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133章 絶望

源は、サーロンの工房から出て、次の見学先を考えた。時間を費やしただけあって、その間に、ミカエルは、地図をかなり作り上げていた。でも、驚くのは、それでも、首都ドラゴの地図は、完成していないところだった。


マジ。ひろすぎ・・・。


『源。次は、何をみる予定ですか?』


『ああ。次はねー。食べ物!』


『食べ物ですか。源』


『だってさー。俺、この世界に来て、シンダラード森林以外の食べ物を食べたことないんだよね。そのほとんどは、野生の生き物を狩猟して、食べたものだし、ロー村とユダ村の料理ぐらいしか、まともなの食べたことないからね』


えーっと・・・食べ物は・・・。


ミカエルが、食べ物の店のマーキングを赤色で示してくれた。


地図にもの凄い数の赤色のマーキングがされた。


うわー。やっぱり、食べ物の店多いなー。そこに行こう。


首都ドラゴには、露店の数も多かった。多種多様な食べ物が並んでいるが、それにしても、人の数が半端ではない。


東京とかってこんな感じなのかなー・・・。歩いても歩いても、人だらけ・・・。


まるで、祭りの時みたいだ。年中、祭りってやつかな。


確か、サムエル・ダニョル・クライシスから受け取ったゴールドカードを見せれば、食べ物は、無料で食べられるとかだったな。


でも、何だか申し訳ない気がして、逆にカード、使えないし・・・。


おー凄い。物凄い大きな動物の足の肉が売ってる。まるでバイキングが食べるような肉だ。


「これっていくらなの?」


「銅貨15枚だよ」


銅貨15枚か、さすが首都なだけあって、銅貨5枚ほど物価が高い。


リタ商店の利益からお金が入っていたので、狼王の金貨以外のお金も持っていたので、それで払った。


ボルフ王国の貨幣と首都ドラゴの貨幣は、形こそ違うが、同じ規格で造られている。ドラゴネル帝国に連盟している国々は、貿易を円滑にするために、統一されているらしいからドラゴでも、使える。


この肉とってもおいしいー。おいしくなくっちゃ。首都ではやっていけないよね。


果物も様々なものがあるし、それだけじゃなく、飴まであった。何だか、良く分からない緑色のぶつぶつした食べ物も売っていた。


世界中の食べ物が、首都ドラゴには、あるのだろう。


転移石みたいなものまであるみたいだから、転移させれば、流通も加速できるだろうしね。


そう言えば、魚ってあるのかな?


『魚は、今のところ発見されていません。セルフィ様』


ミカエルが、即答で答えてくれた。


魚は、ない?シンダラード森林の湖には、魚はいた。だから、魚自体はこの世界にもいるけれど、首都ドラゴには、魚はないのか・・・。どうしてだろう・・・。転移石は、やっぱり高価で簡単には使えない物なのかもしれない。


世界中の食べ物があるというわけでもなさそうだ。


でも、現世の食べ物をこっちに持ってきたら、儲かりそうだ。ラーメンとか、アイスクリームとか、クレープとか、たい焼き、たこ焼きとか、ヒット商品を大量に生み出せそう・・・。


弟は、幼くして亡くなったけど料理を作ることが好きだった。俺は特に興味がなかったから、あまり知識がない。でも、愛がいれば、現世のレシピは、いくらでも手に入る。料理が上手な人を雇ってお店を出して、ちょっとネーミングをこい焼きとか、イカ焼きとかにして、形を変えればいけるかもね。アイスクリームも、アイスとクリームとかにしてね。


鍛冶スキルのように出来ることが限られているのとは違って料理は、沢山のアイディアで特許も沢山取れるだろうから、やりようはあるだろうな。


醤油とか、マヨネーズとか、味噌とか、そういうのを作り出しただけでも、やっていけそうだよね。


時間が取れたら、レジェンドの料理が好きな人たちに教えてしまおう。


日本人は、やっぱり、醤油と味噌だしね。


ミカエルがいれば、米も夢ではない!


そうこうしている間に、ミカエルが表示をアップしてくれた。


お!発見だ!やっぱりあったんだ!図書館!


『首都ドラゴには、図書館は、1つだけだと思われます。セルフィ様』


『そうか。早速、行ってみるよ』


感動だ・・・。これでやっと・・・やっとだよ・・・。ここに辿りつくまでに、どれだけの苦しみを乗り越えたことだろうか・・・。手探りで、真っ暗な穴の中をロックと死に物狂いで、生還し、人がまったくいない森で、知識0でやってきた苦しさ・・・。ニーナたち人間をみただけで、どれだけ喜んだことだろうか・・・。


現世の知識は持っていても、この世界の知識は、0だった・・・。愛は、もの凄い知識量の宝庫だけど、この世界の知識は同じ0からのスタートだから、愛に聞いたとしても、予想の範囲を超えなかった。この苦しみから、やっと解放される・・・。


今までで、一番の収穫をこれから手に入れることが出来るかもしれない。


この世界の常識を知らなければ、「こんにちは」と言った瞬間に殴られることさえ、ありえたんだから・・・。


その恐怖といったら、無かった。


常に手探りだったところからの解放だ。


源は、ミカエルのソースを5体、図書館の路地裏に移動させて、その周辺の情報を把握する。


そして、念のために、瞬間移動ではなく、空間に穴をあけて、転移移動した。


首都ドラゴ、唯一の図書館だけに、建物が別格に大きい。


源は、喜び勇んで、ゴールドカードを見せながら、図書館の扉を開けようとした。


しかし、図書館の前の警備しているふたりの腕が、それを阻んだ。



「申し訳ありません。ここは、貴族以上、または、学者クラスの方達しか、ご利用はゆるされていません」


嘘だろ・・・。もうあとほんのちょっと先に、あるのに・・・。入れないのか・・・。


宝の山が目の前にあるのに、触ることも、見ることさえできないようなものだ・・・。


源は、それでも、ゴールドカードをみせて、中に入ろうとするが、やはり、止められた。


ゴールドカードを目の前にかざして、警備員に突きつけた。


「ゴールドカードだよ。これサムエル・ダニョル・クライシスから受け取ったものなんだけど?ちょっとでいいから、入らせてください」


「す・・・すみません!規則ですから、いくらゴールドカードのお持ちでも、出来ないのです!」


嘘だろ・・・。この世界に来て、性格が変わったのか、今すぐこの警備員を斬り倒したい衝動にさえかられる。


いかんいかん・・・。それ犯罪ですから・・・。


源は、肩を落として、諦めたように、後ろを振り向き、絶望の中、歩いて移動しようとしていた。


「セルフィ殿。お久しぶりです」


源は、声をかけられても、気づかずに、とぼとぼと歩き続ける。絶望に打ちのめされている。


「セルフィ殿!」


え?


「あ・・・。えっと、僕でしょうか?」


「はい。セルフィ殿ですよね?わたしです。サネル・カパ・デーレピュースです」


えーっと・・・誰だったっけ・・・何だか、後ろの付き人のような眼鏡をかけた人は、気持ち悪いほど、もの凄く笑顔なんですけど・・・


『源。気を確かに持ってください。ドラゴネル帝国上院議員サネル・カパ・デーレピュース様と帝国考古学者の村雨有紀様です。帝国連合軍との戦いのさなか、レジェンドを助けようと動かれた政治家です』


あー・・・あの時の・・・。でも、この人・・・裏切ったんだよね・・・。


源は、それでも、無視して、歩き続けようとした。図書館に入れない絶望と裏切られた相手というイメージで、ほとんど八つ当たりだ。


「セルフィ殿。忘れてしまったのですか?」


「えとですね。僕は、あなたのことをサムエル・ダニョル・クライシスから聞いてるんですよ」


「どういうことでしょうか?」


「僕は、サムエル・ダニョル・クライシスに殺されそうになったのですが、そのサムエル・ダニョル・クライシスの軍を派遣したのは、ドラゴネル帝国上院議員サネル・カパ・デーレピュース殿、あなただそうじゃないですか」


「いや・・・それは・・・誤解です。それは、あなたたちレジェンドを救うために、そのように行動したことなのですよ」


ん?救うため?40万の軍隊をさらに、追い打ちをかけるために、派遣することが、どうして、レジェンドの救いになるというのだろうか・・・。むちゃくちゃだ・・。


「申し訳ありません。意味がまったく解りません。わたしは、やはり、政治家は、信用できないと死ぬ直前に、思い知ったのですけど?」


「セルフィ殿。聞いてください。わたしは、帝国の出兵には、最後まで反対した政治家です。そのために、自分の立場を危うくしたほど、あの戦いに反対した者なのですよ。今回、あなたが、このドラゴネル帝国に来られた理由も、わたしが殿下に、あなたがたの有意義性を訴えたからなのです」


「失礼なことを言いますが、また、政治の道具として、わたしを利用しようとでもなさってるのでしょうか?」


「よいですかな。わたしたちは、確かに、セルフィ殿がおっしゃるように、サムエル・ダニョル・クライシスの軍を早目に動かすように仕向けました」


白状しちゃったよ・・・。


「ですが、同時に、ボルフ王国の民も、妖精族の援軍も、派遣したのは、わたしたちなのです」


え・・・?


どういうことだ・・・。


「おかしいとは思いませんか?世界で最強の帝国の連合軍が、どうして、1方向だけに、軍を進めてきたのでしょうか?本来なら、多方向攻撃をしかけて、包囲するように攻め立てるはずです」


『源。確かにそうです。シンダラード森林は、広く壁で森を囲んでいるわけでもないのですから、多方向から通り抜けていれば、それだけ効率的に、無駄なく、レジェンドを攻め立てれたでしょう』


『ふむ』


「その帝国の動きも、サネル・カパ・デーレピュース殿が働きかけてくださったということですか?」


「わたしが出来うる限りのことは、させてもらいました。帝国連合軍は、完全に、敵を侮っていました。本来の帝国の強さは、あんなものではありません」


「いや・・・でも、帝国軍に影響を与えることは出来ても、貧民地の民や妖精族をあのタイミングで動かすほどの影響力があるとは思えないんですが・・・」


「それが出来るのです」


いや・・・不可能だろ・・・100万を超える規模を敵も味方も、動かすことなんて、出来るわけが無い。


「それが、出来たのも、この少年の賜物ギフトがあってのことです」


サネル・カパ・デーレピュースが、手を向けた先には、マントで姿を隠したような小さい少年がいた。確か、議員が来られた時に、レジェンドを見学したいと言っていた子か・・・あの時は、黒い怪しい感じだった。


『源。あの時は、ソロモンと言われていたこどもです』


『あー。ソロモンか。世界の知恵者ソロモンと同じ名前の!』


「確か、ソロモン君でしたか」


「よく覚えておられましたね」


「名前が印象的でしたからね。彼の賜物ギフトは、そのような能力を持ち合わせているということですか?」


「はい。その通りです。起こっている現象を把握して、予想される出来事を的確に理解し、行動に移して、コントロールする能力です」


そんなこと、出来るわけが無い・・・。ひとりやふたりの行動を予測して、コントロールしようとするのなら、まだしも、100万を超えて、混乱している戦場をそれぞれコントロールさせるなんて、不可能だ。何を言ってるんだ・・・この人は・・・。


『源。わたしは、あの時、源に、何かがおかしいと報告しました。あまりにも、軍の動きが的確で、タイミングが良すぎたことです。何か分からない力が働いているかのようだと伝えたのをお忘れですか?』


『うーん・・・そうだったかなー・・・あの時は必至だったから・・・言われたような・・・言われていなかったような・・・でも、愛が嘘をつくはずもないしな・・・。それがこの少年の能力だったということか?』


『断定はできませんが、そうかもしれません。源。ですが、もし、それが本当のことであったのなら、この少年の能力は、物理的なものを超えています。わたしも、状況把握能力に優れ、ある程度予測は、組み立てることができますが、彼がしたことは、まるで未来予知です。未来のことをみていなければ、成り立ちません』


『未来がみえるというのか?』


『分かりませんが、未来が見えて、なおかつ、その行動をコントロールして、タイミングを合わせられる能力。未来予測操作とでもいえるものでしょう。源』


「わたしは、ソロモンの指示通りに、ボルフ王国の貧民地にいるバルト・ピレリリという方に、手紙を送りました。その時は、セルフィ様の名前を使わせてもらわなければ、無理だったので、申し訳ありません」


「あ!あの手紙は、サネル・カパ・デーレピュース殿だったのですね!確かに、あの手紙のおかげで、民がレジェンドに移動してきて、流れは好転しました」


「そうです。あれは、わたしたちが行ったのです」


「でも、サムエル・ダニョル・クライシスの軍を派遣したのは、なぜですか?」


「ソロに聞いてみなければ、分かりませんが、もし、あの時、サムエルの軍を派遣していなければ、帝国軍は、本気になって40万の軍勢で、数日後に攻め入ったことでしょう。ですが、それを一機に、攻め入ったからこそ、その手が使えず、完全撤退したのです」


確かにそうだ・・・。帝国側からすれば、サムエル・ダニョル・クライシスがいるだけでも、レジェンドを倒せる。侮ってくれていたこと、その後の戦場の全体の流れがあってこその、完全撤退だった・・・。


『源。サネル・カパ・デーレピュース様は、虚偽は言っていません』


「申し訳ありませんでした。サネル・カパ・デーレピュース殿。わたしは、勘違いして、とても失礼なことを口走ってしまいました・・・。お許しください」


「いえいえ、勘違いするのは、当然のことです。そして、今回のことですが、今回も、わたしたちが、動いたことで、セルフィ殿をここへと来させてしまいました。ですが、決して、悪いことではないとわたしは信じています」


「不思議だったんです。どうして、帝国が、わたしと?と今でもその真意が解りません」


「正直いいますと、実は、レジェンドは、滅ぼされる寸前だったのです」


「・・・。」


「サムエルが、どうしても、あなたが驚異だということを撤回せず、サムエルだけでも派遣して、今のうちに滅ぼしてしまおうという流れだったのです」


「そうですね・・・。わたしが、サムエル・ダニョル・クライシスなら、まったく同じ考えになるかもしれません・・・」


「ですが、あなたは、あの戦場で、龍王の予言の証明をされました。ここで話すのもなんですから、言葉を濁しますが、お背中のことです」


「はい。分かります」


「そこから、あなたの存在は、帝国にとって不可欠だという展開へとわたしは持ってゆきました。サムエルは、不快の意をわたしに表しましたが、陛下は、違いました。陛下は、わたしが述べる前から、あなたのことに興味を抱いておられたのです。戦争時もあなたを生かしておくようにという指示も出されていたのです」


「そうでしたか・・・」


さすが司祭様。司祭様の予想が的中だ。


「ですから、今回、ここにセルフィ様がこられたことは、決して悪いことだけではないということをお伝えしたかったのです」


「ありがとうございます」


「ですが、わたしも帝国議員のひとりです。これ以上ことは、お伝えすることはできません。おゆるしください」


「何をおっしゃいますか。十分です。サネル・カパ・デーレピュース殿、ソロモン殿、そして、村雨有紀殿は、わたしたちの恩人です。心から感謝します。ありがとうございました」


「この先の話は、セルフィ殿が直接、お聞きください」


「分かりました」

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