137章 不確定要素
とうとう、源は、この異世界で頂点に君臨する皇帝に謁見し、源の未来を左右するだろうその瞬間の1ページを開きつつあった。
異世界ではない本当の世界で、源が、親から与えられた名前。【末永源】という名前は、1000年前に、龍王が預言した天使の名前でもあった。
その名前を皇帝に話したことで、流れが変わろうとしていた。
皇帝は、考え込んだ面持ちで、腕を組んで立ちつくす。
目の前にいるスエナガハジメという名前を口にするセルフィという天使の姿をした者は、紛れもなく、サムエル・ダニョル・クライシスと戦い今でも生き残っている存在だということ。
サムエル・ダニョル・クライシスの力を知る者としては、それだけでも、証明となる。
サムエルは、あの悪魔族である大死霊ハデス王ディア・ガル・ア・ダリウスヘルと引き分けた男だからだ。
この世界で、一番強い存在だと豪語したとしても、ゆるされる騎士だ。
そして、皇帝は、サムエルが、セルフィは、殺すべきだと進言していることも、知っていた。
つまり、サムエル・ダニョル・クライシスが、殺そうとして、戦ったにも関わらず、目の前にこうして生きて、存在しているということだ。実力がなければ、生きていられるわけがないのだ。
美しい姿で、天使の羽を持ち。サムエル・ダニョル・クライシスと戦い生き残り。そして、名前が、スエナガハジメという。
皇帝の心中は、セルフィは、本物の伝説の天使なのかもしれないと考えを改める。そして、この人外の者は、何を望み、何のために存在し、この世界に現れたのか・・・。
「其方は、こどもなのか?」
「いえ、陛下。この姿は、こどもですが、中身であるわたしは、大人です」
「其方は、どこから来たのだ?」
追及がはじまってしまった・・・。本当は、正直に、真実を述べたいところだが、相手が、皇帝陛下であっても、それはできない。なぜなら、この世界のシステムに感知される恐れがあるからだ。
若干の記憶があるのは、ゆるされるようだが、完全に、現世の世界の記憶があることが分かってしまえば、現実の世界の自分の脳と脊髄は、処分対象となる可能性さえあるからだ。
「わたしは、シンダラード森林南西40km地点にある遺跡から生まれた。ミステリアスボーンです
生まれた時から、自分の名前と自分が大人であるという認識がありましたが、それ以外の記憶はほとんどありません。言葉も、認識できていたので、使えます。右も左も分からないまま、この世界に生まれたので、もちろん、帝国のことも知らなければ、龍王のことも知りませんでした
一神教の司祭様から教えられ、龍王の予言を聞いた時は、なぜ自分の名前が?と本当に驚きました」
「そうか・・・。何も知らないのに、その時は、スエナガハジメと名乗っていたということだな?」
「はい。その通りです」
「目的はなんだ?」
「目的・・・ですか・・・?」
「そうだ。これから何を目標としようとしていく?」
「わたしは、まったくこの世界の知識がありませんでした。その日、その日を生きていくだけで精一杯だったのです。明日、生きていることさえ分からない状況で、目標など得られるはずもありませんでした。知識がないとはそういうことです
ですが、生きていれば、人とのつながり、モンスターとのつながり、貧民地の民とのつながりが、少しずつ出来始めたのです
目的、目標は何だと問われるのなら、今は、わたしの大切なひとたち、わたしを助け、わたしを信頼してくれる人たちがと共に、平和に暮らすことです」
「其方の望むこと、目標は、平和に暮らすことなのか」
「目標はと問われれば、それが第一でしょう。そして、第二は、龍王の意思を受け継いだ世界中に散らばった、村々に行き、龍王の意思である聖書を完成させることです」
「阻害され、帝国から離れていった一神教の者たちが作ったといわれる村々のことか?」
『そうなのか?愛』
『はい。合っています。源』
「そうです。一神教の村々のことです」
「平和に暮らそうと望んでいただけなのに、それを邪魔したのが、ボルフ王国だということか?」
「仰る通りです。陛下」
「そう・・・か・・・」
どうやら、皇帝は、正直に、俺が話していることを信じてくれようとしているようだ。そして、それは、俺の本心で、心から、帝国に対して、敵対心はない。ボルフ王国に対しては感情的に、敵対心はあるが、帝国の敵になろうとなど、思わない。
「サムエル・ダニョル・クライシス。其方は、セルフィを手にかけようと進言していた。だが、今の話を聞いて、どう考える?」
「今も変わりません。例え、セルフィが、平和に暮らすことを心の底から本心で、述べていたとしても、その結果、帝国と戦うというのなら、その力は、野放しには、出来ないからです」
サムエル・ダニョル・クライシス・・・こいつ・・・どこまでも、帝国第一だな・・・。悪いとは思わないが・・・、正直、いい迷惑だ・・・。
「ですが、帝国の敵となるのならの話です。例え正しいことを言い、正しい決断だとしても、帝国に牙を向くのなら、処分対象ですが、帝国のために、動くというのなら、考える余地は、あるかもしれません」
「サネル・カパ・デーレピュースとそこの・・・」
「ムラサメユウキです」
「ムラサメユウキは、聞くまでもないな」
サネル・カパ・デーレピュースは、感情的に、それでも発言した。
「これで処分するというのなら、何の正義も無くなりますぞ!陛下」
「フンッ」
サネルの言葉に、皇帝は鼻ではねのけた。
おいおい。サネルさん・・・逆効果になってますよ・・・?
皇帝は、考えて、言葉に出した。
「セルフィ。其方のことを信じよう。ただし、条件がある」
「条件・・・?ですか」
「ああ。条件だ。そして、もともと、こうやって隠れて、其方とあった理由も、それにあり、話しがどのように流れたとしても、この条件は、伝えようと思っていた」
「聞かせてもらえますか」
「その前に、今の帝国の状況を説明する
我々、帝国は、1000年の間、世界を統一して、平定し、平和と秩序を守り続けてきた
すべて、正しいことをしてきたとは、言わない。だが、平和の均衡を保つために、代々帝国は、動いてきたのだ
しかし、近年、その帝国の権威が薄れ始めている。ボルフ王国もそうだが、それ以外の国々も、反乱を起こしては、帝国の秩序を脅かしている
帝国の連合に加盟していても、それは表面上だけであって、本気で、帝国に従おうとしている国は、少ない
レジェンドとの戦いでも、多くの国々は、数合わせだけの兵を送り出しているのが、その証拠だ。そんな帝国の権威が、崩れそうな時に、レジェンドという村が、80万の帝国連合軍を撤退させた。その事実は、どんな結果を生んだと思う?」
なるほど・・・今、帝国は窮地に立たされているのか、帝国も、そして、皇帝陛下も・・・。
「帝国連合軍は、多国籍軍でした。多くの国々が、その戦いを目の当たりにしました。レジェンドという村でさえ、追い返すことができた帝国は、すでに崩壊している。もしくは、力を失っていると、考え始める国や集団が発生しているということですね?」
「ああ。そうだ。もちろん、このことは、他言してはならない」
「はい。軽く口にするつもりはありません」
「しかし、そんな国々は、愚かだ。其方たちに、撤退させられたが、帝国は、強い。其方たちに向かわせた戦力は、帝国のほんの一部だけの力だ」
「はい。もちろん、それは分かっています。100%の戦力で、帝国がもし、レジェンドに攻撃をしかけていたのなら、レジェンドは、滅んでいたことは、誰にでもわかることです。60%でも滅んでいたのではないでしょうか。」
「その通りだ。レジェンドとの戦いでは、サムエル・ダニョル・クライシスは、遠征したが、他の遠征には、サムエルは、帝国に残すことも多い。それは何故か分るか?」
「帝国の守りを担うためですね」
「そうだ。レジェンドと戦った時も、サムエル・ダニョル・クライシスが、出撃したので、その他の実力のある騎士団長などは、ほとんど帝国や他の土地の守りを固めてもらっていたというわけだ」
「理解できます。ですから、レジェンドにもう一度、帝国が攻めてきたとしたら、同じようには、いかないことも承知です」
「うむ。理解しているようだから、質問するが、この状況の中、帝国が取るべき行動は、なんだと思う?」
「もちろん、反乱を新たに起こそうとしている国や集団に対しての備え、または、出撃ではないでしょうか」
「このまま反乱を多く起こされてはいけない。それを抑えるための戦略が必要で、そのすべてにサムエル・ダニョル・クライシスを派遣するわけにもいかなければ、守り続けてもらうわけにもいかない。つまり、新たな戦力が必要だということだ」
「わたしに、帝国の兵士になれと?」
「帝国の兵士とまではいかなくてもいい。ただ、レジェンドが、帝国の連合に加盟して、レジェンドの戦力として、帝国とともに、戦ってほしいということだ
他の国のように裏切るということない、味方としてな
サムエル・ダニョル・クライシスと戦えるだけの能力を持つ、セルフィ。其方が、いれば、それだけ帝国は、反乱を喰い止められる
天使の羽を持つ其方は、神の使いではないのかという噂も、帝国ですら広がっているのだ
そんなお主が味方として帝国側になれば、神は帝国帝の側にいると考えるだろう
しかし、逆に、帝国の敵として、其方が立ちはだかるのなら、帝国は、全力で其方を処分する。帝国のために動くというのなら、悪いようにはせぬ!」
さー。どうするか・・・。この皇帝陛下は、腐ったただの貴族とは思えない。だが、それは皇帝だけをみてのことだ。皇帝も、すべてを自由に決定する権利があるとは思えない
現に、サネル・カパ・デーレピュースのような政治家が意見をしたり、国会審議なども行われることだろう。その中に、ボルフ王国のような存在も、必ずいる。足をひっぱり、悪を選ぶ人間は、帝国には、かなりの数いるだろう・・・。
「わたしは、皇帝陛下と話をして、皇帝陛下は、信頼できる数少ない人物だと思いました」
「そうか。そして、続きの言葉は、慎重に答えるべきだぞ」
・・・。
「皇帝陛下が正しく信頼できたとしても、他の者たちは、どうでしょうか。政治家や王族・貴族、または、連盟に加盟している国々の権力者たちです。その中には、私利私欲に走っている者たちも当然いることでしょう。わたしは、それに巻き込まれるというのでしょうか」
「巻き込まれる!」
・・・。言い切ったよ・・・皇帝陛下・・・
「当たり前だろう。セルフィ。巻き込まれるさ。現に其方は、ボルフ王国に巻き込まれたじゃないか」
確かにそうだ・・・。
「帝国側に入ろうが、帝国とは一線をおこうが、そのような人間たちは、五万といる
そのすべてと会わないことなど、出来るとでも思っているのか?だったら、正しいと思える権力者と共に、そのような私利私欲で動くものたちに、物が言えるように、行動して、数を減らしていくしないのではないのか?
セルフィが目指す、レジェンドの民の平和は、簡単には、手に入らんぞ」
・・・。
「確かにその通りですね・・・。分かりました。陛下のおっしゃる通りです
ですが、対等に近い関係をお約束ください。1つ1つの陛下の命令が、正しくあるのなら、いいですが、正しくできない時にも、意見を言い、反論が言えるその権利を約束していただければ、わたしも、力になりましょう」
「対等の関係か」
「はい」
「対等の立場になるように、したいが、それが出来ない時もある。それには、お互い折り合いを付けていく必要がある。セルフィは、それは認められるか」
「それも分かります。ですから、対等に近い権利を望むと言っているのです。皇帝陛下個人の想いだけでも、お約束ください」
「分かった。セルフィ。そのように、約束しよう。もとより、公平で、理解できる指示を与えたいとは、思っていたしな」
「ありがとうございます。皇帝陛下」
「まだ、正式ではないが、1つの命令を出そう。ボルフ王国を滅ぼせ」
源は、その命令を聞いて、驚いた。
「滅ぼす・・・ですか?」
「ああ。もちろん、セルフィのやり方でかまわん。最小限の被害で、滅ぼすのか、圧倒的な力で、皆殺しにして、大虐殺のうえで、滅ぼすのかは、お前が考えろ」
そんなことしないことを分かっていて、言ってるな・・・。
「サネル・カパ・デーレピュースからは、聞いている。セルフィの仲間に、ケイト・ピューマ・モーゼスの後継者、リリス・ピューマ・モーゼスがいるそうではないか」
「はい・・・確かにリリスは、ボルフ王国と戦っている仲間です」
「ボルフ王国は、帝国に逆らった
あやつらは、それで済むと思っているようだが、わたしはゆるさん
外からは、わたし皇帝が、圧力をかけ、内部からは、お前たちが、働きかけ、みごと、ボルフ王国の民を解放し、帝国に忠実な国を旧王族の末裔であるリリスを新たな王族として、立てて、国を復興を実現してみせよ。この命令は、お前からすれば、理不尽な要求か?」
源は、笑顔で、顔を横に振った。
「いえ、わたしたちにとって救いの言葉に聞こえます。陛下」
「なら、良かった。なるべくなら、其方に、与える命令は、そのようなものになるように、配慮したいものだ」
「陛下。わたしの方から、お願いと提案があるのですが、よろしいでしょうか?」
「聞けることなら、聞く。申してみよ」
「サムエル・ダニョル・クライシス殿は、レジェンドの村を見ているので、分かると思いますが、レジェンドは、力を付けようと努力し、そのように行動しています」
「ふむ」
「民たちのアイディアなど出し合い、色々な方面での発展を目指しているのです」
「それは、どの国だとて、同じだ」
「はい。仰る通りです。ですが、そのレジェンドの技術など、その域を超えているのです。そして、それを勝手に奪うような命令などは、避けてもらいたいのです」
サムエル・ダニョル・クライシスが、口をはさむ。
「何を言っているセルフィ。帝国に加盟するとは、帝国に報告とその富を献上することでもあるんだ。レジェンドだけが、それを免れると思うなよ」
「はい。もちろん、国と国、帝国に加盟するものなら、その通りでしょう。ですが、レジェンドは、村です。国ではありません」
「そんなことは、方便というのだ。セルフィ」
サムエルは、反論を横から言うことをやめない。
「確かに、方便と言われればそれまでです。ですから、その願いを聞いてくださるのなら、もう1つの話である提案を実行できるかもしれません」
皇帝は、疑問に思った雰囲気だった。
「なんだ?申してみよ」
「レジェンドは、村全体で、移動可能です」
「何?村が移動する?」
「はい。移動式の村なのです」
サムエル・ダニョル・クライシスが、皇帝陛下に伝える。
「確かに、レジェンドは、この半年間、姿を消していました。それも村全体で、消えていたのです。ですが、また突然現れました」
「はい。ですから、レジェンドが力を付けることが出来れば、帝国へ反乱を企てようとしている国などにも、村全体で、向かうことさえできるようになります。もちろん、大規模な戦いは、レジェンドだけでは無理ですが、小規模であったりするのなら、レジェンドだけでも解決できるかもしれません」
「なるほどな。各地にまわって反乱や問題を解決する移動式の村を帝国が、保有することになるというわけだな」
「しかし、レジェンドの特許権利は、阻害しないと約束してもらいたいのです」
「国ではない。村だからこそ、抜け道があるというわけか」
「はい」
「それも、約束はできないが、セルフィの願いに近づけるように、したいと思う。それの願いに近づけるためには、まずは、実績が必要だ。レジェンドが、反乱を喰い止めたなどの実績だ。ボルフ王国の件を成功させても、実績になる。お前の望みを阻害しようとする者たちを黙らせるだけの実績だ」
「そうですね」
「お互い、歩み寄りながらになるな」
「そのようですね。そして、提案は、それだけではありません。皇帝陛下には、わたしが、陛下の悩みを解決できる思想をご提供できるかと思います」
「ん?わたしの悩み・・・」
「はい。そして、それさえ解決できれば、レジェンドの技術を自由にすることもやぶさかではありません。それは、帝国に反乱を起こそうとするものたちが、次から次へと現れるという悩みです」
「それを解決する方法を其方は、知っているとでもいうのか!?また、技術提供もできるようになると・・・?」
「はい。わたしは、帝国の今の状態を正確には、把握してはいませんが、予測としてなら、理解できます。今の帝国は、反乱やもめごとが起こるたびに、軍を派遣して、戦争を行っているために、財政的にも苦しい立場にあるのではないでしょうか?」
俺は現実の世界の歴史を知っている。現実の世界もローマ帝国が陥った負の連鎖があった。その連鎖に、まさにドラゴネル帝国は、陥っている。そして、その解決方法も知っている。どのようにローマ帝国は、そこから抜け出せたのかもだ。
「財政が苦しいとは言わないが、例えば、其方のいうように、本当に帝国の財政がそのことで苦しくなっていたとして、それをどのように解決するというのだ」
「一神教の復活です。皇帝陛下」
「なに?一神教?」
「はい。龍王が残した意思である一神教は、形だけのものではないのです。陛下。世を正す力となるのです」
「一神教と財政や反乱が、何の関りがあるというのだ?」
「実は物凄く深くかかわったもので、これに手を伸ばさなければ、いつまでたっても、帝国は戦争を続け、いつまでたっても疲弊し続けなければいけなくなります。財政が苦しくなれば、他国の税を高くして、高くされた税のために、また反乱が生まれる。その他でも、そうですが、これらの負の連鎖は、どこから来ているのか、それは、ここです」
源は、人差し指を頭に指して、話しを続ける。
「人の脳。思考です」
「思考・・・」
「人は、教えられたことを正しいと判断して行動するものです。例えそれが悪であっても、それが当たり前だと教えられれば、それを正義として実行してしまうのです
そして、その正義が固定されていない理由は、多神教にあるのです。帝国は、帝国への連盟に加入しやすいように、各国の文化や宗教を受け入れやすいように多神教を推奨していることでしょう」
「そうだ。その通りだ。宗教は、政治のためにあり、大義名分を作り出し、各国の文化と主義主張となって、アイデンティティを形成しているものだ。だからこそ、そこには、触れず、寛容さをみせることで、帝国に従うようにしている。それを一神教にしてみろ。どのような激しい反発が出てくるのか、火をみるより、明らかだ」
「皇帝陛下の仰る通り、一神教を広めることによって、多くの反発が、大量に現れるでしょう」
「意味が分からんぞ。セルフィ」
「お聞きください。ですが、それは40年後の未来には、逆転します
40年もかからないかもしれません。早ければ5年かもしれません。陛下、よくお考えください。多神教は、各国の正義を自由に、与えることですが、その正義が反乱に使われているのです
ですが、反乱こそが悪であると一神教によって教えたとしたら、その教えで育った子たちは、反乱に対して、2つの選択枠を脳の中で、作り出すことができるようになるのです
今は、世界中が多神教という表向き、寛容さで自由にしているからこそ、例えそれが悪であっても、正しいと1択しか選択できないように、それぞれの国の都合によって脳が汚染されているのです
もし、一神教で、価値観が統一できるようになったとしたら、何が起こるのか、お分かりでしょうか。
バラバラだった国の価値観、バラバラだった民の価値観、バラバラだった種族、それらに共通点が生み出され、仲間意識が脳に植え込まれていき、反乱をする理由を失わせるのです
民が聖書の一神教の情報を脳にいれれば、その情報から自国や権力者の間違いに気づける能力を持ち、民が国を形成するという逆転さえも起こりえるのです
自分の家を自分の手で壊すこどもがいるでしょうか?帝国は、違う家で、違う価値観だと思うから反乱するのです
もともと、違うことを認め、悪を認めるから、それを制圧するのに、力や財が失われるのです
ですが、帝国が、一神教を認め、世界中に一神教を広げて、人々の脳に、固定された価値観、平和の価値観を植え込めることができれば、犯罪や悪は、悪だと認識して、それらを画策するような人間の数が激減するのです
今は、人を殺すことさえも、正しい。物を盗むことも正しいという価値観さえ認めてしまっているから、帝国が、何度も何度も兵士を送り出さなければいけない状態になってしまっているのです
つまり人権を世界中の人々に教えるということです。陛下」
「なに!!ジンケン??セルフィ。其方、ジンケンを知っているのか?」
え・・・。どうして、そんなに1つの言葉に驚いてるんだ?
『源。この世界には、人権は、確立されていません。ごく少数を除いて、どの書物にも、人権のことは、定義されていないのです』
そうなんだ・・・。
「はい。わたしは、人権を知っています」
すると、部屋にいた者たちは、サネルもみな、動揺していた。そして、一番反応していたのは、村雨有紀だった。物凄く嬉しそうな顔で興味深くこちらをみていた。
皇帝は、セルフィに言う。
「ジンケンは、龍王がまるで予言のように残した言葉だ。将来、ジンケンを与えるものが現れるということを残しただけで、その内容は定かになっていない」
そうなんだ・・・。
『はい。源。第二龍王戦記の63章に、10騎士のひとり、ワグナ・サービスに人権の存在を示唆した言葉だけが、人権を伝えているものになります』
「セルフィ。ジンケンとは何だ?」
「人権とは、人が神の基で平等であり、平和で平安に暮らすことが権利として認められているという神から与えられた権利のことです」
「神から与えられた権利!」
「はい。皇帝陛下。皇帝陛下は、神の存在を信じておられますか?」
「正直に言おう。神とは、人が国や組織を運営するために、利用できる存在として、作り出した思想だと思っていた。だが、お前のような存在がいることで、わたしは根底から自分のその考えを改める必要があると思い始めている」
「陛下、神様は、実際に存在しているのですよ。人間という種族の姿形を想像できますか?」
「できるに決まっているだろ」
「なぜ固定して、想像できるのでしょうか?それはおかしなことです
人間といえば、みな、手は2つで、足が2つ。目が2つで、鼻は1つです
どうして、親子でもないのに、みな同じ形をして、大量に存在しているのでしょうか?どうして、目が4つという人間などバラバラで生まれてこないのでしょうか
それは、固定された法則が、規則正しく存在している。その証拠なのです
これを偶然だと考えることは、現実をみようとしていないということなのです
カラスは、なぜカラスなのでしょうか
スギの木は、なぜスギの木なのでしょうか
この世界は、もの凄く計算されて、精密に作らられているのです
それは、人間が、作り出したものではありません。人間を超えた存在が作り出したのです
そして、その存在は、固定し、一定の法則が規則正しく動いていることから、1つの存在だということが、証明されているのです
本当の神は、唯一なのです
その他の神々は、人間が都合のいいように、作り出した偽物の空想の神々なのです」
確かにそうだ・・・。人間は人間としての形を成している・・・。モンスターであっても、その種族ごとに、その形を成している。これは神なのか、そうでないのかは分からないが、現実に固定されているという事実は、誰にも否定できない・・・。現実をみれば、神がいないという考えは、わたしの思い込みだったということになるのか・・・
「言われてみれば、確かにこの世界は、あまりにも、綺麗に整いすぎているな・・・」
「その通りです。陛下。そして、その人間を超えた神を無視して、人間同士が、正義や善悪を論じても、それは何の意味もありません
例えば、Aが、人を殺すことを正義だと信じていたとしましょう
そして、Bは、人は殺してはいけないことを信じていたとしましょう
どちらも、同じ人間です。同じ人間が、どちらが、正しいと主張し続けても、答えなどでるわけがありません
なぜなら、同じ人間だからです
正論のように聞こえるように何を言ったとしても、感情論で何を言ったとしても、結局は、趣味趣向を言い合っているだけなのです
ですが、一神教は違います
この世の事実を基にして、人間を作り、人間の上に存在する神様が、【殺してはならない】と人間に教えたのです
傷つけ破壊する正義は悪で、愛や優しさの正義が善だと人間の上の神様が断言されたのです
だから、人は、人を殺すことは、悪だとその存在自体、全身全霊で、悪だとはねのけることが出来るようになるのです
神ぬきで何を主張しても、ただの我がままな主張でしかないのです
そして、龍王の意思、聖書は、固定された書物です。誰もこれを、書き換えてはいけません。多神教では、一部の人間のご都合主義であらゆる善悪やルールを勝手に作り出せてしまうのです
悪を教えられた者たちに、一神教を教えることは、安定的な平和と秩序をもたらす。確実な方法なのですね」
源が生きていた現実の世界の時代では、人権は、当たり前のように、生まれた時から存在しているので、それが当たり前だと勘違いしている人がいるが、この人権を世界中に広めたその教えは、聖書から出ている
人によって人権は、主張することはできない。【神の基】で人は人権を与えられるのだ
天皇が神事をするのも、アメリカ大統領が聖書に手を置くのも、人間には善悪を固定できるわけがないからだ。聖書があってはじめて、現実の世界は、人権を手に入れることができた
それは日本も同様だ。憲法が制定されるまで、人権は日本にも無かった。人権に似たものは漠然としてあったが、確定して存在していなかった
犯罪者を犯罪者として、刑務所にいれることができるのは、聖書のおかげで、普通に無神論といいながら仕事が出来ている人も、聖書に守られているという事実は変えられないのだ
資本主義が発展したのもプロテスタンティズムによる思想のおかげで、これだけ科学が自由になったのもプロテスタンティズムのおかげなのだ
そうじゃなければ、どうして、権力者が下の人間である民に力を与えようとするのだろうか
カトリックはそれを無理やり押さえつけていたのだ。憲法が固定されはじめたのは、200年ほど前だが、その前まで、中国もインドも、アフリカもオーストラリアも、どこにいっても、人が人を食べるというカニバリズムが正義として信じられていた
人間が人間を食べていたのだ
それを撲滅したのが、キリスト教だった。もし、聖書を否定するのなら、平和は崩壊する。そして、源は、人権が当たり前の世界で育っていただけに、この異世界でも未来予知するかのように、人権が手に入れることができるものだということを知っている
現実の世界の人間なら誰しもが当たり前に知っているほどまでに広まった世界で生きてきたからだ
源がいた時代の人間は、人間を食べる人間は、犯罪者だと多くの人間が思うことが当然となっているようにだ。
リリスやリタが、源には、硬くて揺るがない平和があるようだと以前、感じたのは、そのような世界で源が生まれ育ったからだった。
「つまり、龍王の意思を復活させ、世界中に一神教を脳に教え込めることさえできれば、多くの反乱や悪や犯罪は、激減するということなのか?」
「はい。少なくとも戦争は激減します!それは本当のことです
人の脳、思い込みや情報が、実は平和には欠かせないものなのです
それをバラバラの価値観で持っていることの恐ろしさが、今の帝国を疲弊させている原因なのです
叩いても叩いても、また悪が湧き出るのは、多神教という嘘を脳に植え付けられ、事実を無視する教えを脳に入れられているから起こることなのですね
現実にみえる現象、自然の法則を論理的にみれば、この世は、1つの神によって精密に造られていることは、誰にも否定できないのに、多くの神々がいると逃げるように歪曲させているから、犯罪や悪が増大するのです」
「サネル・カパ・デーレピュース。其方は、確か、龍王の意思を受け継ぐ政治家だったな?」
「はい。わたしは一神教の大切さを訴え続けてきました」
「今のセルフィの考えは、実行することは可能だと思うか?」
「正直、分かりません。しかし、セルフィ殿がおっしゃっているのは、否定できない事実だということは、分かります
人は脳に入り込んだ情報を信じることは、政治家としては、十分理解できることだからです。そして、セルフィどのが天使として認知されるようになれば、さらなる情報の広がりは加速するでしょう」
「そうだな。権力者は常に人の思い込みを意識するものだ。そうか。神は存在し、そして、その神が、セルフィ。其方を我々の世界に与えたのか」
「さー。それはわたしにも分かりません。ですが、レジェンドは、それを何よりも重要事項として、固定化しています
すべての村人は、毎週日曜日になると集まり、司祭様が聖書の教えを伝え、それを学び続けているのです。人を愛すること、人の平和や幸せ、正義とは何かを脳に植え込んで、反乱や裏切り、犯罪をしないように、常日頃から防止しているのです
種族も違えば、生まれたところも違うものの集まりがレジェンドですが、聖書の神を信じるという共通点によって少しずつ家族となり、助け合って生きるように生まれ変わっている最中なのです」
「そうか。セルフィ・・・。其方は、言葉だけではなく、実際にそれを政治として、行ってそれが現実化させて証明しているというわけだな」
「はい。レジェンドは、帝国が同じように龍王の意思に忠実であれば、帝国に反逆することなどしません。する必要がなく、その土地で平和に暮らすだけなのです」
「よし、セルフィ。わたしも、その流れを支援しよう。其方の望みに近づけ、それを形とするのは、政治家のサネル・カパ・デーレピュースたちだ。帝国の政は、サネルたちに、一時、任せようではないか。形なるように、わたしに報告せよ。そして、セルフィ。其方は、伝説の天使として、世に平和をもたらせ」
サネル・カパ・デーレピュースは、やれやれといった顔をする。
「もともと、この謁見が始まる前からわたしの政治への役目があることは、分かっていましたよ」
源は、皇帝にプレゼントをほのめかすように伝える。
「陛下。聖書の神を信じ、平和な脳になった者たちのことをクリスチャンと言います。このクリスチャンたちに対しては、レジェンドの技術を与えることは、わたしたちは、おしみません
それは帝国であってもです
逆に、クリスチャンではない者には、危険ですから与えようとは思いません。帝国のためにも、それはゆるしてはいけないことでしょう」
現実の世界でも、聖書を信じる人たちによって多くの発展と技術がもたらされたのに、基礎である人格をあとまわしにした人間たちが、それらを恐ろしいことへと使って悲劇へと変えてきた歴史がある
それと同じようにはしたくなかった
カトリックを論理的に否定したコペルニクスやガリレオもまた、クリスチャンだったのを知らない人が多い。宗教と科学の戦いだと勘違いしているが違う、地動説や天動説などの総論は、科学と科学、宗教と宗教の戦いだったのが、本当のことなのだ。
無神論者が無理やり事実を捻じ曲げているだけにすぎないのだ。脳に植え込まれるとそれが嘘であっても、それを信じ込んでしまうのだ。
「村全体を移動させるほどの技術や発展か。少し楽しみではあるな。其方が、常軌を逸した存在であることは、今の話からでも分かる。少し、未来に希望の灯が見えたように思えるぞ」
「ありがとうございます。陛下」
皇帝は、セルフィに、伝える。
「細かい指示は、のちほど、出すことにする。セルフィも、レジェンドの民とも連絡する必要があるだろうしな。転移石などを使って、連絡ができるように配慮しよう。数日は、帝国にいてもらうことになるが、それは大丈夫か?セルフィ」
「はい。分かりました。ただ、転移石がなくても、わたしたちレジェンドは、やり取りができるので、大丈夫です」
「それも、例のアイディアから出た発展というやつか?」
「内緒ですが、そうだと言っておきます」