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11章 リトシス

源は、空を飛ぶ。速度をあげるが、自分の体の周りだけは、真空のような状態になっているかのようで、風の抵抗さえも感じられない。だからこそ、スムーズに飛べているようだ。空を飛んでいると内臓がふわっと持っていかれるようなジェットコースターに乗って味わう感覚さえも、この世界では感じることができる。そこまで、プログラミングされているというのは、相当な労力とお金を投資しているということだろう。ゲームでも、集中して入り込むと、ぞわっとした感覚を味わう時があるが、これはプログラミングというよりも、もしかしたら、人間の脳の性能からきているのか・・・。


速度は40kmぐらいは出ている。


ロックたちのところに行く前に、どれだけ空を飛ぶ能力があるのか確かめたくて、源は、色々と出来ることを試してみた。


多分やろうと思えば、40km以上の速度も出せる。空の飛び方は、羽を動かすというよりも、意識を向けるといったものに、近い。


何と言っても、不思議なのは、空中で止まれることだ。空中で静止するなんてことは、もの凄く大変なことなのに、それを苦もなく出来てしまうのは、地球の法則にまったく当てはまらないことだと考えられる。


頭を逆にして、逆さの状態になって、まるで忍者のように空中を静止できるということも確認した。


「壁を歩いたり、走ったりしているかのように、みせかけることも出来るかもね」と少し楽み口走る。


空を移動している時は、空気抵抗もないので、空気などで目を傷めることもなければ、話して口がカラカラになることもないことにも気づいた。


空気の抵抗を感じないので、空を飛ぶ時も、直立不動のような変な感じだ。ドラえもんなどが使うタケコプターのように斜めにならない状態で、真っすぐ立っていながら動いている。まるでお化けがそのまま前に進んでいるかのように進むようだ。


これは不気味だから、空を飛ぶ時は、わざわざ自分で斜めになって、空気抵抗があるかのようにみせるようにしようと思った。


原理がよくつかめないな・・・


『源。空を飛ぼうとした時、源の周囲の法則を書き換えているように分析されます。』


『書き換えている?』


『はい。この世界も本当の世界をベースにした法則が多く利用されているようですが、源に関しては、それを源の周囲の仕組みだけを書き換え作り出すことが出来るようです』


『だから、空気を利用した揚力なども無視した動きができるのか。この世界のことは未知すぎて、すぐには理解できない』


だが、実験は、後にして、次はロックたちをどうやって、脱出させるかだ。


ロープもなければ、道具も一切ない。服さえ着てないこどもだ・・・。子狐だけなら、簡単に連れては来れるが、ロックは、難しい。

まずは、考えがてら、弱っている子狐のために、水を用意しよう。


源は、空高く飛び、辺りを見渡した。すると遠くにある深い森の中に、湖が2つあるのを愛がマークを付けて分かり易くしてくれたので発見することが出来た。そして、その場所になるべく早く飛んでいく。


近づくと湖の1つは、綺麗な青色で、そのすぐ隣は、段差のようになっていた。上の段には、また大きな湖が綺麗な緑色の色を放っていた。

隣り合わせで、青い湖と緑の湖が、存在している。

源は、湖の端に立って、水の状態を確認するが、とても透き通っていて、綺麗だった。

両手を皿にして、水を掬って、少しだけ飲んでみた。何の問題もなく、とてもおいしい水だった。飲み物も食べ物も口にしていなかったので、源は、ごくごくと飲んでいく。

「美味い」と言って、綺麗な水を見つめる。


その綺麗な水に、自分の姿が映し出された。


「なんだ!?」


「これが俺・・・?」


源は、自分の姿を初めてみて、まったく以前の自分とは違うことにショックを受ける。こどもの姿をしていて、違うのもあるが、こどもの頃の源ともまったく似ても似つかない。源も小さい頃は、目が大きく可愛いと言われていたが、今回の姿は、絵に描いたような美しさがあった。以前の源が、漫画なら、今回の姿は絵画といったところか。そして、白い羽・・・。源がこの姿をみて、すぐに連想したのは、天使だ。鳥人間か何かだと思ったが、天使のイメージに近い。


あまりに以前とは違うことが多すぎて、ショックを受けてしまうが、なるべく慣れるように心がけるようにする。


とはいえ、裸だ・・・。こどもの姿だから裸でも誤魔化しは効くが、布でもなんでもあれば、半裸状態にぐらいなら、できるのに・・・と思った。


だけど、まずは、水を持っていくことだ。この水をどうやってあそこまで、持っていくか・・・。


「岩でも壊せたのだから、木を壊して、何とかそれで、水を運べるか・・・」


近くの大きな木を殴りつけたが、木は粉々に砕けてしまった。


「強すぎたか・・・これほど、粉々になるのかよ・・・」


『源。あなたの周囲は、あなたが書き換えることができるのです。ゆっくりと書き換えるように、木の一部を取り除いてください』


『書き換えるってそんなこともできるのか!?』


ゆっくりと木に手を伸ばし、欲しい大きさの木の量をイメージして、木を触ると、まるで木は粘土のように、はがれていき、欲しいだけの量を手に持つことができた。


とても変な感覚だ・・・味わったこともないものだった


その後、その木を手でこねるようにすると、木は丸く固まり、それをまた、おわんのような形にもできた。さらに、木を小さな壺のように変形させていき、水を入れることができるようにした。


こんなことが出来るなんて、明らかに、異世界だ・・・。ここは違う世界なのだと、改めて源は実感する。


その木で作った水筒に、水をいれた。これで子狐も水を飲みやすくなると少し喜んだ。


あとは、また木の一部を取り出して、それを薄ーく伸ばしていき、柔軟性を持たせるように加工していった。そして、その木で、即席の服を作った。木だが、樹液のように柔軟性があり、多少は、動いても、破れることもなさそうだ。動きにあわせて、多少、変形してくれるから、服は着心地がいいのだろう。もちろん、羽のための穴も開けた。


よし。はやく水を持っていこう。


スーっとその場に浮かび、ふわふわし始めると、次は、素早く空に舞い上がった。


だが、遠くの空に、大量の黒い何かが飛んでいるのが見えた。


「なんだ?あれは・・・」

またすぐ、木の陰に隠れるように下がる。


『分析してみます』


すると、愛は、源の脳の中で、その飛んでくるものをズームさせて、映像として、映し出した。数十キロも離れたものをかなりのズームで鮮明に映し出した。

源が持っている外部接続、視界の情報を愛が分析して源にさらに詳しい情報を送り返してくれているようだ。


黒い鎧を着たブタや狼のような顔の生き物が、ペガサスのような馬に羽の生えた黒い動物にまたがり、何千ともいる軍団となって、空を飛んで移動していた。馬から生えている羽は、6枚で、それぞれが、別々の動きをみせているので、まるでムカデの足の動きのように、気持ち悪くみえる。


源の方に向かってきているのではなく、まったく違う方角へ向かっているようだ。


武器は明らかに、殺傷能力を高めるための工夫がされていて、平和的な雰囲気の集団とは思えない。


「空は飛べないな・・・」


『見つかる可能性は高くなります。源』


『そうだよな・・・。森を抜けるまでは、ギリギリの木の高さで飛んで、鳥のように見せかけるのは、できないかな?』


『想定外ですから、予想はできませんが、文明レベルにおいては、遠くのものを把握する道具などはないように思えます。源』


『確かに・・・鎧だからな・・・よくても中世の文化レベルといったところか』


『そのようですね』


『でも、人間じゃないだけに、どれだけの距離で、どれだけ鮮明にとらえるのかは、まったく解からないよな』


『はい。解りません。ブタと比べて判断していいのか、想定外すぎて、結論は申せません。源』


『ふッ。ブタか・・・解らないことは、解らないと言ってくれたほうが、安全になるよ』


『はい。解りました。』


『と・・・なると・・・偽装だな』


『良い考えです。源』


いくつかの木から枝を何本も、葉がついた状態で確保して、それを動きずらくないように、体につけられるように加工した。葉は、上になるようにして、木のように偽装を作り出した。偽装とは、戦場などで緑色や黒色の服を着たり、顔にペイントをして、まるでカメレオンのように隠れ見つけられにくくすることだ。


この森の木で作った偽装なので、遠くからみられるのなら、気づかれることはないだろう。


それでも、木のギリギリで、空を飛んで森を抜け、森の外からは、木よりも低く飛んで、姿を隠すように、移動していった。


先ほどの黒い集団もこちら側からは、見えなくなったから、たぶん、もう安全だろうと考え、ロックたちのところに、崖の下から、登っていき、戻って来た。


「源か!?」


ロックは、偽装をした源の姿に、次は何が来たのか解らなかったように、驚いて声をあげた。


「あーごめん。後で話すけど、怪しい集団が空を飛んでいたから、なるべく気づかれないようにと思って、偽装してきたんだ。あと、これ水だよ。子狐にあげてくれ」


源は、木で作った水筒をロックに渡した。


「水か!すごいじゃないか」


ロックは、元気のない子狐の口に、少しずつ水を与えていった。子狐は、少し安心したように、さらに水を飲み始める


「源が、1時間以上も帰ってこないから、もしかしたら、戻らないかもと思ってたぞ」


「そうか・・・ごめん。色々あったんだ・・・。それに、ただ帰って来るだけだと意味がないと思って、水だけは子狐のために持っていこうとさらに時間かかったんだ」


「帰ってきてくれて、嬉しいよ」


「うん。見捨てるわけないさ。知り合いは君だけなんだから」


「そうか。服まで手に入れたのか?」


「あーこれね・・・ちょっと見つけたんだ」


まわりの法則を書き替えるという能力は、ロックにはない能力のようなので、今はまだ言わずにいようと源は考えた。


「でも、かなり、空を飛ぶことは、慣れてきたよ。まだ出来そうなこともあるように思えるけど、練習は後にして、ロックのところに戻ろうと思ってね」


「そうか。ありがとう。でも、源、俺の事は気にするな。狐だけでも、連れて行ってやってくれ。俺は何とか、自分の力で、ここを脱出してみせるよ。」


ロックは、子狐に水をあげながら、源を見ずに、そう言った。


「それって、また中に戻って穴を掘っていくってことか?」


「俺は死なないんだぞ。時間があるのなら、少しずつでも、崖に向かって穴を掘って、いつかは、外に出るようにするさ。外の世界がみたいのなら、またここに戻れる。それだけでも、精神的な支えになるよ」


ロックは、自分が重すぎることの現実を受け入れているようだった。道具もないようなこの場所で、崖の上にいくこともできないと判断したのだろう


「ふたりで、何かいい案を考えよう。諦めるには、早すぎるよ。ロック」


「ありがとう。でもな・・・二人ともこのまま危険になるよりは、ひとりでも脱出して、生き延びれるというのなら、御の字だろ。どう考えても無理だと解ったら、俺を置いていくと誓ってくれ」


「どうしても、無理ならな。でも、旅をして、ロックを助けられる手段がみつかったら、君を助けに来るよ」


「ありがとう。期待せずに、その時は待つよ」


どうする・・・?数百キロ、もしくは1tもあるかもしれないような、岩人間のロックを崖の上に連れて行くなんてことが、できるのか?木で何かを作ったとしても、その加重に耐えられるとも思えない・・・時間さえあれば、木で滑車なども作れなくもないが・・・現実的じゃない。岩人間のロックを・・・。


「ロックって死ぬのかな?」


「何?」


「いや・・・ロックは、岩だろ?」


「うん」


「岩ってよく崖から落ちるじゃん?転がっていくっていうか・・・」


「まー・・・ね・・・俺も岩だから転がって下までいけないか?ってこと?」


「死ぬよね?」


「少なくとも、俺の精神は、死ぬな・・・」


「だよね・・・この高さで、断崖絶壁だもんな・・・冗談だよ・・・」


「俺がロックの体を持って、飛べればいいんだけど」


「さすがに、それは無理だろう。どう考えても、源のほうが小さすぎる」


「だよね。力があるっていっても、それは地面に支えられてはじめて出せる力だしね・・・ん?」


「どうした?源」


「いや・・・地面に支えられて、力・・・・いやおかしいぞ」


「何がおかしいんだ?」


「だってそうだろ。俺は小さいけど、体重があるんだぞ」


「確かに体重はあったぞ」


「体重があるから、歩いて地面に足をつけて進んできた。なのに、なぜ空を無重力のようにして飛べるんだ・・・?」


歩く時は、重さが必要だ。宇宙空間で無重力の宇宙飛行士たちが、歩くことができないように、その力を前に出すためには、反発する力こそが、バネになる。でも、無重力の状態なら、重さなんて関係なくないか?


100キロだろうと、200キロだろうと、同じように浮かぶんだ。だから、宇宙ステーションが宇宙で浮かんでいる。


源は、その場で少しだけ、浮いた。プカプカ浮いて、自分が浮かぶ前の体にあった負荷も消えていることに気づいた。空気だけではない。あらゆる負荷も消えているのか・・・それに、偽装で付けた枝なども、空を移動している時、空気抵抗を感じさせなかった。


そして、源は、ロックに手を差し伸べた。


「無理だろ?源」


「いいから手を出して」


ロックは、源に言われたように、残っていた右手を指し出した。そして、源の手に触れると、なんと、ロックもプカプカと浮き始めた。


「なんだ!?」


「やっぱりそうか。俺のこの状態の中にいれば、重さなんて関係ないんだ」


「一体何をしたんだ?源」


「結界限界突破といったところか」


「結界限界突破?」


「俺の周辺には、結界のような範囲があって、その中では、限界を超えて、または書き換えて、新たな法則を造り出すことができるみたいなんだ」


「リトルジェネシス。リトシスとでも呼ぼうかな」


「凄いな・・・源」


「ロック。子狐を落とすなよ」


そういうと、源は、なるべく振動させないように、スーっと上にまで移動していく、その中ではほとんど外からの干渉がされないので、エレベーターよりも快適だと思えるほどに、そのまま上へと移動していった。そして、ロックを連れても、400m上の崖の頂上まで、難なく到達した。


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