132章 アクセサリー
長距離での主要メンバーとの会議は終わった。みんなの意見は、代表者である俺の判断にまかせるというありがたいものだった。
会議が終わっても、サムエル・ダニョル・クライシスからの連絡はないので、まだ時間がかかるようだ。どのような話になるのかは、分からないが、時間が空いてくれるのは、こちらとしても、ありがたい。
帝国とこじれてしまえば、これからは、帝国には簡単には、行けなくなるかもしれない。だったら、帝国を見学するのは、今がチャンス。
そう思って、源は、帝国の首都の壁の中に入って、情報を集めることにした。
どこが、入り口なんだろう・・・。
見渡しても、巨大な壁がながーく続いているようにしか見えない。
『愛。ズームで、入り口を探してくれ』
『分かりました。源』
そう返事を愛がすると、源の視界が、ぐんと近くなり、遠くまで、見えるようになった。約2km先に、門があるようだ。
飛んでいくと、目立ってしまうかもしれないから、速度向上のスキルを使って、走り抜けた。その間に、大勢の人が通りすぎたが、源には、気づいていなかった。リトシスも併合して使っているので、風も起こらない。
スピードを落としていって、門に近づいたが、大勢のひとたちが、門で並んでいた。検問してから入ることが出来るようだ。
サムエル・ダニョル・クライシスから渡された金のプレートを持って、列に並ぶ。ミカエルたちは、門の中に先に入っているように指示を出すと、細かく分裂して壁を這い上るように、移動していった。
荷物なども、かなり念入りに、チェックされてから、通すようにしているようで、結構な時間、並ばせられた。
どうやら、危機管理は、しっかりしているようだ。
国に入る時に、荷物やパスポートやビザなどをチェックするように、帝国首都に入るのなら、これぐらいのチェックをしてもらわなければ、確かに、安心して、領土内で暮らしていけないだろう。
源は、金のプレートをうちわ変わりに、振っていると、それに気づいたのか、検閲している兵士のひとりが、走り寄って来た。
「ゴールドメンバーの方でしょうか。どうぞ。こちらへ」
あれ・・・。
「何か、わたしがしてしまったのでしょうか?」
「ゴールドメンバーの方は、列に並ぶ必要はありません。そのゴールドカードを発行された方が、あなたの身分を証明しているからです」
「帝国には、はじめてきたので、知りませんでした。並ばなくてもよかったんですね」
「はい。大丈夫です。ですが、はじめて首都ドラゴに入られるのなら、土地勘などは、無いのではないですか?」
「まったくないですね・・・」
「どちらに向かわれる予定でしょうか」
「帝国の首都を見学したいだけなんですよ」
「見学ですか。それでしたら、商店街などが良いのではないでしょうか?」
「商店街いいですね。商店街は、どこにあるんですか?」
「ドラゴの地図がありますから、持ってきますね。お待ちください」
兵士は、わざわざ帝国の地図まで持って来てくれた。そして、商店街の場所を指さした。
帝国には、商店街が200個あるということだった。首都ドラゴの中心部には、そのうちの150個あり、道に沿って、商店街が立ち並び、あらゆる商品が売られているということだった。
商店街1つとっても、規模が違っていた。
普通、街に商店街は、1つ2つだと思うけどね。
ゴールドカードというもののおかげで、門をすぐに通過することが出来た。
壁の中に入ると、2階建てのレンガの家などが、立ち並び、3階の建物まであった。
土地一杯に、建物が建てられているので、、街の道が、まるで迷路みたいになっていて、道が変な形で敷かれていた。迷子になってしまいそうなほどだったが、街全体が活気づいて、平和そうにも見えた。
それにしても、広い・・・。
『ミカエル。首都ドラゴを散開して、正確な地図を作ってくれ』
『分かりました。セルフィ様』
源の護衛として残っていたミカエルの1mmのソースが、一斉に散らばっていった。
ミカエルが移動すればするほど、グングンと正確な地図が作成されていく。
まだ、門からそれほど離れていない1つの商店街のはずれに、武器屋があったので、寄ってみることにした。
以前、帝国との戦いで、帝国騎士たちの武具を調べたことがあるが、武器の素材自体は、あきらかにレジェンドのほうが良いものなのに、なぜかその性能は、同じ程度になっていた。その時は、愛でも解読できなかった。
外れに店があるからか、その武器屋は、古びて見える。客があまり来てくれないのだろう。中にはいると薄暗い店の内装に、武器や防具が置かれているが、ほこりが乗っていたりと少し考えものだと思わされる。
源は、そのうちの1つの剣に手を伸ばして、みてみた。
素材はただの鉄。鋼鉄にすらなっていない。でも、その強度は、鋼鉄に匹敵するほどだと測定された。
『どうして、帝国の武器は性能が若干上がってるんだ?わかるか』
『源。この世界には、核というものが存在しているということでしたが、以前は、その核の存在を知らずに未知なものとして鑑定不能でした。ですが、帝国の武器や武具には、そのほとんどが、核を素材として、使われ、何らかの効果を与えているようです』
核は、別名:魔石とも言われる。この世界でマナを使えるのは、その核がマナ力を蓄える機能があるからだ。スキルについてもまた同じことが言えるようだ。スキルという特殊な効果が顕著にあらわれてしまうのは、本来はありえない。そんなありえない効果も、核が影響していると思われる。その核の性能によって、各自の使えるマナやスキルの量が限定されているようだ。
武器にも、核を使っていたのか・・・。でも、無機物にどうやって、生命エネルギーのような核を組み込んでいるんだろうか・・・。
「武器は好きなのか?」
店主のような年老いた老人が、話しかけてきた。
「はい。特に帝国の武器には、興味があるんですよ。帝国の武器や防具は、核が使われているんですよね?」
「なんだか、大人のように話すこどもだな。そうだ。帝国では、普通の武器や武具は、商品として売れないな」
「武器の性能を伸ばす方法は、どのようにしてるんですか?」
「武器加工のスキルを使ってるんだよ。鍛冶っていうスキルがあるだろ。そのスキルのレベルによって武具に付加機能を付けることができるのさ」
やっぱりそうか。この世界の特殊な能力によって核を取り入れているんだ。
「それをしてもらうには、どれぐらいの値段が必要なんですか?」
「ぼったくりの値段さ。その武器の3分の1の金をあいつら鍛冶屋は、持っていく。おかげで帝国の武器屋は、この様さ」
「高いですね」
「しかも、性能のいい核を付加しようとしたら、さらに値段はあがる」
「それじゃー。武器屋は、鍛冶屋が経営していたりするんじゃないですか?」
「おっしゃる通り、儲かっている店のほとんどは、自分たちで鍛冶ができる奴らさ。しかも、その中でも、特許権利を持って、鍛冶スキルさえ、簡単に付加することを禁止しているという始末だ」
「え・・・。スキルを持っていても、そのスキルを使ってはいけないことになってるってことですか?」
「おかしな話だろ。だから、鍛冶屋にしても、限られた鍛冶屋に頼まないと、武具に付加は付けられないんで、値段が高くなってるのさ。武具組合が儲けを総取りしている状態だから、帝国の武具の付加の性能は、打ち止めになってしまっているんだ」
「本当ならもっと良くできるかもしれないってことですか?」
「鍛冶のスキルを自由に使って仕事として生きていけるのなら、研鑽するのが当たり前だろ。それが帝国では打ち止めになってしまっている悪癖だ」
源は、武具を見ていった。この世界の武具への付加は、ある特定のところに、核だと思われるものが埋め込まれていて、その核に色々な性能が詰め込まれているようだった。
「武具に、核を埋め込んでいるようですが、その方法を変えたらどうですか?」
「なに?どういうことだ」
「武器、そのものに、核を付けていますよね?」
「ああ。そうだ。武器に埋め込んでいく」
「でも、そうすると、その武具だけにしかその核使えないじゃないですか」
「そうしないと、付加できないから、そうしてるんだろ?何百年も前から、それは変わらない」
そうかなー・・・。
サムエル・ダニョル・クライシスもそうだし、ボルフ王国の名も知らぬ騎士もそうだったけれど、武具にマナの効果を与えていた。サムエル・ダニョル・クライシスは、分からないけれど、名も知らぬ騎士は、自分の体の核の性能を利用して、武器にマナを付加していたんじゃないだろうか。
もし、そうなら、武器に核は埋め込まなくても、その持ち主の核さえ武器に触っていれば、武器は、付加効果を得られるわけだ。
つまり、大げさなことを言えば、核そのものを手に持って、武器に触らせていたら、付加がつくんじゃないのか?
スマホにアクセサリーを大量に付けてるJKとかみたいに、武器に核がついたアクセサリーみたいなものを付ければ、付加効果も作動するんじゃないだろうか。
武器自体に、核を植え込むことが特許で阻害されているのなら、アクセサリーの特許を取ってしまえば、どれだけの儲けになるのだろうと俺なら思うけどな。
どちらにしても、鍛冶のスキルがなければ、出来ない。
「店主さん。武器に付加を付ける鍛冶屋さんとか、知り合いはいるの?」
「もちろん、いるさ。でも、そいつは、組合に入っていないから、スキルを持っていても、付加する権利がなくて、鍛冶屋は仕事としてはやっていないけどな」
「それって残念な話ですね」
「まったくだ」
「その方を紹介してもらえないでしょうか?紹介料は、金貨1枚っていうのは、どうでしょう」
「は!?金貨1枚??紹介するだけでか?」
「もちろん、会わせてもらって、武器に付加を付けるところを見せてもらうまでの紹介ですよ」
「そんなのお安い御用だ。でも、その武器はやれないぞ。特許が何だと言われたくないからな」
「見せてくれるだけでいいですよ」
「分かった。少し待っててくれ」
そう店主はいうと、店を走るように出ていった。その間に、店の武具を見て回る。
「お客さん。連れてきましたよ。鍛冶屋のサーロンだ」
「はじめまして、サーロンさん」
「武器に付加をするところをみるだけで、お金くれるっていうのは、本当か?」
「本当ですよ。見てみたいんですよ」
すると店主が、付加のついていない武器と小さな核を用意した。
「お客さん。ついて来てくれ」
二人に連れられて、小さな工房の前に着いた。
「まず、この核の特色は、耐性強化というものだ。その核の性能によって、何を付加できるのかが決まる」
なるほど・・・鍛冶屋のスキルが付加されるのではなく、その核が本来もっている性能がつくということか・・・。納得だ。
「そして、この核を鍛冶のスキルを発動させながら、添付していくんだ」
サーロンは、ハンマーを振りかざして、武器の上に乗せた核めがけて、振り下ろした。
白い光がひかったと思うと核が武器にめり込んでいく。
「鍛冶スキルも熟練度によってその効果が、変わって来るんだ。俺の場合は、核のもともとの性能の60%を引き出すことができる」
「その熟練度は、高い方なんですか?」
店主がうなずきながら、答える。
「6割は、高い。組合で金を取るやつらのほとんどが、3割から4割だ」
「え・・・。それって・・・実力無視されてる感じですね・・・」
「何が特許だ。腐ってんだよ。武器システムはよ!」
店主は怒っていた。そりゃー怒りも抱くなと思う。サーロンさん可哀そうだ・・・。
サーロンは、武器に核を打ち込み終えて、武器を眺める。
「62ってところかな」
「見せてもらってもいいですか?」
「ああ」
源は、その武器をリトシスで調べてみた。確かに、ただの鉄の武器なのに、鋼ほどの強化がある。
「すごいですね。核を入れることによって強化するというものは・・・これは、約束の金貨1枚です」
「おお。ありがとうな。お客さん!」
「いえいえ、こちらこそ。はじめて、鍛冶の作業をみさせてもらったので、感動ですよ」
源は、強化された武器をマジマジとみて、喜んだ顔をした。
「あの思ったんですけど、皆さん、武器に核をいれて、強化しているようですが、武器本体に、核をいれたら、性能は固定されてしまいますよね?」
「そうだね。一度、入れてしまった武器は、あらたな核を用意して、入れない限り、固定される」
「それじゃー。武器に核を入れるんじゃなくて、武器に取りつけ可能なアクセサリーとかに、付加をつけて、好みの性能を取り変えさせるようにするようにしたらどうですか?」
それを聞いて、店主は笑い出した。
「はははは。お客さん。そんな簡単なことできるなら、とっくにやってるよ」
しかし、サーロンは、手に持っていたハンマーを地面に落とした。そして、ぼーっとしてる。
「おい。どうした?サーロン」
「出来る・・・いや、出来るかもしれないぞ!」
「は?アクセサリーにつけて、取り外しができるようにか?」
「カイト。お前は、鍛冶のスキルを持っていないから分からないと思うが、鍛冶のスキルを持っていれば、武器は簡単に付加できるというものじゃないんだ
鍛冶スキルは、ただハンマーを打ち付けているだけじゃなく、その武器と核の性能を合成するように想いを込めて打ち込むんだ。イメージを明確に描けることこそ、鍛冶の熟練度だということだ
アクセサリーに核をいれるというイメージは、武器に核をいれるというイメージとは、まったく違う。武器そのものに、付加を付けるというものとは違い、第三者的なアクセサリーを他の武器に影響させるというイメージを持って作らなければいけないわけだ。そんなイメージを鍛冶屋たちが持てるはずもない。だから、それを試すことさえ発想できないから、存在していないんだ」
サーロンは、小さな鉄の棒と小さな核を持って、また打ち始めた。
また白い光がひかり、その鉄の棒きれに、核が打ち込まれていく。
そして、完成すると、その棒きれを何の付加もついていない剣につけて、持つと、その剣は、赤色に光り出した。
「出来たぞ!!付加がついた!」
「ええー!!本当か!?」
「30ほどの効果しかないが、それは適当に打ったのと、イメージが固まっていないからだ。これから打っていけば、もっと割合は上げることができる!お客さん。これは大発見だよ」
「よかったです。武器にいれる特許は取られているようですけど、アクセサリーに入れる特許がないのなら、サーロンさん。取得して、組合でも作っちゃえばいいじゃないですか?」
「いやいや、この発想は、お客さんのものだろ?俺は言われたことをただ、鍛冶スキルで実践してみただけだ」
「うーん・・・。鍛冶スキルもない俺が特許を申請してもね・・・。サーロンさんがしたほうがいいでしょ。俺は特に、権利とかは要りませんよ。武器屋でもないですしね」
店主が驚いた顔をしてる
「おい。お客さん。どういうことか分かってんのか!?その特許を取れば、すごい儲けになるって言ってんだよ!」
「まーそうですけど、俺はお金は特にほしいと思っていませんから・・・でも、そのアクセサリーの特許の使用権利をサーロンさんに認めてもらうことは、してもらいたいかな。あと、少し1時間ぐらいサーロンさんの体を調べさせてもらえませんか?」
「ん?そりゃーもちろん、使用許可なんていくらでも、出しますよ。でも、体を調べる?」
「お金いりませんし、それを報酬として、認めてもらえば俺はいいです」
「別にいいけれど、それだけでいいのか?」
「はい」
「鍛錬するところをみせるだけで金貨1枚とか不思議な人だなー・・・」
源は、サーロンを横に寝かして、そのサーロンの体の上に、手をかざした。
『愛。サーロンさんの鍛冶スキルのプログラムを取得できるか?』
『はい。もちろん可能です。30分もあれば、鍛冶スキルだけなら取得可能です。源』
源は、サーロンの鍛冶スキルのプログラムを愛のデーターベースにコピーした。
「サーロンさん。ありがとうございました。アクセサリーの特許権利は、あなたのものです。頑張ってください」
「ほ・・・本当にいいのか!?」
「いいですよ。でも、使用権利あげないとか、あとで俺をイジメないでくださいね・・・」
「絶対しないさ。他の武器組合の奴ら、利権を独占している奴らには、簡単には、権利を与えないけどな」
「そうでしょうね。えと・・・特許申請ってお金かかるんですか?」
「そうだな・・・結構、お金はいる。裏で手をまわすとかいうのも考えると、金貨30枚は必要かもしれないな」
「じゃー。これ金貨40枚渡しておきますよ」
「ええー!!?何ぃ・・・・?」
「だって、サーロンさんたちが、特許をしっかり取らないと、俺も困りますからね。サーロンさんは、俺をイジメないって約束してくださいましたしね。サーロンさんが、将来、その権利で、儲けられるようになったら、返してくれればいいです。儲けが出なければ、返す必要もありませんよ」
「い・・・いいのか?」
「どうぞ。使ってください。あ。ちなみに、この金貨。考古学的に希少なものですから一般の金貨の10倍の価値ありますからね」
「ええー!!ということは、さっきのも?」
「はい。10倍ぐらいの価値ありますよ。4000年前の狼王の時代の金貨ですからね」
「ということは・・・」
「すみません。その特許のことは、お二人におまかせしますから、お願いしますね。俺は帝国の見学をこれからしたいと思ってるので、今日は、これでお暇します」
「あ!名前!お客さんの名前を教えてもらえますか?」
「セルフィといいます。ミドルネームなどはありません。セルフィだけです」
「セルフィさん。ありがとう」
「いえいえ、お互い様ですから、起きになさらずに」