139章 スピードスター
冒険者の称号を取るだけの試験官だったはずの試合が、帝国連合軍をしりぞけたセルフィに対して、簡単には、その称号を明け渡すことも出来ないという反対勢力との兼ね合いで、伝説の天使セルフィの力と威光を帝国人民に見せつけるお披露目の場となるようだ。
連合軍を率いていた皇帝陛下にしても、80万の大軍勢を率いて、ボルフ王国を落とすこともできずに、撤退となった理由が、伝説の天使の存在にあったという証拠を政治家たちに見せなければいけなかった。
これで、源は、ただの試験の試合ではなく、簡単には、負けられない戦いを勝手に強いられることとなる。
ここで天使だといわれる自分が、簡単に負けるようなら、レジェンドに再度進行して攻め込まれ、帝国の強さを世に知らしめるという一般的な考え方に押し込められるかもしれない。
当然、観客席にいる政治家たちは、それを望んでいると思ったほうがいいだろう。
財源は減るがそのほうが他国への心証は分かりやすく回復するからだ。そんな政治家や有力貴族などの考えを覆さなければいけない。
相手は、サムエル・ダニョル・クライシスと同じ、帝国のS級騎士パーシー・テリシ。
簡単に勝てる相手だとは、とても思えない。逆に言えば、勝てれば、レジェンドの強さも証明できる。100か、0かといったレジェンドに訪れる結果が待っている可能性があるのだ。
パーシー・テリシは、すでに、コロシアムの格闘場の土の上で、仁王立ちになって立っていた。正面を見据えて、微動だにしない。
観客たちのパーシー・テリシに対する声援は多く、普段では絶対にコロシアムには参加しないS級騎士の戦いを楽しみにしていた。
太った体の大柄な男が、皇帝陛下や政治家たちの座る前の観客席のお台場に現れ、まるでオペラ歌手のような大きな声をあげた。
「御観客の皆さま。コロシアム格闘場へようこそおいでくださいました!本日、皆さまにお見せするイベントに参加される方は、ご存知、帝国第四騎士団長ことパーシー・テリシ様です」
パーシー・テリシの名前が出ると、会場の観客は、大盛り上がりに声援を送った。
「その強さは、世界に知れ渡り、その振り下ろされた剣をみた敵は、すでに死んでいる。普段のコロシアムでは、そのお力を披露してくださることは、決してないほどのお方ですが、今回の相手がそれにふさわしい方。皆さんは知っているでしょうか。80万の軍勢に立ち向かい、それでも互角に戦い生存した奇跡の存在。それは、伝説の天使にして、龍王の予言の存在。その名は、セルフィ~~~!!」
男はマイクもなしに、コロシアム全体に響き渡る大きい声で、セルフィを呼ぶと、パーシー・テリシが立っている反対側の通路の扉が開かれたが、誰も出て来なかった。
太った男は、どうしたのかと少しうろたえていたが、サムエル・ダニョル・クライシスやパーシー・テリシは、上を見上げて、そして、遅れて観客から声が上がった。
「あそこだ!あそこにいるぞ!!」と指を上に向けて、指し始めた。
コロシアムの空の上空に、白い雲のような煙が不自然に空間から噴き出しているかのように広がり続け、その靄から出てきたのは、セルフィだった。
その登場の仕方に、観客がパーシー・テリシの声援以上に、声が上がったのは言うまでもない。
20mもの上空から噂されているような天使のように、ゆっくりとコロシアムの格闘場の土の上に、降り立つセルフィの姿に観客全員の視線が集まった。
「おおーーー!」という声があがる。
上から降りてくるその速度は、重力によって落ちているのではないということを重力の概念がない人にも、その不自然さは伝わる。
源は、パーシー・テリシの前に立ち、顔をみたが、何だか不機嫌そうな顔をしていると思った。
皇帝陛下などによってわざと負けろと言われている可能性もあると思っていたが、どうやらそうではないらしい。騎士として、わざと負けるような性格ではないとみて分かったし、自分に対する敵対心のようなするどいオーラが向けられていたからだ。
これ絶対、手加減する気が無いな・・・。どうして、こんなに不機嫌そうなんだろうか・・・。やっぱり、帝国兵を手にかけた相手だからゆるせないのだろうか・・・。
パーシー・テリシは、この任務を任され、噂の天使と戦うことになり、その力を試すだけということで、それほど重要視していなかった。ほどほどの力を試し合って、キリの良いところで、試合を止めればいいとさえ思っていた。
しかし、そんなパーシー・テリシに、サムエル・ダニョル・クライシスは、言葉を投げつけた。
「セルフィと戦うのなら、本気で戦わねば、お前の力では、負けるぞ」
パーシー・テリシにとって、サムエル・ダニョル・クライシスは、同じ帝国騎士であり、ライバル的な存在で、対等だと考えていた。しかし、サムエル・ダニョル・クライシスの認識は、いつもそうではない。このパーシー・テリシを格下だと見下げてくるのだ。ゆるせない。例え、同じ帝国騎士だとしてもだ。最強騎士がなんだ。いずれ、俺が帝国最強になってみせる。
パーシー・テリシは、セルフィを睨みつけながら、言葉を発した。
「お前が、セルフィか。見た目は、こどものようだが、情報では、かなりの強さだと聞いている。気に食わないサムエル・ダニョル・クライシスとも戦ったようだな。あいつは、俺にセルフィには、本気で戦わねば、負けるぞと言ってきた。それが本当なのかを確かめさせてもらう!」
パーシー・テリシは、ケンタウロスらしい大きな体格から凄まじい闘気を辺り一面に、発し始めた。
サムエル・ダニョル・クライシス・・・、あいつ・・・またそんな余計なことを言ったのか・・・何か、パーシーさん、怒ってるじゃないか・・・。
俺がもし、ここでパーシー・テリシに、簡単に負けたら、帝国の権威は失墜すること分かってるのかな・・・。
パーシー・テリシの強さなどの情報も、まったく与えず、それで戦えって・・・。ハードル高すぎるだろ・・・。
「一応、言っておきますけど、わたしもサムエル・ダニョル・クライシスのこと良く思っていませんから」
「そうか」
何だか、闘気が少し和らいだ気がする・・・。やっぱり怒ってる原因、サムエルじゃない?
司会の太った男は、ふたりが、出そろったところで、試合の進行を進める。
「帝国S級騎士パーシー・テリシ。そして、伝説の天使セルフィ。この両者の戦いを記憶に焼き付けることができるのは、この会場にいらっしゃる皆さまだけです
そして、本日は、なんと、127代帝国皇帝ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカ様もご鑑賞しておられるのです。陛下のお手元の赤い絹がその手から離れた瞬間、試合開始となります。では、帝国皇帝ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカ様、開始の合図を!」
司会者が頭を下げながら、説明を述べると、皇帝は、立ち上がり、右手に赤色の絹を掲げた。コロシアムは、静まり返った。
それと同時に、源とパーシー・テリシは、腰の剣に手をやって、鞘から剣を引き抜く。剣のすれる音が響いた。
皇帝の手から、赤絹が放されると、司会者の号令を発する。
「試合はじめ~!!」
源とパーシー・テリシは、ゆっくりと助走するように前へと同時に歩み始めた。
源はそこから足で走りだし、右手に持ったグラファイソードをグルっと手元で回して、具合を確かめる。
パーシー・テリシは、両手に剣を持ち、安定した馬の下半身に支えられながら、上半身を真正面に向けて、セルフィと相対し、進んでくる。
二人との距離がつまり、正面でぶつかり合うかと思われたが、パーシー・テリシは、素早く左側に移動し、パーシーの右手の剣が横に振り払われた。源は、横から来る剣を縦に振りぬいて、対抗した。
ズガン!!
物凄い男がコロシアムに響いたと思うと、源は、大きく後ろに吹き飛ばされた。
さすがに、強烈だ・・・。手がジンジンする・・・。まだ、パーシー・テリシは、本気で打ち込んでいるわけではないだろう。だが、それでも、この威力・・・。本気を出したらどれほどなのだろうか・・・
源は、スキルを発動させた。
【速度向上】【物理攻撃向上】【防御向上】【硬質化】
源は、試験がはじまる三日の間に、剣のアクセサリーに入れ込んだスピーシーズのスキルであった硬質化などを愛によってデーター化して、それを能力追加珠によって自身のスキルとしても追加していた。
源のスキルから得られる効果は、マナを発動した効果と同じように、通常人間よりもあきらかに高いものだった。防御向上にしても、約2倍の効果が熟練度がまだ未熟であるのに、源の防御力をあげていた。さらに体の皮膚を硬質なものとする硬質化の効果も、スピーシーズのそれとは違っていた。
それらのスキルを発動させて、格闘場の土に、足を踏み込み、先ほどとはまったく違う速度で、吹き飛ばされた距離を詰めて、お返しとばかりに、横なぎの攻撃を繰り出した。
素早い動きで近づいてきたセルフィとは逆に、パーシー・テリシは、その場で立ち止まったままだった。歴戦の騎士であるパーシーには、素早いといっても、直線的に、突っ込んできているだけで、どんな攻撃をしてくるのかも、予想できた。
源は、横から攻撃を鋭く振りぬいたが、その攻撃の返し方に驚いた。
剣が当たる前に、剣が弾かれたからだ。まるで見えない壁にぶつかったようだ。
源は、弾かれた剣の力をそのまま利用して、回転しながら、次は、左から右へと連続撃で振り払うが、またその攻撃も、パーシー・テリシに届く前に、見えない何かに弾かれた。
両手に剣を持ったパーシー・テリシの両腕は、ダラーと下に降ろしたままだが、パーシー・テリシに当たる前に、源の攻撃は弾かれてしまう。
観客たちも、ただ立っているだけのようにみえるパーシー・テリシが、何をしているのか分からずに、困惑していた。
しかし、源は、分かっていた。
これが、スピードスターという異名の正体か・・・。はやい・・・。
パーシー・テリシに弾かれた剣は、防御障壁によるものではなく、まぎれもない剣によるものだった。あまりにも早い打ち込みのために、剣だけではなく、腕さえも、見えない。
高速で打ち出される両手の剣撃は、ある程度のレベルに達していなければ、その影さえも垣間見ることは出来ないだろう。源は、ミカエルのソースを闘技場にすでに散りばめて、あらゆる感知を発動させていたが、それでも認知できるのは、ギリギリだった。
そして、パーシー・テリシが使っている技を源は知っていた。
はやぶさ斬りだ。
もともとのステータスによって剣撃の速さがあるにも拘わらず、さらに、スキルであるはやぶさ斬りを使用した防御を繰り出しているのだ。
だが、はやぶさ斬りは、源も持っている。
遺跡でレベル上げを行ったボスモンスターから奪ったスキルだ。
源も、以前とは比べ物にならないほどレベルを上げていたので、速度的にもかなりのものだ。そこにはやぶさ斬りを乗せれば、どうなるのか。
そして、源は、右手だけではなく、左手にもグラファイソードを両手で持つ。相手が2本ならこちらも2本の剣で対抗する。
【はやぶさ斬り】発動
キンキンキンキン、ガキ、キンキンキンキンキン
源とパーシー・テリシとの間から剣と剣が打ち合う音が、もの凄い早く聞こえてくる。二人の間に、火花が舞っているのは見えるが、剣筋を捉えられる者は、それほど多くはなかった。
源の攻撃は、早かった。だが、それでも、源はジワジワと後ろに押されはじめていた。
パーシー・テリシは、強い。その速さもそうだが、その威力においても、源の力を上回っていた。
しかも、その顔は、まだまだ余裕を伺わせる。
パーシー・テリシと源の違いは、それだけではなく、バランスにもあった。
パーシー・テリシの下半身は、馬で4本の足を大地に固定し、あらゆる源の多角的な攻撃をも、一切、バランスを崩さずに、打ち据えていた。
戦いとはバランスが大切だ。どうして、剣道や柔道は、すり足という動きが遅くなるような歩法を使うのか。それは、スピードよりも、バランスを重視することのほうが、戦いには重要だからだ。
剣道は現代では、真剣を使うことがないが、もともと剣道は実践を想定して考えられている。竹刀という軽い武器で、軽く当てても、1本と試合では勝利することができるが、真剣を使った実践ではそうはいかない。どれだけ早くて軽い攻撃をしても、相手を斬ることなど出来ないのだ。骨を絶つことなども、当然できない。早くても攻撃力がないと意味が無い。バランスを崩してしまえば、攻撃力の効果は失われる。格闘技とは、力学で、力の作用が相手を倒す。
バランスを崩した攻撃は、力の作用が上手く伝わらない。だから、無駄を省いた動きとさらにバランスを崩さないための、すり足歩行が、剣道や柔道、柔術や相撲にも採用されているのだ。例え、体が小さくてもバランスのいい力学を習得していれば、力だけで攻めてくる相手には、そうそう負けることはないのだ。
ボクシングであっても、ステップを踏んで、バランスよく立ち据えたパンチでないとダウンさせるためのダメージを与えることはできない。
パーシー・テリシの仁王立ちのような戦い方は、派手ではないが、理に叶った戦い方だった。それでいて、攻撃は早く、さらにバランスがいいので、威力が乗った。
結果、こうなる。
源は、後ろに下がらされるだけではなく、右へと左へとパーシー・テリシの攻撃を喰らってバランスを崩され、対応できずに、また遠くまで吹き飛ばされた。
本気を出せば、俺の2倍?いや3倍は、早くて威力があるかもしれない・・・。
パーシー・テリシは、ゆっくりと、吹き飛ばされたセルフィに向かって歩いてくる。
観客たちも、やはり、S級騎士相手には、さすがの天使も一方的になるしかないのかと思った。だが同時に、S級騎士相手にここまで戦えているセルフィも強いと誰しもが感じていた。
「パーシー・テリシ軍団長殿。本当にお強いですね。ですが、わたしはもっと絶望的な強さの相手と戦ったことがあります。それはサムエル・ダニョル・クライシスですね」
パーシー・テリシは、少し苛立った。セルフィは、強いとはいっても、一方的になっている現状なのに、まだ余裕があるような口を吐き。サムエル・ダニョル・クライシスの名前を出して、このわたしよりも彼が強いというような言われ方だったからだ。
パーシー・テリシは、真横から剣を前よりも強い威力で、振り払った。
ズガン!!
凄い音が鳴り響いたが、セルフィはそれを左手一本で、防いでいた。
【リトシス】
源は、この試合は、簡単に勝ってしまうことも出来なかった。もし、簡単に勝ってしまえば八百長のようにも見えるからだ。少しぐらい苦戦して、パーシー・テリシの強さを観客にも実感してもらう必要があった。
だからこそ、リトシスを使わずに、ステータスの能力とスキルだけの戦いをしていた。
一番驚いていたのは、パーシー・テリシだった。全力ではないとはいえ、前よりも強い威力で振り払った剣を防いだセルフィの体感的な重みは、まるで、巨大な岩のように思えた。しかも、硬質の岩だ。びくともしない。
「なんだ・・・!?」
パーシー・テリシは、はやぶさ斬りを実行しながら、打撃の出力を上げ続ける。
源も、はやぶさ斬りを発動させて、それを防ぐ。防いだ物には、リトシスの効果が乗り、手のしびれもなく、防ぎきる。
しかし、パーシー・テリシのスピードは、源よりも上だった。剣で防げないところは、体に当たる。当たっても、なんとかリトシスで防いでいるので、ダメージはないが、防ぎ入れていないのは、変わらない。
最初の打ち合いからセルフィの何かが変わったのは、パーシー・テリシは感じたが、それでスピードまで変わっているわけではないと理解した。
『そろそろ、愛。手伝ってくれ。5%ぐらいかな』
『解りました。源』
また、突然、セルフィの動きが変わった。先ほどまで、防ぎきれなかった攻撃まで、防ぐようになってきた。パーシー・テリシはさらに驚いた。
なんだ・・・こいつは・・・
源は、ミカエルの解析力だけで、パーシー・テリシと戦っていた。
膨大な解析能力を持つ、愛は、自分の成長のためにも、使わずに、自分の能力を試すためにも、温存していたのだ。リトシスも、愛も使わずに、戦おうとしたが、パーシー・テリシは、明らかに自分のレベル、生命数値を上回っていた。
ミカエルを使ったとしても、通用しなかった。
だが、本気で戦えるのも、これぐらいの強さがある人がいなければ、無理で、これだけ源と長い時間戦える者も少ない。だからこそ、リトシスも愛もない状態で試したかった。源は、パーシー・テシリで自分を鍛錬していたのだ。
愛の5%の補助を発動ことで、パーシー・テリシの速さを認識処理できた。リトシスを発動させることで、源のバランスを崩せる存在は、それほど多くはない。スピードや感知より、何よりも、パーシー・テリシの下半身以上に、リトシスはどのような態勢になっても、バランスを保ち続けられる。
源の強さは揺るぎないバランス力にあった。例え、空を飛んだとしても、リトシスは、上も下も、横もなく、法則を覆して、不動の優位性を生み出してしまう。
それは無駄をなくし、足で進む必要さえない。土を踏んで前に進み、自らバランスを崩す必要がないのだ。パーシー・テシリもしているように、格闘技のバランスの極意は自然体だと言われている。どんな動きをしても、それが保てるリトシスは、パーシー・テシリのバランスを上回った。
セルフィは、まるで、お化けのように立ったまま、移動した。それにまたパーシー・テリシは驚愕する。もうすでに、全力で、剣の速さと威力を出しきりながらも、セルフィは、その攻撃をすべて弾くどころか、まったく衝撃を受けていないかのように、硬くバランスを保っている。これは、異常なことだ。
体を移動させずに、不動で戦っていたパーシー・テリシは、本気になった。セルフィから距離を置き、動きはじめたのだ。そのスピードは目にも止まらないものだった。手が見えないだけではなく、体さえも消えたように早く移動しはじめた。
その速さをみて、源は思った。
これがスピードスターか・・・。本当に早い。
しかし、源には、感知できていた。ミカエルの感知機能が追加されていなければ、あるいは感知出来なかったかもしれないが、今は、S級騎士の動きを把握できていた。
リトシスを使い、空気抵抗さえもなくなり、速度向上のスキルを発動した源は、空中を物凄い動きで動いて、パーシー・テリシを追いかける。今では、スキルなどを使い源は、800km/hを超える速度を出すことができる。しかも、バランスを崩さずにだ。
しかし、その源よりも、パーシー・テリシのほうが早かった。
源は、感知して、その動きを把握できていたが、そのスピードについていけていなかった。
パーシー・テリシは、離れては近づいて攻撃をすることを続ける。本気を出しているからか、額には、血管が浮き出て、顔を歪ませながら、攻撃を続ける。
それだけではなく、パーシーの剣は、青く光りはじめ、魔法の威力が込められはじめた。
ズガン!ズガン!
離れては近づき、攻撃をして、接触することが繰り返される。闘技場では、セルフィが物凄いスピードで動く姿しかなく、パーシー・テリシの姿は見えないがセルフィが打ち合っているので、パーシがいることは分かる。もの凄い音が鳴り響き、その衝撃からか、土が揺れ動く。
源は、感知しては、予測し、そのスピードに追い付こうとするが、追いつけない。では、体で、追いつけなければどうすればいいのか。
源は、闘技場の真ん中で、右手を出して、立ち止まった。
スピードスターの姿はないが、なぜかセルフィだけが、闘技場の真ん中でひとり手をあげて、立っているをみて、観客も騒ぎ始める。
「何をしようとしてるんだ?」
セルフィは、背中のマントを脱ぎ捨てた。すると、背中の白い羽があらわになる。
そして2mほど浮き上がったと思うと、そのまわりには、光なのか、目の錯覚なのか、キラキラとセルフィのまわりを光の粒子のようなものが綺麗に照らした。その美しさと羽の存在のために、観客たちが大歓声をあげた。
「わあああああ」
「天使だ!天使の羽だ!!」
パーシー・テシリは、光に包まれたセルフィをみて、警戒した。
源は、浮いたその状態で立ちながら、左手の剣で、パーシーの攻撃を防ぎ、そして、右手をかざす。
突然、セルフィの手から大きな光が飛び出した。その大きな光は、セルフィの前にある空間の穴らしきものに吸い込まれたかのように消えたと思うと、まったく別のところから太くて大きな光が飛び出して来た。
パーシー・テシリは、焦って、全力で、両腕を前にクロスした。
源がした攻撃は、光のマナ攻撃、【光線】だった。
そこそこの魔力を込めた源の光線は、愛の分析予測能力によってどこに放てばいいのか計算された上で、パーシーの目の前から放たれた。
光の速さを超えてまで、さすがのスピードスターも動くことはできない。その光に反応しただけすごい。
パーシー・テリシは、その巨大な光の魔法を防ごうとするが、魔法障壁は、1枚・2枚・3枚・4枚、そして、最後の5枚目を壊す直前で、セルフィの光りの力を消失させた。
全力で、パーシーが、止めたにもかかわらず、5枚目の魔法障壁にまで打ち抜いたセルフィの魔力は、異常だった。
「素晴らしい・・・」
セルフィの魔法を味わって口にでたパーシーの言葉は、それだった。しかも、全力を出していないことも把握していた。もし、全力で今の魔法を放っていたとしたら・・・。
「パーシー・テリシ軍団長からそのようにおっしゃっていただけたのは、嬉しい限りです。ですが、今のような魔法だけで勝とうとは思っていません」
パーシー・テリシも、これで最後だという想いで、またその場から消えた。動きながら、溜め込んだのは、パーシー最大の魔法剣【氷刃】だ。すべてを一瞬で氷つかせるその剣は、移動中の空気さえも細かい氷の粒子にして、地面に降り注がしていた。
観客には消えたパーシーの動きであっても、何をするのかを把握していた源は、グラファイソードにアクセサリーのスピーシーズの能力を最大にあげて、さらに自分の能力の【炎弾】を剣が壊れない程度に、注ぎ込む。
スピードでは、追いつけないはずの源だったが、追いついていた。
源は、リトシスによる移動ではなく、瞬間移動を連続で発動させて、パーシーの動きにあわせて、動いた。
パーシーでさえも、突然現れる源の動きは捉えきれない。瞬間移動を使用するイグシオンは、現れてから攻撃するまでの時間が遅かったが、源の瞬間移動と合わせた攻撃は早かった。
しかし、自分の動きに合わせて、現れるセルフィの動きのパターンに合わせて、パーシー・テシリは、【氷刃】を放った。
源も、同時に、【炎弾】の効果を付加した剣で、打ち返す。
闘技場の真ん中で、両者の攻撃が衝突すると、会場の半分の片側は、冷たい風が、そして、もう半分の片側には、温かい風が、吹き抜けた。
爆風が、それぞれに流れ、衝突しあうことで、パーシー・テシリは、吹き飛んで、地に倒れた。
中心で、倒れずに立っていたのは、セルフィだった。
熱風と冷風が混ざり合ったからか、雲もないのに雨のような水が落ちはじめ、セルフィのまわりの光りがその水に反射して、辺り一面がさらにキラキラと輝いた。
源は、移動して、倒れたパーシー・テシリに、手を差し伸べた。倒れた、パーシー・テシリも、素直に手を握り立ちあがる。
その光景をみて、会場全体が大きな声を上げた。
「大接戦の中、勝利したのは、伝説の天使セルフィーー!!」と司会者も叫んだ。
パーシー・テシリは、目をパチパチさせた。
「済まないが、セルフィ。君の体の周りの眩しい光をとめてもらえないか?」
「あ!」と気づいて、光を止めた。
「忘れていました」
「その光は、何だい?それが強さを増させる何かの秘密なのか?」
源は、恥ずかしそうに、答える。
「これは、秘密ですよ?実は、ただ光っているだけで、何の効果もないんですよ」
「くくくッ。あはははは」
パーシー・テシリは、大声で笑った。
「それを警戒していた俺は、道化だな」
「内緒ですよ。誰にも言わないでください。道化になるように、陛下から指示があったから、あんな光を出してただけなんですよ・・・。本当は、そういうこともしたくなかったんですけどね」
源は、光線のマナを分散させて、ただ光るだけのマナにし、自分のまわりにリトシスで空間に氷のような反射障壁を作り出していただけだった。ただ、光るだけの演出だ。
S級騎士パーシー・テリシ相手に、天使セルフィは、見事、戦いぬいた。
その試合をみた政治家たちは、あれは本当に伝説の天使かもしれないと思わされた。
光り耀く姿とあの白い羽。そして、あの美しいこどもの姿は、まさに天使と言えるものだと。
帝国皇帝ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカは、政治家や貴族、王族たちの驚愕した顔をみて、上手くいったと確信した。