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117章 プロット

ゴブリン遺跡の封印の珠は、はじめての遺跡探検をしたスミスに褒美として与えられた。

封印の珠に入っていた魔法は、視界阻害ダークアイというマインド系のもので、対象の視覚を低下させるというものだった。

能力の高いものや身体能力が高い者には、効かないが、熟練が浅いものなどに使えば高い効果を与えられる魔法だった。

突然、視界を低下させられれば、視覚を頼りにしているものであれば、攻撃力を奪えてしまう。相手を傷つけずに無力化できるという点でも役に立つ魔法だった。


ゴブリン遺跡を終えたその夜に、スミスの部屋の窓際に一通の紙が置かれていた。その紙は折りたたまれており、紙を開くと、その紙の上に、ホログラムのようにひとりの人物が映し出された。それはゴブリン遺跡で助けてくれた。ソーシャスという人物だった。



―――スミスは、次の日、父リアムの言いつけを守らず、家の者の目を盗んで、外出した。帝国領内にある森へと目指したのだ。


ソーシャスの伝言紙には、もし、魔法を習いたいのなら、ひとりでショプア森林に来るようにという内容が伝えられていたのだ。


森には、ソーシャスが待っていた。ソーシャスは、黒い姿で前のように顔を隠すようにフードを被っていた。


「ソーシャス様!ソロモン・ライ・スミスです。どうか魔法を伝授してください」


「スミス。父リアム殿の言付けを破るほど、魔法を探求したいということだな?」


「はい!わたしは昔から魔法を教師から教わっていたのですが、その教師が教えるものは、基礎的なものばかりで、戦闘などで役立つものではありませんでした

ソーシャス様の魔法は実践的で、わたしが目指す魔法だと思ったのです

どうか、わたしに手ほどきをお願いいたします」


「分かった。わたしの名前は、マーレ・ソーシャス。マーレと呼んでくれ

まず、お前には素質があり、わたしは以前からそなたの才能に目を見張っていた

実はゴブリン遺跡にいたのも偶然ではない。そなたたちを助けることで、君に魔法の奥義を伝える許可を手に入れるためだったのだ

わたしは才能のあるものを育てたいという想いもあり、世界を旅しているものだからだ」


「そうでしたか。ですが、わたしは、マーレ様にお返しできるお金もなければ、何もありません。それでもよろしいのでしょうか?」


「才能を開花させれば、そなたはわたしの役に立つようになる

わたしの教えるものがまことだと思った時、お主との契約を勧めようと思う

わたしの教えを体験して、その契約を結びさらなる魔法知識を手に入れるか、または契約をしないという選択をするかは、その時に決めればよい」


「分かりました。どうかよろしくお願いいたします」


スミスは、探求心の強い性格だったので、マーレの実践的な魔法を何をしてでも学びたかった。マーレの使うような魔法が自分にも出来るかもしれないという想いを止めることは出来なかった。


マーレは、スミスの両手を持ち、目をつぶった。


「ふむ。やはり、お主には、魔法の才能がある。魔力が高いということもあるが、それ以上に、魔法に対する適性力が高い」


スミスは、マーレからそのように言われて嬉しく思った。


マーレは、スミスの手を放して、質問した。


「スミス。魔法とは一体なんだと思っている?」


「人それぞれが持つ魔力を使って、戦いや生活の向上に役立つための能力だと思います」


「ふむ。では、その魔法はどこから出現したのか」


「やはり、それは遺跡でしょう。遺跡によって封印の珠が出土するようになり、人やモンスターも魔法を使えるようになったからです」


「そうだな。6000年ほど前、この世界は、人間だけが存在し、多くの何千人という人間が、魔法を使わずに生活していたという

その時代では、魔法は存在していなかったと言われている

しかし、ある時、世界中に遺跡が現れ、その遺跡からモンスターが生まれるようになると、人は、モンスターに狩られる存在となり、モンスターを恐れた

そこに現れたのが、狼王だったと言われている。狼王が現れたのは、4000年ほど前だ

その狼王は、モンスターでありながら、知能があり、同じ知能がある人間を助けるようになった。人間は、狼王に助けられながら、生存できるようになるとある変化が起こったとされている」


「変化ですか?」


「そうだ。狼王が現れるまで、遺跡はモンスターが出現するだけのものだったのだが、狼王が現れてから遺跡に、封印の珠が生産されるようになった。人々は、モンスターに勝つための1つの手段として魔法やスキルを手に入れる選択が生まれたのだ。」


「モンスターと戦うことができるように用意されたものが魔法だということでしょうか?」


「それは分からない。なぜなら知的モンスターでも魔法は使える者がいるからだ。人間のためだけにあるとは限らない。ただ言えることは、変化するということだ」


スミスは、なぜマーレがこの話を続けるのか理解できなかったが、話を真剣に聞いた。


「その頃の魔法の数は、限られたものだったといわれる。今のように多くはなく、各時代の変化に影響されるかのように、魔法も変化してきているのだ」


「魔法も変化するのですか?」


「そうだ。現在、魔法は、封印の珠から与えられた作用を変えることができないとされている」


「はい。その通りです。威力や大きさ、多少の効果の変動などの違いはありますが、ファイアならファイアの使い方しかできないと教わりました」


「うむ。だが、ここに至って、魔法が変化をはじめているのだ。スキルや魔法の奥行が増し始めている」


「だから、ゴブリン遺跡でマーレ様のファイアはあのように威力を増すことができたのですね!?」


「そうだ。このことを知るものは、この世界でも数人しかいないだろう

遺跡深くに探求したものや魔法を変革させようとして成功したものだけが、これを知るだけで、多くの者たちは、古来から魔法は、固定されたものであるという認識から外れることができずに立ち往生しているというわけだ」


「なぜ、今になって魔法が変化を始めているのでしょうか?」


「狼王という存在が現れ、封印の珠が出現しはじめたように、ある者たちの出現によって世界の理も変化している可能性があるからだ

狼王然り、発明王然り、エジプタス然り、龍王然り、それぞれ偉大な存在が現れた時期に、大きな世界のルールも変化している可能性がある」


「では、今また魔法の変化が起こっているということは、また龍王のような大きな存在が現れる前兆かもしれないということでしょうか?」


「かもしれぬ。だからこそ、わしは、才能ある者たちに、魔法の奥義を伝授して、その偉大な存在たちを育てようと旅を続けている」


「そういうことなのですね!マーレ様に出会えたのは、わたしにとって奇跡であり、何と運が良い事でしょうか」


「人間種族は、モンスターなどと比べると身体能力や魔法力なども劣ると考えられるが、理が変化しているとなると、人間の中にも、才能があるものは、これからの時代は、その能力を開花する可能性がある

今のところお主は、その存在のひとりかもしれないとわたしは思っておるのだ

魔法は変えられる。変化するものだということを知っているだけでもかなりの戦力が望めるが、そこに生まれ持っての才能が加われば、どのように成長するのかが見てみたいと思っておるのだ

魔法が変化するという世界の変化は、いずれ世界の常識となっていくだろう

しかし、今はそれに気づけていない者が多いだけのそれは力になるというわけだ。では、まずは、ファイアの熱量の変化を教えよう」


「はい!お願いします!」


ファイアを手のひらに出してみよ」


スミスは、マーレの言われたように、掌にファイアを出した。ファイアの色は、オレンジ色のような赤いものだった。


ファイアといえば、赤色だろう」


「はい。わたしも何人かのファイアを見た事がありますが、皆赤色でした」


「火は、その色によって熱量が変わる。温度が高く成ればなるほど、色は薄くなり、白に近づいていく。火は、空気と混ざり合うことで生み出す力だが、高い熱量を持つようになると空気すら無くても維持することも可能になる

その高い熱量にまで至るまでに空気の操作を呪文と魔力操作によって行う必要がある」


「マーレ様は呪文を使うことが出来るのですね!」


「おぬしが知っている呪文とはまた違う呪文だ。また無詠唱することで、確かに魔法は使うことができるが、無詠唱では、その他の要素を利用しないだけに、決定された力しか表すことができない

魔法と環境を組み合わせることで、さらなる魔法の変化をもたらすものが、呪文であり、詠唱だ

だが、この詠唱さえも固定させて利用できるものも存在する。魔法に変化をもたらしながらも、それを無詠唱で行えるというわけだ

威力だけならエジプタスの時代から詠唱は存在するが、変化に対する詠唱までは出来なかった。それも新しい時代と共に出来るようになりつつある」


「詠唱によって魔法を変化させることができるのですね!?」


「そうだ。世界の理を知り、その理によって仕組みを構築すれば、あらゆる変化をもたらすことができる。例えば、空気を一カ所に密度を濃くするという仕組みを作る。この仕組みのことを【プロット】という」


マーレ・ソーシャスは、詠唱とともに、手と手を動かして、何かサインを送っているかのように、動かし始めた。すると、スミスの周りが急激に変化をはじめた。


「何ですか。これは!?」


見た目は何も変わらない。でも、確かに、先ほどまでとはまったく違う環境になっていることを感じた。


「空気をお前のまわりだけに集中して、留めるように作用させているのだ」


「これも魔法なのでしょうか?」


「プロットだといっただろ?世界の法則の仕組みを組み替えているだ」


カラカラに喉がかわいていた時に、水を飲むとおいしく感じるが、この濃くなった空気の層の中にいると同じように空気がおいしいと感じた。まるで空気という水の中にいるかのようにさえ思えた。


「このように、魔法とプロットを組み合わせることで、魔法に変化をもたらすのだ

焚火の火が、風にあおられて炎の大きさを変化させるように、環境をプロットによって変えることで、魔法を変化させるのだ

右側をみろ。今のお前のまわりにある空気と同じだけの気密の10cmほどのかたまりを作り出した

左側は、今までと変わらない普通の気密だ。その中で、ファイアを行えば、どうなるのか、観察するのだ」


マーレ・ソーシャスは、右手を左手に、小さいファイアを出した。右手のファイアは青色で、左手のファイアは、赤色だった。


「この気密の密度でさえ、右のファイアと左のファイアの温度は、数百度の差がある」


「数百度ですか!?」


「そうだ。そして、これはまだまだ上げることができる。密度をあげていくのだ。」


右側の青いファイアの色が、薄くなりはじめたまるで消えていくようにさえ見えた。


「密度だけのプロットでは、これが限界だ。しかし、さらに熱量をあげようと思えば、その空間を密閉するようにプロットを組むのだ。すると、密閉された空間は、空気と混ざれば混ざるほど火力をましていく」


プロットが作り出したという密閉空間は、透明でみためは、何が起こっているのかは、分からなかった。だが、右手のファイアは、薄くなるにつれて、その温度が高くなっていることが、肌で感じることができた。それほどの火力がマーレ・ソーシャスの右手に集まっていた。


「火力は、際限がない。これを続ければ、ファイアは、ファイアではなくなりはじめる」


ファイアではなくなるとはとは、どういうことですか?」


「ある温度に達すると、火は、違う性質へとかわり、その色も白色へと変化していき、さらに温度をあげていくのだ」


ファイアは、透明から白色へと光はじめた。物凄い熱量だ。


「火力をあげるのは、ここまでだ。これ以上あげることは、危険になる。すでにこの時点で、3000度を超えている」


「3000度・・・」


「これだけの熱量があれば、岩でさえ溶かしてしまうほどだ」


マーレ・ソーシャスは、ファイアを消した。それだけの熱量でも、すぐに消すこともできるようだった。


「マーレ様。それ以上の熱量をあげることは、どうしてダメなのでしょうか?」


「さらに熱量をすすませると、すでに火ではないエネルギーへと変換してしまい

大爆発を起こして、当たり一面が、吹き飛んでしまうのだ

術者である自分でさえも、危険にする

ファイアの炎程度の熱量であれば、熱耐性がある術者は、安全だが、火ではなくなった場合の熱量は、熱耐性でもカバーできなくなるのだ。すでに熱でさえないのかもしれない」


「爆発ですか・・・」


「そうだ。愚かにも、それを試した者がいた。半径5kmにわたって、すべての木々が吹き飛び、生き物は、跡形もなく吹き飛んだ

5kmにいたすべての生き物が、まるで影だけを残すかのように黒い地面を残して、消え去ったのだ

お前に、プロットとの組み合わせる魔法を教えるが、どのようなプロットと魔法を組み合わせるのかは、お前次第になる

決してかろんじて使ってはならん。確実にコントロールできるものだけを実践で使うようにしなさい」


「はい。分かりました。マーレ様。そのお約束は、お守りします」

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