126章 アモラ討伐作戦
「今回、総指揮をまかされたプリオターク騎士団ソロモン・ライ・リアムだ。目の前に対峙している約2000匹のモンスターをここで喰い止める
この規模で帝国に攻めてきた例は、半世紀以上なかっただけに、危機感を持っていない者がほとんどかもしれないが、相手は発見されて間もない新種のモンスターだ
『アモラ』と命名された
Bクラスのモンスターであり、問題は、襲った者を同じモンスターへと変え、増殖させる能力がある
接近戦では、B+以上の者たちが行い他は遠距離からの支援とする
視力はほぼ無く、嗅覚にすぐれ、素早くパワーのある攻撃をしかけてくる
我々は、水気による魔法支援を駆使していく
モンスターは、知的レベルは、Dだが、決して、侮るな!モンスターを操る者がいると考えられるが、そのような者を発見し、捉えれば、恩賞が追加される。この戦いで帝国騎士の強さを証明せよ!」
リアムは、騎馬の手綱を右に引き寄せ、方向をかえて、本陣へと戻り、呼びかける。
「モーア。最小限の被害で、最大の成果をあげよ」
「ハッ。プリオターク騎士団の名誉にかけて責務を果たします」
プリオターク騎士団の軍師チリガーム・トルー・モーアは、組み立てた作戦を各部隊に、手信号を送りながら実行していく。
「お手並み拝見といこうか」
その指揮を本営で、見据えていたのは、第4帝国騎士団長、天翔騎士団パーシー・テリシだった。パーシー・テリシは、獣人系のケンタウロスの英雄と言われている。
パーシーの含みのある面持ちを無視するように、リアムは、自分に任された軍の状況を漏れの無いように見渡す。
そうこうしている間に、動いたのは、アモラだった。知能レベルが高いわけではないアモラは、間を測るわけもなく、バラバラに前進しはじめた。
軍師チリガーム・トルー・モーアが右手をあげると、軍の左右に250人ずつ分かれていたB+以上の騎士たちに対して、キャスター部隊が、水気の支援をかける。スミスの支援では、球体を作り、支援する相手を囲むようにできるが、各キャスターの熟練度の差で、様々な水気の支援がされる。
その間も、アモラは、軍へと攻めるが、アモラが進んでいる先には、弓隊が待ち構えていた。弓隊には、わざと水気の支援はかけずに、囮とさせた。
まばらに、アモラは、匂いのする前方方向にいる弓隊へと近づいてきたが、帝国軍は、次の合図で、矢を放った。
その矢は特注の大き目のもので、アモラの皮膚であっても突き刺さる。しかし、アモラは、痛みを感じないのか、気にせず、進み続けた。
そのアモラたちの前進を左右のサイドから近衛騎士たちが、縦長に、攻撃をしかけた。
近衛騎士には、水気の支援がされていたので、そちらの方には、アモラは、気づかなかった。騎士たちは、それを把握して、移動しながら、次々とアモラを斬り捨てていく。
B+の騎士たちの剣は、鋭く強固な肉体を持っているアモラであっても、隙だらけの箇所に攻撃されることで数を減らしていった。
斬られたアモラたちは、叫び声をあげたことで、攻撃されていることに気づいたのか、匂いのしない水気に向かって、反撃しはじめた。アモラが攻撃することに、対応できなかった騎士は、そのパワーの衝撃で吹き飛ばされるものがいたが、ほとんどの騎士は、アモラが腕を振り回すだけの攻撃を躱して、さらにアモラを斬り捨て続ける。
リアムは、本陣から全体の戦いをみるが、思った以上に、作戦が上手くいっていることに頷く。
しかし、アモラたちは、斬られた腕などを拾い上げると、前方方向の弓隊に向かって体の一部を投げ始めた。
その体の一部が、弓隊を襲いはじめた。
アモラの体の一部が、それぞれ触手のようなもので動き始め、比較的軽装な弓隊にへばりつき始めた。弓隊たちは、気持ち悪がって、へばりついたアモラの一部を無理やりひきはがすと、すぐに自分から離れたところに投げ捨てた。持っているだけでも気持ちが悪かったからだ。
投げ捨てられたアモラの一部は、また動いて、違う弓隊の体にへばりついては、ひきはがされるを繰り返すが、それが少しの混乱となって、弓攻撃が疎かになる。
その間にも、アモラたちは、本隊へと近づく。
軍師チリガーム・トルー・モーアは、斬り捨てられた体の一部だけになっても、動き続けることを知ると、考えた。
アモラは、本当に死ぬのだろうか?すべて燃やしきらなければ、殺すことができないモンスターだとしたら、それだけ驚異度は増す・・・このような生態のことは、リアムからも聞いていなかった
そう考えていると、アモラの体の一部は、時間とともに、動かなくなった。本体と切り離されて数分だけは動けるだけで、そのまま生きていられるのではないということが分かった。
アモラは、知能レベルが低い。戦略的な意味があって体の一部を投げたとは思えない・・・何を考えて、複数のアモラが投げつけようとしてきたのだろうか・・・しかし、未知なる者に対して、考えても答えがでるはずもない
軍師チリガーム・トルー・モーアは、右手をあげると、指示旗が大きく振られた。
500人の近衛部隊は、一列に並んだ隊形から各自、個々でアモラを狩り始めた。そうすることで、アモラの前進する速度を落とすことに成功した。
そして、弓隊の前には、巨大な盾を持った兵士たちが、2列になって立ち塞がった。弓隊の足元には、台のようなものが置かれ、近づいたアモラに対して、高い位置からピンポイントで弓攻撃をしかけはじめた。
何の戦略もないように、攻め込んでくるアモラたちは、着実に数を減らしていった。近衛騎士たちは、倒すよりも自分たちがアモラにされないことを優先にしているので、ひとりとして死者は出ていない。
B+騎士は、個々の能力が高いだけではなく、連携も素晴らしかった。不意の攻撃を受けるぐらいの被害にしかあっていない。
アモラは、それでも匂いのする方向へと移動を進め、とうとう本陣と接触したが、巨大な盾を持つ壁に進行をはばまれた
突進してくるアモラの衝撃も、事前に想定されていたことで、盾の創意工夫がされて対処したのだった。盾には、地面に食い込ませる突起が付けられ、また横からの衝撃に耐えられるように、鉄の棒が地面に刺され、盾を固定させていた。そのような盾が並んでいるのだが、それでも、盾は、アモラの突進の衝撃で、後ろに押されるほどだった。
しかし、一度目の衝撃を耐えきれれば、盾としての役目はほぼ終わっている。盾の壁に行き場を失い後ろから続くアモラによってスペースを無くし、近衛騎士によって、動けなくなったアモラたちは、倒されていった。
これを続ければ、アモラの討伐は、成功すると思われた時、異変が起こり始めた。弓隊の兵士たちが、苦しみ地面に倒れていった。
何事なのか分からず、苦しみだした仲間の兵士をみるが、倒れた兵士たちが、次々と、体を変貌させていったのをみて、叫んだ。
「アモラだ!アモラになるぞ!」
アモラの体の一部に接触した兵士たちが次々と体を変貌させていった。
リアムは指示を出す。
「プリオターク騎士団は、内部に発生したアモラを排除せよ」
本陣を守るように構えていたプリオターク騎士団は、速やかに移動をはじめるが、その間にも、アモラが、内部から発生して、隊列を乱した。
近衛部隊は、B+のランク能力だが、それ以外の兵士は、Bでさえないので、アモラに単体で太刀打ちすることはできない。ヘタに相手をしようとすると、さらに感染させられ、アモラを増やすことになるので、内部のアモラに対しては、距離を開け、丸い円陣のような空間が出来てしまった。
プリオターク騎士団が動いたのをみて、スミスは、リアムに許可を仰いだ。
「お父様。わたしも、アモラの排除に向かわせてください」
リアムは、すぐに返答できず、考えたが、ひとりでアモラを倒したという息子を信じることにした。スミスに対して、心配そうな顔をしながら、許可を出した。
「分かった。行け」
スミスは、頷き、本隊の隊と隊の道を走り抜けた。
スミスに許可を出したのは、本陣内部のアモラ排除だけのことではなかった。遠征に出向く前に、リアムは、スミスに話をしていた。
今回の任務の総指揮をまかされたことで、リアムは、ルイーズの保護を優先することができない。
アモラは、人と接触することで増殖してしまう以上、完全に処理対象となる。
もし、今回のアモラ側に、ルイーズがいたとしたら、助けられる見込みがないことをスミスに教えた。
軍師チリガーム・トルー・モーアの計らいによって、プリオターク騎士団には、ルイーズのことは伝えられていたが、それ以外の兵士たちには、伝えることもできない。
プリオターク騎士団であっても、優先するのは、排除であって、ルイーズの保護にすることは表だってはできないのだ。
しかし、まだ兵士として参加していないスミスは、その限りではない。リアムは、息子スミスにルイーズやリューイのことを頼む以外なかった。
しかし、スミスに対してもリアムは、スミスの命と安全が第一であって、ルイーズたちの保護は、ほぼ不可能であることを認識するように伝えた。
スミスも、変貌してしまったルイーズに何度も話しかけたが、反応がなく、襲ってきたのを体験しているだけに、望みは薄いと考えていた。
体の一部であっても感染させる能力がアモラにあるのなら、保護するために、ルイーズを触ることさえできないのだ。
そして、最後に、リアムは、今回の作戦に同行する天翔騎士団パーシー・テリシには、気を付けるように言った。帝国最強騎士サムエル・ダニョル・クライシスと同じS級騎士に認定されている戦士のひとりだったからだ。
サムエル・ダニョル・クライシスとは違い、私情をまったく顧みないパーシーの姿勢は、仲間であっても排除してくる可能性があり、実際そのような事例もあったからだ。
本陣内部でアモラに変貌した者は、丸い円陣の距離をすぐにつめて、暴れまわった。軽装の弓隊が、アモラのパワーで無事でいられるわけもなく、次々とはじきとばされていった。
そのアモラに対して、風のように現れ、攻撃をしかけたのは、ソロモン・ライ・スミスだった。
弓兵に手を伸ばしたアモラの手を斬ると、地面に落ちる前に、アモラの腕を素早い剣さばきで、細切れにした。
そして、円陣の真ん中になるように、アモラを蹴り飛ばし、たじろいだところに、真っ二つに頭から切裂いたと思うと、高加熱の炎をドーム状にして、アモラを燃やし尽くした。
リアムは、本陣からスミスを見守っていたが、さすがにそこまで出来るとは思っていなかった。自分が想定していたよりも、スミスの成長が著しいことに安堵した。自分と同じ、もしくは、それ以上の力があるかもしれない今初めて知ったのだった。
「ほー。あれが、リアム殿のご子息ですか。まだ、成人もしていないように見えますが、将来楽しみですな」
天翔騎士団パーシー・テリシは、スミスの働きをみて、不敵な笑みをみせた。
リアムは、何とかパーシーの意識を息子スミスではない方へと向けさせようとスミスがいるところではない戦いの場所を指さした。
「パーシー殿。あのように戦う奇妙な生き物は、どこから来たのか分かりますか?今回のアモラの生態のこと、人がモンスターのように変貌してしまうその仕組み、解明できないものばかりだ。だが、色々な場所に出向くあなたなら、何か少しでも情報があるのでは?」
「さてね。人がモンスターへと変わるなどの奇妙なことは、一度もみたことはありませんな
モンスターはモンスター。人は人。獣人は獣人。魔族は魔族として、区別して捉えているぐらいですからな
機密部隊として動くことが多いプリオターク騎士団の騎士団長が知らないことをわたしが知っているとも思えませんしね」
「パーシー殿。アモラは、未知な生物だけに、どのような戦いになるかは分からない。部隊に被害が増すようなことになるようなら、天翔騎士団の団長であるあなたの力を借りますぞ」
「もちろん、総指揮をまかされているのは、リアム殿です。リアム殿の指示があれば、すぐにでもわたしは動きますよ」
スミスは、プリオターク騎士団と共に、内部に発生したアモラの排除を繰り返した。スミスは、アモラを燃やして排除できたが、プリオターク騎士団たちは、斬り捨てる程度しかできないので、その肉片がまた兵士を襲おうとしてくる。しかし、兵士たちも、肉片であっても感染することを知ると、注意して行動を取ったので、被害は、抑えられていた。
そうこうしている間にも、盾に行き場を失った外側のアモラたちが、積み重なり、仲間のアモラたちを踏み台にして、アモラたちが、盾の内側へと入りはじめた。
内部で暴れようとしていたアモラたちは、変貌の途中であっただけに、倒しやすかったが、外から入り込んできたアモラは、完全体として、暴れてきた。
軍師チリガーム・トルー・モーアは、弓隊を下がらせ、プリオターク騎士団が動きやすいスペースを確保させた。盾から乗り込んできたアモラたちをプリオターク騎士団が排除していく。
スミスは、減少していくアモラたちをみて、隊が崩れることはないと思い。盾の外側へと浮遊術で、移動しはじめた。
騎士の息子としては、役目は果たした。次は、母ルイーズの息子として、母をみつけなければいけない。
もうすでに、アモラは、かなりの数、減っているだけに、ルイーズが無事かどうかは、疑わしい。まだ、討伐されていないとしても、足の鉄輪だけの印だけで、見つけるのも困難だった。しかし、あきらめることも出来ないので、空からアモラたちの足をみて、探し続ける。
探している間にも、B+の騎士たちが、アモラを排除していく。
もしかしたら、ルイーズやリューイのアモラは、この集団とは別行動を取っているかもしれない。もともと、この集団と一緒に行動していなければ、まだ保護できる可能性がある。
そう思っている時に、足に鉄輪をつけているアモラを見つけた。その鉄輪は、リューイのものだった。
ということは、ルイーズもこの戦いに入り込んでいる可能性が高い。
ランダムな動きをするアモラを近衛騎士たちは、追いかけるように、近づき、斬り捨てている。リューイは、その間をぬって、何とか無事に目を付けられず、生き残っていた。
スミスは、ウォーターの支援が切れた騎士たちに、上書きで水気をつけながら、自分には、わざと水気を付けずに、リューイへと近づいた。
匂いをリューイのアモラが嗅ぎつけ、スミスへと攻撃をしかけてきた。
スミスは、その攻撃を軽く躱しながら、戦場から離脱させるように、リューイを誘い出そうとする。
その間にも、他のアモラがスミスの匂いに気づいて、同じように誘われては、攻撃してくるので、スミスは、そのアモラたちは、斬り捨てていく。
「リューイさん!僕のこと分かりますか?ソロモン・ライ・スミスです。ソロモン・ライ・リアムの息子です!」
スミスは、声をかけるが、リューイは、攻撃をゆるめることは無かった。
こどもであろうスミスが、支援の水気もなしで、アモラから攻撃されているのをみて、近衛騎士が、助けようと、リューイに攻撃をしかけた。
スミスは、その騎士の剣を受け流して、リューイを守った。
「このアモラには、手出し無用です。これはわたしが受け持ちます!」
「君は、なぜこんなところにいるんだ?」
「わたしは、プリオターク騎士団長ソロモン・ライ・リアムの息子スミスです。父の命令でここにいますから、お構いなく、他のアモラの排除をお願いします」
一匹のアモラに対して、攻撃しないのに、他のアモラは、簡単に切り捨てるスミスをみて、不可解に想いながらも、他のアモラ排除を行い始める。
スミスは、後ろに何かを感じた。アモラとは違う何かだった。
後ろを振り向くと、ひとりのケンタウロスがいた。
「ソロモン・ライ・スミス。何をしている?」
スミスは、そのケンタウロスの存在感を感じて、すぐに天翔騎士団パーシー・テリシだと分かった。
「パーシー・テリシ騎士団長殿。このアモラは、わたしたちプリオターク騎士団の騎士のひとりが、変貌したものです。このアモラに対しては、わたしにお任せください」
「何を勝手なことを言ってる。他のアモラたちは、人間ではなかったとでも思っているのか?お前のそのアモラと、他のアモラに区別をつけて、動くことは、他の騎士たちの危険になる。すぐにそのアモラを排除しろ」
スミスは、悩んだ。自分を守るために、アモラとなってしまったリューイを簡単には、諦めきれない。
悩んで躊躇しているスミスをみて、パーシー・テリシは、剣を振り下ろした。
スミスは、リューイに向けられた剣を自分の剣で受け流した。
パーシー・テリシは、冷めたような目つきで、スミスをみつめる。
「よいか。ソロモン・ライ・スミス。戦いとは非情なものだ。お前が今、体験していることも、その苦しみの1つにしかすぎん。しかし、非情を受け止められず、情に流されれば、また問題を生み出し、被害者を増やしてしまうのだ。受け止めろ」
スミスの目の前から、パーシー・テリシは、消えたと思うと、後ろにいたはずのリューイのアモラが、斬り捨てられていた。
スミスは、パーシー・テリシの動きにまったく反応できず、リューイが殺されてしまった。
「リュ・・・・リューイさん・・・」
スミスは、悔しくて、その場で、奥歯を噛みしめた。パーシー・テリシは、問答無用で、速やかに行動を実行すると身を持って知った。
すると、立っていた先に、足に鉄輪をしているアモラをスミスは、みつけた。母ルイーズだとすぐに分かった。
スミスは、ルイーズに近づこうとしたが、パーシー・テリシがどこにいるのか、探した。
パーシー・テリシは、スミスをジっとみていた。このままでは、母ルイーズもリューイのように殺されてしまう。
そう思ったスミスは、他のアモラの排除して、気持ちを切り替えたように、パーシー・テリシにみせようとした。
そうしている間にも、他の近衛騎士が、ルイーズを排除する可能性があるが、簡単には、近づくことができなかった。