112章 再襲来
『ミカエル。今あるすべてのソースをシンダラード森林の西側に向かわせてくれ。人気のないところで、戦うことになる。お前の力が必要なんだ』
『解りました。セルフィ様』
レジェンドに守っていた兵士モードのミカエルとあらゆる場所にいたソースが一斉に移動しはじめた。
『源。半年前に戦った時と比べて、源は強くなりました。スキルやマナなどもそうですが身体能力や認識能力も増えたからです。ですがそれでもサムエル・ダニョル・クライシスに勝てるとは思えません』
『ああ。俺もそう思う。100そこそこの俺と、10年前、600だった相手だからな・・・今でもリトシスが効果がなければ、戦うことは難しいだろうな。でも、向こうが望んでいる以上、隠れ続けるわけにもいかない』
源は、地下倉庫から出てきて、中央西口へと向かった。
「セルフィ様!いけません!今出て行かれては!」
レジェンドの村人が、止めようとするが、源は、笑顔で、答える。
「ありがとう。でも、やれるだけのことはやってみるよ。俺がいなくなったら、後のことは、みんなに任せる」
「セルフィ様・・・」
源は、リトシスで飛んで、ボルア・ニールセンを持ちあげているサムエル・ダニョル・クライシスがいる壁の上へと移動していった。
サムエル・ダニョル・クライシスは、すぐにボルア・ニールセンの胸ぐらから手を放した。
「セルフィ。半年ぶりだな。どうやら、あの時よりも数段、身体能力を伸ばしているようだな。それに、何なんだ。あの黒い物質モンスターは。あんなモンスターみたことがないぞ?」
源は、質問する。
「俺を殺しにきたのか?」
「相変わらず、こちらの質問には、何も答えないな。お前を殺しにきた・・・・と言いたいところだが、違う」
違うのか・・・!?
「なら、何のために来たんだ?」
「お前を殺すために来たわけではないが、お前を目的にここまで来た。本当は、数カ月前からお前に用事があったんだが、レジェンドの村、そのものが消え去っていたので、どうしたものかと思っていたんだ。そうしたら、数日前に突然、レジェンドがシンダラード森林に現れたという報告があって、俺が直々に着てやったというわけだ」
「俺を殺さないのは、なぜだ?」
「ここの人たちを安心させるために、わざとここで話すが、ドラゴネル帝国の事情が変わってな。皇帝陛下が、お前に内密に話がしたいと言い出した。その内容は、皇帝陛下に聞いてくれ
俺は、お前を殺したほうがいいと申し出たが、お前と話をされたいようだ
他の者に言っておくが、皇帝陛下が、セルフィと会うということをもらしたら承知しない。処罰があると心得て、黙っていることだ。お前たちを安心させてやるために、ここで話しているだけだ
セルフィをこれから帝国に連れて行くが、レジェンドには、必ず戻してやる。戻した後のことは知らないが、それまでは、セルフィの安全は、この俺が保証しよう」
どうする・・・。この付近で戦うのなら、ミカエルを使うことができるが、帝国にいくとなると、ミカエルのソースを大量に持っていくことはできない。ミカエルなしで、サムエル・ダニョル・クライシスと戦うことになるかもしれない・・・。
こんな口約束だけで、信じられるわけもないが、わざわざこのサムエル・ダニョル・クライシスが、策略まで使って、俺を殺そうとするとは思えない。
そんなことをしなくても、殺せるからだ。
『源。サムエル・ダニョル・クライシスは、嘘は言ってはいません』
『そうか。ありがとう。愛』
源は、レジェンドの皆にミカエルの通話を使って連絡した。
『俺は、これからサムエル・ダニョル・クライシスと一緒に帝国にいって、皇帝陛下に謁見してくる。その間は、皆にレジェンドをまかせる
ミカエルは、俺が死んでも残るから、みんなは、ミカエルを上手く利用して、生き残ってくれ』
皆に指示をし終えるとサムエル・ダニョル・クライシスに礼儀正しく答える。
「分かりました。ドラゴネル帝国最強戦士長サムエル・ダニョル・クライシス殿。あなたの言葉を信じます。あなたほどの強い人がわざわざ、わたしを罠にかけるようなことをするとは思えないですからね」
「ああ。その通りだ。俺はどんな相手であっても、ずる賢く戦うなどはしたことがない。レジェンドに戻るまでは、お前は、俺の権限によって安全だ。だが、数人の護衛を連れて行くことはゆるそう」
「そうですか。では、先ほどの物質モンスターを数体、連れて行かせてもらいます」
『ミカエル。4体の人型になって、レジェンドに戻ってこい。残りのソースは、レジェンドの村人の指示に従え』
『解りました。セルフィ様』
サムエル・ダニョル・クライシスは、源に伝える。
「俺は、そこの入り口の外で待っている。準備が出来たら、護衛と一緒に来てくれ」
「はい。分かりました。帝国最強戦士長サムエル・ダニョル・クライシス殿」
「俺だけの時は、サムエルでいいぞ」
「はい。サムエル殿」
源は、出来うる限りの正装をして、ミカエル4体と一緒に、門へと向かった。
ロックが声をかけてきた。
「俺を残して、死ぬなんてこと絶対にゆるさないぞ!」
「分かってるよ。兄弟。安心して待っててくれ」
笑顔で答えたが、ロックからするとその笑顔が、心を騒がせた。
ロックは、大声をはりあげた。
「セルフィ。お前は光だ。お前は、予言の者。お前は絶対に無事に戻れる!」
「ありがとう。ロック。俺と同じで予言を信じていなかった君からそんな言葉が聞けて嬉しいよ。必ず戻る」
源は、ミカエル4体を浮かして、サムエル・ダニョル・クライシスの元へと移動した。
サムエル・ダニョル・クライシスが、多角形の透明の結晶石のようなものを取り出した。源は心では、身構える。
「これは、転移石だ。ただ、俺たちを移動させるだけのものだから、安心しろ」
「分かりました。サムエル殿」
サムエル・ダニョル・クライシスは、転移石を使うと、ミカエル4体も一緒に、まったく違う街の城壁の外へと移動した。
目の前には、同じような多角形の透明な石が、石の台座にはめこまれていた。一瞬で、見た事もない街に着いた。
「ここが、帝国でしょうか?」
「いや、ここは中間地点にあるタレードという町だ。シンダラード森林から南5000km付近になる街だな。帝国までにいくのに、安全を考慮すれば転移石を使っても経由しなければ、着くことはできない」
あの一瞬で、5000kmも移動したというので、源は驚いた
大勢を転移させることは、出来ないとは思うが、こんなことをされたら、このサムエル・ダニョル・クライシスは、いつでもレジェンドに攻撃をしかけることが出来てしまう・・・・。何度も使えるような代物ではないと信じたい。
サムエル・ダニョル・クライシスは、また別の転移石を使った。
転移先は、巨大な城壁の前だった。30mはあるかもしれない高い石の壁が、大地の先まで、長く建てられていた。
空には、あらゆるモンスターや生き物が、飛び交い。外にも、馬車やモンスターの乗り物などに乗って多くのひとたちが、移動していた。
ボルフ王国やペルマゼ獣王国などを目にしたが、規模がまったく違っていた。
「さすがは、ドラゴネル帝国ですね。これほどの場所だとは思いもしませんでした」
「ああ。俺も最初に目にした時は、圧倒されたよ」
この最強戦士長サムエル・ダニョル・クライシスにも、そういう時があったのかと源は、思った。
「セルフィ。先ほども言ったが、皇帝陛下と会うことは、帝国側には、わたしと数名しか知らされていないことで、機密事項だ。絶対に、このことは、誰にも言ってはならん」
「分かりました」
「これから、俺は皇帝陛下に、セルフィが帝国に到着したことを伝えに行くが、皇帝陛下がお忍びで、人と簡単に出会えるわけもない
準備が整うまで時間がかかるし、いつその時になるのかは、分からない。だから、それまでは、帝国領を見学してくれ
申し訳ないが、今日が無理となる可能性もある。その時のために、これを渡しておく」
サムエル・ダニョル・クライシスは、金色の板のようなプレートを源に渡した。
「それは、地位あるものがそれぞれの特権を持って、知人に渡すことができる証明書だ。それを使えば、首都にも入れるし、俺の権限で、宿屋や食事など無料で利用できる
お前の存在は、俺が逐一、把握している。準備ができ次第、お前を俺が迎えにくる。何かあっても、お前は手出しはするな。危害を加えるようなものがいれば、こちらが対処する」
「分かりました。ここまでしてもらえるとは思いませんでした。お待ちしております」
「うむ。では、のちほど」
サムエル・ダニョル・クライシスは、一瞬にして、姿を消した。その消えたあとの動きは、まったく感知できなかった。瞬間移動を使ったのか、そういったもので移動したのならいいが、もし、そうではなく、ただ移動したのであれば、やはり、サムエル・ダニョル・クライシスは、今の俺には手出しできない相手だということになる。
とはいえ、愛が言うように、嘘はついてはいなかったようだ。皇帝陛下が直々に俺に会いたいということは、本当のことのようだ。
レジェンドは、ドラゴネル帝国を退却させた村だ。そんな巨大な権力を保持しているレジェンドの力をどのような方法で、削ごうとしてくるかは、分からない。
サムエル・ダニョル・クライシスの存在がある限り、レジェンドはそれに従うしかないだろう。命があるだけありがたい。
ただ、すべてを認めるということも出来ない。足元をみられて、出来もしないことを要求されては、何もしないうちに、俺の命が奪われ兼ねない。何か利用できるから今も生かしているのだろうが、多大な要求を請求されるのなら、身を隠したほうが、都合がいいとも言える。
ドラゴネル帝国を見学をしたいが、そんなことをしている時ではない。
源は、愛やミカエルと帝国側の思惑を想定した。そして、レジェンドのみんなと通話だけの会議をして、何を帝国側が狙っているのかをあらゆる角度から、話し合った。