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136章 帝国皇帝

真夜中、眠っていた源の感知が発動する。


『源。サムエル・ダニョル・クライシスです』


目を開けて、ベッドから起き上がる。


「本当に、お忍びで、陛下に謁見することになるようですね。サムエル殿」


部屋の暗い影に、隠れもせずに、堂々と立っているサムエル。


「寝ていたにしては、反応が早いな」


「突然、襲われるのも嫌ですからね。起きていたんですよ。ですから、反応は、遅かったということですよ」


「フ。どうだかな。廊下で待っている。準備を整い次第、来てくれ」


源は、ゆっくりと準備を整える。その間に、レジェンドの主要メンバーにも、連絡をする。

俺の力を測り直すために、サムエルは、部屋に無断で入り込んだのだろう。サムエル・ダニョル・クライシスは、探りをいれているんだ。


『ミカエル。今すぐ、外にまわしたソースたちの周辺をチェックしろ。安全に、俺が瞬間移動できるのかを随時把握して、もし、安全ではない状況になった場所があるのなら、赤色で地図に表示しろ』


『分かりました。セルフィ様』


源は、準備を整えて、廊下へと出て、ゴールドカードをサムエルに差し出す。


「これのおかげで、帝国の見学がスムーズにできました。ありがとうございました」


「いや、それは、帝国から離れる時まで、待っていればいい」


謁見が終わっても、すぐには帰れない可能性もあるということか・・・。本当に、悪い様にする気はないのかもしれないな。


「分かりました。サムエル殿」


「もっと、反発した態度を取るかと思っていたが、意外と冷静に行動する奴だな」


「あなたの強さは、味わいましたからね。ヘタに逆らわないほうがいいのは、分かります」


「俺の強さを知った奴は、もっと混乱した態度を取るがな」


「わたしは、賢くありませんから、恐怖などに鈍感なんですよ」


サムエルは、セルフィの言葉にも裏があるだろうと探りながら、誘導する。

「では、移動する」


サムエル・ダニョル・クライシスは、源の肩を軽く触ると、瞬間移動した。王宮の中だと思われる廊下の大きな扉の前に現れた。


廊下には、ドラゴネル帝国上院議員サネル・カパ・デーレピュースと村雨有紀が、立っていた。


「セルフィ殿」と静かに一言口に出し、頭をさげた。


源も、軽く会釈をする。


サムエル・ダニョル・クライシスが、ドアを開くと、ロウソクのような明かりだけが、部屋を照らしていた。ノックすらせずに、入っていくのは、何らかの方法で、陛下が、こちらを把握しているということだろう。


部屋の奥には、豪華なベッドが置かれていて、幕が降ろされている。人の影がその幕に映ってはいるが、姿や顔はみることができない。本当のお忍びだからこそ、陛下の部屋での話し合いなのだと思われる。


本物の陛下なのかは、分からないが、案内された場所がそこだったので、源は、ひざをついて、静かに挨拶をする。


「陛下、帝国最強騎士サムエル・ダニョル・クライシス様の案内により、指示を受けて、謁見できることを嬉しく思います。わたしは、レジェンド最高責任者のセルフィと申します」


幕の裏から声をかけられる。


其方そなたが、セルフィ殿か。わたしが、127代帝国皇帝ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカだ」


「お初にお目にかかります。ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカ皇帝陛下」


「わたしは、長い名前で呼ばれることは、好かない。正式な話し合いでもない。以後、陛下と呼ぶように」


「解りました。陛下」


「其方をここに呼び寄せた理由は、分るか?」


これは話し合いだが、戦いだ。本音をそのまま話すわけにはいかない。帝国側の意図、何を考え、何を望み、何をさせたいのかなど、帝国側の情報を知るまではこちらの情報も、簡単には渡したくはないので誤魔化した話し方になる。


「半年前のことではないでしょうか。わたしたちレジェンドは、帝国連合軍と刃を交えなければいけない立場に立たされていました。世界を束ねるドラゴネル帝国からすれば、邪魔な存在だからということではないのですか?」


源は、自分で自分を貶めるような内容を口にして誤魔化した。


「フ。其方は面白い。邪魔な存在だとハッキリと口にしながら、サムエル・ダニョル・クライシスが横にいる中で、躊躇ためらいもせずに、発言するその態度。其方は、悪い話ではないということを理解しているということだな?」


声のトーンをあげるでもなく、物静かに、はじめは答える。


「申し訳ありません。何分、サムエル・ダニョル・クライシス戦士長殿からは、何も情報を伝えられてはいませんので、わたしには、分かり兼ねます」


「其方が、今、申したように、多くの帝国の者たちは、レジェンドをそのままにしておくわけには行かないと、攻め込むことを前提に、進言してきた。文官、武官とわずにな

わたしの口から出る言葉ひとつで、滅んだ国もある。そのような国の1つとするのもやぶさかではないが、一度は会ってみたいと思い及んだ

80万を越える帝国連合軍と戦った存在。帝国の英雄サムエル・ダニョル・クライシスと戦ってまだ生きている存在。そんな其方にな」


脅して来たということは、何か俺やレジェンドに、やらせたいこと、求めることがあるかもしれないな・・・だけど、それに誘導されるわけにもいかない。


「陛下の仰る通りです。わたしたちは、それだけの大軍勢を前にしても、帝国と戦うことを選択しました。先ほども言ったように、そう迫られた状況だったからです。どれだけ脅されても、どれだけ大軍勢をみせられても、それでも、心挫けず、危険の中に身を投じました。恐れながら、そんなレジェンドの総責任者であるわたしを目にして、どう思われたのでしょうか。期待外れでは無かったでしょうか?」


皇帝は、次の言葉を出すまでに、時間をかけた。おそらく、脅して、何かをさせようという考えたのか、それともただの揺さぶりなのかは、分からないが、そのどちらでもない反応で、俺が返答したからだろう。


「期待外れではない。さすがは、サムエル・ダニョル・クライシスと戦った存在だと思わされた。正直に言うと、其方たちのことを肯定する人間は、そこにいるサネル・カパ・デーレピュースだけではない。その勇気と其方の存在は、1度決めた帝国の決定を覆すほどの影響力として、存在している」


脅しでコントロールする方法は通じないとなると、次はおだてて、コントロールしようというのだろう。また、それにも乗るわけにはいかない。


「御冗談は、おやめください。わたしたちは、理由や立場、状況がどうであれ、帝国に矛を向けた存在です。わたしを恨む者が多いのは、火を見るよりあきらかです。責めたてられることはあっても、栄誉を受けることなどないことは、理解しています」


一度は脅して来た皇帝が、次は、こちらを立てることをしてきた。そんな言葉に、真意があるわけがない。甘い言葉に流されるわけでもないことを示す必要がある。


「いや、其方たちに対して、処断する選択しかないとまでは、発展していないのは、真実だ。この場にも、サネル・カパ・デーレピュースを呼び寄せているのが、その証拠だ」


「陛下。申し訳ありません。わたしは、確かに、サネル・カパ・デーレピュース上院議員殿を知っていますが、それはわずかな時間と人柄を知っているだけであって、信頼しているわけではありません

例え、わたしにとって良い情報を陛下に、サネル・カパ・デーレピュース殿が伝えたとしても、それは長い目でみれば、帝国のためでしょう

サネル・カパ・デーレピュース殿にとって、わたしも、レジェンドも二の次なのです。ですから、議員が証拠としては、こちらは完全には、受け入れられません

現に、サネル・カパ・デーレピュース殿は、サムエル・ダニョル・クライシス軍団長の軍をレジェンドに派遣するように要請したということを、戦いのさなかに、サムエル・ダニョル・クライシス殿から聞かされております」


皇帝は、横にいるサムエル・ダニョル・クライシスに目をやると、サムエルは、うなずいた。そのことが事実なのかを確認したのだろう。


「そうか・・・。すまぬな。わたしも、そこまでのことは聞いてはいなかった。確かに、サネル・カパ・デーレピュースは、帝国を第一として動くのは、当然のことだ。だが、其方をわざわざ、ここに呼んで、話しをしていること自体が、すべて悪い話ではないという証拠になるのではないか。ただ、一方的に処断するだけでいいのなら、わざわざ呼ぶ必要もないであろう!?」


コントロールしようとされれば、跳ね除け。歩み寄ろうとすれば、一歩下がるが、離れすぎるのもよくない。相手の波長や距離感、立場や考え方など、少しずつ把握しながら会話という戦いをしなければいけない。そして、相手が、離れそうになったのなら、こちらが一歩前へ近づかなければ、それも弊害になってしまう。弱さも見せなければいけない。


「そう・・・ですね・・・。申し訳ありませんでした。陛下。陛下が、帝国の安寧を願われているように、わたしは、わたしの大切な人たち、レジェンドの者たちの安寧のために、命をかけて、ここに今、こうして来ています。一言二言で、簡単に、信じることはできず、少し疑いすぎてしまったかもしれません」


「ふむ・・・。そうか・・・。其方も、責任の中で、戦っているのだな・・・」


この躊躇い。心からの言葉を皇帝が口にしたように、源は感じた。


「陛下の正直なお言葉を聞かせていただいたので、次は、わたしの正直な話を述べてもよろしいでしょうか」


「ゆるす」


「わたしは、帝国連合軍と戦うことをレジェンドの者たちには、許可しませんでした。それは、帝国が、あまりにも、巨大な権力を有していたからです。最後の最後まで、わたしは、見捨てようとしていたのです」


「見捨てる?」


「はい。陛下。レジェンドの者たちの中の3000名は、ボルフ王国で虐げられていた貧民地の者たちです。ボルフ王国の狡猾で残忍な行動によって、何もしていないのに、命を狙われた者たちでした

そんなボルフ王国の横暴な行動に、わたしは、立ちあがり単身、ボルフ王国に乗り込んだ形になりました。その内容は、この帝国にも、記事として、広がっていたと聞いております」


「そうなのか?サネル・カパ・デーレピュース」


「事実です。陛下。その記事をみて、ここにいる村雨有紀が、セルフィ殿の存在を知って、調べ始めたのです」


「そうか・・・。」


「ボルフ王国は、増えすぎた貧民地の民たちの人口をわざと減らすために、わざわざシンダラード森林に攻め込んで、森のモンスターたちに貧民地の農民兵を襲わせたのです

そんな状況で逃げてきた兵士とその家族が、ボルフ王国を見限って、今レジェンドにいる先ほど言った3000名です

わたしたちは、帝国とは戦いたくなかった。ですが、貧民地の民との絆が強いレジェンドは、帝国と戦わないということは、その貧民地の民を見捨てるということになるのです

そして、わたしは、最後の最後まで、その見捨てるという決断をしていたのです。レジェンドの民を助けるために、ボルフ王国の貧民地20万人の命を見捨てようとしていたのです

しかし、わたしたちは、見ました。ボルフ王国は、その貧民地の民からまた兵を集めて、3万の軍を編成し、武器とも言えないような農具を持たせて、最強の帝国連合軍相手に、戦いを強要したのです

その結果は、散々なものでした。戦いというより、集団自殺のような戦いが繰り広げられたのです」


「それは、わたしも知っている」


「ボルフ王国は、2度にも渡って、貧民地の民をわざと手にかけ、それをわたしたちに、見せることで、貧民地の民を人質としたのです

レジェンドにいた3000名は、黙っていることはできませんでした。なぜなら、その貧民地には、多くの親戚家族が住んでいるからです。先の戦いでも、12歳に満たない甥が死んでいくのをみた兵士もいました。それでも、黙って、見捨てることができるのか

わたしも、レジェンドの民も、悩んだのです。その先の結果が、帝国との戦いです。わたしたちレジェンドは、ボルフ王国にいる貧民地の民が助かるのなら、帝国とは戦いませんでした。むしろ、ボルフ王国と戦いたかった。


わたしたちレジェンドは、立ちあがりましたが、結果、ボルフ王国たちにも見捨てられ、悪者にされて、追い込まれました。わたしは、サムエル・ダニョル・クライシス殿と戦い首を斬られるその瞬間にまで、追い込まれました。ですが、サムエル・ダニョル・クライシス殿は、最後の言葉として、わたしに教えてくださいました

お前たちレジェンドがボルフ王国に利用されていることは分かっていると、そして、レジェンドの民も、わたしが死ねば、悪いようにはしないという言葉をわたしはもらいました

わたしは、理解してくれた、この相手なら殺されてもいいとさえ思ったのです。ですから、わたしやわたしたちレジェンドは、帝国と敵同士になることは、望むことではないのです

お聞かせください。陛下なら・・・皇帝陛下なら、どのような決断をくだされたでしょうか」


「その場になってみなければ・・・・わからないな・・・帝国皇帝としての立場ではなく、個人の立場でなら、答えることはできる」


「よろしければ、お聞かせください」


「お前たちは、勇敢だということだ・・・。わたしが、もし、其方の立場であれば、帝国と戦えたとは思えない。なのに、お前たちは、帝国と戦った。家族ため、守るべきものたちのために、戦い。そして、驚くべきことに、こうして、生きている。人間業とは思えないな。そうだろ?サネル・カパ・デーレピュース」


サネル・カパ・デーレピュースは、熱い想いにかられたのか、感情を高ぶらせて、答える。


「仰る通りです!陛下」


「セルフィ殿。わたしの頼みを1つ聞いてくれないか?」


「わたしの出来ることでしたら、何なりとお申し付けください」


「サムエル・ダニョル・クライシスとの戦いで、其方は、見せたというではないか。背中の羽だ。今、見せてはくれまいか?」


「もちろん、いくらでも、お見せ致します」


源は、マントを翻して、羽が見えるようにした。


その言葉を聞いて、幕の外側に、皇帝ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカは、姿を現した。


その姿をみて、源は、少し驚いた。思っていたよりも、若い。若すぎる。17歳ほどの青年が、帝国の皇帝だった。


ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカは、セルフィをみて、驚いた顔をしながら、羽にも目をやった。


「正直、驚いたぞ・・・。セルフィ。其方、美しいな。まるで、画から浮き出た存在のようだぞ。そして、その白い見事な羽。其方のまわりは、何か光って見えるようだ」


確かに、俺も、はじめてこの世界で、自分の姿をみたことは、同じように思った。現世の時の姿とは違う、まるで絵画のような少年の姿をしていたからだ。


「其方は、本当に天使なのか?」


この皇帝陛下は、本当に悪い人間ではないように源には思えた。感情を表し、誠実な気持ちを持ち合わせながらも、皇帝としての立場のために、苦しんでいるようにもみえる。

できれば、正直な気持ちで、こちらも、接したいと思った。距離感を保つような探り合いも本当ならしたくはない。


「解りません。陛下。レジェンドの民たちは、わたしを天使だと信じています。ですが、わたし自身、そうなのかは、まだ分からないのです。ですが、わたしには、本当の名前があります。セルフィという名前は、レジェンドの村、龍王の意思を受け継いだ一神教の司祭様が、付けてくれた名前です。その前に、わたしは、本当の名前を名乗っていました」


「其方の本当の名前を聞かせてくれるか?」


末永源すえながはじめと申します」


部屋にいた者たちは、その名前に反応した。サムエル・ダニョル・クライシスでさえ、反応して、眉を動かした。


「スエナガハジメだと?」


「はい。わたしの本当の名前は、末永源です」


「ハジメ・・・スエナガ・・・龍王の予言の者、天使の名前ではないか」


「はい。そのようですね。正直、わたしも、はじめて、龍王の予言を聞かされた時、同じように、驚きました。なぜ、わたしと同じ名前が、伝承に残されていたのかと、今でも信じられないのです」


ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカは、サムエルに、聞く。


「サムエル・ダニョル・クライシス、其方と戦ったのは、間違いなく、このセルフィか?」


「はい。皇帝陛下。目の前にいるものは、間違いなく、わたしと戦ったセルフィです」


「世の中には、我こそは、ハジメスエナガだと豪語するものがいるが、その中でも、サムエル・ダニョル・クライシスと戦える者などいるはずもない。其方は、伝説の天使なのかもしれないな・・・」


「解りません。皇帝陛下」


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