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125章 転落

スミスは、まるで死んだかのように、眠りについた。


以前は、寝ていても、少しぐらいの意識は、あったはずだが、体力を回復しようとしているのか、深い眠りにつくようになった。


目を覚ますと、スミスは、リアムから呼び出された。スミスは、父の書斎に見慣れない人が二人いて、頭を下げた。


「スミス。こちらは、上院議員サネル・カパ・デーレピュース殿とムラマメユウキ教授だ

農村でのお前の話を聞きたいということだ。本来なら、こちらが出向くべきなのだが、わたしたちに不幸があったことを考慮されて、わざわざ足を運んでくださった

獣人暴徒化事件のことをわたしとは違う方面から調べられてらっしゃる」


「はじめまして、ソロモン・ライ・スミスと申します」


上院議員サネル・カパ・デーレピュースは、こどものスミス相手にも、礼儀正しく話しかけた。


「はじめまして、このような時期に、お話を聞くことは、心苦しいのですが、どうやら帝国に向かってくる集団が間近に迫っているようで、なるべく早く情報を得たいのです。よろしいでしょうか」


「お心遣いありがとうございます。わたしが出来ることは、何でもしようと思っています。ですから、気になさらないでください。旅からの話でよろしいでしょうか」


「そうですね。スミス殿からの視点が聞きたいのです」


「お父様の仕事が忙しくなる前に、家族で旅行に行こうと出かけたのですが、その帰りに、帝国に暴徒化の事件が起こったということで、先にお父様が帰還し、わたしたちは、別行動で、ゆっくりと帰りの道を帰って行ったのですが、その途中で、不穏な集団を見かけたのです

数はおよそ200ほどで、そのうち20ほどが、わたしたちの方角に近づきはじめ、わたしたちは、何とかやり過ごしました

近づいたことで、その姿を確認できたのですが、今までみたことも聞いたこともないような奇妙なモンスターでした。目はなく、顔の中心には、鼻のような大きな穴があり、どうやら匂いで相手を認識しているかもしれないと考え、魔法のウォーターや川などの水を利用して、匂いを消して、やり過ごしました」


「匂いだけで認識していたのですか?」


「いえ、音も聞くことができるようですが、わたしたちがいた場所からその集団までの距離は約3kmほどあったのに、その地点から認識できた方法が、嗅覚ではないかと思い水を利用したのです」


「なるほど、聴覚もあるが優れた器官は、嗅覚ということですね」


「はい。そうだと思います。目らしきものもありませんでしたし、戦った時の動きも視力に頼るものではありませんでした

20匹のうち一匹だけ、何とかわたしが相手をして倒したのですが、その時は、森の中におびき寄せて、森に火をつけ、煙の匂いで、相手を翻弄したのですが、相手は煙の匂いとわたしの匂いを区別しだして、素早い動きと強力な腕力で、攻めてきました

その時は、一匹だけでしたので、何とか倒せたのですが、とても強いモンスターで、残り19匹は倒せないと思い、どうしようかと思っていたところ、弟のソロの機転のおかげもあって、水でやり過ごして助かったのです」


スミスは、その後、20匹が帝国に向かったので、そちらには近づかないように、安全確保のために、時間を費やし、煙があがっていた農村の様子を安全を確認してから、調査したことを話し、母と騎士リューイがモンスターとなってしまったことなどの一連の出来事を説明すると上院議員サネル・カパ・デーレピュースは質問した。


「スミス殿の話からすると、その200匹ほどのモンスターは、そこにいた農村の村人が変貌したもので、今向かっているモンスター千体は、人間を変貌させて、数を増やしながら向かっているかもしれないということですな?」


「はい。その可能性があります。わたしたちは、200匹の集団とは鉢合わせにならないように、何とか帝国に戻って来たので、その後の動きは、まったく分かりません」


嬉しそうに、村雨有紀が話しだす。


「興味深い。人の変化、人の変貌、人の意思が関わり、歴史が表すように行われるのなら、現代でも起こされるのでしょうか。」


「これ!有紀!ソロモン家は、被害者なのだぞ?何が言いたいのか、解りやすく話なさい」


「大変申し訳ありません。太古の昔、世界にはモンスターは存在せず、突如として、モンスターが現れ人を襲うようになり、人の減少とは反比例するかのように、モンスターの数は増えていったという文献があります。人がモンスターとなったというのなら、文献の内容も、同じような現象であるかもしれないと思ったのです」


スミスが質問する。


「では、この世の生き物が変貌することは、自然なことだということですか?」


村雨有紀は答える。

「当然ではないが、この世界では、可能かもしれないということです」


教授の言っていることをみなは理解できず、少し時間が空いたが、リアムが話を進める。


「世界がどうかは分かりませんが、スミスの体験からすると、人の意思で、人をモンスターへと変える技術がある可能性が高いと思われます。その仕組みを開発した何者かが、何かの目的で悪用しているのなら、そのような仕組みを実験しているような話は、聞いたことないでしょうか?」


村雨はそれにも答える。


「その昔、研究によって世界の価値観を打ち壊したのは、世界初の悪魔族と言われているエジプタスでしょう。彼女は、魔法、マナとその時代いわれていましたが、マナをあらゆる方面から研究を続け、多種多様な魔法を生み出したと言われています

現在、100以上の魔法が、遺跡の封印の珠から出てくるようになったことも、エジプタスによる功績によるものだとさえ言われています。エジプタスは、様々な研究を行ったと文献にも残されています」


「では、もしかすると、魔女の国、魔法国モーメントが関わっている可能性があるかもしれませんな」


スミスは、それを聞いて、少しマーレのことを思い出した。ただ、マーレとは会うなとリアムから言われていたので、そのことは話題には、出さなかった。


上院議員サネル・カパ・デーレピュースは、難しい顔で考え込む。


「スミス殿のいうことが事実だとして、一番の問題は、その得体の知れないモンスターが、他の人間まで同じモンスターにしては、増殖していることで、へたをすると取り返しのつかない事態に陥るかもしれない。確実にそのモンスターよりも強い騎士たちで戦うなどをしなければ、逆にモンスターの数を増やしかねないですからな」


リアムも頷く。


「確かにその通りです。帝国城壁の上からモンスターを倒すのはいいとしても、接近戦を仕掛けるのは、B+以上の騎士にするべきですね。平均的強さがDであるから、B+となると人数が限られてくる。帝国と言えども、2000いるかどうかというところか・・・倒すにしても、なるべく接近戦をせず、ウォーターで身を守り、相手を翻弄させ、吸引されないようにお互いを守り合うようにするべきか」


また上院議員サネル・カパ・デーレピュースは感心する。


「それにしても、さすがはソロモン家の跡取りですな。C+あるいはBレベルほどのモンスターを14歳という若さで倒すことができるのですから」


「このスミスは、幼い頃、わたしが保管していた封印の珠を触ってしまい、魔法を手に入れるようになったのですが、こどもとは思えないほどの操作で魔法を使いこなしていたのです」


「そうですか。将来は有望ですな。ところで今朝、屋敷の敷地に、こどもらしい姿を見かけたのですが、あの子もリアム殿のお子でしょうか?」


スミスが答える。


「たぶん、それはソロだと思います。わたしの弟です。今は11歳ですね」


「そうですか。ソロモン家は、将来、安泰ですな」


リアムは、真剣な面持ちで、村雨有紀に質問した。

「さきほど、スミスが話した通り、わたしの妻ルイーズが、そのモンスターの姿になってしまったと思われます。それをもとに戻す方法を教授は何かご存知ではないでしょうか?」


村雨有紀は、目をつぶり頭をゆらしながら、考え込む。


「うーん・・・これは、ただの憶測でしかありませんが、行方を消した人間がいれば、モンスターが増えるというバランスが若干ながらみえるのですが、逆もまた同じで、モンスターの数が減少すれば、若干人間の人口にも影響があり、増加している節があるのです。で、あるのなら、モンスターが人になった。または戻ったということなのかもしれません。その戻る方法は分かりませんが、ミステリアスバースを生み出す遺跡に何か人をモンスターにしたり、人間に戻したりする秘密が隠されているかもしれませんね」


「そうですか・・・遺跡探求といえば、サムエル・ダニョル・クライシスですが、遺跡で解明されたことは、口外してはならいという暗黙のルールがあり、聞こうにも聞けない・・・。わたし自ら遺跡深くいく必要があるということですね」


「かもしれません。または、モンスターを作り出す技術を開発した何者かを捕まえることでしょうね」


上院議員サネル・カパ・デーレピュースは、思い出したかのようにリアムたちに聞いた。


「そう言えば、この近くで殺人事件が起こったらしいですな」


知らないという顔でリアムが聞き直す。

「殺人事件?」


「はい。ふたりの酔った男が真夜中に、無惨な姿で路上に野ざらしにされていたというものです。この近くだというので、お気をつけください」


「無惨ということ、どういった手口だったのでしょうか?」


「何でも、獣が人を襲ったかのような事件らしいのです。ふたりの体は発見されず、顔だけが残されていたのですが、その路上で切裂かれたのは、血痕からして明らかで、その切裂かれ方からして、鋭い爪のようなものだということです。これが今回のことと関わりがあるのかは、分かりませんが、かなり狂暴な生き物が、こんな街深くのところにまで入り込んでいたとすると危険ですからな。ですが、やはり暴徒化事件とは、あまり共通点のない事件ですな」


リアムは、立て続けに事件が起こったことに深いため息をついた。


「悪いことは重なるといいますが、まさにそれですね」




―――スミスから得たモンスターの情報は、速やかに、帝国騎士たちに流された。なるべく接近戦は避けて、モンスターを増やさないようにすること、またウォーターなどによって、モンスターの嗅覚から身を隠すなどが伝えられた。


しかし、問題は、増殖するのなら、このまま帝国まで進行してくるまで、待つということは出来なかった。その間にある村などが襲われれば、またモンスターの数が増えて、被害が拡大してしまうからだ。


そのため、B+以上の騎士が500名集められ、その500名は接近戦を担い、その他のものは、遠距離からの攻撃などに従事することとなった。


500人には、ウォーターの魔法支援をするように、魔法部隊も編成された。総指揮を取るのは、プリオターク騎士団の騎士長ソロモン・ライ・リアムとなる。プリオターク騎士団の騎士は、すべてがBを超えていたので、即戦力となる。


モンスターを倒したことのあるスミスは、リアムと一緒に、遠征へと向かうことになった。リアムとしては、連れて行こうとは考えていなかったが、スミスがどうしても、役に立ちたいと願い出たからだった。


―――スミスは、遠征に行く前に、マーレ・ソーシャスなら、母を元に戻せる何かを知っているかもしれないと思い。いつもの森へと足を運ぼうと、外にでた。


ソロが、そのスミスの行動をみていたが、ソロは、何も言うことはなかった。だが、ソロの様子がどこかしら寂しそうににもみえた。お母様のことが原因かもしれないとスミスは、思った。


気配に気づいたのか、マーレが先に声をかけた。

「スミスか?」


マーレ・ソーシャスは、木に背中を持たれかけ、地面に座っていた。


「はい。マーレ様。スミスです。あの時は、わたしを助けてくださり、ありがとうございます」


「うむ。お主に与えた力は、使いこなせているか?」


「それは、まだ分かりません。ですが、力がみなぎり、以前とは比べ物にならないほどの身体強化を獲られてはいます。それは今でも変わりません。一体、わたしに何をなされたのですか?」


「お主には、以前から言っておいたことを実行したまでのことだ。力を分け与える代わりに、わたしとの契約を履行せよというものだったはずだ」


「わたしは、てっきり、それは魔法やプロットのことだと思っていました」


「魔法は確かに有力だが、それでも身体能力もなければ、命はいくつあっても足りないのが、このご時世だ。この世界の流れが変わり始めているということを話したが、それは魔法だけのことではない。生き物の身体的な変化もまた行えるようになりつつあるとわたしは睨んでいる。その一旦の力をお主に与えたのだ」


「この胸にある刻印やあの紫色の液体は何だったのでしょうか?」


「スミス。お主は、わしの姿をみて、何族だと考える?」


「マーレ様は、魔族ではないのでしょうか?」


「そう思えるだろう。確かにわたしの姿は、どこからどうみても、魔族のもののようにみえる。しかし、実際は、お主と同じ人間なのだよ」


「そうなのですか?!」


「お前はわたしの弟子であり、将来は、この新しい時代の先駆者となると思っている。弟子であるお主だけに与えたのではなく、わたし自身も身体的変化を及ぼして、力をえたのだ。そして、力を獲るために必要なものが、フュージョナリティというあの魔力液なのだ」


「わたしの体も魔族のようになるということでしょうか?」


「それはお前次第だ。ただ、人間の体だけでは限界がある。だからこそ、他種族との融合を果たした体へと変えることで、身体能力を得て、強さを増せるのだ」


「マーレ様。実は、あの後、わたしの母が、奇妙なモンスターに襲われ、そのモンスターに吸引されると、モンスターへと変貌してしまったのです。マーレ様なら、母を元の人間に戻す方法をご存知ではないでしょうか?」


「能力強化を行うために、他の種族と融合すると、それは深いところでの結びつきとなり、簡単には、切り離せなくなるのだ。残念ながら、今のところ、同じように、元に戻す方法は、確立されてはいない。すまないな」


「マーレ様は、なぜわたしを選ばれたのでしょうか?」


「それは前にも、言っただろう?お主には、天性の才能があるとわたしが見抜いたからだ。お前に与えた力は、融合して、なじむまでに、時間がかかる。以前よりも力を得たとは思うが、多様することは、控えたほうがいい。そうしなければ、逆に、体への負担となってしまう。制御しながら、使うようにしなさい」


「そうですね。マーレ様の仰る通り、わたしもあまりにも力が溢れてくるので、暴走しないのかと制御して力を使うようにしていました。やはり、使いすぎはよくないということなのですね」


「スミス。わたしはお主には、自由を与えたいのだ。世の仕組みが固定され、なかなかそこから自由へと至れない時代が続いたが、これからはまた変化の時代へとなる。その新たな時代において、自由に自分の道を選び生き抜いてもらいたいのだ」


「わたしはマーレ様には感謝しています。もし、マーレ様に魔法をご教授されていなければ、あのモンスターには決して勝てず、命は無かったことでしょう。また、命もそうですが、これほどの力まで与えてくださりました。何とか、マーレ様のご期待に添えるようにこれからも精進していきたいと思います」





―――数日をかけて、帝国軍は、進行をすすめ、目的のモンスターを発見し、対峙した。


モンスターは、武具をつけていないという情報だったが、この数日間で、村などから奪ったのであろう斧やクワなどの武器などを持っていた。また、モンスターの中でも、一際巨大なモンスターなどもみてとれた。


「ギュワーーー!」


モンスターたちは、雄たけびのような異様な声をあげると、地面を殴りはじめた。そのパワーのせいで、地面がえぐられ、土煙がまいあがった。


それらモンスターのパワーをみて、帝国軍にも緊張が走った。


それらモンスターの数は、2000ほどにまで膨れ上がっていた

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