135章 付加
『情報をデータ化することに成功しました。セルフィ様』
『お。ご苦労様。ミカエル』
時間をかけて、ミカエルは、図書館の情報をデーター化した。図書館以外にも、ミカエルは、レジェンドやユダ村での仕事の処理を各方面で行っていたからだ。
この図書館は、持ち出し禁止だけど、皆さんの頭の中に入った情報は、持ち出しOKですから、良いでしょ?という理屈です。
レジェンドとユダ村のみんなに、事情を説明して、ミカエルのフリーズは、故障ではないということを伝えた。
そうこうしているうちに、もう日は落ちて、夜となっていた。
宿を探さなければいけない。
でも、さすがは、首都ドラゴ。図書館があるような首都の中心地だからか、夜でも明かりが灯され、それなりに明るい。
『ミカエル。さすがにもう、ドラゴの地図は完成したよね?』
『申し訳ありません。まだ、作成中です。セルフィ様』
『えー!本当??あーそうか。フリーズ状態だったから、地図作成も、はかどらなかったのか・・・。今分かっているだけでもいい。宿屋の位置を教えてくれ』
マップに、青色のマーキングがされたので、歩いて、向かうことにした。
昼間でも、道がごちゃごちゃで、迷いそうだったものが、夜になると猶更、道が分からなくなりそう。
でも、歩くと、地図も変化するので、実際には、迷うことはない。
一番近くの宿屋に着いたけれど、本当に宿屋なのか?というぐらい豪華な造りをしていた。高そうだからやめておこう・・・。
裏地に入って、少し中心街から外れたところの宿屋の近くに、空間を開けて、空間転移した。
うん。ここは、丁度よさそうだ。可もなく不可もなし。
え・・・銀貨5枚??物凄く高くない?
まわりの人たちが、何だか見ているようだったので、平然とした面持ちで、先払いした。
『先ほどの宿と同じ値段です。セルフィ様』
『え・・・。内装のグレードがまったく違う気がするけど・・・』
人の目もそうだけど、またわざわざ戻るのもどうかと思ったので、あきらめた。
余分に払ってしまったことは、レジェンドの皆には内緒にしとこう。こんなこと、現世でもよくあることだよね。現地の相場とか土地勘がないとタクシーとかにぼられるとか、思った以上に、高い買い物をさせられたとかね。都心は、物価や色々な要因で値段設定が予想とは違っていたりするものだ。普通は、気づかずにそんなものかなと終わるけど、ミカエルさんは、しっかり教えてくれるから、心が痛い。
教えなくてもいい時は、教えないとかいうプログラム作れないかなー・・・。
「こ・こ・ろ・づ・か・い」というクリステステルの声が違う言葉で聞こえてきそうだ。
そういった人の微妙な判断力を機械に教えることはとても難しい。
部屋は、狭いけど、家具とかは、思った以上にしっかりしている。しかも、食事付きらしい。
今日は、皇帝陛下への謁見は、ないかもしれないな。
その間に、自分の武器だけでも、強化したいところだ。今日得た情報だけでも、防具にほどこせば、戦力2割増しだからだ。
サムエル・ダニョル・クライシスの剣は、俺の剣を簡単に切り捨てた。まったく通用しなかった。グラファイトは、ダイヤモンドに匹敵するほどの硬さがあるのにだ。サムエルの動きも捕らえられなかったし、どんな素材で造られていた武器を使用しているのかを調べることも出来なかった。ほんの少し、1mmでも、あの強さに対抗できる距離に近づけたい。
『市外の外に出たソースで、強そうなモンスターを発見したら、教えてくれ』
『分かりました。セルフィ様』
『いました。ランクA+のドラゴンナイトです。セルフィ様』
『え?早いな・・・。ランクA+ってなに?』
『この世界のランクは、冒険者組合の定められた基準にそって、ランク付けされています。セルフィ様』
『へー。そうなんだ。ちなみに、俺はどれぐらいになるの?』
『ランク付けされていない者は、F-からになります。セルフィ様』
『確かに、ランク付けされてないね・・・。そのドラゴンナイトというモンスターの映像をみせてくれ』
夜なので、暗視映像が脳内で、モンスターが写された。ドラゴンの風貌をしていながら、鎧などを装備している。まるで、人間のように、二足歩行だ。
『っていうか、そういう獣人の帝国人民じゃないの?』
「ふぅー。今日はこれぐらいにしておくか」
『しゃべってる・・・思いっきり、帝国人だね・・・これ・・・。もし、倒してたら大事だよ・・・』
『知的レベルDの強いモンスターを探せばいいでしょうか。セルフィ様』
『ああ。そうだね。そのDというのも分からないんだけど・・・』
『知的レベルDは、動物と変わらない知能のモンスターで、本能で生きているモンスタークラスのことです。セルフィ様』
『うん。そういうモンスターがいいね。少し、価値のある核が2つほしいんだ。森とかに生息しているかもしれないから、近くに森があるソースは、探してみて』
『分かりました。セルフィ様』
今は、グラファイトの剣が2つある。ロングソードは、9000km離れたレジェンドに置いてあるから、すぐに手に入れることはできない。集団戦になったら、10mの長さを持つ、ロングソードがないと、倒しきることは出来ないと思うけど、戦うことになったら、もちろん、逃げの一手なので、問題はない。
でも、できれば、謁見が始まる前に、少しでも、自分の2本のグラファイソードを強化しておきたい。
店で、核を買っておけばよかったかな・・・。
『セルフィ様。ランクA+のスピーシーズを発見しました。知的レベルは、C-です』
巨大な蛇だが、その蛇の頭が、複数に分かれて動いていた。夜中みるとホラーだ。
見た目は、怖いけど、行ってみようかな。
5つのソースでその地域の状況は、把握できていた。そして、地図にも位置関係は表示され分かっている。安全なのは、空間移動だけど、訓練のためにも、瞬間移動で、スピーシーズの前に飛んだ。
源は、2本のグラファイソードを抜いて、目の前に立つ。
突然、現れた生き物に、驚いたのか、スピーシーズは、7つある頭をキョロキョロとまわりをみながら、警戒する。
『ライト』
源がそう指示をだすと、5つのソースが、ライトを出して、夜の森を照らし出す。スピーシーズは、光を当てられても、変化はない。もともと、体温で、相手を把握しているからだ。
頭から攻撃をしかけてくると思ったが、白いしっぽを振り回して、攻撃してきた。
源には、スピーシーズの動きはスローに見えている。愛の情報処理能力が源に適合しているからだ。そのしっぽを躱すことなく、剣で切裂こうとしたが、スピーシーズのしっぽは、硬化していて、斬れることなく、弾いて、その弾かれた勢いで、しっぽは、木にぶつかり、木が倒れる。スピーシーズは、弾き飛ばされて、動揺していた。
「面白い能力だな。硬質化か」
スピーシーズの7つの頭のうち1つが、森の木をまわって、後ろから源の肩を狙って、牙を向ける。
しかし、その攻撃も、探知を多数持っている源には、通じない。逆に、源は、クルっと回転して、その首を斬り落とした。
顔がなくなった長く伸びた首は、死んだように、バタと地面に落ちた。
蛇は、どういう攻撃がいいのかな・・・。体温で探知しているというのなら、炎もいいかもしれないけど・・・
源は、右手を前に出して、リトシスで、その能力だけを調べた。
『源。こちらの知識と情報を照らし合わせると、目の前にいるスピーシーズは、石化という遠距離攻撃のスキルを備えています。源には、石化抵抗がないので、危険です』
スピーシーズのほんの微妙な動きさえも探知で把握した源は、怪しい動きを感じて、素早く上空へとジャンプした。すると、源が立っていた後ろの木が、石化した。
こんなモンスター級が、帝国の城壁の外には、ウロウロしてるのか・・・。つよくない?
『いえ、他のモンスターは、高くてもBクラスばかりです。セルフィ様』
たまたま、発見できたということか・・・
『源。今持っている源の能力の中では、放電が有効だと思われます』
源は、速度向上のスキルを使い、グラファイソードを2本しまって、スピーシーズの死角にまわりこむと、しっぽを掴み、おもいっきり、空に投げ込んだ。7つの頭は、振り回される力が強くて、それぞれ同じ方向にひっぱられるように、飛んでいく。
凄い勢いで、飛ばされたスピーシーズは、グルグルと回りながら、木の高さを超えて、さらに上へと飛ばされた。
その近くに、瞬間移動で死角に現れて、手を蛇の体へと向けた。
【放電】
なるべく、周囲にも被害が及ばないように、マナ力をさげて、放ったが、スピーシーズの体に強力な電気が走り、その電気は、まるで雷が当たったように、木に伝わって、木も燃えながらふたつに割れて、燃えた。
スピーシーズは、黒焦げになり、頭からしっぽの先まで、大きな穴がいて、その穴から外に放電したような数えきれない小さな穴が、無数に外側へと流れるように空いていた。
スピーシーズは、即死した。
源は、スーっと下に降りた。
『こいつは、石化を持っていないんだよな?』
『はい。源。もう一匹は、石化の能力は保持していません』
もう一匹スピーシーズが、木の陰に隠れていた。源の多重探知から隠れることはできない。
リトシスを発動させて、一気に、距離をつめて、グラファイソードで、7つの首を斬り落とすと、ストっとその場で、倒れた。
鑑定のスキルは、持っていないけど、どこに核があるのかと観察する。アーツが発動するかもしれないので、わざとリトシスは使わなかった。まったく、どこにあるのか、分からないので、お腹のところを切裂いて、核を発見した。
ランクAというモンスターの核だけに、そこそこの大きさがあった。
源は、放電で、倒れてしまった木の消化をして、その木の一部をもぎ取り、能力追加珠を作成して、息を吹きかけた。
そして、昼間に手に入れたデーターを元に、鍛冶のスキルを手に入れる。
また、木に手を伸ばして、一部をもぎ取ると、その木からグラファイトを抽出して、そのグラファイトで、簡単なアクセサリーを2つ作った。
すぐに、源は、瞬間移動で、宿屋の部屋に戻る。
そして、さきほど作ったアクセサリーを出して、さきほどの核を近づけた。リトシスを発動させながら、鍛冶のスキルで、アクセサリーに、付加能力を付けていく。
部屋の中は、白色の光りで照らされた。
ランクA+とAの核は、そこそこ大きいので、なるべくアクセサリーの中に入れ込むように、リトシスで操作して、作り上げた。
そのアクセサリーをグラファイソードに取りつけて、確かめてみた。
グラファイトは、硬化の能力で、黒色がスピーシーズのように白色になった。
『源。情報から照らし合わせて、ソードの能力の内容は、グラファイトの強度、硬質化4が、増しました。また、毒牙3、速度向上2、擬態5の能力が付きます。右手のソードには、石化も備わっています。スキル能力比率は、8割です』
『サーロンさんは、6割だったけど、リトシスや愛の性能のおかげで、8割を超してるってこと?』
『その通りです。源』
擬態ってなんだ・・・
源は、剣を握って、眺めていると、部屋の色と同じ色に、剣が変色した。
カメレオンみたいな能力か・・・。っていうか・・・俺自身にほしかったかも・・・。硬質化も、石化もね・・・。
『アクセサリーからリトシスで分離することは、可能です。源』
『いや、いいよ。そんなことしてたら、どれだけモンスターを倒しても、きりがないからさ』
それにしても、鍛冶スキルは、使える。リトシスで出来なくもないけれど、やっぱり、この世界の法則に沿って補助され確立された鍛冶スキルのほうが楽に能力を付加できる。グラファイトなどは、それ自体が、すでに希少なのに、その上、核を利用すれば、さらに強化できるなんて、すごいな・・・。
『愛。今使った核、アクセサリーには、これ以上、能力は付加できないのか?』
『源が手に入れた核は、グレード6の5に相当する品です。10段階のうち、6番目に高い品でした。スピーシーズの体内にあれば、さらに能力を入れ込むことは可能なのですが、体外に出してしまうと核そのものだけで、耐久性を維持しなければいけなくなるので、能力や追加能力数は低下します。ですから、体外に出て使用されているアクセサリーの核では、残り2個程度が限界だと予想されます。源』
『そうか・・・だから鍛冶スキルの熟練度によって、効率のばらつきがあるのか・・・。硬質化、速度向上、擬態、毒牙、石化の5つ+2つで、グレード6の核は、7つぐらいが限界ってことだな・・・』
『はい。およそその程度に当たります。源』
『あれ・・・でも、ちょっと待てよ・・・能力付加した限界を超えるとどうなるんだ?』
『能力追加数を超えて、さらに付加しようとしても、能力は付加できません。源』
『壊れるとか、そういうことには、ならないってことか?』
『能力を付加することで、核は、破壊されることはありませんが、その核の性能を超えるほどの巨大すぎるマナ力を注ぎ込むと破壊されます。源』
『マナ力を注ぎ込む?』
『はい。源。例えば、マナの能力、ファイア系を付加したとします。本来、核に貯まっているマナ力を使うので、ファイア系の攻撃力は、その核のマナ力の威力しか発揮されないのですが、外部からのエネルギー。持ち主などから注ぎ込む場合、核の性能を大きく上回ってしまえば、核が破壊される場合があるのです。源の作ったアクセサリーの核は、6の5であり、10段階の5番目に高いマナ補充できる品でした』
『だとしたら、俺のマナ力だと使えないってことじゃないか・・・』
『確かに、源のマナ力に耐えられる核といえば、源の体の中にある特殊な核だけだと思われます。ですが、それは、源が、そのマナ力を他の核に注いだ時のことで、その核に貯まっているのマナ力を使うだけなら、源にもアクセサリーは、利用可能です。源』
うーん・・・。戦いの最中に、炎弾などのマナを使うけど、その時に、武器だけにマナを注がないようにするとか、ちょっと慣れないと難しい気がする・・・
『それにしても、俺の核って、そんなに、特殊なのか?』
『源のような核は、この世界の情報にはありません。その核もそうですが、源の体そのものにも、同じ特殊な作りが施されているので、あれだけのマナ力の効果が発揮できると思われます。源』
『核だけじゃなく、体もなのか・・・』
『はい。源。その体から源の核を取り出したとしても、同じ効果は望めないということです』
『ちょっと怖いことをサラって言うね』
『申し訳ありません。源』
『体内にあると劣化?しずらいってことなんだな』
『はい。その通りです。源』
『それで、知りたかったのは、1つの武器に、いくつもアクセサリーを付け足すことは、可能なのか?』
『アクセサリーという概念は、今日、はじめて、源が生み出したもので、検証しようがありませんが、予想では、アクセサリーや核そのものが破壊されることがあっても、武器そのものは、破壊されないと思われます。源』
『そうか。今までは、武器そのものに、直接、核と能力付加を付け足していたから、その武器の核が壊れたりもしたけれど、アクセサリーならそのアクセサリーが壊れるということか・・・』
『ただ、あまりにも、大きな負荷、あまりにも多くの能力を1つの武器に集め過ぎれば、武器も無限に持ちこたえられるとは思えません。源』
そうだよね・・・。アクセサリー大量に持ち歩くなんて、したくないし・・・。
『あれ・・・ちょっと待てよ・・・武器は、核や体がなくても、能力を手に入れられられるのなら、人やモンスターも同じじゃないのか?人を武器だと考えて、人が能力付加したアクセサリーを持ち歩かせれば、その能力使えるんじゃない?』
『人Aの回復マナ、ヒールを負傷した人Bに注いでも、人Bの体には、破壊形跡はありません。人Aの核があるからヒールができるのであって、核を使って人Bにヒールをしたのにです
リトシスという保護を元にした能力を他人に及ぼしても、破壊されることはありません。その用途によって、AからBにマナやスキルが譲渡できるのであれば、アクセサリーから人へと能力の効果を譲渡することも、可能です。若干違いますが、実際、転移石という核を入れ込んだアイテムも、存在しているようにです。源』
転移石は、そういうものだったのか。そして、やっぱりそういう使い方もできるのか。
源は、武器からアクセサリーを取り外して、自分のマナ力を使わないように注意しながら、アクセサリーの核だけのマナ力で、能力を発動させた。
すると、源の体は、部屋の色に変色し、擬態スキルが発動した。
確かに、アクセサリーを持っていれば、体にもその能力を作用させられるようだ。
『愛。えと、核に貯めこまれたマナ力が、尽きたら、どうなるんだ?』
『マナ力が尽きれば、スキルやマナ能力は、使えません。しかし、核は、能力を使わずに、放置していれば、自然とマナ力を補充していくので、またマナ力が回復すれば、利用可能になります。源』
『なるほど・・・自然回復みたいなことが、体外に出た核でも行われるってことか!』
『はい。その通りです。源。ですが、体外にあるわけですから、それだけ劣化するのは、当然で、自然回復、魔補給と帝国領域では言いますが、速度の効果も、体外では、落ちてしまいます』
『その魔補給は、もちろん、自然回復もできれば、俺の魔力を注いで補充することも出来るんだよな?』
『注ぎ過ぎれば、破壊されますが、その通りです。源』
自然に、くぎを刺されたし・・・。
それにしても、レジェンドのみんなには、能力追加珠を勧めようと思っていたけど、まずは、このアクセサリーから勧めて、慣れていってもらったほうがいいな。
そして、今の情報からアイディアが浮かんだ。俺にしかできない、俺にしか効果を発揮できないかもしれない新しい攻撃だ。
グラファイソードにも、スピーシーズの付加はつけることができた。どこまで、サムエル・ダニョル・クライシスの剣と渡り合えるのかは、分からないが、少しは、近づいたはずだ。
帝国皇帝への謁見の前に、帝国図書館の情報を得られたことは、吉兆だ。
愛がそれだけの情報を持つことができたということは、ある程度の正しい選択を選ぶ確率があがるということだ。
その内容によっては、俺だけではなく、レジェンドのみんなの命や生活が変わる。本格的に敵となったら、レジェンドごと、姿を消す必要にも迫られる。
神様、この異世界であっても、現世では、人の命が使われて参加しているものです。ひとりひとりに、哀れみを変わらず、与えてください。未来に起こることを感謝します。