118章 フォーマットと契約
ソロモン・ライ・スミスは、毎日のように、マーレ・ソーシャスにプロットの知識を習い続けた。
「よいか、スミス。プロットとは、文字である」
「文字ですか・・・」
「そうだ。文字を打ち込むことによって、一部の世界の環境を変えるのだ
しかし、文字を打ち込むためには、文字を描くその能力が必要になる
文字を書くにも、ペンが必要なように、その文字を世界の空間に打ち込むだけの許可が必要なのだ
世界を変えるための許可だ。その許可のことをフォーマットという」
「フォーマット・・・そのフォーマットは、どうすれば、許可が下りるのでしょうか」
「実は、このフォーマットは、謎に包まれている
わたしは、魔女の国に渡ることで、このフォーマットを手に入れることができた
魔法の威力を増すために手に入れたのだ
魔女の国で、魔法を習う場合は、このフォーマットを全員に与えられたのだ。一度手に入れた者は、その者との契約によって他人へとフォーマットを伝授できるのだ。そのフォーマットは、どこから発生したのかは、未だに謎のままだ」
「では、マーレ様が使えるこということは、わたしにもフォーマットを分け与えることができるということですね?」
「そうだ。しかし、それには契約が必要になる」
「どのような契約なのでしょうか?」
「それは、契約遂行人の服従を意味する契約だ。一度、この契約を行えば、お前は、わたしに服従するという烙印が、魂レベルで行われると言われている。それでも、お前は、契約をするのか?」
「服従ですか・・・ですが、マーレ様もまた、魔女の国の方に、服従して、フォーマットを手に入れたのでしょ?不愍なことなどは、あったのでしょうか?」
「その契約をしたからといって、わたしは不愍なことは無かった
むしろ、魔法を伝授されたことへの恩恵のほうが優っている
わたしの契約遂行人は、魔法道の頃から出会ってはいない。わたしも、お前に伝授すれば、違う才能のあるものを探す旅に出るので、お前と会うことはなくなるだろう」
「そうですか。では、マーレ様。どうか、わたしに、フォーマットの伝授をお願いします」
「分かった」
マーレは、先ほどのように、腕によるサインを描くように契約を唱えはじめた。
『黒き精神の果てに汝との契約を履行する。光りと闇、緑と土、理の形を形成する者へと契約の印を酌み交わし、わたしと汝との間の服従関係を刻印する。事世と肉の霊に作用されし契約』
マーレは、掌に文字を描いたと思うとその手をスミスの首筋に押し当てるとジュっという音とともに熱さを感じた。
「熱い!!」
「よし、これでお前にも、フォーマットが使えるようになった。おぬしの視覚の右上に、四角い枠のようなものが、見えるだろう」
スミスは、意識を右上に持っていくと、たしかに、枠のようなものが現れた。
「あります!マーレ様」
「それこそが、フォーマットであり、そこに文字を打ち込むことで、プロットを作成することができるようになる
その方法は、詠唱と手による入力だ。どちらで行っても影響はないが、どちらでも使えるようになれば、素早くプロットを作成できるようになる
そのプロットさえも固定させてしまうプロットを作成すれば、無詠唱でも使えるようになるというわけだ
実際は、無詠唱ではないのだが、あらかじめ準備を整えておけば、無詠唱のように即時に利用できるというわけだ」
スミスは、このようなものがあるのだという事実に驚いた。そして、熱さを感じた手のひらを見ると、見た事もない小さな刻印が付けられていた。
「まずは、おぬしが持っている炎の火力をあげるプロットの作成を教えよう
フォーマットに打ち込むことで、お前は、理をコントロールできるようになるのだ
もちろん、出来ることと出来ない事があるが、それは、のちほど、己で研究し続けることだ」
スミスは、マーレから腕によるサインによってプロット作成方法と詠唱によって作成する方法を教えてもらいフォーマットに打ち込んだ。
その密度の変化にも順序があり、記号が並べられ、その記号の順番によって密度を変えて、炎の周りにプロットが固定されるように作り上げていった。
スミスの吸収力は素晴らしく、あっという間に、基礎になる文字を習得していった。
マーレ・ソーシャスが行った炎の火力変化も、マーレからプロットの配列を教えてもらい、スミスは、フォーマットに打ち込んで、使うことが出来るようになった。
炎は、一度、手から放してしまえば、その軌道は変えることはできなかったが、プロットを作り出して、放った後は軌道さえも、ある程度、コントロールできるように打ち込んだ。
空気の軌道によるプロットを作成したのだった。
これでゴブリン遺跡の時に、マーレ・ソーシャスが行ったこともできるようになったのだ。
小さな炎であっても、その温度は、炎とは比べ物にならない熱量なので、大抵の生き物を貫通し、内部から血液を沸騰させてしまうほどで、頭に直撃するとまるで頭が爆発するかのように吹き飛んだ。1cmほどの小さな炎でさえもその威力なだけに、もともとの大きさで攻撃したら、どれだけの威力になるのか、分からない。
熱量だけではなく、以前の炎の限界を超えて、大きな炎を形成するプロットも作成したが、プロットとは違って大きな魔法を使う場合は、魔力を大きく消費してしまった。
調子にのって使いすぎると魔力切れで動けなくなってしまうかもしれないので、魔力よりも、魔力を使わないプロットに比重を大きくした効果のある魔法攻撃を考えていった。
魔法とは違うが、プロットだけの攻撃も可能だとスミスは考えた。
空気の密度を増すばかりではなく、空気の密度を薄くすることで、相手を酸欠状態にしてしまうのだ。
完全に、真空状態にすることは不可能だったが、かなり酸素を減らすことができた。
水気の魔法も、気圧の操作を利用して、一カ所に水を凝縮させることで、前方方向に打ち出す魔法を開発した。プロットによる自然操作には、限界があるので、水を留めておく量も限られて、その威力は、殺傷力はなかった。だが、人を吹き飛ばすほどの威力は作り出すことができた。
ゴブリン遺跡で手に入れた封印の珠の視力阻害という能力低下魔法も、プロットとの組み合わせによってさらに効果を増した。
本人のマインドによる視力低下だけではなく、その者の目の前の気圧を操作することで、視界を眩ませることができた。ぼやけた眼鏡を相手につけさせたようなものだ。
しかし、プロットの作成とその使い方は、とても難しかった。あらかじめプロットを打ち込むということは、あらゆる状況に適したプロットを用意しなければいけなかったからだ。すべてのことに対処できるプロットを作成できるわけもないので、細かいところの操作は、難を極めた。
フォーマットの存在は、2000年前ほどから存在していたというが、そのフォーマットで出来ることは限られていた。ほとんど魔法の威力を多少上げる程度のものだったので、その場で詠唱して利用されてきたのだ。その詠唱さえも、魔女の国の特有のものだった。
それが何かの原因で、フォーマットが作用できる限界が解放されたのは、ここ最近だという。
なので、すでに開発されているプロットの数も少なく、ほとんど未開の分野なので、自分たちで開発していくしかなかった。細かい魔法操作までは、出来ないということだ。
魔法自体の細かい操作は、プロット作成の研究をこれから進めることにするが、実践で役に立たなければ意味がないので、今出来る戦う方法をスミスは考えた。
スミスは、魔法の天才でもあったが、リアムの息子として、剣術や体術の訓練もされ、魔法がなくても10歳とは思えない強さを持っていた。
そこで、その体術と魔法を組み合わせた戦い方を考えだした。
手のひらに、高温の小さな炎を固定させるプロットを作成したのだ。この炎の温度は、2000度を超えるので、例え剣や鎧で防いだとしても、その防いだ方の防具が燃えるか融けてしまう。あとは、スミスの体術で、ただ相手にこの高温の炎を打ち込むだけだ。
スミスは、それを炎触と名づけた。
炎触を試すために、家の馬に乗って、こっそりと帝国の壁の外に出た。帝国領土は、広大なので、馬で走ったとしても、壁の外に出るのは、30分もかかってしまう。壁の外でモンスターを探すと3匹のリザードマンを発見した。
リザードマンは、馬に乗ったスミスに気づくと3匹同時に、駆け寄って、すぐに攻撃してきた。
スミスは、馬から飛び降りると、炎触を発動させた。その両手には、それぞれ小さな青い炎が掌に固定されていた。目の前には、3匹ものモンスターが突進してきている。
リザードマンは、単調な攻撃だが、その力はゴブリン以上のもので、10歳のスミスの腕力ではどうしようもない。だが、スミスは、恐れよりも、自分が開発した魔法がどれほどのものなのかを試したい思いのほうが優っていた。
スミスは、リザードマンの突進を華麗に、横にそらして、躱すと同時に、リザードマンの腕に、触った。
そのリザードマンの腕は、まるで爆発したかのように、ボン!と吹き飛んだ。腕が吹き飛ばされたリザードマンは、そのまま前のべりに倒れて苦しみ、動けなくなった。
残りの2匹は、倒れた仲間をみて、動きを止めた。
スミスは、また手に炎触を発動して、驚愕して動きを止めたリザードマンに歩いて近づいていった
リザードマン2匹は、同時に、自分たちの鋭い爪を刺すかのような攻撃をスミスに対して、行ったが、スミスは、その攻撃を低い姿勢で躱して、一匹は、顔に、一匹は、お腹に触ると、それぞれ、触られたところが、また吹き飛んだ。
かなりの体術を獲とくしている戦士であっても、素人に触られることを防ぐことは難しい。
鬼ごっこで鬼に触られないようにするには、走って逃げるしかなく、その場で相手に触られないように躱すのは、難しいのだ。
素人であってもそうなら、スミスのように体術を学んだ相手に触られないように戦うのは、難しいのだ。
このファイアを応用した魔法攻撃、炎触は、相手に触るだけでその威力を発揮するだけに、恐ろしいものだった。