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121章 実践からの学び

父リアムは、帝国での異変の報告を受けて、夜のうちに、騎士ふたりと共に先に、帰っていった。


スミスは、家族を頼むとリアムに言われ、護衛の騎士5人と、プリオターク騎士団の騎士ひとりと共に、後から帰還するように動いた。


行きは、山を登るために、スピードは落ちていたが、帰りは下りのために、スムーズに進むことが出来ていた。二日に分けての道のりだったが、一日目は、何の問題もなく進むことができた。


気にかかるのは、帰りの道で、ソロの表情が少し険しいことだった。


そのことから、スミスは騎士とメリンダに、周囲の警戒をするようにと命じた。


一番最初に、気づいたのは、メリンダだった。


「スミス様。集団で動く気配があります。この先、数キロの地点です」


「集団!?少し見てくる」


そういうと、ソロは、自分を指さしてスミスにアピールしはじめた。


「ソロも行くっていうのか?」


ソロは顔をキョロキョロ動かし、手を前に出しながら頷く。

「うん・・・うん」


「そうか。分かった。空を飛ぶから、俺にしっかり掴まって、落ちないようにしろよ」


スミスは、馬車から顔を出して、前進するのを止めさせた。護衛の騎士がスミスに問いただす。


「何事でしょうか?スミス様」


「どうやらこの先に、集団で動く気配があるようなんだ。それに気づかれないためにも、空から様子をみてみる」


「そのようなことが出来るのですか?」


「魔法の応用の浮遊術だね」



スミスは、手と指、そして、口ずさんで、浮遊術のプロットを使用する。自分とソロに行って、ゆっくりと空に浮かび始めた。速度はまったくないが、ゆっくりゆっくりと、まるで風船が空に上がっていくように高い場所へと移動していく。


「あれだな。メリンダの言う通り、約3km先に集団がいるな。見えるかソロ?」


「うん・・・」


200人ほどの獣人系らしき二足歩行の集団が、バラバラの隊形で同じ方向へと移動しているのがみえた。しかし、みていると、そのうちの20人ほどが、立ち止まって、集団から離れる。


「あの集団は、帝国の方向へと向かっているようだ。20人ぐらいは、何をしようとしているんだ・・・」


そう話していると、その20人は、なぜか反対方向のスミスたちの方へと移動を開始しはじめた。


「た・・・たぶん、匂い」


「匂いだって!?俺たちの匂いを感じたってことか?」


父リアムもいないで、護衛の騎士が6人で20体もの獣人らしき相手と戦えるとは思えない・・・。倒せたとしても無事では済まないだろう。何とか逃げようとしたとしても、あの距離から匂いをかぎつけたのか、何らかの方法でこちらの位置を把握できるのなら、逃げるのも難しい


スミスが、考えあぐねていると、ソロが、右側の深い森を指をさした。


「スミスは、あっちへ。他は、あっちへ」


ソロは反対側の草原が広がる場所を指をさした。そこには、色々な動物が、草原をたむろっていた。草原に入り込む前に、小川が流れていて、馬車1台は通れるぐらいの小さな橋が架けられている。


「わかった。ソロ。お前の言うようにみんなを移動させよう」


ふたりは、ゆっくりと下へと降りていった。


プリオターク騎士団の騎士が、状況を聞きに来る。


「どうでしたか?」


「集団は、獣人らしきものが200人いて、帝国の方角に向かって進み始めました。でも、こちらのことも匂いか何かで気づいたらしく20人ほどがこちらへ向けられました

遠目なので分かりませんが、たぶん帝国の者ではないと思われます。一昨日もウーキ族がわたしたちの馬車を狙って来たのですが、そのようなモンスターかもしれません

わたしは、近づいて来ている20人の様子をみたいので、右の森で待機しようと思いますが、皆さんは全員で、小川を超えて左側の草原に身をひそめてください」


「スミス様。あそこは草原で、逆に見つかりやすくなってしまうのではないでしょうか」


「3kmほど離れた場所からこちらを認識したのは、視覚ではないと思われます

相手は、目でこちらを確認したのではなく、他の方法で感知したとしたら、あの草原にいる動物たちの傍にいれば、相手も、こちらを認識できなくなるかもしれません

そうすれば、こちらが人間ではなく、動物だと認識させて、戦うことを回避できる可能性もあります。相手は何かがこちら側にいる程度で、確認のために急ぐわけでもなく向かって来ていると思われるからです」


「分かりました。とにかく、こちらに20人も近づいて来ているのなら、どこかに移動しなければいけませんから、移動してそれで誤魔化せられれば、それで良し。誤魔化せず、向かって来るようなら、新たに対策を練りましょう。スミス様も様子をうかがう距離を考えて、無理をなさらないようにしてください」


「はい。もし、戦うことになるのなら、わたしは後ろから挟み込むように援護します。では、家族をお願いいたします」


スミスは、浮遊術を使って右側に移動し、その他は、3台の馬車と共に、左の草原へと向かった。


スミスは、移動の間も、相手と馬車の様子を確認しながら、行動した。


馬車が小川を抜けしばらくすると、20人は立ち止った。


どうやら小川の水の流れが、匂いをある程度、打ち消してくれたようだ。


だが、スミスの方へは一匹だけ、別に向かってきた。

その一匹は、スピードをあげて、スミスの方角に正確に移動をはじめた。残りは、またゆっくりと草原のほうへと移動を再開する。


スミスが、森の中に入ると、スミスを追いかけていた獣人らしきものが、動きを少し止めたが、すぐにまた早く移動して、こちらへと向かってきた。森の匂いでは生き物の匂いを誤魔化すことはできないようだった。


近づいてきた相手をみて、スミスは驚いた。


なんだ・・・・あいつ・・・獣人でもないぞ・・・。


目のようなものが見当たらず、顔の中心部に、大きな穴のようなものが2つある。もしかすると鼻なのかもしれない。


あんな生き物はみたことがない・・・。


体のつくりが統一感がなく、猿の毛なのか、バッファローの毛なのかも分からない体毛が生えていて、腕が3本あり、バランスの悪い体つきをしていた。ひとことでいうなら怪物だ。体全体が、奇形のような風変りな姿となっている。でも、体は、大きい・・・。


数キロ離れたところからみたら、分からなかったが、これだけ近づくと、その大きさは、4m~5mにもなるのが分かった。


目がないのなら、視力阻害ダークアイを発動しても、意味はない。


でも、匂いで察知しているのなら・・・。


スミスは、掌サイズのファイアを無詠唱で、10個作り出して、森のあらゆる場所に、ランダムに投げ入れた。


その炎は、森につたって、煙がたちこめ始める。


モンスターは、枯れてもいない青葉からでた煙に当てられたからか、嫌がっている仕草をみせた。


嗅覚が鋭すぎて、煙を嫌がっているのだろうとスミスは考えた。


それでも、モンスターは、スミスの方向を見失うこともなく、進み始める。


スミスは、羽織っていたマントを4枚にひきちぎり、浮遊術を使うように、それらマントを四方に移動させた。


モンスターの動きが止まった。


モンスターからすれば、動くものが1つから5つに分かれたように感じているのだろう。


スミスは、上からモンスターを潜り抜け、後ろに回ろうとした。逆に4つの破いたマントは、前方方向に配置しながら、動かした。


これで、後ろから攻撃をしかければいいと思ったが、なぜか、モンスターは、マントの方ではなく、スミスの方に反転して、右側の大きな腕をまるで背中の裏から殴りかけるように、振り回し攻撃してきた。


まさか振り向くとは思わなかったので、スミスは驚いて、後ろに倒れ込むように、仰け反る。


何とかその一撃を躱したが、その攻撃は、地面にそのまま当たると、地面が拳大の大きさに凹んだ。


危なかった・・・もし当たっていたら・・・。


どうして、こちらが本体だと分かったんだ・・・?


すぐに距離を取って、斜め後ろへと下がるが、やはりモンスターは、スミスをしっかりと認識しているように、距離を詰めてきた。


どうして、分かるんだ?


スミスは、マントもまるで歩いているかのように動かして、何とかそちらにも気を向けようとするが、まったく惑わされない。色々試そうと、4つのマントを一カ所に向けると、少しだけモンスターの気がそれたように動きを止めた。


そうか!一番匂いが強いところを標的として把握しているのか!


スミスは、さきほどの馬車が小川を超えた時のモンスターたちの行動から1つのアイディアを絞り出した。慌てながらも、浮遊術を発動させて、上へと逃げる。


モンスターは、近くの木を殴り倒したと思うと、力づくで木を割りはじめ、その大きな木の破片をスミスの方へと投げてきた。

スミスの浮遊術は、早いものに対応できるほど速度があるわけでもないので、躱すこともできなかったが、モンスターのコントロールが悪く、ギリギリ体の横を破片が飛んでいき助かった。


スミスは、大きな木の太い枝の上に乗って、次の破片の攻撃をなんとかやり過ごした。


次の瞬間、モンスターは、まわりをうろうろしはじめた。スミスを見失ったのだ。


スミスは、木の上で、ウォーターのプロットを作成させ、自分のまわりを水で囲むようにして、匂いをかき消していた。


モンスターは、スミスのいる木から離れて、さきほどのマントの方へと向かいはじめた。


どうやら、こちらを見失ったようだな


マントを移動させながら、モンスターを誘導して、自分は後ろを取ることに成功した。


そして、得意のファイアを発動させて、マーレの使っていた小さいファイアの高温攻撃をしかけた。小さな炎であっても、その炎の熱量は2000度を超える。これを生物の体にいれると、まるで破裂するかのように、肉体は弾け飛ぶ攻撃だ。


スミスが編み出した得意の炎触ハンドファイアは、強力だが、相手に近づかなければいけない。あのモンスターの怪力の前に体をさらすのは危険だと考えたので、高温魔法攻撃を選んだ。


モンスターは、マントを殴り、握り込んで破り始めた。


その間に、ファイアを後ろからモンスターの頭めがけて投げ込んだ。


モンスターは、その攻撃を素早く避ける。


避けた!?温度の差も把握しているのか・・・?


5つの高温炎ファイアをモンスターに投げるが、どれもモンスターには当たらず、ギリギリのところで素早く避けられてしまう。


それだけではなく、なぜかモンスターは、スミスの方へとまた向きを変えて攻撃してきた。


スミスの体を丸く覆っていたウォーターの水を弾き飛ばすかのように、威力のある力任せの拳を殴りつけてきた。


そうか。匂いが無さすぎるところを今度は、攻撃しはじめたのか・・・このモンスターは、強い・・・リザードマンやウーキー、ゴブリンなど比較にならないほど、強い・・・木を簡単に殴り倒す力は、一度でも当たれば、こちらは即死だ・・・どうする?


スミスは、さきほど作成した水気ウォーターのプロットをまた組はじめた。


そして、炎で燃え広がりはじめた森の中に、いくつもの水気ウォーターの球体を作り出した。


匂いが切れているものを攻撃しはじめたのなら、匂いが切れている場所を増やせばいい


モンスターは、匂いがないものが周囲にいくつも現れて、少し混乱したが、それらをさらに素早い動きで、殴りつけはじめた。


水を手あたり次第攻撃するのなら、それを利用すればいい


モンスターは、勢いよく、ウォーターの固まりに向かって拳を突き出した。


そのモンスターの腕が吹き飛ぶ。


モンスターは、たじろいで、自分の無くなった腕を違う腕2本で確認するように手をまわす。


それでも、おかまいなしに、モンスターは、残った腕で、水の固まりを殴ると、またその腕も吹き飛んだ。水の内部に、モンスターの血が散乱する。


手だけではなく、足でも攻撃をしはじめるが、攻撃すればするほど、その箇所が吹き飛んでいった。


モンスターは、片足だけになり動けなくなったところをスミスが、近づきとどめを刺した。


スミスは、水気ウォーターファイアを組み合わせていた。ウォーターの内部に、高温、ファイアを内部に潜ませていたのだ。モンスターは、内部に、ファイアがあることを理解せずに攻撃したために、自ら体に当たり、その結果、動けなくなったのだった。


スミスは、すぐに、ソロたちの方へと移動をはじめた。


でも、どうすればいいのだろう・・・このモンスターは強い。一匹でここまで手こずる相手が、まだ19匹いる・・・とてもじゃないけれど、戦えない


ウォーターを体の周りに囲んで、移動していたスミスは、19匹に感知されずに、ソロたちの方へと向かうことができた。モンスターたちは、なぜか先ほどの位置から移動しておらず、待機しているだけだった。


スミスは、草原の広い場所に、3台の馬車が止まって置いてあるを確認するが、人は見当たらない。


皆はどこにいったのかと思い回りをみわたすと、離れた場所の小川の中に、足だけをいれて、立っていた。


スミスは、みんなに近づくと共に、皆のまわりにウォーターの壁を張り巡らして、さらに匂いを打ち消した。


モンスターたちは、馬車の馬や草原にいる動物たちだけを把握して、人はいないと考えたのか、帝国方面へと向かいはじめた。


モンスターたちがいなくなったのをみて、スミスは、安堵した。


「よかったー!みんな無事だったんですね」


プリオターク騎士団の騎士が答える。


「メイドさんの案で、相手が匂いでこちらを把握しているのなら、小川の中に入るほうが安全だということで、そうしてみたら、確かにあいつらは、動きを止めたのです」


たぶんソロの案をメリンダが伝えたのだと考えた。


「そうでしたか。それは適切な判断だったと僕も思います。わたしのほうに向かってきた一匹は、倒せたのですが、普通のモンスターではありませんでした。みたこともない生き物で、とても強いものでした」


「さすがは、リアム隊長のご子息です。倒されたのですね」


「得体が知れないのもありますが、かなり手こずりました。普通のモンスターよりも明らかに強い生き物でした。わたしたちは、何とかやり過ごしましたが、あれがまだ200匹もいて、帝国に向かったのなら、かなりの被害がでるかもしれません」


「そうですね。何とか、あの集団に気づかれずに、追い越して、このことを伝えたいものです」


「あのモンスターは、嗅覚に優れていて、水がその匂いを消してくれるようです。相手に気づかれないように移動するのなら、その習性を利用するといいかもしれませんね」


騎士たちは、スミスが倒したというモンスターを確認しにいき、驚愕した。思っていたよりも巨大で得体の知れないモンスターだったからだろう。飛び散った肉片は、時間が経ったあとも少し動いていた。


護衛のうちのひとりの騎士が、馬に乗って遠回りをして、このことを知らせに行くことにした。


ひとりの騎士が報告するために離れた後、遠くの方角から煙が上がっていることに気づいた。森で燃やした煙とは違うものだった。


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