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138章 天使の威光

源と皇帝陛下の謁見の内容は、レジェンドの主要メンバーは皆、ミカエルを通して聞いていた。


主要メンバーは、改めて、セルフィが行っていたまつりごとの意味を再確認した。そこまでの意味を持ってセルフィは、レジェンドの仕組みを作っていたと驚いたのだった。


毎週、日曜日の司祭様の集会の意味、聖書や一神教、龍王の奥義がレジェンドには、凝縮されていたのだ。

なぜクリスチャンじゃなければ、ミカエルは使えなかったのか、それらの意味を再確認した。

一体、セルフィはどこからそのような知識を持ちえたのだろうか・・・。まるで未来を知っているかのような常軌を逸した知恵や知識が、セルフィが予言の天使である証拠だとも異世界の住人には、思えたのだった。




―――翌日の昼前に、セルフィは目を覚ました。陛下と別れた後にも、レジェンドのメンバーとの話は続き、みんなの反応はというと、驚愕というものだったらしい。


帝国と戦争をして、敵対関係にあったというのに、陛下が望むレジェンドへの要求は、レジェンドにとって決して悪いものではなかった。むしろ、レジェンドやリリスやリタたちにとって、最善を超えるほどの良い内容だった。


これからその内容を実行するために、政治家たちとのやり取りが陛下とサネル・カパ・デーレピュース上院議員を中心にして行われるが、どこまで通るのかは分からない。

その決定によっては賠償請求もどれだけ要求されるのかは分からないが、ここまでいい条件になるとは、思っていなかった。

それは、源も同じだった。殺されることも想定して臨んだ会見だったのは、本当のことだ。だが、天使の羽を帝国連合軍にみせたことが、噂が噂を呼び、あらぬ方向へと向かわせたということ、レジェンドの戦う前から帝国には危機が存在していたこと、あらゆる要因が重なって生まれた予想外の提案だったのだ。


コンコン


源の部屋のドアからノックの音がした。


「サネル・カパ・デーレピュースです。入ってもよろしいでしょうか」



源は、ドアを開けて、部屋に招き入れた。サネル・カパ・デーレピュースと一緒に、村雨有紀とソロモンも付いてきている。


「どうぞ。お入りください。おはようございます」


「おはようございます。セルフィ様」


サネル・カパ・デーレピュースの言葉が少し気になった。


「様?ですか?」


「はい。これからは、セルフィ様と呼ばせていただきます。陛下のご命令でもありますから」


ん?命令・・・?


「あれから、わたしたちは、陛下と共に、具体的に、セルフィ様との話で導き出したこれからの目標を政治に反映させるための計画を建てました

もちろん、まだ、国議では、動いていませんが、それはおいおい固めていきます。ですが、それほど時間はかからないものと考えています。今は采配は陛下のものとなっているからですね」


「帝国の決定権利は、陛下にない場合もあるということですか?」


「はい。平時の場合は、議会に決定権と政の権利があり、陛下は、その決定に、許可というサインをするだけになるのですが、戦争や反乱など、手に負えないような大きな問題が帝国に訪れた時は、議会で討論している時間の猶予はありません

そのような時は、陛下の采配によりスピーディに対応し、平時へと移行させていこうとするわけです

そして、今は、緊急時を脱していないということで、陛下に采配が任されているので、話しが早く進むと思われます

まーそれらは私たちの仕事です。セルフィ様にはやっていただきたい、別のいくつかのことがあるので、ご報告いたします」


「お聞かせください」


「まず、セルフィ様には、冒険者組合アドベンシエーションへ出向いてもらい、冒険者アドベンチャーの称号を圧倒的な強さを見せつけて、取得していただきます」


・・・。何いってるんだろう・・・この人は・・・


「あの・・・いまいちよく分かりません。陛下との話し合いには、まったく冒険者アドベンチャーの話は出ていませんでしたが?」


「陛下とセルフィ様の描く未来図に具体的にどのように近づかせるのかをご提供するのがわたしの役目です。そのためには、冒険者アドベンチャーの称号を取っていただく必要があります。それも、圧倒的な力をみせつけてです」


すっごい強調しているんですけど・・・。


「えーっと・・・、どうして、冒険者アドベンチャーになる必要があるのでしょうか?」


「1つ。

陛下が望まれているのは、神から遣わされた天使であるセルフィ様のご請願せいがんです

神から遣わされた天使が、帝国側であるという背景を望まれているのです

世界中の民が、帝国には、天使様がついているという認識が必要で、利用させてもらいたいというわけです」


利用される人に、利用するって堂々といってますよ?政治家さん・・・


「だから、圧倒的な力をみせつけなさいということですか・・・」


「はい。その通りです。やりすぎてもかまいません」


おいおい・・・


「そして、なぜ冒険者アドベンチャーになる必要があるのか、それは、帝国騎士はみな冒険者アドベンチャーの称号を持ち、そこでランク付けされる内容で、それぞれの騎士の能力を測り、区別しているからです。冒険者アドベンチャーとして活躍した者たちを国は、雇い入れる傾向が多いからです

冒険者アドベンチャーたちも、戦いで安定した暮らしを望むのなら騎士になるために、冒険者組合アドベンシエーションに籍を置くようにしているというわけです

そして、帝国の冒険者組合アドベンシエーションは、特別です

世界中の冒険者組合アドベンシエーションの上に存在し、そこで認められたということは、世界でも認められた力を有することを証明することになるのです

もちろん、ボルフ王国でも、それは通用することになります

のちのち、神が使わされた天使が、帝国に反逆を起こそうとする国と戦いそれを治めたという実績がつけばつくほど、加速度的に、平和への訪れる速度が増すことになりますが、帝国として戦い軍を指揮するにも、冒険者アドベンチャーという称号は必要になるからです。分かっていただけましたでしょうか?」


「わたしもいつかは、冒険者アドベンチャーの称号をどこかで取らなければと思っていましたから、それはいいんですけど、本当ならコッソリ、力を見せないように取りたかったんですけどね」


サネル・カパ・デーレピュースは、大きな声で細い目をみひらいて、強調する。

「圧倒的な力で取っていただきます!」


「わ・・・分かりましたから!」声大きいし・・・


「セルフィ様には、S級クラスになるように頑張ってもらわなければいけません。天使であるという証と力を世界中の民にの耳に広げるためです。

そして、2つ。

レジェンドに対する賠償請求はいたしません」


「はい?え・・・どうしてでしょうか?」


「もし、レジェンドが賠償請求を認め、賠償金を払ったとします」


「はい」


「それは、天使様であるセルフィ様が、間違ったことを御認めになった証拠になってしまうからです

あくまで、陛下は、帝国も間違っておらず、戦争にも負けてはいない

それどころか、天使様を仲間につけて、その天使様も決して間違っていたわけではないという、こじつけで、情報操作していこうと考えられているのです」


堂々と、情報操作って言ってるよ・・・


「ですから、賠償請求をされては、困るというわけです」


「ですが、それでは、帝国で亡くなった兵士たちやその家族の想いは、どうするんですか?どうしても、わたしを許せない人も当然いるでしょう?」


「確かに、そう考える人も多数いることでしょう

しかし、帝国騎士というのは、帝国に命を捧げ、戦争で死ぬことは、はじめから想定して騎士となっているのです。それは他の国だとしても同じです。戦争に行くのですから、その犠牲になる覚悟は、その家族も、心のどこかで可能性を考えるものです

特に、神を信じる民たちは、天使であるセルフィ様との戦いで失ったのであれば、天災だと考えるのですね

いえ、そうしていくのです。現に、人々から広まっている噂や情報は、セルフィ様という天使を誇張するほうが、圧倒的に多いのです

龍王の予言を知らぬ帝国人民はいませんし、新たな時代の幕開けを望みはじめていた民からすれば、天使の存在は大きいのです。帝国さえも、その天使を弾劾することはできないと見せたほうが利があるということです」


「正直・・・わたしは、帝国連合軍と戦いながら、帝国兵士を殺めることはしたくないという想いに駆られていました。ですが、そうせざる負えない状況になり、それを実行しました。ですから、わたし個人としては、賠償金を払いたい気持ちでいたのです」


「申し訳ありませんが、セルフィ様の個人的な感傷よりも、大局を高い優先事項とさせていただきたいと思います。そこは、耐えていただきたいとお願いします

冷たい目で見られることも耐えていただくことになりますが、その目を味わうことで、贖いとしていただくことになりそうです

もちろん、この先、帝国のために、それ以上の得をもたらしてくださることで、代償は払っていただくことになるわけです」


「さすが政治家ですね。冷たさの中に、思いやりを込めて納得させるように話されます。少しでも贖えるように努力します」


サネル・カパ・デーレピュースは、優しい笑顔をみせて、話しを進める。


S級冒険者アドベンチャーになった後の民の反応によってまた変わるとは思いますが、その後は、例の国を落としてもらいます。本当の王族をその後は、立てていただくことになります」


サネル・カパ・デーレピュースは、宿屋の部屋では、ぼやかして情報を伝えるようにしている。それは当然の配慮だ。もちろん、ボルフ王国とリリスのことを指している。それがうまくいけば、貧民地の民を解放することができるかもしれない。


「そのことは、全面的に強力させていただきます。むしろ、ありがたいお話ですから」


「その任務を成功させられれば、またセルフィ様の名前は、世界に広がり、影響力を持ち始めることでしょう

その後は、新たな任務を何か与えることにもなりますが、やっていただきたいのは、どのようにして、帝国を一神教に復古させるのかという提案やアイディアの提供です

ですが、まずは、冒険者アドベンチャーと1つ目の任務を当面は、考えてください」


「分かりました。正式に国会でも認められたら、冒険者組合アドベンシエーションに行き、称号を取ることにします」


「はい。よろしくお願いします。では、そのために手助けしてくれる騎士をひとりご紹介いたします。有紀、入って来てもらいなさい」


村雨有紀が部屋のドアをあけて、招き入れたのは、大柄の男の騎士だった。騎士は、礼儀正しく頭を下げて挨拶をする。


「ドライヤード騎士団A級騎士のフード・コートと申します。セルフィ様が冒険者アドベンチャーになるためのお手伝いをさせていただきます。よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします。フード・コート殿」


「フード殿は、A級騎士ですし、サムエル・ダニョル・クライシスの騎士団ですから、ぬかりはありません」


確かに、帝国連合で戦った騎士たちに比べて、頭1つ抜けた強さを持っているようだ。


「フード殿もそうですが、ソロモンも、付き人として御付けしますので、お使いください」


「ソロモン君もですか?」


「はい。ソロモンには、付き人の女性がつきますから、特に手を焼く必要はありませんので、ご安心ください。どうしても、セルフィ様と行動したいと本人が申しますものですから、お願いしてもよろしいでしょうか?」


「わたしは、かまいませんよ。実は、わたしも、ソロモン君には、少し興味がありまして、話をしたいと思っていたんです」


「それはよかった。わたしは、政治的に固める仕事がありますから、何かあれば、お伝えください

あと、セルフィ様には、金貨20枚を渡しておきます。何かと滞在中には、必要となりますからね。どうやらセルフィ様は、ゴールドカードを持っていても使うことをされないようですからね」


うーん・・・。帝国おそるべし、確かにお金を払っている時に、人の視線が気になっていたけど、あれは偵察していた人の目だったのか・・・。カード使わないこと、バレてるし。


「えーっと、サネル・カパ・デーレピュース議員。実は、すでに1つ頼み事があるんですよね・・・」


「そうですか。何でしょうか?」


「ある帝国市民に会っていただきたいのですが、少し、待っていただけますか?」


「はい。お待ちますよ」


セルフィは、そう言うと、その場から消えた。そして、数分すると、ふたりの男を連れて、また部屋に突然現れた。


「うわ!」と男ふたりは、驚いている。


「すげー・・・一瞬で移動した・・・のか?ここは?」


「えと、店主さん、サーロンさん、こちらは、サネル・カパ・デーレピュース殿で、帝国上院議員です」


「ててて・・・帝国上院議員!!??サネル・カパ・デーレピュース様だって!??」


ふたりは、部屋の床に手を置いて、頭を下げ始めた。


サネル・カパ・デーレピュースは、ふたりに手を差し伸べる。


「いやいや、お二人とも、かしこまらずに、顔を上げてください」


恐る恐る、二人は顔をあげて、顔をみる。


「サネル・カパ・デーレピュース議員。こちらは、武器商人の店長さんと鍛冶職人のサーロンさんです。実は、昨日の昼間、図書館にいく前に、武器屋に寄ったのですが、そこで、お二人にあって、色々と話をして、ある発見を3人でしたんです。それが、このアクセサリーなのですが」


と、源は、みんなの前に、自分が作った剣とアクセサリーをみせた。


「今までは、鍛冶スキルで、武器や武具に直接、コアを付加していましたが、アクセサリーに能力を追加するという新たな方法を見つけ出したのです」


「なんと!?そんなことが、出来るのですか?セルフィ様!」


サネル・カパ・デーレピュースの言葉に、店主とサーロンがお互いの顔を見合わせて、驚きの声を上げる。


「セ・・・セルフィ様ぁぁ???」


帝国上院議員が、様付けで、呼ぶこのとに、頭がついていかない。


「お・・おい・・・セルフィって・・・もしかして、今話題になってるあのセルフィじゃ??」


「予言の天使か!?」


サネル・カパ・デーレピュースが答える。

「そのセルフィ様で、間違いないですぞ」


「うはー!」という声をふたりは上げる。


「セルフィ様。話しを戻しますが、武器ではなく、アクセサリーに能力付加するだけで、武器にも効果を与えられるということでしょうか?」


「はい。その通りです。ちなみに、これの凄いところは、武器だけではなく、人にも効果を与えられるところです」


「何ですと!?」

店主やサーロンたちまで、驚いている。


「アクセサリーを自分が持つことで、コアに入った能力を発揮でいるんですよ」


「まさか、そんなことが出来るとは・・・驚きましたぞ・・・」


「それを発明したのが、この鍛冶職人のサーロンさんです」


「いやいや!このアイディアを思いついたのは、お客さんでしょ!?せ・・・セルフィ様ですよ!」


「そこで、何ですが、サネル・カパ・デーレピュース議員に頼みというのは、このアクセサリーへの付加の特許をサーロンさんに取ってもらおうと思うのですが、何かと邪魔されたりするじゃないですか。利権とか絡んでくるものですからね。ですから、後ろ楯になってくれる人がいてくれると助かるんですよ」


「あぁ。なるほど、そういうことですか。ちなみに、このアイディアは、帝国でも広めてもいいものでしょうか?」


「もちろん、サーロンさんは、帝国の方ですからね」


「なら、喜んで、後ろ楯とならせてもらいます。お二人が無事に特許を取れるように、手をまわしておきますからご安心ください」


その言葉を聞いて、ふたりは、大声をあげる。

「ありがとうございますー!!」


「では、午後からは、議会が行われますから、わたしはこれでお暇させていただきます。何かありましたら、また連絡してください」


「はい。ありがとうございます」



源は議員が村雨有紀と去ると、連れてきたふたりを元の場所に戻して、帰って来た。


「お待たせしました。コード・フード殿。冒険者アドベンチャーの称号を得るための手順などをお聞かせ願いますか?」


「はい。セルフィ様。帝国の冒険者組合アドベンシエーションでは、まずは、紹介状の提示が必要になります。セルフィ様の紹介は、サネル・カパ・デーレピュース上院議員殿になります。その点は、わたしがすでに話をつけてあります

次に、能力の記載をすることになりますが、これは大雑把でかまいません。ほとんどの冒険者アドベンチャーは、自分たちの能力を自分から明かさないのが常識です。そのため紹介人が必要になるわけですね

そして、魔力量を測ることになるのですが、測り方は2通りです。金貨2枚分の高い魔石の破壊によってその量を推定するか、それとも金貨1枚という値段を払って鑑定にするかです。これは、その冒険者アドベンチャーの審査を受けた者の負担になります」


『魔石ってコアのことでいいんだよな?』


『はい。帝国では、マナのことを魔法というように、コアのことを魔石と呼ばれるように今はなっています。源』


「最後に、魔法の力も含め、実力を測るために、冒険者組合アドベンシエーションが用意した冒険者アドベンチャーと試合をすることとなります。そこで、その冒険者アドベンチャーに認められれば、称号を得る許可が下りることになります。ですが、セルフィ様には、S級ランクを取らせるようにとサネル・カパ・デーレピュース上院議員殿から指示が出ていますので、試合には、勝つことが必須となると思われます」


「そうですか。その試合の対戦相手の強さは、どれぐらいの強さなのでしょうか」


「そうですね・・・。冒険者アドベンチャーは、F~Sまでの7種類のランクに分けられていて、さらに【F-・F・F+】と3つに分類されます。F~Aまでの18のランク+S級の19個の強さを表されているのです。S以上は、測定不能と判断されるので、マイナスやプラスはありません」


つまり

【F-・F・F+】【E-・E・E+】【D-・D・D+】【C-・C・C+】【B-・B・B+】【A-・A・A+】最後に【S】となり、19個のランク付けがされているというわけだな。

Sランクは、強すぎて測定不能。同じS同士であっても、歴然とした強さの差があるはずだが、S以上と一括りにされるのだろう。


「時と場合によりますが、試験官は、普段ならBランクの冒険者アドベンチャーが選ばれます。ですが、今回は、S級ランクを目指すと冒険者組合アドベンシエーションには、伝えていますから、もしかするとAランクの者が用意されているかもしれません。ちなみに、わたしも試験管として選ばれたことがあります」


「では、コード・フードさんの審査基準の内容を教えてもらえますか?」


「あくまで、これはわたしの審査基準ですが、格闘のセンス。魔力量とその操作。熟練度の4つになります。これらがあまりにも足らない場合は、命をうしなう可能性があるとみて、失格としますね。もちろん、わたしに勝てなくても、Fランクぐらいの能力があれば、Fランクの冒険者アドベンチャーとして、合格は出します」


「支援系の人は、どうやって審査するのでしょうか?」


「支援系の場合は、ひとりの仲間を参戦させることが出来ます。仲間と一緒に戦い、どれだけ有効な支援ができているのかで、判定するのですね」


「理に叶っていますね」


「もちろん、支援している側にも、攻撃はしますがね」


「色々ありがとうございました。何とかやってみることにします」


「そうですか。審査を行う日は、3日後ほどになると思います。それまでに、試験官と戦う準備を整いておいてください。それでは、今日は、わたしはこれで」


コード・フードが去って、ソロモンとそのお世話係の女性だけになり、ソロモンは、ポツンと立ったままだった。


「ふー。冒険者組合アドベンシエーションの試験、受かるかなー」


源が、やれやれという雰囲気で口にしたのにソロモンが答える。


「大丈夫」


「励ましてくれて、ありがとう」


源は、ソロモンの様子を伺う。


本当にこの少年が、あの大きな戦を裏でコントロールしていたのだろうか・・・。

しかも、愛でさえ出来ないということをやってのけたというのだ。今見るだけでは、とても、そのようには、見えない。


確か、脳の病気とか言われていたけれど、その症状からみるとダウン症だろうな。この世界にも、ダウン症があるとは思わなかった。


でも、それって治せるんじゃないのか?


『愛。ソロモンのその脳の病気は、治せるかどうか確かめてくれ』


源は、リトシスを発動させて、ソロモンの体の情報を愛に伝え、愛がそれを解析する。


『源。ソロモン様は、どこにも異常はありません』


『異常がない?』


『はい。健康体の体そのものです。源』


どういうことだ・・・。


『これは憶測ですが、ソロモン様は、人間かもしれません。いわゆる源と同じように、脳と脊髄にされた人間で、その精神は、現実の脳に直結しているので、今のような反応で行動しているのかもしれません。源』


『そうか・・・プログラム的には、何の異常もなくても、現実の世界の脳に異常があったら、治すことも、何かすることも当然できないわけか。仮想ゲームのキャラクターをダウン症の人が上手く操作できないのと同じなのかもしれないな』


『そうだと思われます。源。そして、そこから分ることは、ソロモン様の能力は、この世界のシステムに依存したものではない可能性もあるということです』


『え・・・それはないだろ・・・何らかのこの世界のシステム、スキルを使わないで、愛さえもできないことをひとりの人間が出来るわけが無いじゃないか』


『1つの可能性を述べたまでです。源』


『ふむ・・・。この世界の体には問題がないというのなら、ソロモンを治すことは難しいけど、何を考えているのか、こちらが読み取りやすくすることとかは、出来ないものかな?』


『源が現世にいた時代では、ありませんでしたが、42年経った今では、人の頭の中のイメージを画面に表記させる技術はかなり発達しています

源が暗闇の中、触覚や聴覚を利用して、仮想世界を脳内に作り出した時のようなものを応用すれば、ソロモン様の思考をわたしなりに解釈して、分かりやすく表記できることでしょう

源の時代であっても、頭に描いた簡単な図形を画面に表示することも出来ていたので、かなりの精度で、表すことは可能です。GCなども今では、その機械、イマジンを使って大雑把に作っていくのが主流になっています。源』


『そうか。なら、ミカエルに作らせたいからその設計図を表記してくれ』


『分かりました。源』


愛は、持っている情報から脳のイメージを読み取る機械の設計図を若干、形を変えた状態に変更したものを表記させた。


『ミカエル。この設計図通りに、この機械を作ってくれ』


『分かりました。セルフィ様』


それにしても、不思議な存在だな・・・。ソロモン・ライ・ソロ・・・。未来予測、未来修正とも呼べる賜物ギフト・・・。


少し見てみるか。



―――源は、ミカエルの長距離通信を使って、レジェンド戦士長のローグ・プレスに連絡を取った。


「ローグ・プレス。少しいいかな」


「もちろんです。セルフィ様」


「帝国皇帝陛下との会見の内容通りに、動くとしたら、これから必要となるものがあるんだけど、それをレジェンドの戦士たちに採取の手伝いをしてもらいたいと思ってるんだ」


「はい。私の方から戦士たちに報告しろということですね」


「うん。そうだね。でも、まずローグ・プレスに質問と提案なんだけど、戦士たちは、今でも遺跡などで狩りをして、レベル上げをしてるんだよね?」


「はい。毎日のようにレジェンドの戦士たちは、狩りに出かけて、今ではCランク級にまでほとんどが成長しています」


「おー・・・すごい・・・農民兵で、戦うことも出来なかったのに、凄い良い成長率だね」


「はい。それもミカエルの支援と武器の性能などによるもので、狩りの効率が高まったおかげで、すべてセルフィ様のお力です」


「すべてではないけど、そういってくれると嬉しいよ。でね。その狩りで倒したモンスターとかの遺体とかは、どうしてるのかな?」


冒険者アドベンチャーのエリーゼ・プルさんとバーボン・パスタボさんから冒険者組合アドベンシエーションで買い取ってくれる素材を教わり、モンスターの素材を遺体から回収して、各自、ボルフ王国の冒険者組合アドベンシエーションに持っていくようにしていますね」


「なるほどね。それでなんだけど、素材以外の遺体はそのままってことなんだよね?」


「はい。モンスターの肉は、食べられないものが多いですし、荷物は少ないほうが楽なので、素材以外の遺体は、放置していますね」


「それで提案というのは、その放置して捨ててあるモンスターや生き物の遺体をミカエルのソースを使ってでもいいから、回収して、レジェンドの地下倉庫に集めておいてほしいんだ。大体、1Kg銅貨2枚ってぐらいで買い取りたいんだけど、どうかな?」


「それは、戦士たちは喜ぶと思いますよ。ゴブリンなどのモンスターでも、40kgはありますから、80枚の銅貨が手に入るのなら、回収するでしょうし、ソースが運んでくれるのなら、何の支障もありませんからね」


「じゃー、これを司祭様たちにも、報告して、許可をもらって実行していってもらいたいんだけど、いいかな?」


「はい。もちろんやらせてもらいます。会計係なども募集して、きちんと戦士たちへの報酬も渡せるようにしておきますね」


「ああ。そうだね。ミカエルとかを利用すれば、モンスターの重量の測定や報酬金額の計算も簡単だしね。ついでに、その会計で、素材もレジェンドが買い取るようにしてもいいよ。もちろん、その素材は、他国の冒険者組合アドベンシエーションで売ることになるけど、そうすれば、各自でわざわざ遠くまで素材を売りにいかなくても済むしね。あとは、運搬費としての手数料は、素材の値段から差し引くことにしよう」


「それは、戦士たちにとって喜ばれるでしょう。200kmも離れたボルフ王国にわざわざ行く必要がなくなりますからね」


「会計という仕事も提供できるようになるし、一石二鳥ってところだね。その運搬費用のお金を会計の子に、4割程度の報酬であげたらどうかな」


「それは相当な儲けになるのでは?」


「それぐらいの報酬をあげるから、その差額の計算とモンスター素材の運営をその子に考えてもらうようにする。そうすれば、僕たちも楽になるし、お店を経営する能力を育ててもらえるしね」


「人材育成に投資をするということですね」


「ローグ・プレス。人材育成とか投資の概念を理解してるんだね」


「ミカエルの情報で少しでもと勉強していますので・・・、毎日はいけませんが、セルフィ様が儲けてくださった教会の勉強会も行っていますよ」


「そうかー。知識の伝達も上手くまわりはじめているみたいで、嬉しいよ。それじゃー、モンスターの回収のことお願いね」


「はい。お任せください」



―――三日後、予定通り、議会で陛下の意図した通り、レジェンドの待遇は決まり、天使であるセルフィは、帝国の新たな戦力に加えられると表向きの題目は整った。かなりの議論がされたようだが、最後には、陛下の決定によって、レジェンドの処遇は、今後の活躍によってもたらされるということになった。そして、その天使であるセルフィは、帝国に牙を向いたボルフ王国を滅ぼすという宣言をしていることも伝えられた。源の知らないところで、天使というステータスは、利用されるようになっていく。


そして、源は、冒険者組合アドベンシエーションに称号を得るために足を運んだ。


フード・コートを前にして、源とソロモンは、受付に向かう。


獣人の可愛らしい受付嬢に、頭を下げられながら、書類を作成していく。


源が、冒険者組合アドベンシエーションに入って来てから、冒険者アドベンチャーたちの目は、源へと向けられ、ざわついていた。どこかしらから、セルフィが試験を受けるという情報が漏れていたのかもしれないと思った。


受付嬢パーヤが、質問する。


「次は、魔力量の測定をしたいと思いますが、金貨2枚の魔石測定でしょうか。それとも金貨1枚の鑑定スキルでの測定でしょうか」


鑑定のほうが金貨1枚と安くて済むけど、自分のステータスをみられ、その情報が流れてしまうことになる。だから、源は、金貨2枚を払って、魔石鑑定の方を選んだ。どちらにしろ、鑑定スキルを持っている人間にはみられてしまうのだけれど、念には念を。


1~10ランクの魔石が用意された。パーヤは笑顔で説明する。


「では、左の1ランクから順番に、魔力を注入していってください」


なるべく、そーっとゆっくりマナ力を注入する想いで、行ったが、魔石1は、粉々に消し飛んだ。壊れたのではなく、消し飛んだ。


その魔石のはぜかたをみて、パーヤや他の者たちが、驚いていた。


魔石5までは、同じように、吹き飛び、なんとか、その先からゆっくりと壊れるようになり、10ランクで、破壊されない程度の魔力量で収まった。


源にしては、マナ力を抑えようと、必死で頑張った結果がそれだった。


他の者たちは、逆に、セルフィが、必死で魔力を注入したから、魔石10まで魔石を使うことになったのだろうと考えた。魔石5までの見た事もない、魔石の壊れ方と魔力をあれだけ注入したのに、疲れた様子もまったくみせないセルフィに疑問を抱きながらも・・・。


「それでは、次は、試験官との試合を行っていただきますが、今回は、セルフィ様の試合は、コロシアムで執り行ってもらいます。お相手は、パーシー・テリシさんになります」


コード・フードは、その名前を聞いて、声をあげた。

「何ぃ!!パーシー・テリシ??」


「はい。今回は、S級ランクへの挑戦ということですから、議会からのご命令で、相手は、パーシー・テリシさんになりました」


「そんなことは、聞いていないぞ!」


「と言われましても・・・冒険者組合アドベンシエーションからしましても・・・国からの要請には、逆らえませんので・・・」


何だろ・・・相当つよい相手なのかな・・・


コード・フードは、顔を歪ませている。


「セルフィ様が、お着きになり次第、試合がはじまりますので、よろしくお願いします」


源は、コード・フードの後について、コロシアムに向かっていく。


その間に、源は質問する。


「パーシー・テリシとは、どういう人なんですか?」


「パーシー・テリシは、第4帝国騎士団長の天翔騎士団と言われ、スピードスターと言われるほどの実力者。S級ランクの騎士です」


「強そうですね」


「強いの域を遥かに超えているから、S級なのです。セルフィ様

そして、そのS級のパーシー・テリシ軍団長が認めなければ、称号はもらえないのです

冒険者アドベンチャーとしての称号はもらえても、今回は、S級クラスの権利をかけての試験ですから、それだけ審査は厳しいとみるべきでしょう」


うーん・・・なんだか、裏で、サネル・カパ・デーレピュースとヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカ皇帝陛下の笑っている顔が見える気がする・・・。悪徳代官のような笑顔じゃないことを願う・・・。


「正直、わたしは、パーシー・テリシ軍団長に勝つイメージが、まったく湧きません。彼の戦い方は、常軌を逸しているので、何を行ているのかさえ分からないのです。だからこそ、スピードスターという名が知れ渡っているのです」


スピードに特化しているのか、はたまた、スピードの概念ではない何かで戦っているのか・・・見切ることができるのか、不安だ・・・。サムエル・ダニョル・クライシスの動きは、見切ることは出来なかった。でも、今は、ミカエルがいる。連れてきたミカエルは人型3体分だけど、コロシアムでの限定された場所での戦いというのなら数的には、問題はないだろう・・・。


「やれるだけのことは、やってみます」


「そうですね。パーシー・テリシ軍団長も、試験だと分かって来ているわけですから、本気でやろうとは思ていないでしょうからね」


3人が、コロシアムにつくと、なぜか、大勢の人たちが、試合の宣伝をして、人々を呼び集めていた。


「無料で、天翔騎士団長パーシー・テリシ、スピードスターと伝説の天使であるセルフィ様の戦いが観戦できますよ!無料です」


その宣伝を聞いて、源は、やっぱり、これを仕組んだのは、あの二人だ・・・と思った。


崩れ込むように、帝国の人々が、コロシアムへと入っていく。


源は、コロシアムに入って、試合場に続くまでの、通路からミカエルを放って、試合会場の様子を伺うが、もの凄い人が観戦し、ただの試験だとはとても思えない状況になっていると落胆した。


そして、向いの通路の奥にただならぬ気配を放っている獣人のケンタウロスを発見する。


たぶん・・・あれが、パーシー・テリシ軍団長スピードスターだな・・・。俺が一度戦ったケンタウロスも相当強かったけど、あの比じゃないな・・・。


すると、後ろから声をかけられて、悪寒が走った。


「セルフィ様。陛下からのご指示です


コロシアム観客席には、政治家や貴族、この先の道を作り上げるために説得しなければいけない者たちが観戦している。試験官を倒すという時には、背中の羽を観客に解りやすく見せるように。そして、出来れば、皆の目が釘付けになるような派手な演出が出来れば、尚よい


ということです。もちろん、皇帝陛下もご鑑賞されております」


男は、その場からすぐに消えた。


源は、油断していたわけではない。帝国に滞在しているのだから、いつ攻撃されてもいいように、神経を張り詰めながら行動していた。なのに、先ほどの皇帝の使いという男は、まったく源の感知に反応させることなく、自分の後ろを取って、声をかけてきた・・・。もし、声ではなく、攻撃だったとしたら、リトシスも発動せられず、殺されていたかもしれない・・・。サムエル・ダニョル・クライシスも、これから戦うであろうパーシー・テリシもそうだが、それ以外にも、帝国には、強者がいるということを再確認させられたのだった。


それにしても、羽を見せろとか、派手な演出?をしろという指示だった。ただの冒険者組合アドベンシエーションの試験とは思えないこの観客の多さ・・・。それだけ天使の威光を強調させ、世に知らしめる一環としたいということなのだろうと思った。サムエル・ダニョル・クライシスは、自分の力を知っているが、陛下もその目で確認したいのかもしれないな。


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