたが、リトシスならウィルスを分離して除去できたが、それはわざと治さなかった。風邪は引いて、体力で回復させて、体を鍛えるものだからだ。そう説明した後、その子の家の住所を聞いて、近くにいたソースで場所を特定し、時空空間を形成して、風邪で苦しんでいる子と母親だと思われる女性を送り届けた。
それもまた、「「「奇跡だ!」」」と騒いでいた。
マナとかがある世界なのだから、空間移動をみて奇跡と大げさに言う必要もないようにも思えるが、大勢が集まることで、興奮してしまっているのだろう。
宗教の本質ではなく、宗教に酔ってしまう人がいるが、恐ろしいものだと思わされる。まるでアイドルのコンサートで興奮する人たちのようだ。場の雰囲気や演出などにコントロールされてしまう。ここに集まり、同じ目的を持ったという仲間意識のようなものも相まって、こういう反応になるのだろう。
愛が調べたから大丈夫だと思うが、その子の様子が急変した時のために、ミカエルのソースを1つ母親に渡していた。治れば、プライバシーの侵害にならないように、ソースは、その家から出すのは当然。内緒で潜り込ませれば、盗聴、盗撮しているようなものだ・・・。
「金持ちにしてくれ!」と頼んできた人もいたけど、それは断った。
人々への対応の間、他に源の目についたのは、こどもたちだった。
たぶん、孤児なのだろう。やせ細った姿をして、服もボロボロ。汚れたままで、大人が付き添っているようでもない。
人々が集まっているのを何だろうと様子を見に来たのだろう。
帝国の孤児たちを見て見比べたが、以前、見たボルフ王国はさらに酷かった。孤児どころか家族がいる農民でさえ餓死する者もいたからだ。他国のことなので、あの時は、孤児たちに干渉することは出来なかったけれど、レジェンドは、帝国と手を結ぶことになるので、今回は、何かしてあげられることはあるかもしれない。
ある程度、集まってくれた人たちに時間を割いた後、源の元に、やってきた宗教家たちの中に、龍王の意思を受け継ぐラミチュ・イレミア司祭も足を運んで来てくれていた。セルフィの癒しの奇跡も見ていたらしく、そのことを驚いていた。部屋で話を聞くことにした。
「セルフィ様は、どのような神に使役されておられるのでしょうか?」
「使役ですか・・・その前に、わたしは、自分自身のことを天使だとはまだ明確には、認識していません。ですが、わたしが信仰しているのは、龍王の意思である聖書の神です」
「ということは、龍王が信じた一神教をセルフィ様も信じられていると?」
「龍王がどのような解釈で神様を信じられていたのかは、わたしにはまだ詳しくは、分かっていませんが、同じ神様を信じています。そして、一神教を平和のためにも、広げる必要があるとわたしは思っています」
「おおぉ。それは素晴らしい。宗教は、権力者たちによってその教えが歪曲され、都合のいい解釈をしては、利益にあずかろうとするので、どうしても多神教へと流れようと動いてしまいます。今では、龍王の意思は、好き勝手に利用され、一神教は、多神教の1つの宗教としてでしか、存続していないのです。そこに、セルフィ様のような方が現れたことは、私どもとしては、喜ばしいことです」
「帝国の一神教の思想を守り続けられてきたラミチュ・イレミア司祭様にお聞きしたいのですが、帝国市民と帝国の政治家の一神教を信仰している割合はどれぐらいなのでしょうか」
「そうですねー。正直なところ1割をきる程度だと思われます。帝国の政治家は、各国から選抜された代表10人ほどが従事しているのです。帝国から出ている政治家は、300人中100人といったところです。ですから、わざわざ帝国の伝統を好き好んで保とうと考える政治家は少なくなり、帝国は帝国で、600年も前から多神教へと信仰が流れていき、都合のいい政治をするための道具と宗教はなっているので、帝国の政治家24名と他国の政治家12名以外は、一神教ではないのです
政治家がそうであれば、もちろん、民たちに与える教育もまたご都合主義的な流れになり、市民も一神教を信じているのは、保守的な1割程度の人々だけだということです」
「そうですか。ですが、1割の人の信仰がまだあるのなら、一神教の教えを完全に知らないと言う人も少ないということですよね?」
「身近にある宗教ということで知っている程度でしょうか。ですが、龍王の意思に書かれた予言は、ほとんどの人が当然のように知っていますね。信仰している1割といっても、きちんと教会に通う人は、さらに少なくなります。サネル・カパ・デーレピュース上院議員殿を筆頭にして、一神教の教えを大切にしようとする政治家もいるのですが、遺跡の影響もあってなかなか浸透しないのです」
「遺跡ですか?」
「はい。遺跡はあらゆる生き物を生み出すところであり、謎の多いものですが、世界中の遺跡には、多くの神々を示唆する言葉が見受けられるのです」
「確かに、遺跡のような場所で、そのような言葉が次々と発見されるのなら、神々の存在を信じようとしやすくなるでしょうね」
この世界は、スーパーコンピューターの中の世界で、人を無理やり拉致するような人間たちが設定したものだと源は分かっている。だから、源は遺跡の言葉の真実味を疑うことが出来るが、この世界の人々は、本当の世界だという認識でいる。
実際、遺跡の言葉は、この世界を造ったものたちの秘密を解き明かしてもいるわけだ。ただ、それは神ではなく、人だということを知らないだけである。だからこそ、龍王や狼王のような一神教的な思想が猶更、不思議になる。本当の神を多神教の世界で教え、1割だとしても、それらを信仰する人たちが継承され続けていることは、驚きなのだ。
「ラミチュ・イレミア司祭様。帝国にまた一神教の教えを復古するためには、人手が必要になると思います。その時のためにも、世界中に散っている龍王の意思を受け継ぐ村々との連絡が取れるようにしておこうと思っています」
ラミチュ・イレミア司祭は、驚いた顔でセルフィに問いただした。
「そのような村々が本当に今でも存続しているとおっしゃるのですか!?」
「はい。小さな村ですが、1000年以上も前から続いています。わたしは2つの村に出向き、司祭様たちと情報交換をしました。そこで龍王の意思である聖書66巻のうち5巻までを読み聞かせてもらいました。モーセ五書の4巻と伝道者の書です」
「龍王が、その意思を世から消さないために、帝国の外にも、意思を受け継ぐ人々を配置させたというものですね。幼い頃、司祭であった祖父から昔話のように、そのような村があると聞かされていましたが・・・よもや、本当にそのような村が存在するとは思いませんでした」
「彼らとの交流を深めれば、龍王の意思を再度、深く復古させていけるのではないでしょうか」
「そうですね。ここでは失われた伝承も、各地の司祭様たちなら持ち合わせているかもしれませんね」
「ラミチュ・イレミア司祭様には、頼みたいことがあるのですが、帝国には、聖書66巻がすでに存在しているということですが、その聖書を誰にでも読めるように印刷して、人々に配りたいと思っているのですが、よろしいでしょうか」
「印刷?」
「印刷とは、同じ本をそのままの内容で、書き写して、本の個数を増やすことです」
ラミチュ・イレミア司祭は、少し考え込む。
「そうですね・・・。過去にも、そう考える者がいたのですが、実行されなかったのです。それを実行するには、2つ問題があります・・・。龍王の意思は、聖なるものとして、教会に保管されているものなのです。それを誰にでも手に入るようにすると神への冒涜に繋がるのではないかという考え方です。それは、教会でもそのように考えられていますし、龍王の意思の書物として、ドラゴネル帝国も、貴重な物として取り扱っているのです。ですが、セルフィ様がそれをすることが正しいとおっしゃられるのなら、教会はセルフィ様を信じて、意識改革をしていこうと思います
問題は、2つ目です。この龍王の意思が書かれた書物66巻は、教会ではなく、帝国の一部の人間がその権利を持ってしまっているのです。そこが認めない限り、66巻を無断で書き写し増やすことは、権利侵害とされ処罰されてしまうのです」
「その一部の人間とは、誰の事なのですか?」
「実は、セルフィ様のように、そのアイディアを実行しようとした者が、帝国議会などに審問したのですが、進んでその者の情報を出そうとはしなかったのです。ですが、それでは納得がいかないと調べたのですが、どうやらベニター家がその権利を有しているようだと伝えられています。しかし、ベニター家を調べていた者は、不審死にあいそれ以来、そこまで調べようと実行する者はいないのです」
「ベニター家とは、どういった家柄なのですか?」
「ベニター家は、商人から貴族へと帝国から格上げされた家で、主に建築や奴隷商を営んで財を築いているのです。その内容までは詳しくは、分かりません」
「ということは、聖書66巻は、増やすことは出来ないということですか?」
「そうですね。首都ドラゴの教会を基にして、増やすことはできません。ですが、セルフィ様のおっしゃっている村々に、伝承として1000年前から残されているのであれば、話は別です。ベニター家が、龍王の書物の権利を有したのは、300年ほど前ですから、1000年前から伝承していたという村々の許可さえ下りれば、実行できます。」
「え?でも、それはドラゴの教会も同じなのではないのですか?1000年前から聖書66巻を使われていたのですよね?」
「いえ・・・実はそうではないのです。龍王の意思を受け継ごうとする一神教の教会は、確かに1000年前からあったのですが、66巻は、帝国が管理して、外に出されることがなかった時期が長かったのです。そして、200年ほど前にやっと帝国の書庫から教会にだけ許可が与えられ、使えるようになったのですが、先ほども言ったように、その100年も前からベニター家が、なぜか権利を有していたので、増やすことが出来なかったのです」
聖書の歴史には、ユダの家系が王族が続くが、ソロモンの時代から多神教になりはじめ、数世代の間に一神教は、まるで消え去り、聖書も多くの書物と一緒に、眠っていたと書かれている。一神教の意思を守る者たちはいても、それを重要視しない権力者が続くと聖書の教えは、消えて多神教へとなっていった。
自分たちが一神教の民族であることさえも、忘れ去られてしまっていたのだ。
まさに、そのような時代が、ドラゴネル帝国にも、1000年の間、続いていたということなのだろう。
日本の神道も実は一神教の精神が続いていた。明治から多神教的な教えが増えていったが、伊勢系神道は、とても聖書と似ている教えと文化を持っている。遷宮の神殿移設のことを『唯一神殿造り』というのだ。遷宮の時には、ペテロの3回の鶏の声のように、3回「コケコッコー」と叫んで、はじまる。伊勢神宮には、今は汚れてまるで放置されているようにされているが、洗礼式のための溜め池が今でも存在しているのだ。日本人自身が多神教だと思い込んでいるように、この世界でも少しずつズレては、また修正を繰り返しているのだろう。これらは歴史の不思議だ。
「そうですか。では、世界中に散らばった村々をまわっては、増刷の許可をもらい、聖書66巻を増やしていけばいいということですね」
「帝国が認めるかは分かりませんが、セルフィ様が実行するというのなら、教会では、そのように信徒たちに教え、支えていきます」
「ありがとうございます。司祭様」
源は、もっと話していたかったが、約束の時間が過ぎ、押していたので、また違う有力士族の相手をしなければいけない。ラミチュ・イレミア司祭に丁寧に挨拶をして、貴族や政治家たちの相手を続けた。
―――
一日中、ひっきりなしに、セルフィに会いに来る人がいて、さすがに源も疲れていた。
レジェンドの平和のためには、知名度をあげることは必要なことなので、頑張ってやるしかないと溜め息を付く。
源が帝国に来てから、数日絶つが、その間は、レジェンドなどに行くことができない。ボルフ王国のこともあって、なるべく早く、レジェンドに戻りたいと思っていた。
『愛。聞きたいんだけど、転移石は、どうやったら手に入るんだ?』
『転移石は、魔法国モーメントで生産されているアイテムです。依頼者の要望に沿って、各場所に転移させるための魔法が(魔石・核)を含んだ転移石に組み込まれていると言われています。したがって、転移石を手に入れるには、魔法国モーメントに依頼する必要があります。転移石を売り買いしている魔法国モーメントの店も帝国には存在しています。源』
『転移させるための魔法ってどんな魔法なんだ?』
『その作り方の詳細は明かされていないのですが、召喚魔法を応用したものだと言われています。転移させるものの情報を読み取り、転移先にも当然、マーカーが必要になり、特注なだけに値段も高くなります。源』
『召喚魔法!この世界にもやっぱりあったのか。異世界と言えば、召喚魔法だ。そんな魔法があるのなら、突然、軍隊を呼び出すような転移石もあるのか?』
『いえ。召喚魔法は、転移させる質量に比例して、マナを消費してしまうものなので、普通は、1人、多くて10人を転移できるものしか出回っていません。核に貯め込めるマナは限られているからです。もし、軍隊を転移させようとするのなら、源の体にあるような大きなエネルギーを持つ核を使うほかないでしょう。源』
軍隊を送り出すほどの転移石は、造れない。特注なので、値段も高く、マーカー?を付けなければいけないのなら、作るためには、その転移先に何かしら置かなければいけないのだろう。魔法陣なのか、それとも帝国の外に置かれた、台座のようなものだ。転移石による突然の侵入を防ぐのは、それらを用意させなければいいということなので、ミカエルを使えば何とか対処できるだろう。
『どうにか、レジェンドに行くための転移石を手に入れれば、すぐに戻れるということだな』
『源の場合は、転移石を使わなくても、戻ることはできます。源』
『え・・・?どういうこと?』
『先ほど言ったように、転移先へのマーカーがあれば、安全に、移動できます。源には、ミカエルというマーカーがあるので、戻ることは可能です。源』
『ええーー!!ちょっと待ってよ・・・。前、200km先ぐらいにしか、時空空間開けられないって言ってたよね?』
『あれは、ミカエルが存在していなかった時のことです。わたしの能力を最大限に発揮して、リトシスを200km範囲にまで広げるのが限界でした。しかし、今は、転移する先の情報をミカエルのソースが担ってくれるので、転移先に1つソースがあれば、安全に時空空間を形成することは可能です
わたしではなくても、源の能力で十分に可能です。ですが、5つ以上のソースがあるからといって、遠くに転移する時は、瞬間移動を使うことは、危険です。源』
確かに、スピーシーズの核を手に入れる時、行ったこともない帝国の外に、ソースを移動させて瞬間移動を成功させた・・・。行ったこともない宿屋の場所にも移動出来た。てっきり、200km以内のソースの場所なら移動できると思い込んでいたけど、ソースが転移先にいれば、遠い場所にも移動はできるのか・・・。
源は、部屋の中で、右手をかざして、目の前に時空空間を形成させた。空間に穴が開き、その先には、レジェンドのロックハウスがあった。
できたし・・・。
これってもしかして、凄いんじゃないのか・・・??
レジェンドと帝国首都は、9000kmも離れているから、お金なども、持って来た分しか使えないと思っていたけど、狼王の遺跡にソースを持っていけば、すぐにお金は用意できる。これで、巨大な財布を手に入れたようなものだ。
レジェンドとユダ村は、4000km以上離れていたので、すぐにはユダ村にはいけなかったけれど、ユダ村の地下では、今でもミカエルのソースは大量生産させ続けているので、今にでも行くことが可能。何千kmも離れている場所にも、まるで隣の部屋のドアを開けるかのように移動できるようになる。
『ミカエル。今から5個ソースを狼王の遺跡に潜り込ませておいてくれ』
『分かりました。セルフィ様』
うーん・・・。これらが出来るということはつまり・・・。
『愛。ミカエルを世界中に配置すれば、好きな場所に、行ったことが無い場所でも、転移できるようになるってことだよな?』
『はい。可能です。源』
『ミカエル。ロックハウスに一体分のソースを持って来てくれ。あと、レジェンドの司祭様が教えてくれた龍王の意思を守る3つの村のうちの1つシンダラード森林から東の方角、約3000kmにあるシュモウ村を移動して探し当ててくれ』
『分かりました。セルフィ様』
源は、再度、時空空間の穴を開けて、レジェンドのロックハウスと帝国の宿の部屋を繋げて、一体分のソースを帝国側に取り寄せた。
そして、一体分のソースを連れて、次は、帝国の郊外に配置させていたソースの情報を元にして、帝国から離れた場所に、瞬間移動して、外に出た。
『愛。レジェンドの司祭様から聞いていたドラゴネル帝国の首都ドラゴからみて、東北3000kmにあるヨシュア村の方角だと思われるところに解りやすくマーカーを表示してくれ』
『分かりました。源』
すると、源の視界には、ヨシュア村の位置だと思われる大雑把なマーカーが縦線で、表示された。
『愛。リトシスを最大限に広げて、これから投げるソースを感知できるようにしてくれ』
『分かりました。源』
そう言うと、連れてきたソースを拳大の大きさに手に持った。右手にあるボールように固まったソースにリトシスを発動させたまま、思いっきり赤いマーカーの線に向けて投げた。
リトシスのかかった拳大のソースは、空気抵抗もなく、もの凄い勢いで、空を飛んでいき、すぐに見えなくなってしまった。そして、230kmを超えて、リトシスの効果がなくなると徐々にスピードを落として、地面へと落下していく。
『ミカエル。今投げた分のソースを使って、龍王の意思を受け継いでいるヨシュア村を見つけ出してくれ』
『分かりました。セルフィ様』
源は、さらに、1体分のソースから拳大のソースを手にして、適当に、360度、手あたり次第に、先ほどのように、ソースを投げていった。その数、約200個。
拳大のボールのように分けられたソースの1つ1つは、1mmのソースが、約500個集まっている。
『ミカエル。今投げたソースたちは、世界中に5つで1つの組になって、移動を続けて、世界の地図を完成させてくれ。ランダムに移動してくれればいい。500個のソースを500km感覚で、待機させるようにして、数が保てなくなったら、報告してくれ、その足りなくなった場所に、転移で、またソースを送る』
『分かりました。セルフィ様』
源は、今いる場所を見渡した。夜になっていて、暗いが、暗視にして、明確に、見ることが出来ている。
帝国首都ドラゴから離れて50km地点にある平原だった。そこには、何もない。道すらなく、ただ広い平原だけが、広がっていた。
ミカエルのソースは、休むことなく今でも、ユダ村とレジェンドの近くの地下で、製造され続けている。そのソースを作るための施工工場もまた、量を増やし続け、時間が経つにつれて、加速度的に生産性を上げていた。
『ミカエル。次は、10万体のソースをロックハウスに移動させてくれ』
源は、レジェンドにあるロックハウスと帝国の郊外にあるこの場所とを空間で繋げた。
ロックハウスに、ロックがいて、ロックは驚いた顔をして、空間の中を覗き込んできた。
「なにぃ!!」という空間を覗き込んで現れた源の顔をみたロックの声。
「あ・・・ごめん。ロック。驚かしたね。こっちは、帝国の首都の近くなんだけど、空間でつなげちゃったんだ」
「つ・・・繋げた??」
ロックハウスに、大量にソースが勝手に入り込んできた。
「うわっ!何だ!?」
「これ、俺がミカエルに指示を出したんだ・・・10万体のソースをこっちに連れて行って作業させようと思ってね。ごめん」
「驚かせるなよ・・・っていうか、すぐにそっちに行けるのか?」
「行けるみたい・・・」
「行けるみたいって・・・」
「いやーほんと、さっきまで、そのこと知らなくてさー。出来ると思ったら、応用して、色々アイディアが浮かんで、今実行しているところ・・・」
「なら、俺とフォルもそっちへ行ってもいいか?もうこれから夜だからレジェンドの防衛の仕事終わってるしさ」
「うーんと・・・帝国には、知的モンスターは普通にいるから、大丈夫だね。いいよ」
源は、空間の穴をロックが移動できるだけの大きさに広げた。
ロックは、嬉しそうにソースと一緒に、空間から移動してきた。
「なんかさー。ミカエルのソースがあるところには、時空空間を開けることが出来るみたいなんだ。だから、今、世界中にソースを移動させてる最中だったんだ。これが上手くいけば、世界中をすぐに俺たちは旅したり、移動出来たりできるようになるぞ」
「おおー!凄いじゃないか」
「まー。俺の時空空間作成とソースがないと出来ないことだけどね。俺たちは活用しよう」
「でも、ここどこなんだ?何もない」
「ここは、帝国の郊外50km地点のところだね。何もないからここにソースを連れてきたんだ。
ミカエル。この地下に、施工工場を作って、ユダ村やレジェンドの地下のように、ソースの作成をはじめてくれ」
「分かりました。セルフィ様」
「10万体のソースがあっても、簡単には、施工工場は作れないけど、1つ工場を作れれば、数を増やしていけるからね」
「源のやろうとしていることは、よく分からないな」
「将来のための保険みたいなものさ。ユダ村やレジェンドの地下だけじゃなく、世界中の地下に、ソースが作れる工場を作っていれば、何かと便利だからね。あと、帝国内では、俺のことは、セルフィと呼ばないといけいないよ」
「ああ。ついつい源と言ってしまう。心がけているつもりなんだけどな」
源は、ロックの肩に乗る、子ぎつねのフォルに手を差し出して、頭を撫でる。
「フォル。元気だったか?これからお前たちを帝国に案内してあげるぞ」
フォルは、気持ちよさそうな顔をした。