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116章 生き死に

プリオターク騎士団長ソロモン・ライ・リアムは、一緒に参加してくれる騎士たちに指示を出した。


「今回は、プリオターク騎士団に入ってまもない騎士9人とわたしの息子も含めて、遺跡探検へと向かう

浅い階層だけの探検となるが、それでも油断はゆるされない

君たちもプリオターク騎士団に参加しているだけあり、能力は高いので、浅い階層は、難易度は低いと思うかもしれないが、今回は、隊の連携の確認も兼ねて実践を行ってもらう

スミスも、ひとり護衛として付いてもらうが、戦いに参加するように。ミニゴブリンが現れたら、お前が相手をするんだ」


ドラゴネル帝国の都市のまわりには、複数の遺跡が存在する。

遺跡の数やモンスターを産出する数からみれば、この土地が一番多いといわれている。巨大帝国ドラゴネルがここにあることで、世界に広がるモンスターの数を押さえつけているのだ。

世界中の国や街に冒険者組合アドベンシエーションを設置する動きもドラゴネル帝国の指示によるものだ。モンスターを狩るなどをしなければ、すぐに世界はモンスターだらけになってしまうので、冒険者たちによってそれを阻止するために存在する。


遺跡の中でも、この遺跡はゴブリン遺跡といわれている。ゴブリンとは、コボルトと同じ種族で、コボルトは、人間のように服などを生成する能力もあるが、ゴブリンは、ほとんど裸同然で戦う低知能、低レベルのモンスターと言われている。その中でも、ミニゴブリンは、小さくて弱いモンスターだ。ミニといってもこどものゴブリンではなく、大人だが、体が小さいゴブリンだ。


小さくて弱いことから普通の騎士は後回しにしてしまうのが、ミニゴブリンだが、低い位置からの攻撃をしかけてくるミニゴブリンは、とても邪魔な存在だった。


今回は、同じように10歳の小さいスミスが、そのミニゴブリンが現れたら倒すことになる。


スミスは、憧れのプリオターク騎士団たちと共に遺跡探検できることを喜ぶが、はじめての実践なので不安な気持ちも隠し切れない。生き物の命を奪うのは、父リアムと一緒に動物の狩りに行くときだけだったからだ。


ゴブリン遺跡の前には、すでに5匹ものゴブリンがたむろっていた。


プリオターク騎士団の騎士たちは、肩慣らしのように、剣を少し振り回し、正規の構えを取った。


その姿はさすが騎士だというもので、自由奔放なゴブリンは、構えることもなく、ただ大きな声を出して、威嚇するだけだ。


5匹のゴブリンは、「キシェー!」という声をあげて、騎士たちを襲い始めた。


だが、さすがはプリオターク騎士団。ゴブリンの必死の攻撃にもおくれを取ることもなく剣を捌いていく。裸同然のゴブリンが勝てるわけもなくダメージを負わされていく。


それでもゴブリンは、前の騎士を抜けて、青い血を流しながら凄まじい形相ぎょうそうで後ろに攻めてきた。その何とも言えない悲痛な顔なのか、威勢の現れなのか分からないものをみて、スミスは怖気づいた。


はじめて生でみた命のやり取りだった。低能モンスターといえども多少の知能があるゴブリンの最後の抵抗は、スミスに鬼気迫るなにかを見せつけた。


表面上は、うろたえるところをスミスは見せなかったが、自分に向かってくる一匹の血だらけのゴブリンが走り込んできて、動けなくなった。頭が真っ白になり、倒していいのかどうかも混乱して行動に移せない。


スミスの護衛していた騎士が、ゴブリンの体を上から斜めに切裂いくとゴブリンは、横に倒れた。


ソロモン・ライ・リアムがゴブリンのとどめを刺そうとするのを止めて、まったく動こうとしなかったことで動揺したと察して、息子スミスの肩に手を置いた。


「いいかスミス。これが本当の戦いだ。相手を倒さなければ、こちらが命を取られてしまうんだ。お前にわたしたその剣でゴブリンのとどめをさせ。そして、楽にしてやるんだ」


ゴブリンは、口から青い血を出して虫の息のまま苦しんでいた。


スミスは、腰からやっと自分の剣を抜きとってゴブリンのお腹の心臓を突き刺して、とどめをさした。


ゴブリンはすぐに息をひきとった。ゴブリンから取れる素材はコア以外は価値あるものはない。コアであっても、ゴブリンのものは低いお金で取引されているだけだったが、スミスはゴブリンの首からコアを取り出して所持した。


「よし、よくやったぞ。人を襲うようになったモンスターや人間は、容赦なく命を取れ。分かったな?」


「はい!次からはわたしが倒します。お父様」


息子の顔色をうかがいながら、大丈夫だと判断し、騎士団にリアムは、指示を出す。

「では、これからゴブリン遺跡に入る。中は暗闇で光はたいまつの火に頼ることになり、視界も悪くなる。注意深く進むように」


リアムは、いつにも増して、厳格な態度で隊をひきいて遺跡へと入っていく。


ゴブリン遺跡の内部は、ボロボロになった木や布などが散乱して、また匂いもひどかった。ゴブリンは、仲間のゴブリンでさえも食料としてしまう。住処を片付けるなどの発想などはない。人の白骨死体などもあるが、大抵はゴブリンの骨が散乱していた。


あらゆるものが、ぐちゃぐちゃに散乱しているので、どこに生きたゴブリンが潜んでいるのかは分からない。ゴブリンの攻撃力は低いが油断はできない。


物陰に潜んでいた一匹のゴブリンがこちらの存在に気づいて、大きな声をあげた。


「シュシャシャーシュシュ!!」


「どうやら気づかれたようだ。これからはゴブリンがここに集まり始める。各自、仲間をサポートしながら、冷静に対処するように」


連れてきている騎士はまだ団に入ったばかりなのもあり、油断すると負傷者も出しかねないと団長としてリアムは指示を出す。


リアムの指示で視界ランプの魔法を持っている騎士が、まわりを照らすことで他の騎士の松明を捨て、戦いに備える。一度見つかってしまえば、隠れる必要もないという判断だった。たいまつとは比べ物にならない明かりが遺跡の内部を照らしだす。


両手で戦えるようになった騎士たちは、迫りくるゴブリンを簡単に倒していく。


だが、斬っても斬っても、奥から出てくるゴブリンの数は、減らなかった。


スミスも、ミニゴブリンを見つけては倒し、ゴブリンであっても、一匹なら倒すことも出来るように慣れてきた。


戦いながら、遺跡の奥に入ると、今までよりも広い場所に辿り着いた。


遺跡内部だというのに、その場所は、20mを超える高さの天井があり、広さも50㎡ほどの広場に、ゴブリンの私物が散乱していた。匂いはきつく、あらゆる生き物の死骸なども床に転がっている。

中央には、物が置かれていない空間があるが、天井から長い鎖でぶら下げられたランプのような光る箱の下には、封印の珠がはめ込まれていた。


「円陣形態用意」


リアムが部下にそう言うと、その言葉を繰り返して、9人の騎士たちが、外側に向かって円陣を組むように並ぶ。盾を持つ騎士5人が前に、長い武器を持つ4人の騎士が後ろに陣形を組み終えた。


広場の薄暗い奥から黒いマントを来た者が歩いてきた。ゴブリンなのか、違うモンスターなのか、人間なのかさえも分からない。


リアムは、大きな声で命令した。


「止まれ!」


黒いマントの者は、その場で立ち止まり、黒いフーケを降ろして、顔をみせた。人間ではなく、魔人のようだった。太くて黒い大きな角が頭の両側から生えて、まるで見た目は悪魔だ。


「お前は何者だ?!」


「はい。わたしはソーシャスという旅を続ける魔法使いです

修行の一環として、この遺跡にはいり、ここで休んでおりました

ゴブリン遺跡といわれるこの遺跡ですが、今回に限っては難易度が高いと思われます

わたしはその封印の珠を取ることはせずに戻ろうと思っていたのですが、あなたがたを見かけたので、忠告に来た次第です。今回は封印の珠は動かさぬほうがよいかと思われます」


リアムは、礼儀正しく話すソーシャスという者は、特に遺跡のモンスターではないと判断した。


「そうでしたか。ご忠告申し訳ない。しかし、我々はプリオターク騎士団員です。遺跡探検だけではなく、訓練も兼ねていることですからお気遣いなく」


「帝国のプリオターク騎士団の方々でしたか。これはいらぬご忠告でしたな。では、お気を付けて」


ソーシャスという黒いマントの魔人は、軽くお辞儀をすると、広場の隅に移動して、また座り込んだ。戦いを見学していくようだ。


円陣形態を取って、戦う準備が整っているので、リアムは封印の珠を取った。この広場に通じる4つの入り口とは別に、壁の穴が20個ほど開いて、その小さな穴からもゴブリンなどがはい出してきた。


4つの入り口からもゴブリンやミニゴブリンが、入り込んで、気勢をあげる。


次から次へとゴブリンたちがはい出して来た。ソーシャスという者がいうように、いつもよりも這い出して来る数は多かった。


しかし、プリオターク騎士団員たちは、あせることなく、隊形を維持して、近づいてきたゴブリンを蹴散らしていく。


ゴブリンたちは、布のようなものを持って、中心にいる騎士団たちを360度囲むようにゆっくりと近づいていった。


「何がしたいんだ・・・こいつら・・・」


布などでは騎士の剣を防げるわけもなく、次々とゴブリンたちは倒されていくが、次の瞬間、その輪の外側から大量の矢が放たれた。


布はその弓攻撃を視界から確認させないためのものだった。大量の矢は、鎧の隙間にも入り込み騎士たちは怪我を負った。スミスは、騎士たちのさらに中心にいたため、矢で怪我をすることはなかった。


ゴブリンたちが使う矢は威力はそれほどないが、それでも矢がささると人は動揺してしまう。


その弓矢の攻撃のあとさらに、布の外側から大量のゴブリンたちが一斉に攻撃をしかけはじめた。


騎士たちは、陣形を維持しながら、ゴブリンを倒していく。


リアムは、ゴブリンのこん棒やナイフの攻撃を無駄のない動きで上手にさばきながら、まったく問題なくゴブリンの首を落としていく。


中央に攻撃を集中させないように、リアムは、陣形からひとりはずれて、違う場所へと移動して、ゴブリンの攻撃を分散させるように動いた。ゴブリン程度ならプリオターク騎士団の団長であるリアムは、まったく問題ではなかったからだ。


しかし、次の瞬間、天井から3つの穴があき、その穴から巨大なモンスターが3体現れた。


「ゴブリンサーガだ!」


騎士のひとりが叫んだ。


「何?!ゴブリンサーガだとぉ?」


人間の2倍はあるかというほどの巨大なゴブリン3体が姿を現した。3体はそれぞれ剣・斧・鉄槌を持ち叫んだ。


「グオオオオ!」


モンスターの中にはまれに特殊な能力を持ったものが生まれる。それがゴブリンリーダーであったりするのだが、ゴブリンサーガは、4階級上の存在だ。一般の騎士が20人程度でやっと1体を倒せるほどだ。それが3体も現れた。


ゴブリンサーガだけではなく、雑魚のゴブリンもまだ倒しきれていない。


リアムは、すぐさま、ゴブリンサーガに走り込んで2体に剣で斬り込んだ。


ゴブリンサーガは叫んでリアムをターゲットにした。リアムはその2体とゴブリンたちを連れて、中央から離れた。


しかし、もう1体は、中央へと走り込んで、ゴブリンと戦う騎士3人を鉄槌で払いのけた。3人の騎士は吹き飛ばされ、円陣隊形が崩れた。


ゴブリンを相手しながら、さらに威力のあるゴブリンサーガの攻撃は防ぐことができない。


リアムは、2体のゴブリンサーガを連れて、戦っていた。たったひとりで、複数のモンスターを相手にしながら、モンスターにダメージを与えていくがすぐには倒せない。


退却しようにも、封印の珠を動かしてしまったので、この広場からは逃れることもできない。これらのモンスターを倒さなければ、ここから解放されることはない。


リアムよりも、中央のほうが追い込まれていた。ゴブリンたちは数を増すだけで、騎士たちは着実にダメージを蓄積していた。スミスは、中央からファイアを放って、ゴブリンの顔へと攻撃をして邪魔をするが、あまり戦力となっていなかった。


リアムが危機を感じていたところに現れたのが、さきほどの黒マントのソーシャスだった。


「騎士殿。わたしは、魔法であなたがたをサポートすることが出来ます。条件次第で、お助けしましょう。どうですか?」


「助かる。ソーシャス殿。わたしよりも中央の者たちを頼む」


「では、契約成立ということでよろしいですね?」


「あぁ。分かった。お主を今回、雇い入れる」


ソーシャスは、リアムの場所から消えたかと思うと、中央の位置に突然現れ、スミスの隣に立った。


「ソロモン・ライ・スミス。わたしはあなたの父上からそなたをもらい受けた。お主たちを助けよう」


スミスは、突然隣に現れたソーシャスに驚いて身構えたが、助けるという言葉を聞いて、ゴブリンに集中する。


「ソロモン・ライ・スミス。そなたは、魔法をいくつか扱えるが、魔法の使い方が分かっていない。見ていなさい」


ソーシャスは、両手を前に出したかと思うと、その手から赤い炎が現れ、さらにソーシャスが唱えはじめると、赤い炎は、色を変えて、徐々に白くなり、さらに消えてしまった。


「分かるかな?炎は強さを増すと目では見えなくなるのだ。だが、消えたわけではない」


ソーシャスが、右手を前に出すと、前にいたゴブリンの頭を吹き飛ばした。次々とゴブリンの頭が吹き飛んでいく。ゴブリンの頭がまるではじけるように、ボンボンボンと吹き飛んでいくと思うと、ゴブリンサーガが、鉄槌で防いだ。


野生の感覚で危険だと感知したようだ。だが、その防いだ鋼鉄の鉄槌もまた溶け出し、小さな丸い円から大きな円の穴が開いたと思うと、ゴブリンサーガの頭も一瞬で吹き飛ばしてしまった。


中央に集まっていたゴブリンたちが次々と死んでいくのをみて、スミスは、質問をする。


「ゴブリンを倒しているのは、あなたの魔法なのでしょうか?」


ソーシャスは、笑顔を向けて、答える。


「そうだ。わたしの炎の魔法を利用して、倒しているのだよ」


「何という魔法なのでしょうか?」


「君が使っているファイアと同じものさ」


「まさか!ファイアの炎は赤色です。そして、あのように敵を倒すことはできません」


「君は魔法の特性を分かっていない。多くのものは、封印の珠から得たスキルや魔法は、固定されていると考えているが、それは基礎的な魔法の使い方であって、魔法の奥義はそこにはない

本質を捉えて、利用できるようになれば、このように、ただのファイアであっても威力を発揮するのだよ。どうだい?魔法のことをもっと知りたいと思うか?」


「はい!わたしにもあたなのように魔法の奥義を利用できるようになれるのでしょうか?」


「君には、素質がある。小さな頃からその才能は開花している。よき師がいれば、その才能はさらに増すことだろう」


スミスも2体のゴブリンサーガを倒して、隅にひきつけたゴブリンたちを倒すと、封印の珠によって出禁になっていた広場は解放された。


何とか死人を出さずに、難局を回避できたことに安堵した。


スミスは、ソーシャスに近づき、礼をした。


「ソーシャス殿。この度は本当に助かった。報酬は、のちほどわたしの屋敷に取りに来るといい。騎士たちの命を救ってくださったのだから、報酬もはずむ」


「いえいえ、すでに報酬は頂いております。プリオターク騎士団とともに戦えたことだけでも、嬉しい限りです」


「お主の忠告を聞かずに、危機をまねいてしまい、さらにはあなたに助けていただいたのだ。きちんと、報酬は払おう。必ず、わたしの屋敷に来てくだされ。ソロモン家といえば、解りますから」


スミスは、リアムに聞いた。


「お父様。ソーシャス様は、魔法の奥義をご存知だということです

さきほど、ゴブリンたちを倒したのも、わたしが使っているファイアだということです

魔法の奥義をどうかソーシャス様から伝授していただきたいのです。よろしいでしょうか?」


「スミス。ソーシャス殿は、修行の旅をされているのだ。お前のためにそれを中断させるわけにもいかん。魔法の教えならプリオターク騎士団のものをお前の師として迎え入れる。今回は我慢しない」


スミスは、残念そうな顔でうつむいた。


「では、ソーシャス殿。我々は、これで戻ろうと思う。のちほどお会いしましょう」


「分かりました。ソロモン・ライ・リアム様」


封印の珠を手に入れた後からは、ゴブリンは現れる様子がなかった。無事に目的を果たして、帰るが、リアムは、あのソーシャスという者には、近づくなとスミスに伝えた。ソロモン・ライという名前をソーシャスが知っていたことと不気味な何をか感じ取ったからだ。スミスにもそれを伝え、今後、彼を目にしても近づかないように警告した。


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